【海外事件簿】
SSが日本国内で活動を再開。
動画サイトの人気者が批判。
米国の反捕鯨団体、シー・シェパード(SS)の幹部が今月来日し、東日本大震災の被災地、岩手の漁港を訪れるなど再び日本国内で活動を始めた。イルカ漁や捕鯨への妨害本格化に向け、今後、活動をどう展開していくかを見極める視察目的だったとみられる。動画投稿サイト「ユーチューブ」で人気を呼び、「テキサス親父」の愛称で知られる米国人のトニー・マラーノ氏がこのほど東京で取材に応じ、SSについて「彼らはお金を集めるために弱い者いじめをしている」と批判した。
(佐々木正明)
今月初旬に来日したのは、SSが昨年秋に初めて日本に長期派遣し、和歌山県太地町のイルカ漁に圧力をかけたスコット・ウェスト氏。米環境保護局元捜査官の肩書を持ち、3年前に鳴り物入りで加入したウェスト氏はSS捜査部門のトップであり、代表のポール・ワトソン容疑者(60)=傷害容疑などで国際指名手配=から直に指示を受け、現場でボランティアを集め、活動を取り仕切る立場にある。
SSは南極海の調査捕鯨妨害にとどまらず、今後、イルカ漁や捕鯨が行われている日本各地で妨害活動を本格化させることを宣言している。ウェスト氏は、SSが「日本たたき」の姿勢を強める中、今年3月に再来日。数人の活動家を引き連れて、岩手県大槌町を訪問し、イルカ漁の監視活動を始める矢先に東日本大震災に遭遇した。
一行は地元住民の助けで大津波の被害から辛うじて逃れ、米国へ帰国するが、ウェスト氏はすぐに手記を発表した。地元住民へ感謝しつつも、「岩手県と和歌山県太地町のイルカ虐待は常軌を逸した活動であり、決して許されるものではない」と、漁に対しては、断固たる姿勢を示した。
「震災後の状況を調査する」として3度目の来日を果たした今回、まずは、太地町に入り、畠尻湾で行われるゴンドウクジラの追い込み漁をビデオで撮影し、その様子をネットに配信した。取材に応じたウェスト氏は「太地で起こっていることは、世界中の何千人もの人々の震災支援への気持ちを再考させている」とし、さらには、露骨な表現を使って「太地のような小さな町のごく一握りの漁師たちの強欲が、日本の評判を落としているのは恥ずべきことだ」と答えた。
ウェスト氏は津波で多くの漁船が座礁するなど大きな被害を受けた大槌町にも入り、漁港の倒壊状況を視察した。その後、北海道釧路市まで足を伸ばし、現在、釧路港を拠点にして行われている北西太平洋調査捕鯨の下調べも行った。釧路市の漁業関係者によれば、ウェスト氏は捕鯨船が停泊する岸壁や市場に張り付き、捕鯨船や船員を撮影するなどしていたという。
今秋、太地ではイルカ漁が、釧路では調査捕鯨が、再び行われることになっている。SSには「東日本大震災で傷ついた日本に圧力を加えるべきではない」との同情も寄せられているというが、ウェスト氏の今回の事前視察を見る限り、昨年よりさらに厚みをかけた漁への妨害が行われる見通しも出てきた。
関係者によると、太地町では前回のイルカ漁期間中に200人以上の活動家が集まったという。国際的に知名度の高いSSが派手な妨害を続ければ、刺激を受けた他の反捕鯨団体の活動家らが太地だけでなく、釧路や大槌などにもどっと押し寄せ、漁師らとの間で緊張がさらに高まることも考えられる。
近年、日本シフトを強めるSSを事ある毎に非難してきたのが「テキサス親父」だ。マラーノ氏は米テキサス州にある自宅で自らの「演説」をビデオ撮影し動画サイトに投稿。ワトソン容疑者の虚言やSSの無法ぶりをこき下ろし、「米国人でありながら、日本の立場に立って、筋の通ったことを言ってくれる」として、日本のネットユーザーの間でじわじわと人気が広がった。
マラーノ氏はくしくもスコット氏と同時期に日本に初来日した。太地町も訪れ、イルカ漁漁師らとの対面も果たした。東京で取材に応じたマラーノ氏は、「SSは弱い者いじめを行う、金もうけ主義の団体だ」ときっぱりと述べた。
さらに、ワトソン容疑者について「彼が責任感を持つ本当のリーダーなら、人々がけがをするような危険な状況を作り出すようなことはしない。人々の感情に訴えるようなドラマチックな演出を行い、嘘ばかり言っている」と答えた。
米有料チャンネル、アニマルプラネットでシリーズ化されているSSの宣伝番組「鯨戦争」については「視聴者が多いというが、米国でも捕鯨問題には全く関心はなく、SSはただ馬鹿なことをやっているとおもしろ半分に見ている人も多い」と指摘した。
「テキサス親父」の愛称で知られるトニー・マラーノさん。シー・シェパード批判を展開する演説動画は手に持った小さなキヤノン製のカメラで撮影しているという=5月17日、都内