東京電力福島第1原子力発電所事故の復旧作業では、全国各地の企業の技術がフル活用されている。2号機取水口付近の「ピット」と呼ばれる立て坑から流出していた高濃度放射能を含む汚染水の止水では、東曹産業(東京都千代田区)の土壌硬化剤が寄与。海での汚染水拡散を防ぐために設置される「シルトフェンス」は前田工繊が急ピッチで生産を進める。深刻な事態が続く中、各社とも「自社の技術が少しでも役立てば」と懸命な支援を続けている。
汚染水流出止める
通常の原子炉冷却水の1万倍もの放射性物質を含む水の流出が続いていた2号機取水口付近のピット。海洋汚染を防ごうと投入されたコンクリートや吸水ポリマーなどの止水策が失敗に終わるなか、発見から5日後の6日朝に汚染水を食い止めたのが、東曹産業の水ガラスと菱晃の土壌硬化剤だった。これらの薬剤は、通常はトンネルや水道工事で水が発生するような地盤が弱い場所に注入し、地盤を強化するために使用する。水ガラスと硬化剤は混ぜ合わさることで固まる時間を調節でき、より高い止水効果を発揮する。
東曹産業には流出が発見された翌日の3日、原発で作業を担当する特殊土木業者から問い合わせがあり、4日以降に計7000リットルを納入した。同社の担当者は「地下の場合、水の経路さえ分かれば確実に止められるだろうと思っていた。国を揺るがす大問題だったのでうれしい気持ちはある」と話した。
この作業では、2号機のトレンチと呼ばれるトンネル通路の立て坑から、ピットの亀裂に汚染水が流出する経路を特定するため、バスクリン(東京都港区)の入浴剤も使用された。
車両提供申し出
一方、海に流出した汚染水拡散を防ぐために設置されるのがシルトフェンスだ。2号機取水口付近に設置される長さ計540メートルのうち、約半分を前田工繊が担う。ポリエステル製の布を海中に垂らすカーテン状のもので、汚濁防止幕とも呼ばれる。通常は護岸工事などで、海や川の泥や砂の拡散を防止する目的で設置されるため放射性物質での効果は未知数だが、東電は汚染水の流出速度を遅らせる効果を期待する。前田工繊は5日から西宮工場(兵庫県西宮市)で製造を開始。担当者は「できる限りの協力はしたい」と話す。
原発施設内のがれきや地上に落ちた放射性物質が飛び散るのを防ぐために散布されているのが、栗田工業の合成樹脂「クリコート」だ。工事現場などで粉塵(ふんじん)が飛び散るのを防ぐために使われていたが、放射性物質にも効果を発揮することが期待されている。中央建設(三重県四日市市)のように、所有するドイツ製コンクリートポンプ車の提供を申し出る事例もあるなど、日本企業の熱意が一進一退の原発復旧作業を支えている。(森川潤)
福島第1原発の復旧作業に使用された主な製品
メーカーや提供元(所在地) 用途
水ガラス、硬化剤 東曹産業(東京都)、菱晃(同) 汚染水流出の止水作業
トレーサー バスクリン(東京都) 汚染水流出の経路特定
吸水ポリマー 中村建設(山口県) 汚染水流出の止水作業
シルトフェンス 前田工繊(福井県) 汚染水の海への拡散防止
飛散防止剤 栗田工業(東京都) 放射性物質の飛散防止
メガフロート ※静岡市(製造は住友重機械 汚染水の移送
工業など造船各社)
コンクリートポンプ車 ※三重県(中央建設) 使用済み燃料プールの冷却
※東京電力への提供元
http://www.sankeibiz.jp/business/news/110409/bsc1104090502005-n1.htm