『鎌倉殿の13人』第12回『亀の前事件』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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ここはイマイチ社会性のない自称・のんぽりマスターの管理人が、
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※基本、ネタバレ有となっていますので、ご注意下さい。

今回で全体の1/4の放送が終了した『鎌倉殿の13人』。もう1年やってくれてもええんやでという声や、現在のクオリティを維持するためなら分割2クールずつの放送でもええんやでという意見があるとかないとか。個人的には1/4を終えた時点で今までの回の全部が面白かったという驚異の高打率のほうが凄い。1年スパンの作品である以上、調整回や捨て回は普通にある(というか、ないと最後まで保たない)と覚悟していたのですが、現時点ではそれらが一切なし。四球も進塁打も犠打もなしの12打数12安打7本塁打20得点の『振れば必ず当たる戦慄のスラッガー』感あります。通常の敬遠どころか、申告敬遠さえも無理矢理バックスクリーンに叩き込みそう(無理です)。ここまで来ると逆に終盤で大崩れしないように今のうちに捨て回や調整回を入れてくれと頼みたくなるとかならないとか。大河ドラマの感想記事を書き始めて以来、一番贅沢な悩みごとですね。

尚、来週のブログ更新はワクチン接種(3回目)と被るため、お休みを頂きます。また、4月は公私共にスケジュールが立て込んでおり、定期更新は難しいかも知れません。予め御了承下さいませ。まぁ、副反応がなければ、書く可能性もアリ。何だかんだで今年は大河の感想メインで毎週更新出来ていますからね。出来れば、途切れさせたくないとは思います。今回のポイントは4つ。

 

 

 

源義経「馬の扱いがうまくないのです。馬に近づくと矢鱈くしゃみが出る」

 

一発で嘘と判る&エアグルーヴのやる気が下がりそうな九郎さんの発言。お前、奥州で馬の鞍の上で逆立ちして得意げになっていたやんけ。勿論、それを知る者は視聴者と九郎の郎党くらいしかいませんが、坂東武者が動物アレルギーでは戦の役に立たない訳で、仮に事実としたら余計に平家討伐の陣頭に立てなくなるのは確定的に明らか。前回の御手紙シュレッダー事件もそうでしたが、基本的に本作の九郎さんは簡単にバレて自分が不利になる嘘を後先考えずに平気でついて自滅するタイプ。端的に嘘のつき方がヘタなのよ。奥州で秀衡に嘘をつく必要のない我儘放題の環境で全肯定育成されてしまったんやろうなぁ。源氏の棟梁の連枝が御家人風情と同じ役目を仰せつかるのは恥辱の極みとはいえ、現在の鎌倉は御家人の地盤の上に成立している訳で、その辺の現実を心得ていないのが九郎さんの危うさです。

その点、頼朝さんは現実を見ている。政子の出産に関わる様々な役割≒役得を主な御家人に振り分けて、全体のバランスを考える一方、先述の九郎さんの起用については『見栄えでお前を選んだ』と深く考えずに頼んでいる風を装う≒自分を少し下げることで義経に妥協を促している&御家人たちには言外に身内を優遇しないとアピールしている訳ですが、如何せん、身内も御家人も俺が俺がと前に出るブレイク前の芸人タイプが揃っている所為で、手綱を取るのも一苦労。九郎の辞退を受けてしゃしゃり出た千葉常胤を『見栄えがする者と言った筈だ!』と一喝したのも、別に常胤が見栄えがしないという訳ではなく、あくまでも見栄えで選んだことにしないとイケメン以外の御家人が我も我もと名乗り出て収拾がつかなくなるからです、多分、恐らく。挙兵に先駆けて『お前だけが頼りだ』と全員に説いて回ったツケが回ってきたとはいえ、こんな連中の御機嫌取りで神経をすり減らされるのですから、ストレスフルになった頼朝が政子さんの出産中に亀ノ前に癒しを求めるのもやむなしと思います。思えない? ですよねー。

 

 

 

江間義時「八重さんが寂しくないように、なるべく顔を出します。二日に一度は来るつもりです」

八重「……無理なさらないで下さい。月に一度で結構です」

 

訳・キモい&ウザいから来るな。

 

現代なら確実に接近禁止命令が下される案件。小四郎みたいなストーカー気質にはビシッと言わないと伝わらない(言っても伝わらない)のですが、如何せん作中の八重ちゃんは父も兄も失い、現世に身の置き所がないので、強気に出られない事情があります。小四郎は『では、十日に三度』と数字を刻んで妥協点を探っているつもりなんでしょうけれども、そもそも、八重ちゃんにはハナから妥協点そのものがないことをまるで理解していない模様。0には何を掛けても0なんやで。

そんな小四郎をいなたいスナックみたいな亀ノ前との密会場に連れ込む頼朝さん。これ、今回の騒動の原因が道義的にも情報的にも頼朝の責任であることを描くために必要なシーンではあるのですが、亀ノ前が述べたように敢えて嫁の弟に愛人の存在を明かす動機は不明瞭なままでした。或いはフラレっぱなしの小四郎に『女にフラれたくらいでいちいち落ち込むな。お前は女に幻想を抱き過ぎだ』と慰める&ハッパをかけるつもりであったのかも知れませんが、当の小四郎は社長の愛人宅に招かれた新米秘書の如き気まずい表情。父親は若い後妻に夢中。主君はゲス不倫の常習犯。友人は頼朝の元カノを寝取ることに燃えるド変態。意中の女性にはストーカー扱いされる(これは事実)。そらぁ、小四郎君が上総広常とかいう包容力のある優しいおじさんン家に入り浸るのも道理というものです。こんなんホモになるしかないやん。広常も手習いの件とか正直に話してくれたように小四郎君にメロメロですからね。尤も、今後の史実展開や今回のラストシーンの大江広元の意味ありげなヒキの台詞を鑑みると、小四郎君と広常のピュアなホモソーシャル関係も長続きしない予感。広元さん、今回は失策のみが目立っていた筈の小四郎へのフォローに務めていたのは、広常から小四郎を奪う布石を打っているのかも知れません。男ってこえーな。百合になるしかないやん。

