「台湾海峡危機」を改めて検証せよ。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 





【新聞に喝!】大森事務所代表・大森義夫



 昨年12月の日経、米ウィリアム・ペリー元国防長官の「私の履歴書」。米国がロシア、北朝鮮、中国といかに対応してきたか、日本がこれからいかに対応すべきかの生きた教科書として熟読した。とくに後半2回にわたって取り上げた1996年台湾海峡での米中対決、すなわち台湾が初の総統直接選挙を実施し、中国はミサイル3発を近海に撃ち込んで威嚇、米国が2つの空母部隊を送り込んで一触即発の緊張になったくだりは全編のハイライトである。私の官邸勤務でもこれが最大の出来事だった。橋本龍太郎首相(当時)にも額を寄せ合うようにして報告を聞いていただいたが、私は非力だった。

 「履歴書」は語っていないが、米国の空母部隊は悪天候を理由に海峡付近をゆるゆる航行し、その間に米中はすさまじいディール(取引)を行ったものと思われる。日本は両大国の秘密交渉に全く立ち入れなかった。情報弱者のみじめさは今も変わらない。そしてペリー氏が記すとおり「あの事件以来、中国は海軍力の増強に邁進(まいしん)」「尖閣諸島をめぐっても領有権を主張」するに至った。各紙は当時の関係者の証言を集めて事態を復元・分析してほしい。菅直人改造内閣に歴史の教訓だけは認識させておきたい。

年末に閣議決定された「防衛大綱」について報道は従来の「基盤的防衛力構想」から「動的防衛力」への転換という概念の説明にページを費やしている。記者クラブに対する当局側のレクチャーに依拠しているのだろうが、「計画」が意味をもつか否かは実効性による。企業が中期経営計画を大騒ぎして作り、それに再生とかエコとか銘打てば3年後の業績が確保されたような錯覚に陥るのと同じである。南西諸島防衛のための人員、装備、訓練費などが裏打ちされているかどうか現場で検証してリポートしてほしい。4日付の産経「主張」は「『動的防衛力』などの言葉が踊り、実質的な問題が曖昧にされた感が強い」と言っているが、言葉を躍らせているのは新聞である。

 「公安情報」の漏洩(ろうえい)について、警察が内部文書だと認めた。「あまりに遅い」(12月26日付朝日社説)。しかし新聞による指摘も「あまりに遅い」のではないか? 本物と認めると外国の機関に迷惑がかかる、などと遅れを正当化する解説があった。これも当局の誰かが流したのかもしれないが、そんな法則は存在しない。漏洩したら即アウトなのである。新聞は切れ味のよい報道を旨とすべきである。

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【プロフィル】大森義夫

 おおもり・よしお 昭和14年東京都出身。東京大法卒。38年警察庁入庁。元内閣情報調査室長。