「真田幸村(48)が『完封』で大阪方の連敗を3で止めた。
日本一への道が閉ざされかねない厳しい状況であった。木津川口、今福砦、博労淵とエース級の人材を投入した戦いで徳川に連敗。木津川口は明石全登の調整不足、博労淵は薄田兼相のボーンヘッドに泣き、今福砦は後藤又兵衛と木村重成という新旧主砲の不振に喘ぐ中での登板であったが、大坂方最後の切札は強気であった。
真田幸村「私は本当に負ける気がしないのです」
関ケ原以降、九度山で飼い殺しにされ、トライアウトの機会すら奪われていた無冠のベテランの意地の一言。大坂入城時の『僕自身、九度山を出る喜びはあった』『世間では父・安房守が采配を振るったことになっておりますが、実を申せば、徳川を討ち破ったのは私。父は黙って見守るのみでございました』というビッグマウスを現実のものとするべく、決意の赤備えで臨んだ幸村は、防御は最大の攻撃を証明するかのような(敵に)撃たせて(首級を)取る内容で、百万石の重量打線を誇る前田勢を抑え込んだ。長宗我部盛親の後逸で得点圏に前田勢を背負うピンチに陥ったものの、毛利勝永のファインプレーに助けられての完封勝利。思えば、新参の幸村に最初に打ち解けたのは勝永であった。後藤、真田の二枚看板で語られがちな大坂方であるが、何かと亡父の悪名が足枷となる幸村に親しく声をかけるのは何時も勝永。真田ばかりでなく、毛利のことも語って欲しいと願うファンも多いという。
ともあれ、日本一奪還に向けての態勢を整え直した大阪方。ルーキーの木村重成に、
真田幸村「実は斯様な大戦は私も初めてなのだ。心ノ臓が口から飛び出そうであった」
と本音を漏らすと、女房役の長宗我部盛親(四国リーグ出身)による武田式勝鬨を背に、幸村はデビュー戦を飾った息子の大助君の頬をペチペチと嬉しそうに叩きながら、
真田幸村「Vやねん! 豊臣家!」
と高らかに宣言した(フラグ)」
……一昔前に流行った歴史新聞の東〇ポ版があったら、こんな内容になったのではないかと思えた今週の『真田丸』。予想以上ではなかったにせよ、期待通りの合戦回でした。事前の期待に背かなかった合戦回は本作では初めてかも。まぁ、好印象を抱けたのは、今までの合戦シーンがアレ過ぎたというのはあるでしょうし、戦場の生々しさの表現では八重ちゃんのほうが上と思わないでもありませんが、それでも、今回は素直に楽しんだ者勝ちでしょう。序盤からぶっ通しでドンパチやって欲しかったですが、一話の中でも緩急をつけることで、後半の盛りあげの体感値をあげるのは本作のセオリーの一つなので、これもこれでアリ。当然、今回のポイントは多めの6つ。尤も、冒頭のネタでスタミナを浪費したので、一項目ごとの分量は短めかも。
1.犯人はヨザ?
真田幸村「一番心配なのは城の西側です」
織田有楽斎「……西」
真田幸村「特に博労淵の砦は早く守りを固めねばと思いつつ、いまでに手薄な有様」
織田有楽斎「……博労淵」
高梨内記「只今、博労淵の砦が敵方の手に落ちたとのことでございます」
真田幸村「守りの兵は先に逃がしておいた。やはり、あの男か……」
豊臣軍序盤の敗戦を内通者による情報漏洩が原因として描いた本作。よかった……遊女に現を抜かした岩見重太郎はいなかったんだね……。優しい世界。いや、味方の情報を漏洩する輩がいるので、やっぱり、優しくない世界。パッと見は有楽斎が犯人に思えますが、ここは大角与左衛門のほうが妥当でしょう。幸村は敢えて情報を開示することで、漏洩元を探るつもりでしたが、与左衛門が犯人と気づいているか否かは五分五分。気づいていない方が大坂城炎上にエピソードを盛り込めるという物語上の優位がありますが、幸村が気づいていないとしたら、厨に真田の人間を潜り込ませた理由が見えません。よって、現時点での解答は保留。でも、今回の内容で大野治長は容疑者から外れたかな。
恐らくは幸村の第一容疑者である織田胡散く斎。
織田有楽斎「亡き兄の言葉にこのようなものがある。『心が弱気になっておると、どんな敵も大軍に見える』。弱気は禁物ですぞ」
とドヤ顔で論じていましたが、そういう大事なことは二条城の戦いの時に思い出して欲しかったと信忠があの世で嘆いていることでしょう。
2.そばもん
こう「すぐに運び出せるのは蕎麦粉一七〇〇貫。蕎麦掻にすれば、凡そ十万個。千人で食べても一月以上は保つ感情でございます」
