『龍帥の翼 ~史記・留侯世家異伝~』第十話感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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黄石「大丈夫。王になるよ」

 

ただし、天寿を全うできるとはいっていません。

 

英布に関する予言の成就を保証したものの、彼の末路については言及しなかった黄石。天使の如き愛くるしい笑顔を浮かべながら、一番肝心のことを伝えなかったのは顔パンを食らったことに対するササヤカな復讐かも知れません。尤も、英布は後年、反乱を起こした動機を尋ねられた際に『皇帝になりたいからさ』と某侯景や某金銀妖瞳と同じ返答をした(後者は要出典)ことからも判るように、市井の一市民としての天寿を全うするよりも、王としての非業の死を選ぶタイプなので、黄石の言葉に裏があるにせよないにせよ、上記の台詞は単純に嬉しかったと思います。

先回の感想では項羽の登場を予想しましたが、残念なことに今回も姿を表さず。川原センセも引っ張りますね。代わりに登場したのは国士無双。これも事前はファンかウォルカ・ベアスに近いキャラクターになると予想しましたが、パッと見は噓をつかない山田さんという感じでした。或いは超有能な木村さんか。何れにせよ、ここ最近はブログで予想したことは概ね外してばかりなので、地味に落ち込んでいます。次回こそ、次回こそ、項羽が登場するというコーラを飲んだらゲップが出るレベルの確実な予想をして臨む今回の感想。ポイントは3つ。

 

 

1.俺の名は

 

英布「わしの名は英布だ! 人は黥布と呼ぶがなぁ!」

窮奇「お前は己の名を覚えなくていい。代わりに、あの娘には手を触れてはならん事だけを体に刻め!」

 

VS樊噲を彷彿とさせるマカロニウェスタン再び。拳が名刺代わりの窮奇と英布。VS樊噲と異なる点は拳の勝負での不利を悟った英布が躊躇いもなく、ダンビラを抜き放ったこと。勝利のためには一切の体裁を繕わない姿勢は、ある意味尊敬してしまいます。わざわざ相手の土俵で戦った挙句に負けたのでは『愚か者』の誹りは免れ得ません。この英布の瞬時の判断は姑息に見えて、実は戦闘の本質を穿っているといえるでしょう。一応、王の器ではあるようです。

王といえば、英布の『顔の黥は恥じゃないが、王の顔を面白半分に見るのは赦さない』という解釈も面白かった。先回のコメント返信で『英布は前科者になったあとに王になると予言されていたため、墨刑に処された際には喜んだ』という逸話に触れたように、彼が己の黥を見られたことで気分を害するとは思えなかったのですが、王の顔を直視するのは無礼という価値観であれば話は別。立派に筋は通ります。まぁ、逸話そのものが本作の張良の黄石伝説のように自分で後付けした臭いので、そういう逸話が語られたこと自体、英布が己の黥にコンプレックスを抱いていた証拠と見たほうが自然でしょう。本人が気に留めていない事象をわざわざ自分から喧伝することはできませんから。

 

 

2.柔と剛

 

張良「やはり、四凶に互せる者などいない」

 

英布の右腕を曳くと同時に、英布に取られた左拳を押し込むことで、相手を地に伏せさせることに成功した窮奇。パワーとテクニックの完璧なる融合。皇帝のマウントを返したルゥ・フォン・シェンの妙技を思い出させます。やはり、窮奇の一族はのちの呂家の始祖なのかも知れません。流石の英布も相手が悪かった。

尤も、九分九厘リカバリー不可能なポジションに追い込まれたにも拘わらず、

 

英布「お前の拳など痛くも痒くもねぇ」

 

とか強がっちゃう英布が可愛い。更に殴られたところを黄石にツンツンされて思わず悲鳴をあげちゃうのも可愛い。勿論、これは幼気な黄石に顔パン食らわすレベルの極悪人である英布が見せるアカラサマな強がりが生むギャップ萌えであり、いい警官悪い警官メゾッドや、雨の日に濡れた仔犬を助ける不良が可愛く見えるのと同じ錯覚に過ぎませんが、それでも、最悪の登場を仕出かした先回の印象を僅かながらも覆したといえるでしょう。まぁ、この先も特に印象がプラスに傾く逸話もないので、今回がストップ高になると思いますが。

 

 

3.十三面待ち

 

韓信「私なら、その男に勝つ事など簡単だと言う事です。兵を千人貸して下さい」

 

項羽に先駆けての登場となった国士無双・韓信。楚漢戦争で項羽よりも韓信が先に出てくるのは『赤龍王』以来でしょうか。司馬さんの『項羽と劉邦』でも中盤以降の登場でした。何れにせよ、登場と同時に『あ、コイツが韓信だな』とビビッと来たのには驚いた。川原センセは韓信のようなキャラクターが好きそうなので、キャラクター造形には念を入れたのではないかと思います。蕭何と項伯のように殆ど見分けがつかないのとはエライ違いです。

さて、窮奇と英布のボコりあいを制止する一方、自分に千人の兵を呉れれば、窮奇であろうと討ち取ってみせると豪語する韓信。本人は『あわよくば、英布に認めて貰おうと思っていた』と述べていますが、あの物言いで認めて貰えると思うほうがどうかしています。自分が英布よりも上であるという倨傲(というか確信)が韓信の中にあるからこそ、あのような挑発的な物言いになる。澄ました容貌をしながら、この場にいる誰よりも自分が優れているという認識を韓信が抱いている証拠でしょう。実際、黄石の評価も国士無双という今までで最上級のモノ。これで項羽を見たら、何という評価を下すのか気になります。その黄石に大丈夫と評されたにも拘わらず、

 

項伯「娘子の言う事は話半分に聞いておくのが正しいようだ」

 

という感想を抱いてしまう伯父御どの。そうなると貴方も大丈夫ではなく、タダの丈夫になってしまうのですが……。