荒川弘版『アルスラーン戦記』第42章『異国の空』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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ここはイマイチ社会性のない自称・のんぽりマスターの管理人が、
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※基本、ネタバレ有となっていますので、ご注意下さい。

シンドゥラ兵A「プラダーラダ!」((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

シンドゥラ兵B「プラダーラダだ!」((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

シンドゥラ兵C「今のラジェンドラ軍に奴の相手をできる者はいないぞ」((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

 

あからさまに武力87知力32っぽい雰囲気を漂わせるプラダーラダさんの登場。ラジェンドラ派のシンドゥラ兵の皆さまは驚愕と絶望のズンドコに突き落とされていましたが、私はプラダーラダさんの月跨ぎ&年跨ぎの出演が確定したことにビックリしています。原作では、

 

プラダーラダ「ガーデーヴィ派、プラダーラダいきます!」

ダリューン「グオゴゴゴ」

プラダーラダ「ギャアーッ!」

 

くらいの早さで退場したような印象ありましたので。文庫版原作でも2頁しか活躍しなかったにも拘わらず、月跨ぎ&年跨ぎの活躍となったプラダーラダさん、マジ強運の持ち主。そんなプラダーラダさん討死確定という壮絶な次回のネタバレで始まる今回の感想。ポイントは5つ。

 

 

1.同族嫌悪

 

ラジェンドラ「シンドゥラは美人が多いぞ」

ギーヴ「楽しみだな、遠征!」

 

昨晩は共闘さえすれば、どちらかはファランギース殿と【いいこと】できた(かも知れなかった)機会を、目先の対抗心で折角の機会を棒に振った愛すべきバカ野郎二名。宿酔の苦痛に遭っても、お互いに毒舌の応酬を忘れない点は精神上の双生児と評してよいでしょう。或いは両名は身分と立場が異なれば、気の置ける友人になれたかも知れませんが、似過ぎた者同士は憎みあうという赤い彗星の言葉を信じれば、どう足掻いても相容れない関係にしかなれない可能性もアリ。まぁ、自分とアムロが似た者同士というシャアの人物評価自体にも疑問の余地があり過ぎるのですが。むしろ、ラジェンドラと似た者同士なのはアルスラーンでしょうか。今回、シンドゥラには美人が多いという口実でギーヴのやる気スイッチをONすることに成功したラジェンドラですが、のちにアルスラーンも似たような言葉でギーヴを遠征に同行させることに成功しています。ギーヴのような男を口先一つで手玉に取る種類という点で、王太子殿下と軽薄王子は根っこの部分で繋がっているようです。ダリューンに聞かれたら、力づくで首級を引っこ抜かれそうな分析ではありますが。

 

 

2.流石に言い過ぎ

 

バフマン(ダリューンは我が戦友ヴァフリーズ殿の甥だが、己が正義とばかりに可愛げがない。ナルサスなぞはアンドラゴラス王に口答えし、宮廷から追放された男……他にも奴隷あがりだの賊の娘だの旅の楽士だのが、我が城をかき回す始末)

 

流石に面と向かっては口にしないものの、アルスラーン一味を余りにも甘利な色眼鏡で眺めていたバフマン翁。ヒルメス絡みでアルスラーンの心のゴールネットをクリティカル自殺点で揺らしてしまった分際で随分な男ですね。尤も、アルスラーンに対する負い目があるからこそ、バフマンはダリューンやナルサスたちに対する評価が辛くなるのでしょう。心に疚しいことがある時は他人の長所よりも欠点に敏感になるもの。人間って悲しいね。

ちなみに原作でのファランギースVSバフマンはファランギースが愛すべきバカ野郎二人を酔い潰した翌朝ではなく、当夜の出来事になっています。国家の重鎮たるバフマン翁を赤ら顔で面罵するとは、ファランギースも随分と無礼な真似をするものだなぁと思っていたので、この改変は好適でしょう。

 

 

3.知らぬが仏

 

ヒルメス「俺は奴をパルスの民を偽り続けた偽の王子として、王都の民衆の前で討つ。そして、生首をアンドラゴラスの前へ突きつけてやるのだ」

 

何というか、アルスラーンとアンドラゴラスとヒルメスの出生に纏わる真相を知っていると道化芝居という言葉しか出てこないヒルメスの計画。知らぬは本人ばかりなり。涙が出、出ますよ。しかし、現時点でアルスラーンを『偽の王子』と断言するヒルメスさんパネェ。この辺は第一部のラスト付近でないと明かされない真相とリンクしている筈ですが、正統意識の強過ぎるヒルメスの価値観では簒奪者の息子=偽の王子という認識なのでしょう。そもそも、アンドラゴラスにアルスラーンの生首を突きつけても、

 

アンドラゴラス「あ、ふーん。で?」ハナホジー

 

で、終わりでしょうからねぇ。やア鬼。

 

 

4.手首の傷

 

アルスラーン「………………」

 

そのヒルメスに負わされた手首の傷を見やるアルスラーン。単純に傷が痛むのではなく、傷をつけた人間と自分がパルス王家と如何に関わっているか、或いは関わっていないのかに思いを致しているのでしょう。特に回想の描写はありませんでしたが、まず、間違いありません。直前の奴隷解放のシーンでは具体的に嫌な記憶を思い出しているのと対照的です。『奴隷解放』はアルスラーンの理想であり、その理想を実現するためには嫌な記憶とも向き合わなければいけない。しかし、自分とパルス王家との関係はアルスラーンが望んで対峙した問題ではない。その差が表れているのではないかと思います。要するに己の血統に関することは純粋に考えたくないのでしょう。悩める十四歳、アルスラーン。盗んだ黒影号で駈け出さないだけマシなレベル。

 

 

5.心の友よ

 

ダリューン「あの軽薄王子。どうやら、兵士にはよほど人気があるようだな」

 

ラジェンドラに対する嫌悪感ではガーデーヴィの次ぐ世界ランク二位の座を誇るダリューンをして、認めざるを得ないラジェンドラの人気の高さ。実際、一昨晩の戦闘ではパルス軍にボコボコにされたにも拘わらず、兵士たちのラジェンドラに対する人気は些かの陰りも見せない点は、統率者としての確かな器量を感じさせます。まぁ、ラジェンドラの目の届かないところでは愚痴や揶揄のタネにされているでしょうけれども、万一、その話が自分の耳に届いたとしても、聞こえないフリをしてやるのがラジェンドラの魅力。批判や陰口の出所を徹底的に追及して、無関係な人間も巻き込んで吊るしあげる人間や組織は根本的に終わっているというのは歴史の証明するところです。その辺はダリューンには判らない模様。バフマン翁のいう『己が正義とばかりに可愛げがない』という評価は偏見のフィルターを通ることで結果として的中していたといえるかも知れません。

もう一つ、ダリューンが眉を顰めたラジェンドラのアルスラーンに対する『心の友』宣言。勿論、あんなモノは真に受けるほうがどうかしているのですが、国同士の関係では土下座と口約束はタダなので、ラジェンドラの空手形にいちいちイライラするダリューンのほうがラジェンドラ本人よりも遥かに未熟といえます。尤も、そういう世の中であるからこそ、ダリューンのように全面的な信頼に足る人物が貴重な存在でもあります。『ゲーム・オブ・スローンズ』のブライエニーさんと同じ。信頼できる人柄というのが如何に得難い存在か、彼女を見ているとつくづく思い知らされるんだよなぁ。