『真田丸』第46回『砲弾』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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※基本、ネタバレ有となっていますので、ご注意下さい。

世の中には食わず嫌いという言葉がありますが、食べ物にかぎらず、実際に触れたことはないけれども、虫が好かないから、手を出したことはない事案は誰にもあると思います。それこそ、三谷さんの作品も(今年の大河ドラマにかぎらず)食わず嫌いを理由に見たことがない方は結構多いのではないでしょうか。この種の食わず嫌いは受け手側の狭量ではなく、作家性のアクの強さが主要因ではないかと思います。その作家独特の臭み、エグみ、ギャグセンスはCMやPVでも充分に伝わるものですから、パッと見で視聴意欲が萎えるのも無理はありません。今年、私が海外ドラマの『LOST』を見て骨身に染みたように、どんなに面白い内容でも、作家のセンスに共鳴できない作品を鑑賞するのは拷問に等しいので、直感で『違うな』と思った作品は見ないほうが賢明でしょう。しかし、そうなると困るのが三年後の大河ドラマ。

 

「2019年の大河ドラマは『オリンピック×宮藤官九郎』!

 

私にとって宮藤官九郎さんの作品は典型的な食わず嫌いの対象なのですよね。作品そのものは殆ど見たことはないので、批判するつもりは毛頭ないのですが、大した理由がないにも拘わらず、見る気が起きないのも事実。ある意味、たぶちんや小松江里子(呼び捨て)の大河再登板というナイトメア事案のほうが、逆に視聴意欲が沸くといいますか。『好き』の反対は『無関心』。はっきりわかんだね。再来年の『西郷どん』も現時点では主演俳優の他に好材料が見つからないので、私にとっての大河ドラマは実質二年間の空白期間が生まれそう。その分、来年の大河ドラマにかかる期待は大きいのですが、肝心の公式サイトの画像一話ごとに柴咲さんの髪が伸びていきそうなホラー雰囲気満載。『うしろの百太郎』と揶揄されたGO前期のサイト画像に通じるものがあります。まぁ、今年の大河も『愛と勇気』という悪寒しかしないキャッチコピーを掲げていたので、本編を見るまでは判断は控えたほうがいいかも知れません。実際、今年の大河ドラマの何処に愛と勇気があったのか、三谷さんに小一時間問い詰めたいレベルの内容ですからね……。

さて、今週の『真田丸』は戦闘シーンもあったし、逸話の捻りも効いていたし、MVP候補がゴロゴロ出てきたし、なかなかに面白い内容でしたが、前回とは異なり、非常に苦みの残ったストーリー展開のため、感想を書く手もなかなか進まない感じです。クドカンの大河登板という大坂城の天守を破壊したカルバリン砲レベルの衝撃に困惑が抑えきれないという状態でもあるので、全体的に短めになるかも。ポイントは5つ。

 

 

1.山川浩「欲しい、我らが鶴ヶ城に……」

 

きり「大丈夫。本当に攻めてくる時は、あんな呑気な声は出しません。私たちを怖がらせようとしているんです。いいですか、怖がったら負けですよ」ニコッ

 

「きりさまは昔から、そんなに堂々とされておられるのですか?」

きり「そうね。『ものに動じない』って若い頃からいわれていました」

「きりさまは私の憧れでございます」

 

大坂城の女衆で最も頼りになる女性、それがきりちゃん。大坂城、色々と終わっているなという気がしないでもありませんが、実際、頼りになっているから仕方ありません。初期の大河史上でも屈指のウザキャラが、斯くも堂々たる存在になるとは思いませんでした。本作限定という条件つきであれば、寧々よりも頼り甲斐がありそう。『ものに動じない』とか『堂々としている』とかは、単純にふてぶてしい性格の裏返しではないかと思いますが、こと、籠城戦では大蔵卿局のように何かある度に過敏に反応する仔馬の心臓みたいな存在は、味方の足を引っ張るばかりですからね。しかし、そんなきりに憧れた寸はカルバリン砲の餌食に。お梅ちゃん、秀次、寸といった具合に、きりちゃんに好意や憧憬を抱いた人間(恐らくは幸村も)は悲惨な末路を辿ることを考えると、彼女も茶々に負けず劣らずの死神体質といえるでしょう。茶々に対するきりちゃんの厳しい評価は同族嫌悪に近い感情に拠るものなのかも知れません。

 

 

2.真田昌幸「出浦は判っている

 

