【主張】北方領土
菅直人首相は訪仏中に行われたロシアのメドベージェフ大統領との首脳会談で、日本固有の領土である北方領土の不法占拠に強く抗議せず、交渉の糸口すらつかめなかった。極めて残念な結果であり、首相の領土問題解決の意欲に疑問を持たざるを得ない。
首相は先のロシア副首相らの国後、択捉訪問に関しても松本剛明外相による抗議に言及するなどにとどめ、間接的な遺憾の意を伝えて終わった。両首脳は「静かな環境下で協議を続ける」方針で一致したというが、到底十分といえない。ロシアの不法行為を世界に訴え続け、必要な面で明確な対抗措置を講じるべきだ。
「静かな環境」で協議継続を約束したはずのメドベージェフ氏は会談後、「ロシアは国益に基づき行動する」と領土では一切譲歩しない姿勢を改めて誇示した。
一方で、「どんなに複雑な問題も努力すれば解決できる。ただ、問題を大げさにしてはならない」とも述べた。不法な行動を国際社会に「大げさ」にされて困るのは日本でなくロシアなのだ。
にもかかわらず、日本側は「あらゆる面で関係を改善し、信頼を構築することが最大の目標」(外務省幹部)と、ロシアが嫌がる北方領土を中心議題に据えるのを避けた節がある。
相互の利益となる経済関係を発展させることは決して不可能ではない。だが、不法に奪った領土を占拠し続け、恒久化するために重要閣僚らを次々と送り込むような相手と真の信頼関係を構築することなどできるだろうか。
首相は2月7日の「北方領土の日」全国大会で、昨年11月のメドベージェフ氏の国後島訪問を「許し難い暴挙」と糾弾した。主要国(G8)首脳が参集した場を生かして、震災とは別に65年以上続く北方領土問題の早期解決こそ「信頼構築に何より重要だ」との主張を堂々と展開すべきだった。
サミットに先立つ24日、韓国の3議員が日本の中止要請を無視して国後島訪問を強行した。日本政府は抗議したが、制裁や罰則なき抗議では意味も効果も乏しい。政府は早急にこうした人々に日本への入国禁止などの措置をとるべきだ。でなければ韓国や中国の違法渡航者が増えてロシアの北方領土不法支配を強めることになる。
今必要なのは「静かな環境」ではなく、対抗措置である。