堺雅人「妻にするなら直江兼続ですよ。支えてくれて頭もいいし、知恵もあるし、何でもできるじゃないですか。声もいいし」
成程、完璧な選択ッスねー。メシマズだという点に目を瞑ればよォー。
冬コミでの幸村×兼続の『薄い本』の大量生産を促すが如き、堺雅人さんの『あさイチ』におけるカミングアウト。春ちゃんが聞いたら、大阪城の襖障子全てに大穴を空けて回るに違いないので、幸村×兼続は色々な意味で地球環境に優しくないカップリングといえます。しかし、上記のように兼続の中の人は目玉焼きも失敗するという、お兄ちゃんの中の人に匹敵するクッキングセンスの持ち主なので、私生活では苦労しそう。ワカサギの活け造りとかグレーリング飯とかを真顔で出して、夫の箸が動かないのを見るや、
直江兼続「気に入らないんだろ? そうなんだろ?(イケボ
真田幸村「僕は不満をいったつもりはないn……」
直江兼続「じゃあ、何でそんなに赤いんだよ?(イケボ
とか逆ギレするに決まっています。ここは素直に御屋形様の元へ返しましょう。兼続がエェカッコしいのだめんずでしかない御屋形様に尽くしているのは、彼の料理に何の文句もいわず、百万両の笑顔を浮かべながら食べてくれるからかも知れません。朝夕の食事はうまからずともほめて食うべし。マー君の言葉は夫婦円満の秘訣ですね。まぁ、政宗に肯定されても兼続は嬉しくないに違いありませんが。
そんな訳で本編の外でも異様な盛りあがりを見せた今週の『真田丸』ですが、本編の出来は何とも名状しがたい内容……いや、決して悪かった訳ではないのですが、何か、こう、ピンと来るものがなかったといいますか。モニョッとした感想ですみません。それでも、ポイントは普通に6つくらいあります。繰り返すように悪くはなかったんだよなぁ。
1.貴様は祖国を裏切った!
片桐且元「話が違うではござらぬか! 大御所様!」
VIPの居住エリアは狙わないという、誰がどう考えても嘘を判る家康の言を信じた且元を、絶望のズンドコに突き落としたカルバリン砲の一撃。且元は夏の陣にも徳川側で参戦しているので、家康も一発だけなら誤射かも知れないとかいって、場を取り繕うかと思いましたが、その後もガンガン発砲しているので、本作ではハナから弁解するつもりはなかった模様。つまり、且元の利用価値はなくなったということでしょう。嗚呼、桐一葉。
この砲撃で豊臣首脳部は和議へと転換。主人公は『あれは弾切れ。その証拠に砲撃が途絶えた』と力説しますが、味方が籠城している以上、敵の補給線を断つことは叶わないので、些か事態を楽観視し過ぎです。相手が砲弾を都合すれば、それで万事窮すということに何故、気づかない。若しくは、気づいていながら、都合の悪いことを伏せているのでしょうか。この辺は、きりちゃんが茶々を助けたと聞いた時、
きり「そりゃ、助けますよ。人として」
の台詞に素直に頭を下げた幸村の反応と被ります。きりちゃんの言葉は『人としては助けたけれども、同性としては助けたくなかった』という裏返しということに気づかないのか、或いは気づいていながら、スルーしているのか。戦争でも色事でも鈍感、乃至は不誠実の誹りを免れ得ません。流石はスズムシの息子だぜ。
そのきりちゃんに助けられた茶々。幸村相手に幼児退行に近い反応を見せるシーンはよかった。この人は恐らく、小谷城か北ノ庄城の落城の時から精神的な成長が止まったままで、その後は己の本心を隠すために様々な仮面を被って生きてきたのでしょう。そして、自分でも自分の心が判らなくなっていた。幸村が『茶々殿が大坂城を離れるのはアリ』と語ったのも、彼女のメンタルヘルスを気遣ってのことと思われます。茶々の江戸行きに反対する連中には真田家では母親は普通に人質要員だぞとでもいっておけばいいでしょうし。
2.永遠のナンバー2
毛利勝永「うるちゃい! 仮に和睦してもな……お前たちのことは、ちゃんとこの兄貴が面倒見てくれる! 心配するな!」
先行き不安の牢人衆の動揺を一言で鎮める毛利勝永。今までの感想で述べてきたように、本作の勝永は頼れる二番手という存在であり、組織全体の運営には不向き。次元大介、或いはホル・ホースのように相手の才能を見抜き、それをサポートすることで本領を発揮する男なので、この場を収拾するには又兵衛の器量が有効であると見定めての発言なのでしょう。決して又兵衛に丸投げした訳ではないと思います、多分、恐らく。幸村と茶々の関係を勘繰るシーンも、相棒=ルパンの背後に女=不二子がいやしないかと警戒する次元に通じるものを感じました。むしろ、この前後の場面で衝撃を受けたのは、
大野治房「和睦はならぬ! 和睦はならぬ!」
キェェェェェェアァァァァァァシュメガシャァベッタァァァァァァァ!!!
