【第9回産経志塾】
■フォロワーシップが大切
宇宙でのミッションの様子を伝えると同時に、日本が復興していく力となる何かを感じていただける話ができればと思う。
子供のころから宇宙に興味があり、兄と宇宙探査機ボイジャーの写真を興奮して見ていた。中学3年のとき、スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故があった。ショックだったと同時に、本当に宇宙船があり、宇宙飛行士がいると実感した。これを契機に宇宙工学を志した。
1999年、2回目の挑戦で宇宙飛行士の候補になったが、宇宙に行けるかどうかは状況に左右される。昨年4月に宇宙に行くまでの11年間は、ゴールの見えないマラソンを走り続けているような感じだった。
モチベーションを保てたのは仲間がいたから。先生や研究者、技術者らみんなでやっているという熱い思いを感じていた。そして、子供のころからの純粋な宇宙への思いがあったからだと思う。
宇宙飛行士の訓練の90%は非常時のためのもの。何かが起これば身の安全を守り、宇宙船をそのままで残し、ミッションを達成する訓練だった。
宇宙では、タンパク質の結晶をつくる研究などを行った。重力がないのできれいな結晶ができ医薬品開発に生かせる。また、宇宙では骨密度が地上の10倍のスピードで低下する。薬のデータも10倍の速さで集めることができる。
宇宙飛行士の評価項目は大きく分けて4つある。
まず「セルフマネジメント」。自分の状態を把握し、必要なときに助けを求めることができること。
2つめが「シチュエーションアウェアネス」。勉強してきた知識をフルに使いこなして、さらに全体の状況を把握し動ける力。
3つめが「リーダーシップ」。機長はいるが、仕事ごとにもリーダーは必要。任務の中で的確にリーダーシップをとっていく。
そして「フォロワーシップ」。忘れられがちだが、リーダーをいかに支えるかも大事。言われてやるだけではなく、必要な意見を言えて、積極的に支える。日本でもこの評価を高める土壌が広がってほしい。
日の出、日の入りに虹色に光る大気層など、宇宙から見た地球は本当に美しい。宇宙を見渡して生命を感じるのは地球しかない。この宇宙で命を授かったのは奇跡的で、かけがえのないこと。この命を大切に日々を生きていってほしい。
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≪Q&A≫
Q 宇宙飛行士の訓練で私たちにもできることは
A 市民レベルでは難しいこともあるが、サバイバル訓練は自信につながる。私たちのような極限でなくても、キャンプで自然の中で生活をしてみることも訓練になるはず。
Q 宇宙の限られた空間で仲間とうまくやるコツは
A 精神的なチームワークが大事。同じ目標を持っていれば、けんかをしている場合ではなくなる。あと、夕食は、忙しくてもお互いの顔を見て一緒に食べるようにしていた。単純だけど大事なこと。
Q 宇宙飛行士になるために必要なことは何か
A まず必要なのは英語とロシア語に、体力。宇宙飛行士に求められる資質は、時代とともに変わっている。今は、目の前のことを一つ一つ頑張って、医学や地質学など、自分がこれなら貢献できるという強みを見いだしてほしい。
≪塾生コメント≫
▼浅野中学、千葉暁さん(13)「中学ではいろんなことに挑戦し、本当にやりたいこと、得意なことを見つけ努力を重ねたい。大切なのはリーダーだけではなく、それを支える人たちだと分かった」
▼春日部中学、関根玄大さん(15)「将来の夢が宇宙飛行士。漠然とした宇宙への思いが山崎さんと会えたことで、はっきりした。夢に向かって前進したい」
▼青山学院大学、大谷芳正さん(19)「『日本を外から見てみる』を、宇宙という場所から実践された数少ない一人。夢を与え希望の象徴となる話から、明るい日本と不屈の精神を学ぶことができた」
▼会社員、武井宗春さん(24)「宇宙での実験の意義を再確認できた。宇宙飛行士の資質は社会を生きる上でも当たり前に大切だと感じた。特にフォロワーシップに関しては周りの人にも伝えようと思う」
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【プロフィル】山崎直子
やまざき・なおこ 昭和45年、千葉県松戸市生まれ、40歳。宇宙航空研究開発機構(JAXA)に所属。東京大学大学院を修了し、平成8年、宇宙開発事業団(NASDA)に入社、13年9月、日本人宇宙飛行士に認定。18年2月、スペースシャトルのミッションスペシャリストの資格を取得した。22年4月、国際宇宙ステーション組み立てミッション参加のため、スペースシャトル・ディスカバリーに搭乗、向井千秋さんに続き日本2人目の女性宇宙飛行士に。帰還後の同年7月、千葉県民栄誉賞を受賞。
「産経志塾」で講演する、JAXA宇宙飛行士の山崎直子さん。
25日午後、東京・大手町の産経新聞社。(野村成次撮影)