【土・日曜日に書く】論説委員・石川水穂
◆高木文科相が意欲示す
先月28日の参院本会議で、高木義明文部科学相は「尖閣諸島を含むわが国の領土・領域を正確に理解させるため、不断の見直しを行う」と述べ、尖閣諸島などを教科書に明記することに強い意欲を示した。
現行の教科書を調べてみると、尖閣諸島について記述している例は意外に少ない。
現在、中学校で使われている公民教科書で、尖閣諸島を取り上げているのは全8社中3社だ。
「島根県隠岐諸島の北西に位置する竹島、沖縄県先島諸島の北方に位置する尖閣諸島は、いずれも日本固有の領土です」(東京書籍)
「沖縄県西方の尖閣諸島は、第二次世界大戦後、アメリカの統治下におかれましたが、沖縄返還とともに日本の領土にもどりました。しかし、中国もその領有を主張しています」(大阪書籍)
「…北方領土、日本海上の竹島、東シナ海上の尖閣諸島については、それぞれロシア、韓国、中国がその領有を主張し、一部を支配しているが、これらの領土は歴史的にも国際法上もわが国の固有の領土である」(扶桑社)
今春から小学校で使われる社会科教科書で、尖閣諸島に触れているのは次の1社だけだ。
「沖縄県に属する尖閣諸島を、中国が自国の領土であると主張している問題もあります」(日本文教出版)
◆国籍不明の記述例も
全体として、ロシアが不法占拠する北方領土については、ほとんどの教科書が取り上げている。韓国が不法占拠する竹島についても最近、書かれるようになった。だが、「日本固有の領土」と書かず、どこの国の教科書か分からない記述も少なくない。
尖閣諸島が教科書に書かれないのは、日本が実効支配し、政府が「領土問題は存在しない」としているためとみられる。
しかし、昨年9月の中国漁船衝突事件で、中国が尖閣諸島の領有化を狙っていることが一層、明確になった。領土問題が存在しなくても、尖閣諸島が日本固有の領土であることを教科書にはっきり書くべきである。
仮に、教科書に書かれていなくても、教師は事前に北方領土や竹島、尖閣諸島が日本領土であることの由来などを調べ、それを子供たちにきちんと教えるべきだ。それが公教育というものである。
先の日教組教研集会で、北方領土のことを教えているうちに、教師も子供も「どこの国の領土か分からなくなった」という授業例が“成果”として報告された。こんな教師は論外である。
高木文科相は昨年10月の衆院文部科学委員会でも、尖閣事件を受け、「わが国の領土であることを明確に書くべきだという意見をしっかり受け止め、反映していきたい」と答えている。
民主党政権になってから、高校の学習指導要領の解説書に竹島を明記しないなど、近隣諸国への過度の配慮が目立つ。教科書に「固有の領土」と明記できるよう、解説書などの是正を求めたい。
◆つくる会の講演会でも
領土と教科書をめぐる問題は先月30日、都内で開かれた「新しい歴史教科書をつくる会」の新春講演会「尖閣事件と歴史・公民教科書」でも論じられた。
同会会長の藤岡信勝・拓殖大客員教授は「領土教育」とそのための教材開発の必要性を強調した。藤岡氏はさらに、国土を守ってきた先人の歴史を子供たちに伝えることが大切だとして、戦後の教科書から消えた「日露戦争と久松五勇士」の例を挙げた。
明治38(1905)年、ロシア・バルチック艦隊が宮古島付近を北上中との情報を、同島久松地区の漁民5人が170キロ離れた通信施設のある石垣島まで15時間かけて釣り舟を漕(こ)いで知らせたという逸話だ。情報は石垣島の郵便局から那覇市の郵便局を通じて大本営に打電された。
また、同会理事の小山常実・大月短大教授は「領土教育の欠如が尖閣事件を招いた」として、公民教科書での領土に関する記述の分量の少なさを指摘し、「最低でも1ページを使って書き込むべきだ」と訴えた。小山氏はさらに、現行の公民教科書について次のような問題点を指摘した。
「防衛が国家の第一の役割であることが書かれていない」「国益という言葉がない」「多くの教科書が、日本で外国人参政権が与えられていないことを差別ととらえている」
今春から始まる中学教科書の採択戦に、「つくる会」のメンバーらによる自由社の公民教科書も新規参入する。それぞれの教科書が領土や国家について、どう書いているかに注目したい。(いしかわ みずほ)