コイツは台詞なしで退場すると思っていたので、とても驚きました(こなみかん)。
さて、大量に召し抱えた戦力が平時に危険極まりない火薬庫と化すのは、何時の世も変わらない真理。極論、秀吉による唐入りも西郷どんによる征韓論も、この延長線上にある問題ですが、大坂の陣で牢人の就職問題に触れるのは意外と珍しいです。この件も含めて、何気に一番マトモな言動をしていたのが有楽斎。牢人の雇用にも気を配りつつ、和睦の条件としての茶々の江戸行&秀頼の国替えにも積極的であったことを思うと、彼は内通者というよりも、積極的和平派&現実路線派であったと見做すべきかも知れません。終盤、大坂城の堀が埋められた時に『これでよかったのだ』と呟いたのも、いい加減、秀頼も茶々も現実を直視して、徳川に臣従せよという思いで動いていたことの証明といえるでしょう。尤も、牢人を召し抱え続けることで豊臣家の暴発を促すという家康サイドの意志を実行している可能性もありますが。
3.不潔
真田信之「勘違いするな。わしはお通に話を聞いて貰うていただけじゃ。お通と話していると、不思議に心が休まるのだ(キリッ
稲「はい、はい(マジギレ
こぉの……ダメ人間!!!!!!!
冒頭で触れた家康の『VIPルームには当てない』に匹敵する、信じるほうがどうかしているであろうお兄ちゃんの言い訳。勘違いのしようがない。瓜畑で靴の中に瓜をギュウギュウに詰め込んでおいて、それを見咎められると『歩いていたら自然に入っていた』と弁明するレベルですが、稲さんは且元のように頭脳がマヌケではなかったので、全く信じなかった模様。お通さんが『これはお水のサービストーク』と語ってくれたために生命拾いしたお兄ちゃんでしたが、お通さんの言葉がガチの真実であったため、精神的に殺害されたも同然のダメージを受けていました。本田忠勝の娘に浮気が露見するか、不倫の炎に身を焦がした相手は単なるビジネスライクであったか、どちらか選べとか、残酷過ぎる展開です。まぁ、生命あっての物種だよね。
尤も、この場面はコメディとしては面白かったけれども、単純にコメディとして面白いだけなのですよね。お兄ちゃんとお通さんの関係性をまるで掘り下げていない。まぁ、今までの内容からすると、これものちのちの伏線になる可能性も充分にあり得る……と思いたいですが、@3回でお兄ちゃんとお通さんの関係を描ききれるか甚だ疑問。この辺が今回のモニョッと感の原因の一つかも。まぁ、のちの和平交渉に向けたうまい話には裏があるという暗喩という可能性もアリ?
4.今週のMVP
堀田作兵衛「あの方の父君・安房守さまのことは、よう知っておる。真田家の家風も判っておる。安房守さまほど義に篤い御方はおられなかった」
毛利勝永「すぐに裏切ることで有名だったではないか!」
堀田作兵衛「とんでもない誤解じゃ! 安房守さまは生涯をかけ、武田の領地を取り戻そうとされていた。信玄公への忠義を死ぬまで忘れなかった。そのためにはどんな手でも使った。卑怯者の汚名も着た。源二郎様はその血を受け継いでおられる。あの方は太閤殿下の御恩に報いるためには何でもする! そういうお方じゃ」
毛利勝永の突っ込みに『そうだそうだ』というイケボの合いの手が城外から入った気がしましたが、すかさず、あの世から『裏切ったのではない。表返ったのじゃ』という声も響いた気がした場面。最初に聞いた時には作兵衛が錯乱したのではないかと思いましたが、詳しく聞くとそれなりに筋が通っています。スズムシの中の人のインタビューでも同じようなことが語られていたので、それがベースになっているのでしょう。旧主の野望を引き継ぎ、領土を回復するのが忠義者という論法には必ずしも同意しかねます(真に忠節を貫くのであれば、武田の遺児を推戴しなければ、筋が通りません)が、その辺を突っ込むと牢人衆が仕えている豊臣家も織田家を蔑ろにしているので、又兵衛も勝永も敢えて深追いしなかったのでしょう。尤も『主君のために何でもやる』『汚名や悪名を恐れない』『誰に理解されなくても構わない』という思考ルーチンは治部と変わらないので、結局は敗北フラグという気がしないでもありません。しかし、作兵衛の論に拠るとスズムシの忠節の対象は信玄公であって、勝頼ではなかったのか……それはそれで忠義の士と呼べるのか些か疑問。