九度山での蕎麦の実ネタを此処にもってくるとは思わなかった。お兄ちゃんにとっては100%の善意に拠る贈り物でしたが、九度山での真田一族の心の荒みようを思い出すと、大坂城に大量の蕎麦粉が運び込まれたら、あの頃のトラウマを刺激された幸村は意気消沈してしまうのではないでしょうか。いや、逆に考えるんだ。お兄ちゃんは幸村に大坂城を出て欲しいから蕎麦粉を送る気なんだと考えるんだ。真田丸をド正面から攻めるよりも確実に大坂城にダメージを与える作戦。お兄ちゃん、何気に策士です。しかし、弟可愛さのあまりに息子の敵に兵糧を流そうとか、アラーキーを軽く凌駕するレベルのド畜生行為なんですが……今回、地味に株が下がったよね。逆に株をあげたのは稲さん。
稲「『こればかりは』ということは、他にも隠しごとがあるのですか?」
と、お通さんとのアレを仄めかしながらも、それを夫への反論材料にしない潔さ。公私混同しない姿勢には好感が持てます。
3.ダブルメガンテ
茶々「きり、といいましたね。貴女、明日より私の侍女になりなさい」
きり「え?」
作中屈指の爆弾女が一堂に会した大坂城での一幕。茶々、きり、春と何れ劣らぬ地雷揃いですが、よくよく考えると本作に登場する女性は概ね地雷系なので、取り立てて騒ぐことでもないかも知れません。それでも、茶々ときりちゃんが一緒に行動するとか、何が起きても不思議じゃあないレベルの不穏な組み合わせです。そりゃあ、来週の放送で徳川方の砲弾が命中するっちゅうねん。
しかし、茶々は何故、きりちゃんを自分の侍女にと所望したのかが謎。茶々にはきりちゃんが幸村の想い人に見えるので、彼女を手元に置くことで人質にするつもりなのかも知れません。一方の幸村は以前程には毛嫌いしていないものの、春ちゃんとは異なり、きりちゃんが城の内外をウロウロするのは制止していないので、万一のことがあっても、線香の半分くらいはあげてやるかというレベルの存在でしかありません。お互いの壮大な誤解に拠る判断の結果と思われますが、茶々は満足&幸村も気に留めないので、これはこれでwin-winの関係といえるでしょう。やっぱり、優しい世界。
4.コスパ最高番宣
高梨内記「あちらにも赤備えがおりますぞ」
真田幸村「あれは井伊直孝のじゃ。かの井伊直政の次男坊じゃ」
高梨内記「井伊でございますか」
真田幸村「向こうにも、此処に至るまでの物語があるのだろうな」
高梨内記「一度、聞いてみたいものですなぁ」
それ、来年やりますから。
ソツなく来年の番宣もこなす『真田丸』。来年の大河に井伊直虎が選ばれたのは、赤備えの装備を使い回せるという予算の都合に拠るものかも……と思いましたが、井伊家が赤備えになるのは直虎没後のことなので、関係ないでしょう。尚、家康は大坂の陣での井伊家の赤備えを『あの光りかがやく若者どもは何も知らざるやつばらなり』と華美な装束を批判した模様。貴方が与えた赤備えじゃあないんですかねぇ。秀忠に真田丸の厄介さを説明する時も丘陵地ゆえの高さを述べていましたが、ゆとり世代の息子にしてみたら、
徳川秀忠「土地の高さなんか地図に書いてないやんけ! 等高線くらい乗せとけよ!」
と思ったでしょう。まぁ、家康にしてみたら、地図ばかり眺めていないで、実地検分しろよという意味もあったかもですが。
5.ドSスタッフ
徳川家康「これを御覧あれ。出城がござる。築いたのが誰か……御存知かの?」
上杉景勝「知りません」キョトン
徳川家康「」
相変わらず、清々しいくらいのピュアピュアっぷりに見ているだけで泣けてしまう御屋形様。同じ台詞を伊達政宗が口にしたら『見え透いた嘘をつくな』と改易の口実にされそうですが、御屋形様の場合は心の底からの言葉だからね。仕方ないね。
そんな白い御屋形様を支え続けてきたのが本作の黒い直江兼続ですが、今回は御屋形様と同じような表情を浮かべるシーンが随所で見られました。家康による『またしても真田! 忌々しい奴ら!』という台詞には心の底から同感したに違いありませんが、関ケ原の件とか直江状の内容とかをネチネチといびられる場面では主従揃って同じ表情になってやんの。物凄く気まずそうでしたね。しかも、NHKのスタッフときたら、今回にあわせて直江状のフル朗読をUPするとか……鬼の所業ですね。黒歴史を暴くのはやめて下さい! 泣いている御屋形様もいるんですよ!
