『真田丸』第49回『前夜』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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※基本、ネタバレ有となっていますので、ご注意下さい。

最終回直前で本編と全く関係ない話題で恐縮ですが、今回は大河ドラマ関連の300本目の記事になります。惜しい。これが次回でしたら、最終回SP&300回到達のダブル記念になったのに……とはいえ、記事の内容は兎も角、よくもまぁ、300回も感想を書いてきたと自分でも思わないでもありません。流石に@300回も書くのは難しいでしょうけれども、これからもコツコツとやっていこうと思います。

 

尚、総評記事は三分の一もあがっていない模様。

 

これは転職後の本田さんも万策尽きるレベル。例年は最終回の翌日くらいにUPしてきた総評記事ですが、今年は結構遅くなりそうです。三谷さんの脚本となると幸村生存ルートも充分に有り得るので、今まで以上に慎重を期したいと考えている次第。決して筆が遅れている訳ではありません(すっとぼけ)。目標は年内!(キリッ)

そうそう、きりといえば、今回はきりちゃんの思いが成就しました。実際のきりちゃんは熟れたてフレッシュな御年頃とはいえ、これで胸のつかえが取れた視聴者も多いでしょう。加えて、お兄ちゃんによる『黙れ、小童!』返しもあり、序盤から見続けていた視聴者には登場人物が続々と退場する展開にも拘わらず、多少の救済を感じた最終回前夜ではなかったでしょうか。逆にいうと、そうした要素を除くと特に見るべき点のない話になっていたのも否定できません。流石は合戦回に定評のない三谷脚本。そんな今回のポイントは6つ。

 

 

1.じゃあ、直せよ

 

大蔵卿局「全ては豊臣家の御為。茶々さまと秀頼公をお守りするのが、私の役目。言葉がキツイのは性分です」

真田幸村「つまり、我らは同じほうを向いている、と?」

大蔵卿局「ただし……牢人は大嫌いじゃ!」

 

先回の記事でも触れた視聴者のバッシングを予期していたかのような、幸村と大蔵卿局の会話。本作の脚本は十月中旬で脱稿したという話を耳にしているので、流石にバッシングへの対応ではないと思います。第一、本作の大蔵卿局は自分の欠点を把握しているつもりになっていますが、彼女の間違いは明確な定見がないにも拘わらず、政戦両略に容喙してくることであって、言葉がキツイことではありません。自分は豊臣家のことを考えているのだから言葉がキツイくらいはお前らが我慢しろという謎理論で、戦略の有意性と感情の好悪を差し引きしたうえ、己の言動を正当化しているのが彼女の欠点でしょう。『言葉がキツイのは仕方ないでしょう! 私は皆のためを思ってやっているのよ! ついてこられない人は出ていけばいいの!』という奴ですね。そもそも、悪いと自覚している欠点を矯めずに開き直る段階で、その人間は周囲からスズムシレベルの信用しか得られないことを大蔵卿局は知るべきです。指導者や組織を思う心と、それらをよい方向に導く才覚は別のもの。否、度を越した感情は往々にして、集団の行く末を危うくします。この辺は『八重の桜』でも存分に描かれていました。決してリアル職場にいるリアル大蔵卿局への愚痴ではありません、念のため。

 

 

2.茶々「でも、大坂城から逃げませんでした」

 

茶々「いずれは皆も、この男の横に並ぶのですか?」

真田幸村(うわぁ……)

きり(これは引くわぁ……)

 

フルバースト前に撃墜されたストライクフリーダムバンダンの亡骸を見ながら、茶々が発した一言。空気を読まないにも程がある発言ですが、結局は茶々の言葉が100%的中してしまったことを考えると、この時の大阪城で最も状況を把握していたのは彼女であったのかも知れません。大蔵卿局や牢人衆のように『豊臣家の御為』とか『大名になりたい』とか『死に花を咲かせたい』とかいった感情がない分、冷徹な目で現実を見ることができたのでしょう。ある意味で『八重の桜』の徳川慶喜と同じですね。まぁ、あちらは自分の生命と徳川の家名を全うしたので、本作の茶々よりも遥かに上手ですが。

