【今日の突破口】
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110608/plc11060803190003-n1.htm
この国は、政府の責任を一民間企業に押しつけても、まかり通る国だったらしい。ほかでもない、菅直人政権が慌ただしく作り上げた、東京電力の福島第1原発事故賠償スキームは錯誤の産物であり、東電叩(たた)きへの迎合策だというしかない。
まず、少なくともいままで明らかになったことから推測できるのは、福島第1原発の一連の事故は、原発の施設・設備が、今回の巨大な地震と津波に耐えることができずに生じたものだということだ。これは、原発を作動させるオペレーション(操作)のミスで起こった、旧ソ連のチェルノブイリや、アメリカのスリーマイル島における事故とは、発生においてまったく性質を異にする。
もちろん、施設・設備の事故防止には、電力会社も細心の注意を払ってオペレーションを展開しなくてはならないが、その事故防止のための施設・設備の強度レベルを想定し、それを守らせてきたのは政府なのである。そうでなければ、抜き打ちを含む厳格な検査を行う権利などありはしないし、また、いまのように事故の対応への指示もできないはずだろう。つまり、今回の場合は、東電が背負える責任の範囲を超えているということなのだ。
しかも、原子力損害賠償法においては基本的に「原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる」が、ただし書きがあり、その損害が「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱」によって生じた場合には事業者は免責され、政府が責任をもって引き受けることになっている。この「異常で巨大な天災地変」のレベルは、すでに専門部会で、原因において関東大震災の3倍を目安にすることが共通認識とされてきた。
では、今回の天変地変はどの程度のレベルだったのか。マグニチュードは対数を用いたエネルギー単位なので、今回のマグニチュード9・0は関東大震災のマグニチュード7・9の四十数倍に相当する。また、揺れの加速度を示すガルは、今回の地震が2933ガルであり、関東大震災は400ガル程度にとどまる。
小学生なみの計算力さえあれば、今回のレベルが「異常に巨大」であることは明らかだが、文部科学省は「異常に巨大」であるとは、大隕石(いんせき)が天から降ってくるような事態だと解しているらしい。しかし、大隕石が地球にぶつかれば恐竜ですら絶滅したのだから、日本政府どころか人類も消滅してしまいかねない。こうしてみれば今回の天変地変においては、ただし書きが適用されて、政府が全面的に賠償としてではなく救済として対処するのが当然だった。
ところが、菅政権は誤った東電叩きの風潮に抗して道理を貫く姿勢を見せるどころか、逆にこのおぞましい風潮に便乗して人気取りに走り、あまつさえ、原発事故とは直接関係のない電力の発電・送電分離を持ち出して、さらに自ら東電解体に乗り出しているのである。
すでに本欄で述べたように、巨大技術を抱える事業体を無理に解体した場合には高い確率で新たな事故と社会的損失を誘発することになる。これも枝葉末節をあげつらう東電叩きが引き起こした当然の結果といえるが、この愚かしい風潮に便乗して延命をはかろうとする菅政権の政策は、まさに亡国の所業というべきものだろう。
ジャーナリスト・東谷暁