【解答乱麻】明星大学教授・高橋史朗
時代の潮の流れを的確に捉える「魚の目」の視点で日本の教育改革の課題を考えると、一貫した理念で保育所から大学までの縦の接続を図り、発達段階に応じて「自立の基礎」を育てる必要がある。
そうした教育の必要性は、国の「教育振興基本計画」で明記され、経済協力開発機構(OECD)では「主要能力」、国連教育科学文化機関(UNESCO)の「持続発展教育」(ESD)では環境や社会、経済など複合的な困難に立ち向かう能力として示された。
高い所から広い視野で全体を見渡す「鳥の目」から見ると、21世紀の教育の最大の課題は子供の全人的な発達を保障することにあり、保育と教育を統合するホリスティック(包括的)な視点が求められている。
日本は2002年のヨハネスブルク地球サミットで「ESDの10年」を提案し、07年に開催されたESD国際会議で採択された「ホリスティックESD宣言」は、「伝統文化の創造的継承」の大切さを訴えた。
同会議の基調講演では「伝統と現代の融合」「交響的創造」という注目すべきキーワードが提起された。OECDの「主要能力」は、「人間力」や「社会人基礎力」、EQ(心の知能指数)やHQ(人間性知能)に通じるものだ。
近くから注意深く見る「虫の目」では、発達障害への支援や児童虐待の防止など現代的課題に真正面から取り組むことが求められている。埼玉県では例えば新年度予算に発達障害児への支援として約1億9千万円、児童虐待防止に5億2千万円を計上した。1歳半・3歳時健診時に親向けに接し方を学ぶ冊子を配布、「伝統的子育てを学ぶ講座」などを開催する予定だ。
また、保育所、幼稚園、子育て支援センターの全職員に発達障害の早期発見・支援方法を学ぶテキストを配布するほか、気になる子のチェックシートの活用方法などについて研修を行う計画だ。
埼玉県福祉部の職員が視察した大阪の橋波保育園と木島幼稚園の先駆的実践からは多くのことを学んだ。漢字教育や和太鼓などを使い言葉と音楽と体操のリズムを体験することによって子供の全人的な発達を促し、「文化力」によって子供の内面的価値を育む伝統の「創造的継承」によって、発達障害の症状が改善することを両園は立証している。
こうした事業は全国で一斉に取り組むべき国家的事業である。私たちも友好団体と連携し、「発達障害・虐待防止と伝統的子育て」をテーマに全国縦断講演会を開催し、6月に予定されている沖縄県を皮切りに親学の地方議員連盟を設立し、啓発活動を全国各地で展開したい。
東日本大震災における若者たちのボランティア活動の顕著な広がりには目を見張るものがあり、阪神・淡路大震災の時とは明らかに異なる意識の変化が生まれている。この若者たちの不屈の精神と前向きなエネルギーを今後の教育に生かし、阪神・淡路大震災が心の教育や地域でのボランティア活動の全国的広がりの発火点になったように、震災復興を日本の教育再生にぜひつなげたい。
大震災で再認識させられた、日本人の冷静沈着で、弱者優先で助け合い、秩序を重んじ、恥を知り、公共のマナーを守る国民性をこれからも大事にしていきたいものである。
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【プロフィル】高橋史朗
たかはし・しろう 埼玉県教育委員長など歴任。明星大大学院教育学専攻主任、一般財団法人「親学推進協会」理事長。