『真田丸』第48回『引鉄』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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ここ最近、視聴者のヘイトを一身に集めていた大蔵卿局。演じる峯村リエさんもネットでの反応をご覧になって非常にヘコんでおられるご様子ですが、今週は牢人衆が戦の火種になるという大蔵卿局の言葉が結果的に正しい展開でした。一応、名誉挽回? まぁ、本作の豊臣家はどっちの意見が正しかったかというよりも、その状況ごとに判断を下す立場にいた者がいちいち最悪であったというべきでしょう。バンダンも二丁鉄砲でフルバーストごっこに興じている場合じゃあありません。でも、ちょっとカッコよかった。あのポーズは男の浪漫だよなぁ。

さて、今回は冬の陣の和睦から夏の陣の開戦に至る流れがメイン。大坂の陣は歴代の大河ドラマではありふれた題材ですが、豊臣家の視点で描かれるのは近年では割と珍しいのではないでしょうか。尤も、内容は残り3話でやるテンションであったかは微妙。@5話くらいでしたら納得できたかも。夏の陣は正味二日とはいえ、壮烈な死闘の連続。五月六日、五月七日(前編)、五月七日(後編)、豊臣滅亡&後日譚と一カ月はやって欲しいくらいですからね。正直、冒頭ナレ終了後の合戦シーンが道明寺の戦いでもよかったと思います。そんな今回のポイントは5つ。

 

 

1.『お』の字と『う』の字

 

織田有楽斎「徳川と通じておったことは認めよう。しかし、豊臣に不利なことを敵に流した覚えはない!(キリッ

真田幸村「」スラッ

織田有楽斎「わしは織田信長の実の弟。生命乞いなどせぬわ!(キリリッ

真田幸村「」スチャッ

織田有楽斎「ちと待て!(アワアワ

 

内通者の正体&大言壮語の挙句の見苦しいリアクションと、期待通りの展開を見せてくれた有楽斎。『生命乞いなどせぬわ』とドヤ顔で宣言していますが、彼は自分の生命云々よりも甥に腹を斬らせたドサマギで二条城を脱出したほうが遥かに問題なので、意地を張るところを間違えている気がします。有楽斎を追放した幸村も、情報の漏洩元を絶つリターンと引き換えに敵方とのパイプ役を失うリスクを自覚していたかは些か疑問。何時如何なる場合でも敵国との交渉の方途は残しておかないと、最終的には敵味方何れが倒れるにせよ、そこには殲滅戦の悲劇しか残されません。これは戦国のみならず、幕末の会津藩や近現代の大戦にも通じる政戦両略の大原則です。その点、開戦前にサイド6に中立を認めたジオン公国ぐう有能。

そもそも、家康宛ての内通の密書の差出人の名義が『お』の字と『う』の字であることから察するに、有楽斎は言葉通り、豊臣のためにならない情報は漏らしていなかったと思われます。真犯人は別に存在する。織田有楽斎が密告する内容に応じて『お』の字と『う』の字を使い分けていた可能性も微レ存ですが、このケースでの『お』の字は大隅与左衛門と考えるのが妥当でしょう。有楽斎の追放は単純に豊臣家にとってはマイナスにしかならなかったのではないでしょうか。そして、

 

大隅与左衛門「妻も子もとうの昔に死んだ」

 

との台詞から察するに、与左衛門の妻子は秀吉によって殺害されたと思われます。もしかすると聚楽第の落書き犯が与左衛門か、或いは与左衛門の妻子が落書き事件に連座して処刑されたのかも知れません。そうなると当時の信繁が犯人を捕らえ損ねた所為で豊臣家は滅亡するという展開になるのか。因果は巡るなぁ。

 


2.フラグブレイカー

 

佐助「一つだけ、お願いがあります。もし無事に帰ってきたら……夫婦になってもらえませんk

きり「ごめんなさい(食い気味

 