 

 

 

北条政子「この田んぼのヒル!」

 

 

見事にトレンド入りを果たした実弟に対する政子の罵倒。よかったな、小四郎。ツイッターデビューだぞ。『田んぼのヒル』とかいう聞き慣れない言葉ですが、金魚のフンとかコバンザメとかいう言葉のない時代だからね。仕方ないね。尚、首チョンパと一石二鳥【略】

さて、今回……というか、石橋山や富士川の戦いを上回る緊迫のバトルイベントとなった政子VS亀ノ前の所謂後妻打ち騒動ですが、意外にも騒動の中で一番マトモな反応をしていたのは政子さんでした。基本的に頼朝の浮気は政子が妊娠・出産で不在時に起きている(今後も同じことを繰り返します)うえ、前妻同然の八重ちゃんにキチンと挨拶に出向いて筋目を通した政子にとって、陰でコソコソと【アーン♪】する頼朝と亀ノ前は控え目にいってもエンコの代わりにチ斬り落とさないと気が済まない案件。更に事件後の供述からも判るように政子本人は別に亀ノ前に直接的な危害を加える意志はなかった訳で、後世、政子悪女説の一因とされる亀ノ前事件の現代的解釈としてはイイ線行っていたと思います。政子の誤算は政子と亀ノ前の間に幾人もの利害関係を有した人間が介してしまったこと。今回の冒頭で頼朝が述べたように『北条は最早、伊豆の小者ではなくなっている』訳で、それらの人間関係に揉まれるうちに言い出しっぺの思惑とかけ離れた事態に発展してしまったのでしょう。多分、今後の様々な事件も根は同じところにあるように描かれると思います。

作劇的には世間で語られる政子による、通常の後妻打ちってレベルじゃねぇ徹底した破壊っぷりに九郎君を一枚噛ませる巧さが光りました。そらぁ、この九郎君ならこれくらいやりかねないよ。今回の九郎君の荒ぶりっぷりを見ていると、今後の源平合戦がヤバいことになりそうな予感に震える。一の谷の戦いとか、

 

畠山重忠「だ……断崖ですゥ……一ノ谷の裏手は崖っぷちなんですゥ」

源義経「行け」

畠山重忠「い……行けといわれても馬では下りられません……」

源義経「鹿が下りているではないか……行け」

畠山重忠「し、鹿~~~? 人間を乗せている訳じゃないんですよォォォ」

源義経「関係ない、行け」

畠山重忠「は……はいいィィィィィィィ~~~!!」

源義経「馬を担げ」

畠山重忠「ワハハハハハハハハハハハハハハハーーーーッ! 馬まで担いで駆け下りたんです! この畠山の、私の所領だけは安堵してくれますよねェェェェ~~~~~ッ」

 

北条義時「だめだ」

 

こうなりそうな気がしてきました。好きな時に膝枕でオギャらせてくれる政子への好意とはいえ、九郎君のバーバリアンっぷりが半端ない。小四郎君も何でこんな奴を見張りに指名してしまったんや。

 

 

 

源頼朝「政子に頼まれれば何でもやるのか? 殺せといわれたらわしを殺すか?」

 

先生が死ねといったらお前は死ぬんだな理論で牧宗親を責め立てる頼朝さん。ここまでの頼朝にない随分と攻撃的な物言いですが、根本のところで自分のゲス不倫が原因であることを自覚しているのでしょう。不利な立場に追い込まれる前に誰かに詰め腹を斬らせて、事件そのものを強引&ウヤムヤに過去のものにしてしまおうという狙いがあったと思われます。そんな流れで髻≒精神的チ斬られる宗親さんカワイソス。現代人にはなかなか伝わりにくいですが、当時の人間が髻を斬られることは一定期間~半永久的な社会的地歩の喪失を意味していた訳で、この場面は隣にいる九郎君に兄の処置にドンびきするリアクションを取らせることで、事の重大さを視聴者に伝えることに成功していたと思います。本作の九郎君がドンびきするって相当ですからね。まぁ、九郎君は『兄上は俺を謹慎に追い込む原因を作った奴をこんなに厳しく罰してくれるんだ!』と喜んでいそうでもありますが。

とはいえ、最終的には奮戦(?)虚しく、普段は椅子の下で脛を蹴り合う女性同士の連帯に敗北を喫した挙句、舅殿にまでキレられてしまった頼朝さん残当。

 

りく「夫に側女がいて、それを心より許せるおなごなど、都にだっておりません! 側女が当たり前と開き直られては堪りません!」

 

 

貼れと言われた気がした。尤も、りくさんの物言いも責任を追及される前に自分から攻撃に転じることで、教唆の罪を免れようとした印象は拭えませんが、言っていることは100%の正論なので、反撃の仕様がありません。勿論、頼朝には源氏の嫡流を絶やす訳にはいかないという使命があるとはいえ、小四郎を密会の場に招かなければ、政子には亀ノ前の所在が判らず、今回の事態には至らなかった模様。最初に触れた『お前だけが頼りだ』発言の竹箆返しといい、つまり、全ては本人の不徳の致すところだからね、仕方ないね。結論。全部大泉が悪い。