■40億年前の深海底に存在 熱水活動域で最初の生命?
地球上の生き物は、どのように誕生したのか。海洋研究開発機構の高井研さんらの研究チームは、約40億年前の原始海洋の深海底に存在した熱水活動域で最初の生命が生まれたと考えている。光が届かない深海底で、水素と二酸化炭素をエサとする超好熱メタン菌を中心に持続的な生態系が築かれ、地球のすべての生き物の共通祖先になったとする仮説だ。チームは、世界各地の熱水活動や太古の痕跡などを手がかりに検証を続け、生命誕生の謎に挑む。
(小野晋史)
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原始地球
最古の生命の痕跡と考えられる化石は約38億年前の地層から発見された。40億年前ごろには、地球に最初の生命が生まれたと推定される。地球誕生後に繰り返された巨大な隕石(いんせき)衝突が一段落し、原始の海が存在した時代。オゾン層が形成される前、地表には有害な紫外線が降り注いでいた。
海水にはアミノ酸などの生命の材料が含まれていたが、それだけでは生命は生まれない。海水が海底下のマグマにより数百度に熱せられて噴出している熱水活動域で、有機物が凝縮され、高分子化した可能性が高いという。
メタン菌
では、最初の生命はどんなものだったのか。現生生物の遺伝子を解析して進化をさかのぼると、共通祖先の有力候補として好熱性の微生物群が浮かび上がってくるという。
原始海洋の環境は酸素に乏しいが、二酸化炭素の濃度が高かった。微生物が酸素を使わずにエネルギーを獲得するには、二酸化炭素と水素からメタンを作る方法が最も効率が良い。熱水活動域には、80度以上で繁殖する超好熱メタン菌が、現代も生きている。
最初は、噴出孔(こう)内部の微小な細孔で、内壁を“細胞壁”代わりに、鉱物の化学反応のエネルギーを利用していたのかもしれない。その中から鉱物作用の一部を体内に取り込む生命が登場し、噴出孔を飛び出した。
その後、メタン菌とその産物から水素を作る超好熱発酵菌が相互に依存する小さな持続的生態系(ハイパースライム)が生まれたという。
3つの「H」
高井さんらの仮説は、「ウルトラエイチキューブリンケージ」仮説と呼ばれる。3つの「H」の相互作用といった意味だ。2つのHは、熱水活動とハイパースライムの頭文字。もう一つが水素生成だ。
生命誕生で重要な役割を果たしたのは、熱水と反応して高濃度の水素を発生させる「超マフィック岩」だという。海洋機構などのチームは2000(平成12)年にインド洋で熱水活動域を発見し、「かいれいフィールド」と命名。その後の調査で、超好熱メタン菌と超好熱発酵菌が検出され、超マフィック岩の存在も確認。太古と似たハイパースライムが今も存在することが分かった。
また、南アフリカで見つかった約35億年前の超マフィック岩からも水素発生が確認されている。
海洋機構の渋谷岳造研究員は、熱水がメタン菌のエネルギー生成に有利な強アルカリ性である可能性が高いとする。東京工業大の研究ではオーストラリアに残る約35億年前の熱水活動跡も好熱性メタン菌の存在を示唆するなど、証拠は積み重ねられてきた。
高井さんはこれまでの成果を背景に「生命が生まれた環境を物理・化学的に再現すれば、生きるために必要な機能も見えてくる」と、研究の意義を語った。