関ケ原の戦いに匹敵する超高速ごめんなさい。どこかで似たようなシーンを見たことがあると思ったら、

 

田村秀明「俺、此処を出たら、まともになって、姐さん迎えにいきます! 不器用な俺だけど、よかったら俺t」

月本幸子「それはないわ(食い気味

 

これでした。きりちゃんと月本幸子。どちらも出来得るかぎり、関わりを持ちたくないタイプの女性ですが、きりちゃんも、もう少し望みを持たせてもいいんじゃあないでしょうか。まぁ、ここで気のある素振りを見せたら、佐助の死亡フラグがたってしまいますので、ある意味温情溢れる返答であったのかも知れません。

そんなきりちゃんのフラグブレイカーぶりもあってか、家康の暗殺に失敗したとはいえ、無事生還を果たした佐助。倒した相手が影武者だと何時気づいたのか些か不明瞭でしたが、仮にも大御所の暗殺を仕出かした人間が生きて還れる道理がないので、影武者を倒した瞬間に佐助は失敗を悟ったのではないかと思います。何れにせよ、殺された二郎三郎涙目。本作の家康は『必ず勝てる戦などない』と人情味溢れる発言をしたかと思えば、通説通りのベタな狸親父に変化するなど、登場する回ごとにキャラがブレブレでしたが、もしかすると早い段階で影武者が時折家康の代わりを務めていた可能性大。少なくとも、秀吉の訃報に黙然と手を合わせた家康と、先週のように下卑た高笑いで豊臣滅亡を目論む家康は別人と考えたほうがしっくりきます。問題は殺されたのは本人と影武者のどちらかですが、今週の終盤はそれなりに威厳のある描写でしたので、死んだのは影武者と考えるべきでしょう。そして、家康を卑怯と罵った作兵衛ですが、夏の陣では幸村も影武者作戦をやるんだよなぁ……。

 

 

3.援護射撃

 

真田幸村「城の遥か南に新たな防壁を築く。茶臼山、そして、岡山。この間を空堀で繋ぎ、この一帯そのものを巨大な要害とします。ここで敵を迎え撃つ」

 

『ブラタモリ』でやっていましたね。

 

大坂城の南には巨大な空堀があったそうですが、本作では幸村の発案になるようです。この辺、史実とのカネアイがどうなっているか、寡聞菲才の身には判りかねますが、史実と創作のスリアワセとしては妥当ではないでしょうか。堺さんの正月SPの上田といい、吉田羊さんの沼田といい、今年は大河ドラマへの援護射撃が頼もしく、嬉しい。昨年は援護射撃と見せかけた味方撃ちがありましたからね。

尤も、やる気満々の幸村に比べると他の牢人衆は何処か醒めています。死にたがりの又兵衛は元より、一見すると何も考えていなさそうな本作の長曾我部盛親でさえ、この戦いに未来はないことを悟っている。尤も、余人の目のないシーンでの幸村の目も明らかに醒め切っているので、彼も本心では勝ち目のない戦というのは承知しているのでしょう。それでも、勝つための方策を講じずにはいられない主人公の姿は、在りし日のスズムシを彷彿とさせますね。この辺は親子というところでしょう。しかし、その血を引かない者も約一名。

 

真田大助「父はいけないことをしたのですか?」

真田信政「大助も、その父も、一族などと思ったことはないわ!」

 

従兄弟の言葉に憤慨する大助ですが、取っ組み合いになっても、取り立ててエグイ攻撃に出ることはありませんでした。この場に祖父が居合わせたら、

 

真田昌幸「よし、大助! 謝るフリをして噛みつくのじゃ!」

 

と嗾けたに違いありません。まぁ、信政もスズムシの孫ですが、その辺を斟酌するスズムシではないでしょう。『喧嘩に卑怯もクソもあるか。勝った者勝ちよ』といって、より卑怯な手段で勝ったほうの孫を誉めるのではないでしょうか。でも、大助も信政もマトモな取っ組み合いに終始した点を考えると、スズムシの血は薄くなっているのかも知れません。多分、いいことだと思う。

 


4.テレレレテッテレ

 

毛利勝永「これは『馬上筒』というものだ」

 

ゆきむら ばじょうづつ てにいれた!