出浦昌相「其方の父は、どんなに無茶に見えても、常に先を見据えていた。お前がやろうとしていることは、それとは違う。お前の父親が必死に守ってきた真田の家を……滅ぼすつもりか!」

 

久々の登場となった出浦パンダ。弟可愛さのあまり、自分の息子たちが攻める大坂城に兵糧を運び入れるというド畜生極まる狂気の沙汰に出ようとするお兄ちゃんを制止する役回りでした。確かに歴戦の猛者である作兵衛を手加減して制圧するほどの武勇を誇るお兄ちゃんを止められるのは、平八郎亡き今、出浦さんしかいないでしょう。三十郎でも綱家でもヒゲでも無理。稲さん、何気に家中にいる人間の特性を把握しています。しかし、

 

『此処に二本の紙縒りがある。選べ』

『全く判らん!』

『畜生めぇ!』

『大博打の始まりじゃあ!』

『えらいことになった!』

 

こんな迷台詞の数々を残したスズムシの何処が先を見据えていたのか、こちらも小一時間ほど問い詰めたい気分です。この辺は出浦さんフィルターを通して、美化されたスズムシ像という気がしないでもありません。尤も、スズムシはアレで真田家の存続を第一に考えていたのに対して、今回のお兄ちゃんの暴挙は弟可愛さのあまりの私情に過ぎないので、私情から発した策謀は必ず失敗するという出浦さんの冷徹な分析ともいえます。第一、真顔で『秀吉にしびれ薬を飲ませろ』といった出浦さんがムリと判断したのですから、大坂城に兵糧を運び込むのは物理上不可能なのでしょう。残念でした、お兄ちゃん。それでも、出浦さんのおかげで稲さん&おこうさんと一緒にネバネバプレイを満喫できたのは幸甚の至りではないでしょうか。本作で初めて、お兄ちゃんが羨ましくなった瞬間でした。

一方、大坂方の真田勢では、

 

「何故、そのような危ないことを大助にさせるのですか! 撃たれたらどうするのです! 私は少しも嬉しくありません! 大助はまだ、これからが長いのです! そういう危ない役目は老い先短い者がやればいいのです!」ドン!

高梨内記「……わしか」

 

と家老級の老兵が蔑ろにされていた模様。この辺は出浦さんと内記が今までに積み重ねてきた功徳の差というものでしょう。そして、今週も春ちゃんは可愛かったと思いました(こなみかん)

 

 

3.真田信尹「だが断る」

 

徳川家康「真田左衛門佐を調略せよ」

真田信尹「お断り致します。源二郎信繁は父親に似て度胸もあり、知恵も働き、そのうえ、我ら兄弟に似ず、義に篤い男でございます。寝返ることは、まずないと」

 

今回一番の名場面は此処。信尹叔父さんの台詞は正面の家康のみを見据えながらでもOKなのですが、敢えて列席した徳川の諸将(まぁ、本多親子と秀忠くらいしかいませんが)を見渡しながら語っているのですね。つまり、自分たち兄弟に似ずという台詞にはお前らのように旧主に歯向かうような連中にも似ずという意図が言外に含まれているのでしょう。言動は極めて慇懃ながらも、そこに挙措をプラスすると痛烈な徳川批判になっている信尹叔父さんの言葉。やっぱり、叔父さんはカッコいいぜ。この方が出ると画面に漂う大河感が半端ねぇ。それでいて、実際に幸村に会った時にはお兄ちゃんの子供たちに託けて、

 

真田信尹「兄をたてるということを知らぬ」

 

とチクリと釘を刺しつつも、調略については一言も触れずに無言で立ち去るシーンが超カッコいい。特に幸村の肩に手を置くところは、

 

真田信尹「お前はわしのようにならなかったな。嬉しいぞ」

 

という台詞の代わりなのでしょうね。この辺は序盤から見ている人間には台詞がなくても判る。いや、本当に信尹叔父さんの存在感は凄い。今年のキャラクターベスト10は激戦必至ですよ!

