スポーツ省を新設し国家戦略を。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 







【正論】日本財団会長・笹川陽平




◆半世紀前の振興法は時代遅れ

 サッカー・アジア杯で日本が4度目の優勝を果たした。景気が低迷し、難問が山積する内政・外交を前に閉塞(へいそく)状況にあるこの国が、久しぶりに歓喜に沸いた。スポーツほど国民を奮い立たせ、元気づけるものはない。国際社会での日本の存在感アップにもつながる。

 そんな中、今年は1961年にスポーツ振興法が制定されてちょうど50年。3月には与党の民主党がスポーツ基本法案を提出予定と聞く。

 文部科学省中心のわが国のスポーツ行政は、伝統的に学校・企業への依存度が高く、各国の制度に比べ遅れが目立ち、多様化するスポーツ環境への適応力にも欠ける。スポーツ基本法の制定とスポーツ省の新設で、スポーツ行政を抜本的に見直すときと考える。

 半世紀前のスポーツ振興法は、3年後の東京五輪の根拠法として国の行動計画や施設整備、指導者養成、補助金などを定めている。だが、全体に、「学校教育における体育」が強く意識され、プロスポーツやスポーツを通じた国際貢献などへの言及は希薄だ。

 笹川スポーツ財団の調べによると、半世紀が経過した現在、ウオーキングやランニングなど手軽な運動を週2回以上する人は50%近くまで増え、フィットネスクラブも大幅に増加、観(み)るスポーツも野球、相撲からサッカー、バスケット、ゴルフなどに広がっている。半面、文科省調査によると子供の体力・運動能力はこの10年間、低下が続き、日本のスポーツ文化を代表する学校の部活動も少子化の影響で野球やサッカーのチームを1校だけで編成するのが難しい学校も増えている。

 ◆国際スポーツ界でも力が低下

 世界、アジアのスポーツ勢力図も大きく変わった。2008年夏の北京五輪で日本が獲得した金メダルは9個、昨年末のアジア大会は48個。中国、韓国にも大きな後れをとり、石川遼選手の活躍で人気のゴルフも韓国パワーが吹き荒れ、昨年は男女とも韓国選手が国内ツアーの賞金王に輝いた。

 2016年五輪、22年サッカー・ワールドカップ(W杯)招致も不発に終わり、年明けに行われたアジア・サッカー連盟(AFC)の役員選挙ではAFC選出の国際サッカー連盟(FIFA)理事に立候補した田嶋幸三・日本協会副会長が落選、07年に山下泰裕氏が国際柔道連盟(IJF)の教育・コーチング理事の再任を阻まれたのに続き、国際スポーツ界での日本の発言力低下を招いている。

 民主党は、前述のスポーツ基本法案で、年齢や性別、健常者、障害者の別なく国民が広くスポーツを行う権利を中心にプロスポーツの支援強化やスポーツ仲裁制度、さらに都道府県単位をブロック単位に広げた国体開催、スポーツ庁の設置などを打ち出すという。

 焦点のスポーツ庁構想は、文科省の「スポーツ・青少年局」からスポーツ局を独立させ、厚生労働省が所管する障害者スポーツなど他省庁関連施策を統合した上、将来的に庁に格上げする方向で検討されているようだ。この案でいけば、文科省が引き続きスポーツ行政の中核を担うことになる。

 しかし、現実のスポーツ行政は施設関係が国土交通省、高齢者・障害者スポーツが厚労省など他省庁にもまたがり、体力づくり関連予算一つをとっても、国交省から文科省、厚労省などいくつもの省庁に広がる。スポーツ行政を一新し強力なスポーツ外交を展開するためにも、縦割り行政に横串を刺し、中核組織としてスポーツ省を新設するのが望ましい。

 中国はスポーツを社会体育、学校体育、競技体育に分け、社会体育の一環として高齢者・障害者スポーツに取り組んでいる。韓国は国民体育振興法のほかにスポーツ産業振興法を制定してプロスポーツの育成を打ち出し、世界のプロスポーツ界で韓国選手が活躍する源になっている。

 ◆超党派で基本法を制定せよ

 スポーツ省の新設が、行革の趣旨に反するといった消極論や文科省の省益との兼ね合いを懸念する声もあるようだが、半世紀ぶりにスポーツ政策を見直す以上、従来の形にとらわれない大胆で抜本的な切り口こそ必要である。

 世界に通用するトップアスリートを育成するには国の支援が不可欠であり、メダリストが引退後も指導者として活躍できるような環境整備も必要となる。ヨーロッパ型の地域クラブの強化育成にも取り組むべきだ。

 基本法をめぐっては、自民党がトップアスリート強化のトップダウン型、民主党が地域のスポーツ振興を重視するボトムアップ型といわれるが、裾野が広がればトップが高まり、トップが高まれば裾野も広がる。両者の考えは表裏一体であり、党派を超えて対応する余地は十分あるはずだ。

 一流のスポーツ選手は数十人の外交官にも増してその国の国際イメージを向上させるという。基本法とこれに基づく長期基本計画をまとめ明確な国家戦略を打ち出すことこそ、この国のスポーツ力を大きく飛躍させる道と考える。


                                 (ささかわ ようへい)