 

 

3.Revenge

 

真田信之「黙れ、小童ぁ!」

 

視聴した段階で太字の最大フォントで記事にしようと決めていたお兄ちゃんの『黙れ、小童!』返し。ここ最近はお通さんに貢がされ、今回も権平五千石に騙されていたのが明らかになるといった具合に、いい塩梅にストレスMAXな状態でしたので、鬱憤を晴らす相手がいたのは幸いです。むしろ、ブラコンのお兄ちゃんが可愛い弟との面会を邪魔されるシチュエーションにも拘わらず、一喝ですませたのは穏便な対応といえるかも知れません。室賀久太夫はぶった斬られなかったことを亡父に感謝するべきでしょう。父・室賀正武の口癖であったからこそ、久太夫も気勢を削がれた訳で、他の言葉でしたら刃傷沙汰に発展した可能性もアリ。

しかし、弟に会いに来たお兄ちゃんの言葉にも幸村は肯んじません。作中では『赦免されても再び十四年……』という台詞が口をついたように、幸村にとっての九度山幽閉生活は完全なトラウマと化しているようです。確かに九度山編は事前の予想に反して、見ているほうも色々とキツかったからなぁ。尤も、九度山生活のトラウマの一因はお兄ちゃんによる蕎麦の実オンリー仕送りにもあるのですが。意外とお兄ちゃんも人の心が判っていない?

さて、犬伏の時は笑って別れた兄弟が今回は半ば喧嘩別れというか。

 

真田幸村「兄上と酒を酌み交わしとうございます!」

 

と再び兄と会う機会はないと悟っている&恐らくは珍しく兄に甘える幸村に対して、そんなことは百も承知のうえで、その現実を否定したいがために席を蹴って発つお兄ちゃん。今までのロマンチのスズムシ&幸村とリアリストのお兄ちゃんという構図が最終段階で逆転したんだよなぁ。

それでも、直後の場面で大御所家康と御屋形様が悠々と盃を酌み交わすのを見ていると、幸村とお兄ちゃんの再会の目は完全にないとは言いきれないようにも思えてきます。嘗ての天正壬午の乱&関ケ原の戦いの好敵手が色々と立場を変えながらも、一つ屋根の下で同じ器から注がれた酒を酌み交わす。これは見方を変えれば奇跡のような出来事。況や、幸村とお兄ちゃんは文字通りの兄弟。その絆は家康と景勝よりも遥かに強いのですから、お兄ちゃんが奇跡を信じようとするのも宜なるかな。今回の一番いい場面は真田兄弟の決裂~大御所・御屋形様の会談に繋げる流れだと思います。

しかし、今回の家康を見ると、やはり、今までの回では確実に影武者と何度も入れ替わっているように思えてくる。豊臣や真田を忌々しく思いつつも、何処か秀頼や幸村は憎めずにいる。そんな家康の感情が伝わってくるようでした。もしかすると今までの回を見返したら、メイクなどで細かい違いがあって、最終回で暴露されるのかも?

 

 

4.押すなよ! 絶対に押すなよ!

 

木村重成「後藤さまには色々と学ばせて頂きました。お会いできて光栄でした」

後藤又兵衛「二度とそういうことをいうな。戦の前にそういうことをいうとな、必ずどっちかが死ぬっていうのがお決まりなんだよ」

 

木村重成のベタ過ぎる死亡フラグを窘める又兵衛。『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ』レベルのフラグでしたが、重成は既婚者で身重の妻がいるので、ベタなフラグに徹する場合は『俺、今度子供が生まれるんだ』のほうが好適かも知れません。何れにせよ、又兵衛の予言は両名揃って討死するという最悪の方向で外れてしまいました。これはひどい。