 

恰も家康を仕留めるために宗匠が残していたかのようなタイミングで発見された馬上筒。出てきたのが山上宗二の髑髏じゃなくてよかった……でも、幸村たちの居住エリアは嘗ての書庫であったかと思ったのですが……或いは宗匠の秘密を探るために治部と刑部が書庫と隣接させる形で茶室を建てさせたのかも知れません。些か苦しい言い訳。苦しい言い訳といえば、時系列上、宗匠存命時にはフリントロック式の短筒は実践投入されていない筈ですが、確か『へうげもの』で織田有楽斎が関ケ原の戦いで使っていたので、創作としては先例がない訳ではないかも知れません。ギリギリでブレの範囲内?

むしろ、この物騒なオーパーツが宗匠の茶室跡から出てきたことがポイント。徳川との再戦が避けられなくなったシーンで主人公は『戦が起きる時は誰も止めることはできない』と呟きましたが、あれは嘗ての小田原攻めで治部か刑部かが口にした台詞。主人公が如何に足掻こうとも、歴史の流れはとめられないということなのでしょう。そして、ヒゲとの会話で、馬上からの射撃しか大御所を倒す方法がないと感じていた幸村の手元に転がり込んでくるフリントロック銃。出来得るかぎりの準備を整えるまでは開戦を避けたかった幸村も、この武器を手にしたことで案外イケるかもと考えちゃったのかも知れません。宗匠の『運命(さだめ)や』という遺言は、茶々への懸想という老いらくの恋の言い訳ではなく、武器を手にした者(北条氏、牢人衆、幸村)を破滅に導く予言であったといえるでしょう。あの時点で豊臣家の滅亡を予期していた宗匠パネェッス。

 

 

5.今週のMVP

 

大野治長「この先、面倒は全て私が引き受ける。存分に力を尽くしてくれ」

 

歴史上で不遇を託った人物にスポットを当てることに定評のある三谷脚本。今回の大坂の陣前後の豊臣サイドでは、片桐且元と大野治長が該当すると思いますが、且元は悪意のないダメ人間に設定したのに対して、大野治長は肝心の場面では頼りにならないものの、相応に使える人材という形で紹介されています。肝心な場面で頼りにならなければ意味がないと仰る向きもあるかも知れませんが、肝心な場面でしか役に立たない人間というのも扱いに困るもの。特に修理は官僚タイプのポジションなので、緊急時よりも平時に『使える』人間であったほうが余程好ましいといえます。上記のように『自分が面倒を引き受ける』といった途端に再起不能になってしまうところは非常にアレですが、視聴者の好感度はマシマシといえるでしょう。主馬に対しては殴らずに史実通りに刺せよと思わないでもありませんが、中の人の前歴を考えると刀で斬るよりもはるかにダメージ大きそうなのでOKです。逆に少し好感度を下げたのは毛利勝永。堀の掘削に向かう主馬を制しきれなかった又兵衛に対して、

 

毛利勝永「何故本気で止めない?」

 

と食って掛かりましたが、じゃあ、おまえは武器を持ったK-1ファイターに逆らえるのかと。尤も、又兵衛は最初から戦って死にたい派なので、主馬を制止しきれなかったのは決して臆している訳ではありません、多分、恐らく。ともあれ、特に目立った活躍がないにも拘わらず、毎回何気に視聴者の好感度をあげた大野修理がMVP。惜しむらくは信繁時代の主人公との絡みを見たかったなぁ。修理は治部の後釜という通俗的な歴史劇からの脱却は三谷さんでも叶わなかったか……。