【写真劇場】JR西日本 名物特急「雷鳥」引退
■シーン1 運行支えた職人技
大阪と北陸方面を結ぶJR西日本の特急「雷鳥」が3月12日のダイヤ改正で引退する。半世紀近くビジネス客や旅行者を運んできた国鉄時代からの名物特急だが、車両の技術革新による輸送力アップの流れで役割を終える。
近年、老朽化が進んでいた列車の運行は、ベテランの整備士や車掌の職人技に支えられていた。車内の温度は適正か、トイレは詰まっていないか。20年以上雷鳥に乗車してきた大阪車掌区の市野正和さん(60)は、手動で調整する必要がある旧式の車体だけに余計に気を使った。「車内を歩くのが車掌の基本。雷鳥が『おまえが車両まで点検に来い』と無言で言っているようだった」と振り返る。
雷鳥と時を同じくして市野さんはことし7月、定年退職する。乗客とのコミュニケーションが好きで、車掌一筋の人生だ。乗務する列車を「あの子」「この子」と自分の子供のように呼んできた。「特急といえば雷鳥。手がかかるが、かかるほどかわいかった」
2月26日は市野さんにとって最後の雷鳥の乗務となった。「今日は暖かい。車内温度が高すぎるかも」と素早く点検し、いつも通りの仕事ぶりだ。ただ、「もう少しお客さんが乗ってほしかったね」。笑顔の中に、一抹の寂しさが浮かんだ。
■シーン2 まばらな乗客 「国鉄色」に惜しむ声も
薄暮の中に特徴的な3つのヘッドライトが浮かんだ-。2月8日、JR大阪駅。「国鉄色」と呼ばれ、鉄道ファンにも人気が高い赤とクリーム色の特急「雷鳥」に乗り込んだ。かつては大阪と北陸方面を1日20往復したときもあったが、定期運行は現在1日1往復のみ。この日も乗客はまばらだ。
午後5時12分、リニューアル工事で生まれ変わりつつある大阪駅を出発。終点の金沢駅まで3時間弱の道のりだ。
京都駅を過ぎると日がとっぷりと暮れた。空席が目立つ車内には話し声も少なく、揺れるたびに車体がきしむ音が響く。
敦賀駅を出た後、車内がしばらく真っ暗になった。電流が直流から交流に切り替わる間の補助電源装置がないためで、車体の古さをあらためて実感した。
車掌によると、1本後ろを走る新しい車両の特急「サンダーバード」の指定席は満席に近い。運賃は同じだが設備が古いこちらの雷鳥の乗車率は3割程度という。
車内では廃止を惜しむ声も聞こえた。大阪での大学受験を終えた娘と乗っていた福井県越前市の角睦美さん(46)は「学生時代から慣れ親しんできたので寂しい。揺れも気にならないのにね」と話した。
金沢駅では引退を記念してピンバッジが配布され、別れを惜しむ乗客が列をつくっていた。(EX編集部/SANKEI EXPRESS)
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【「雷鳥」の歴史】
1964年 大阪-富山間で運転開始。東海道新幹線開業
87年 国鉄分割民営化
89年 「スーパー雷鳥」運転開始
92年 新幹線のぞみ登場
2001年 「スーパー雷鳥」廃止
08年 初代新幹線「0系」引退
11年3月 「雷鳥」廃止
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