【正論】日本財団会長・笹川陽平
≪被災地での活動に単位認定≫
東日本大震災に対する政府の復興計画が震災発生から1カ月半を経た現在も見えてこない。復興には膨大な時間と資金がかかり、国の総力を挙げた官民一体の支援が欠かせない。しかも被災者が仮設住宅に移り、自宅に戻るまでには少なくとも5~6年かかる。この間、被災地が必要とするボランティアやNPOの数は間違いなく延べ数百万人に上る。
幸い、この国には被災地の復興を願い、被災者を応援する若者の情熱と国民の熱意がある。外国メディアがたたえる規律正しさや我慢強さに加え、支え合いの精神も3・11を境に急速に高まっている。国民の高揚を被災地の復興に最大限、生かすためにも、効率的な仕組みが整備されなければならない。そうでなければ、せっかくの熱意も混乱につながる。
今回は文部科学省も、被災地での学生のボランティア活動について単位を認定するなど、便宜を図るよう各大学に通知した。前向きの取り組みとして評価したい。その上で、さらに踏み込んで、国の将来を担う大学生が、在学中に少なくとも1回はボランティア活動を体験できる仕組みを整備するよう提案する。われわれは昨年、「民」の立場で学生ボランティアセンターを立ち上げた。行政の取り組みにも全面的に協力したいと考える。
≪借金をしてでも社会貢献≫
復興に10年かかるといわれた1995年の阪神・淡路大震災では、ほぼ2年で神戸市の生産活動や、高速道路、港湾などのインフラが復活した。しかし、今回は被災地が青森県から千葉県まで広大で、自治体機能を失った市町村も多い。95年当時に比べ景気は低迷し、国の財政も悪化している。東電福島第1原発事故の今後の推移も見込めば、復興に10年以上かかってもおかしくない。
現に、被災地は現在も復興の第一歩となる瓦礫(がれき)の撤去さえ思うように進んでいない。大震災に伴う地盤沈下でいまだに多くの地域が海水につかり、大型の重機の活用も制約されている。自衛隊や消防組織などもなお1万1000人に上る行方不明者の捜索や道路、公共施設の復旧に追われ、一般家庭の支援には手が回っていない。
しかも被災地の多くは高齢者を中心にした過疎地だ。土砂や使い物にならなくなった家具の撤去など力仕事は若いボランティアに頼らざるを得ない。こうした作業だけでも年内いっぱいかかる。一段落後も高齢者の健康管理、障害者や子供のケア、教育問題などさまざまな長期支援が必要となる。
大震災に先立ち、わが国ではここ数年、若者社会を中心に、「借金をしてでも社会貢献」といった機運が急速に盛り上がっていた。新聞、雑誌にも「世界のために」「私たちにもできる」といった特集が組まれ、途上国の学校建設や地雷撤去を支援するチャリティーコンサートなども盛んだ。
大手広告会社が昨年、全国の男女2000人を対象に行った意識調査では、3人に2人が「他人や社会のために役立つ活動をしたい」と答え、大学生の就職活動に関する各種調査でも、「企業選択する上でCSR(企業の社会的責任)の視点は必要」との回答が7~8割を占め、学生が社会貢献を重視する姿勢を裏付けている。
子供から大人、芸能人からスポーツ選手まで幅広く参加する募金活動や節電運動の盛り上がりもこうした機運を後押ししている。既に多くの若者が被災地に入り、ボランティア休暇制度を設ける企業も出始めている。われわれも首都圏の大学などに呼びかけ、被災者を癒やす「足湯隊」や土砂の撤去や家屋の清掃に当たる「泥かき隊」の派遣を進め、参加した学生には証明書も発行している。
≪若者は内向き志向ではない≫
「個人の判断で勝手に行くと被災地が混乱する」と、大学側がブレーキをかけてきた経緯もあるが、希望者は驚くほど多い。九州、北海道からも参加希望が寄せられている。大学当局には単位の扱いなどをさらに具体化してほしいと思う。そうなれば、われわれは必要な場所に必要な人員を責任を持って派遣する。制度化されれば、日本財団のボランティアセンターのような受け皿も増える。
今後は休暇をとって参加する企業ボランティアも増え、医師、看護師、介護士ら専門技術を持った有償のボランティアも多数、必要となる。被災地のニーズに合った人材が投入されて初めて実のある支援となる。
若者は被災地の惨状に直面することで、自然の恐ろしさ、文明のもろさを感じ取り、汗を流すことによる達成感を知って成長する。大災害は日本も含め今後も地球のどこかで必ず起きる。世界には災害だけでなく飢餓や貧困に直面し支援を求める多くの国もある。今の若者は決して内向き志向ではない。さらにいえば、いつの時代も若者が変革を担ってきた。官民挙げた取り組みでボランティアシステムを強化・育成することこそ、この国の底力を高め、強靱(きょうじん)な国づくりにつながる。(ささかわ ようへい)
3ヶ月~6ヶ月間、自衛隊での訓練も義務化すべし。