今回の内容を見てから朗読を聞き直すと、直江状ってマジで兼続の黒歴史というのが判ります。前田勢を蹴散らす幸村を『日本一の兵』と激賞した御屋形様ですが、隣にいる兼続も『俺たちができなかったことを源二郎がやってくれている』という感謝と感激と感動に満ち溢れているのよ。以前、演じる村上さんが『兼続は源二郎のことを可愛く思っている』と語っておられた時は『嘘やろ? 御屋形様絡みのジェラシーしかないやん!』と思いましたが、今回の内容を見て考えを改めました。役者さんって凄い。
6.今週のMVP
毛利勝永「」(σ´Д`)σ・・・・…━━━━☆ズキューン!!
毛利勝永、マジ次元大介。
先回の感想や今回の戦支度の最中に火縄銃を構える姿の実況で、コイツは頼れる相棒タイプ=次元大介と語っていましたが、まさかの狙撃による蝶番外しというリアル次元大介をやってくれるとは思いませんでした。文句なしにカッコよかった! しかも、これ、別に勝永じゃあなくてもいいんですよね。作兵衛やキレンジャー枠の盛親が力づくで蝶番を外してもいいのに、ムダに勝永のカッコいい場面を入れてきやがった。間違いない、三谷さんは毛利勝永好き。何でこんなにカッコいいのかと思ったら、本作の勝永って出浦さんに似ているのですよね。一歩引いたところから全体を眺めて、ここぞというシチュエーションに超人的な技量を叩き込む相棒というのは、スズムシにとっての出浦さんそのもの。これは人気出ちゃいそうだなぁ。
そんな訳で7割くらいは毛利勝永に持っていかれた感のある真田丸の攻防でしたが、冒頭でも述べたように普通に見応えありました。父親譲りの『高砂』による挑発コマンドを行う大助とか、その大助を囲碁で凹ませて喜悦していたとは思えないほどの内記の弓勢とか、作兵衛の奮戦ぶりとか、その作兵衛相手に病気持ち&手加減しながら完封したお兄ちゃんの強さの再確認とか、見所多かった。惜しむらくは出丸からの出撃シーンがなかったこと。出丸の構造上仕方ないのかもですが、大助に『高砂』をやらせたのですから、幸村も上田合戦のスズムシのようの城門がバーンと開け放って出撃して欲しかった。
それと、これも冒頭で触れたように幸村が木村重成に本心を打ち明ける場面が地味に感動した。あれは幸村よりも重成のキャラクターの掘り下げですよね。露見したら味方の士気に関わる大事でも、思わず語らずにはいられない。それくらいに年長者にとっては可愛気のある存在なのが木村重成ということでしょう。それこそ、御屋形様にとっての源二郎も、そういう存在ではなかったかと。目立った出番はないとはいえ、本作の木村重成はいいぞ!
尤も、このことをポロッと茶々や大蔵卿局に漏らしちゃうフラグという可能性もあり。そういえば、今回、血気に逸って出陣の意欲を見せた秀頼に対して、
真田幸村「総大将は無暗に兵の前に姿を現すものではございませぬ」
と制止しますが、これは確実に夏の陣の秀頼不出馬フラグ。幸村は『ここぞという場面までは本丸で囲碁にでも興じている』スズムシの姿勢を説きたかったのでしょうけれども、これを豊臣首脳部は都合のいいように曲解してしまうに違いありません。この辺、才気に任せて足元を掬われる若い頃の源二郎のままですね。それでも、今回は珍しく、大団円で終わった『真田丸』でした。
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