『光る君へ』第10回『月夜の陰謀』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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物語前半の山場として設定されていたであろう『寛和の変』ですが、事前に兼家の詐病やら晴明の暗躍やらの下準備に尺を費やした分、変自体はアッサリと終了しました。『手紙を忘れた』『もう運んであります』『え? 勝手に文箱開けたの?』という花山帝と道兼のやり取りとか、逢い引きのフリをして女官の目を誤魔化すとか、そうした現場のドタバタをもっと盛り込んで欲しかったかな。三谷さんだったらここぞとばかりに陰謀がバレるかバレないかのハラハラドキドキコメディに仕立ててきたでしょう。まぁ、その辺は作家性の違いなので、必要以上にドーダコーダいうつもりはありません。大河ドラマで寛和の変が描かれたこと自体が意義深いことであり、本作では内容以前にその点を評価するべきと思われます。

実際、本作でも三郎が花山帝出家を関白に報告する、ある意味でツカイッパの役割を与えられた史実に対して、ハカリゴトが失敗した際の保険として三郎を蚊帳の外に置いておく兼家の計算という解釈がなされており、更に『真田丸』で昌幸パッパの手玉に取られた滝川一益が、犬伏の別れにも似たことをやらかす点で、大河ドラマ好きへのサービスもバッチリ。昨年の大河は善かれ悪しかれ盛り過ぎであったことを鑑みると、今年は若干食い足りないくらいで収めるのがバランスが取れてよいのかも知れません。

 

むしろ、今回は三郎とまひろの恋愛パートのほうが圧倒的に面白かったわ。基本的に恋愛劇の理解度にかけてはヤンがメシマズにプロポーズするまで二人の関係に気づかないレベルの私ですが、今回は高度なギャグとして楽しめたと言いますか。

まず、作中で行成が言及していたようにフツーは男が志を謳う漢詩を用いて、女が心情を詠む和歌を用いるものなのに、それが逆転しているところ。この時点で行成が言外に述べていたように、

 

『相手にされてないってことだよ。言わせんな恥ずかしい』

 

と判りそうなモノですが、しかし、三郎は懲りずに『逢いたい』『逢いたい』『逢わなきゃんじゃう』とタチの悪いリスカレターを送り続けるのよ。これは引く。

更に逢ったら逢ったで『お前も俺も地位も名誉も家族も未来も捨てて遠くの国へ逃げよう』とかフツーのラブロマンスだと女性ヒロインが言い出しそうなことを口走るのよね。これ、まひろが言ったらアホのスィーツ脳かと思うけど、よりにもよって後年の藤原道長に言わせるところがジワジワ来ました。男女の逆転に加えて、歴史上のイメージも反転させた面白さ。そのうえ、まひろが何度も『貧乏生活に耐えられる? 自分の使命を忘れてない?』とマトモな言葉で諭しても三郎は『何とかなるなる!』と全く聞く耳を持たないのがツボ。もう喋るな、話が嚙み合わねぇ。三郎、先述のように言っていることは女性ヒロインみたいなんだけど、目の前の女をモノにしたい欲求でイッパイイッパイになるところ、女を口説くドーテー男のガツガツっぷりの再現度が高過ぎるのよね。まひろがエッチを受け入れたのって、愛とか恋とかじゃなくて、

 

今の三郎は一発抜いて賢者モードにしないと会話が成立しないと腹を括った

 

んじゃないかと思いました。実際、スッキリした三郎は外国に連れて行くつもりであったまひろを『帰り、送っていこうか?』と自宅に送り届けようとするとか、完璧に賢者モードに入っていたからなぁ。既存の男女の価値観を入れ替えたうえで、そこに男性特有の情欲と後朝の無責任さを生々しく描いていて、最高に好き。

しかも、三郎を袖にしたまひろの『自身の使命から逃げるな』という言葉は、のちに三郎が藤原道長として様々な権謀術策に手を染めた際、まひろから『何やってんの!』と批判された時に『お前が俺を振ってまでこうやれと言ったんだろ!』と逆切れする布石になり得そうなのが楽しみです。

 

ただ、まぁ、これらの面白さは私の歪んだ恋愛観に基づくヒネた解釈なので、ド正面から正統なラブストーリー&大河ドラマとして受け入れるには弱かったのも確か。種類で言うと『花燃ゆ』での寅次郎と義助のレスバ的な、本編の出来不出来から多少離れたポジションでの笑いということで、面白かったけれども高評価とは別問題であることはつけ加えておきましょう。

 

あ、来週以降、暫くの間は仕事関係で更新が滞るかも知れません。悪しからず。