【主張】原発風評被害
「日本からの輸入品は放射能に汚染されている」とのいわれなき誤解によって、農産品から工業品に至るまで日本製品への輸入規制の動きが広がっている。
政府はこうした国際貿易ルール違反の疑いが濃い動きがこれ以上拡大しないよう、各国の協力取り付けなどに早急な手を打つ必要がある。
福島第1原発事故に伴う海外での風評被害は日を追うごとに深刻の度を増している。多くの国が日本からの輸入品について、放射線量に問題がないという証明を要求し始めている。輸出業者は独自に検査を実施するなどの対応を迫られているが、とりわけ中小企業には大きなコストアップ要因だ。
物流の滞りも懸念されている。このままでは日本経済を支える輸出の減少を招き、復興そのものを遅らせかねない。
そもそも工業品の安全性に関しては放射線量の国際基準はない。世界貿易機関(WTO)は、禁輸措置を実施する際には科学的根拠が必要だとのルールを定めており、各国の対応は行き過ぎだ。
14、15の両日、ワシントンで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の共同声明は、原発事故の長期化に懸念を示す一方、日本の経済と金融の先行きについては「強靱(きょうじん)さを信認する」と明記した。このことは、世界経済の安定に果たす日本の役割の大きさを示してもいる。
事実、今回の大震災では、日本からの部品供給が滞ったことで欧米やアジアの国々の生産にも影響が広がっている。
風評被害については、各国と冷静に協議し、過剰な輸入規制は早急に改めさせるべきだ。それにはまず、正確な情報を迅速かつ丁寧に伝えることだ。外務省は在外公館などを通じて、現地政府やその国の輸出入業者らに正確な情報を伝える努力をしているという。だが、現状をみれば、情報発信が不十分で対策が後手に回っているとの批判は免れまい。
政府は危機感を持ち、あらゆる外交チャンネルを活用してほしい。WTOや国際原子力機関(IAEA)など国際機関へも協力を強く求めるべきだ。担当閣僚である外相や経済産業相らが世界行脚するぐらいの行動力を示さなければならない。日本経済への信頼をつなぎ留めるには、それぐらいの強い働きかけが不可欠だ。