 

 

4.豊臣秀頼「おかしい、こんなことは許されない」

 

真田幸村「戦に勝ったのは我ら! 向こうが和睦を乞うならまだしも、こちらから持ち掛けては家康に足元を見られます!」

織田有楽斎「戦に勝ったからこそ、有利に話を運べるのではないか?」

 

内通者の正体は大本命の有楽斎でした。対抗として有力視されていた厨の与左衛門はバンダンによる夜討ち計画を耳にしていたにも拘わらず、その情報が徳川方に漏れていなかった事実と照らし合わせると、容疑者リストから外れると見ていいかも。尤も、コヴェントリー爆撃のように敵の計画を知りながら、敢えて見逃すことで情報戦での優位を継続するのも一つの諜報手段なので、油断は禁物。しかし、この場面、有楽斎の言葉にも一理あります。

 

「自分が不利の状況で頭を下げるのは下策だよ。頭は優位に立ったときこそ下げるものだ」

 

というリチャード・王(偽名)の名言通り、和睦の条件は有利な側が主導権を握るもの。夏の陣終局時の大野治長による秀頼の助命嘆願が容れられなかったことからも明白ですね。幸村が固執するべきは和睦のタイミングではなく、和議の条件であるべきでした。この辺は肝心の場面で引き際を誤るスズムシの血というべきでしょう。そのうえ、序盤で秀頼に対して、自分の言葉に重みを感じよと助言していたにも拘わらず、首脳部が和睦に傾いたと見るや、茶々を通じて和睦の芽を摘むとか、この行き当たりばったりに頭が切れるのもスズムシの息子らしいですね。梯子を外された秀頼はいい面の皮です。そりゃあ、秀頼も何を信じていいのか判らなくなりますよ。そのうえ、痛いところを突かれると『私は勝つために此処に来た。勝つためには何でもやる』とか小理屈を捏ねて逃げるとか。『勝つためには何でもやる』のではなくて『豊臣家を勝たせるためには何でもやる』といえば、秀頼も納得したでしょうに……この辺の一言足りなくて相手をイラッとさせるのは確実に治部の影響。先回は今まで出会ってきた人物から学んだ美点を爆発させた幸村でしたが、今週は悪い点を露呈してしまいました。

 

 

5.今週のMVP

 

塙団右衛門「塙団右衛門でござる」

 

一人目は我らがバンダンでしょう。上記の場面や後述する茶々のように、何かと苦味の残る展開が多い中、一人気炎を吐いていたのが彼。初登場のシーンで木札を配って回っていたとはいえ、関ケ原の戦いでさえも総スルーした本作のことなので、本町橋の戦いも描かれないのではないかと諦めていたので、とても嬉しい。しかも、戦場に名前入りの木札をばら撒くのではなく、自分が斬り捨てた相手にも慇懃に名乗ったうえで木札を渡すとか……殺そうとする相手にトクトクと己の趣味を語る吉良吉影レベルのサイコパス野郎でした。ちなみに本町橋の戦いには不参加の明石さん。毛利勝永が次元だとすると、明石さんは自分の修行優先で付き合いが悪い五ェ門枠といえるでしょう。その勝永は今回、二刀流での太刀回り。射撃の名手にして二刀流の使い手……どこまでも厨二病心を擽る存在です。でも、カルバリン砲発射の瞬間に木村重成とイチャイチャしていたのを俺は見逃さないぞ。そして、主人公の幸村は第一次上田合戦以来の指物による太刀回り。『仮面ライダー鎧武』のカチドキアームズモードを思い出しましたが、アレのモデルは家康の鎧なんだよなぁ。皮肉。

もう一人のMVPは茶々。前から薄々感じてはいましたけれども、本作の茶々には確実に破滅への憧憬があります。籠城の果ての落城という、一度でも御免被りたい事案を二度も経験しているため、それが普通、或いは好ましい事態と認識しないと茶々は自我が保てないのでしょう。もしくは風船を見るとワザと割ってしまう子供の心理とでもいいましょうか。風船が割れるのを見るのは怖いけれども、それが何時割れるのかに脅え続けるのはもっと怖いので、自分の手で風船を割って安心しようという思考です。この何れか、乃至は双方が茶々の行動原理なのでしょう。実際、カルバリン砲の攻撃で落下した鯱の下敷きになったお寸を見る目は、このうえない安堵と恍惚に満ちていました。不吉な未来でも、それが見えないよりはマシ。否、破滅的な未来が待ち受けているからこそ、心が安らぐ。この辺は『我らは決して負けない』といい続ける幸村と対極に位置しているといえます。茶々が異様に幸村に執着するのも、自分とは正反対の人間であるからかも知れません。いみじくもハッチが語っていたように、茶々を救うのは幸村しかいないのでしょう。尤も、史実の展開を知っているとなぁ……ともあれ、以前から抱いていた破滅願望疑惑に確信を抱けたことを鑑みて、茶々もバンダンと共にMVPに叙したいと思います。