【環球異見】中東騒乱とオイルショック
中東・北アフリカの反政府デモと産油国リビア騒乱の長期化で世界に「オイルショック」の兆しが高まっている。原油価格は約2年5カ月ぶりに1バレル=100ドルを突破。最大の産油国サウジアラビアにも混乱が波及するとの懸念も渦巻く。世界経済は失速するのか。原油高抑制の策はないのか。米欧中の主要紙の報道は、いずれも強い危機感をにじませている。
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ウォールストリート・ジャーナル(米国)
■海外依存やめ自給のとき
「原油価格が高止まりすれば、なお脆弱(ぜいじゃく)な米経済の回復は失速すると、エコノミストは心配している」
米紙ウォールストリート・ジャーナルは、2日付の記事で、ガソリン価格の上昇により消費者が財布のひもを締め始めるなど、「原油高の影響はすでに米経済に及んでいる」と指摘し、危機感を促した。
「戦略備蓄は十分」(ガイトナー財務長官)、「原油価格は安定化するだろう」(オバマ大統領)など、やや楽観的ともとれる発言が相次いでいる米政府とは対照的だ。
記事は「政情不安が、リビアだけでなくサウジアラビアなど主要産油国に波及しかねないと投資家は警戒している」と指摘する。
そうした中、豊富な原油埋蔵量を抱えるアラスカ州のパーネル知事は3日付の同紙に寄稿し、「米国の石油政策を真剣に問い直すときだ」と訴えた。
米国はこれまで原油調達の大半を、米国に敵対的で政情も不安定な中東地域に依存し、輸送路もスエズ運河に頼ってきた。その結果、「原油高はすべての米国民を直撃し、米経済の回復も危険にさらされている」と知事は指摘する。
今こそアラスカの石油パイプラインのような国内の資源とインフラを中心としたエネルギー政策が促進されるべきであり、こうした自給策は「雇用も創造し、米経済の回復にも貢献するだろう」と提言している。
一方、同紙は2月24日付社説で、原油高は、中東情勢に加え、米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和策にも起因すると指摘している。オバマ大統領にこれ以上の原油高騰を防ぎたいのなら、「通常の金融政策に戻すよう、バーナンキFRB議長に助言すべきだろう」と促している。
(ワシントン 柿内公輔)
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21世紀経済報道(中国)
■値上げ慎重 住民不満に神経とがらす
1日付の中国紙「21世紀経済報道」は、原油価格の100ドル突破を受けて、「石油製品の価格決定の新制度が“難産”しそうだ」との見方を伝えた。
国が統一的にガソリンなど販売価格を決める仕組みをとる中国では、急激な市場の変動により柔軟に対応できる制度改革の論議が現在進行中だが、予想外の原油高騰やインフレのため難航している、との内容だ。
同紙は、マクロ経済政策を統括する国家発展改革委員会が石油製品の値上げに慎重とも伝えた。中東情勢の混迷による原油高がインフレを加速し、社会不安の増大に結びつきかねないことに、当局が警戒を強めていることを示した形だ。
1月の消費者物価指数は前年同月比で4・9%上昇。なかでも食品価格が同10・3%上昇するなど、インフレが庶民生活を強く圧迫し、経済格差の拡大への不満も膨らんでいる。
こうした中、一党独裁の終結を求める「中国ジャスミン革命」が各都市で呼びかけられ、民主化を求める政治的な動きに、原油高という経済的な要因が重なり、社会不安の増大に拍車をかける恐れも生じている。
同紙からは、中国政府内部で、民衆の不満をこれ以上高めないためにガソリンなど石油製品の値上げを抑制したい勢力と、国家財政の圧迫を避けるため値上げしたい勢力が衝突し、価格決定制度の改革論議が行き詰まっている-とも読める。
中東・北アフリカ情勢や原油価格高騰について中国メディアの報道は総じて抑制的で、住民を刺激しないよう神経をとがらせていることをうかがわせる。
1989年の天安門事件など中国の社会不安の背後には得てしてインフレによる生活苦があった。中東情勢を見つめる当局者の苦難の表情が浮かんできそうだ。
(北京 河崎真澄)
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タイムズ(英国)
■新たな金融大異変も
英紙タイムズの経済コラムニスト、アナトール・カレツキー氏は2日付のコラムで「原油価格を抑制しなければ新たな大災難のリスクが膨らむ」と予測し、欧米に対し、原油埋蔵が世界最大のサウジアラビアに増産を迫ると同時に、「買いだめ防止策」を実施するよう呼びかけた。
同氏によると、第4次中東戦争を契機にアラブ産油諸国が石油価格を約4倍に引き上げた1973年の第1次石油危機以降、原油価格が2~3カ月で倍になったのは、イラン革命(79年)や湾岸戦争(91年)など計5回あり、いずれも世界的な景気後退をもたらした。
2008年の金融危機から脱却した後も欧米の政府や金融機関の疲弊は続き、中東混迷が石油危機を引き起こせば世界は新たな金融大異変に直面する-と予測。カレツキー氏の予防策はいずれも大胆だ。
第一に欧米やアジア諸国はサウジアラビアに1日300万~350万バレルの増産を迫るべきだと主張。加えてアラブ首長国連邦が50万バレルを増産すれば、リビア160万バレル▽アルジェリア130万バレル▽オマーン80万バレルの生産が止まっても十分に埋め合わせできるという。
「サウジが増産を公言しつつも生産調整しているのは価格高騰を期待しているか、民主化が押し寄せれば経済的災難になるというシグナルを送っているかのどちらかだ」と氏はみる。
第二に原油の「買いだめ防止策」を説く。原油取引に課税する一方で、原子力発電など代替エネルギー普及を援助し年金基金などファンド勢の投機的な原油取引は禁止すべきだという。
同氏は「自由市場主義に反する介入との意見があるが、市場は時として危険な機能停止に陥る。今の原油市場がその好例なのだ」と指摘している。
(ロンドン 木村正人)