ともあれ、大坂入城前の実績に欠けるという幸村最大のウィークポイントを、スズムシの悪名を逆手に取った弁護でカバーした作兵衛が今週のMVP。朴訥としたキャラの割に弁も立つのね……というか、朴訥とした作兵衛の言葉であったからこそ、牢人衆の心に響いたのかも。ただし、この台詞が既に幸村によって覚え込まされていた可能性も微レ存。何せ、幸村は古美門の前世ですからねぇ。
5.おまえじゃねぇ、座ってろ
真田幸村「風向きが悪くなったら、その場を掻き回せ。流れを変えるのだ。おまえにしかできぬことだ」
きり「あっ! あ~! あ~! あ~! 足が攣りましたぁ!」グルングルン
その場を掻き回す(物理
阿茶局とハッチ&大蔵卿局の会談が胡散臭い方向に向かおうとする度に、美しい国による人間破壊を受けたお兄ちゃんの如く、その場でグルングルンとのたうち回るきりちゃん。確かに、その場を掻き回してはいましたが……中盤以降は要所要所で活躍を見せていたきりちゃんも、流石に今回は力及ばず。阿茶局のネゴシエーション能力の高さに丸め込まれた格好となりました。これはきりちゃんの所為というよりも、本多正信の出現を恐れるあまりに『女性同士の会談であれば何とかなる』という策に溺れた幸村&阿茶局の言葉にホイホイと乗ってしまった大蔵卿局の責任でしょう。きりちゃんでは、あれが精一杯です。まぁ、足が攣ったフリをして大蔵卿局にカサカサ踵のニールキックでもかましてやればよかったとも思いますが。
その大蔵卿局。呼ばれてもいないのに自ら和平の使者に名乗りをあげて、ウマウマと阿茶局に丸め込まれるという大失態。ネット実況などでは最大戦犯と見做され、ブーイングの大合唱を受けていましたが、私も概ね同意見とはいえ、大蔵卿局の心情や思考を慮るシーンがあってもよかったと思います。彼女の忠誠の対象は茶々一人であって、決して豊臣家ではない。他の如何なる事情よりも茶々の心神を安んずることを優先するが、大蔵卿局のジャスティス。これはこれで作兵衛の『スズムシ=義に篤い男説』よりも筋の通った理論です。茶々が豊臣家の頂点に君臨しているため、茶々個人への忠誠と豊臣家の戦略を混同してしまうのが問題なのでしょう。それと、
大蔵卿局「牢人たちを養う金銀はもうありませぬ。あとは出て行って貰うしかない」
という台詞もよかった。豊家の台所事情が逼迫しているのは作中でもさり気に何度も描かれているので、その立場からの牢人衆との対立という形を見せることもできたのではないかと思います。勿体なかった。
6.俺たちの戦いはこれからだ!
豊臣秀頼「『望みを捨てぬ者だけに道は拓ける』と其方はいった。私はまだ捨ててはいない」
ちなみにスズムシも勝頼に同じことをいった模様。
これは敗北フラグですね、間違いない。今年は豊臣が勝つと思ったのだけれどもなぁ(すっとぼけ)。
それは兎も角、和議の条件として、惣堀を埋め立てられてしまった大坂城。本作では木村重成がいい味出しているので、埋め立ての前の和睦調印のシーンは入れて欲しかった。でも、今までの描写を抜きにして、和睦調印シーンしか登場しない重成というのも嫌なので、これは贅沢な要求なのかも。そう考えると『真田丸』の重成は本作の構造を体現しているキャラクターといえるでしょう。通り一遍の史実丸写しシーンは全面カットする代わりに、本作独自のキャラクターを立てることは忘れない。これは他のキャラクターでもいえることですね。それが高じて関ケ原総スルーという暴挙も仕出かしてしまったのでしょうけれども。
尚、今回のMVPは先述のように堀田作兵衛ですが、次点は大野治長をプッシュ。毎回毎回幸村の進言を退けるという損な役割を課せられているにも拘わらず、大蔵卿局と異なり、不思議と嫌悪感は抱かせないキャラクターとして描かれています。前にも述べたように結果は出ないけれども、過程で精一杯頑張ってくれた印象があるからでしょう。頼れないけれども、信用できる男、大野治長。しかし、今回や次回予告から察するに史実通りの兄弟喧嘩が勃発する予感……。予告といえば、幸村が握っていた短筒。あれ、月刊マガジンに連載中の某漫画を思い出しました。そう考えると或いは大坂方の勝利、あり得るかも?
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