その道明寺の戦い。巷説では作中でも描かれていたように、徳川との内通を疑われた又兵衛の先走りが敗因とされていますが、実際には濃霧で幸村の進軍が遅れたのも負けず劣らずの敗因。濃霧説も今日では否定する向きもありますが、あの当時の畿内は現在よりも湿地帯が多く、かなりの頻度で有り得た話だと思います。又兵衛としては、後詰が来るまでに戦術上の要衝である小牧山を押さえるために開戦した(事実、一度は小牧山を押さえた)のですが、それを維持する兵力がないために全滅した。作中で描かれた本多佐渡の謀略も要因の一つではありますが、戦術上の必要性についても触れて欲しかった。この辺の巷説に関しては司馬さんの『軍師二人』が最高の指南書。

 

真田幸村「又兵衛は又兵衛の戦場で死ね」

 

という一文が最高にクールです。是非、御一読あれ。

その又兵衛を陥れた本多佐渡の謀略の魔手。氏政の兜一つで忍城を開城させたスズムシの遣り口に似ていますね。『目に見えるものが一つそこにあれば、噂は噂でなくなる』というアレ。又兵衛が内通したか否かは問題ではない。徳川の使者と会っていたこと自体が疑惑のタネになる。疑いというのは掛けるに易く、晴らすに難いものですから。尤も、それ以前に豊臣方の動向が徳川方に筒抜けという段階で色々とダメポ。今回で内通の真犯人は大隅与左衛門で確定しましたが、敗戦の責任が全てヨザの所為となると話のスケールが小さくならないか心配です。スケールが小さいといえば、自分には徳川からの誘いがなかったことを悔しがる勝永も何気に器が小さい。秀頼も又兵衛の討死に呆然としていないで、

 

豊臣秀頼「安心しろ、勝永。俺の元にも内通の誘いはきてない」

 

くらいはいって慰めてやればいいのに。

 

 

5.伊達>>>越えられない壁>>>上杉

 

片倉景綱「討ち取れ!」

伊達政宗「もうよい、弾丸は尽きた」

 

『東軍百万といえども、一個半個の男子もなし』という痛烈な煽り文句を受け流すマー君。煽り耐性の低いマー君が自重したのは味方の神保相茂の軍勢を攻撃した所為で弾丸が尽きていたからと思われます。神保相茂の討死は翌五月七日説が有力ですが、何れにせよ、マー君にとっては大した違いではないでしょう。や政D。

そのマー君に己の一族を託す幸村。この辺は近年では否定的な意見が多く、敗戦後の乱捕りで虜囚になったのではないかという説が有力ですが、本作は従来の説に従った模様。それにしても、一族を託す相手が政宗というのは史実(或いは巷説)とはいえ、本作では何気に笑いのツボです。

 

だって、御屋形様も近くに来ているのですよ?

 

勿論、単純に陣所が近いという理由かも知れませんが、それにしたって、幸村が御屋形様には大切な一族は託せないと考えていたかと思うと、気の毒な笑いが込みあげるのを押さえられません。御屋形様に『慕わしい』とか『あの方のようになりたい』とか甘い言葉を囁いてきた裏で、そのヘタレな人間性を全く信用しておらず、同時代人や現代人に『DQN』とか『頭おかC』といわれている政宗のほうを頼りにしていたとか。ことの真相を知ったら、兼続が安堵で胸を撫で下ろす傍らで、御屋形様は関ケ原の戦いで減封された時以上にボーゼンとなることでしょう。でも、ヘタレだからね。仕方ないね。

 

 

6.今週のMVP

 

きり「…………遅い」

 

今回は満場一致できりちゃんでしょう。異論は認めない。何度かMVPを授与してきたきりちゃんですが、今までは異論を認めるケースとか、他の人間はダメ過ぎた所為で相対的にMVPになったとかいうパターンでした。しかし、今回は問答無用のMVP。序盤では大蔵卿局も裸足で逃げ出すレベルの視聴者のヘイトを稼いでいたきりちゃんが、万人の祝福を受けながらの幸村との初めてのチュウ。これはもう、奇跡と呼んでも過言ではない。ネットでキリカスとか呼ばれていたのが、今では遠く、懐かしい思い出です。幸村と慣れない接吻をしながら、モッチャモッチャと会話するところとか〇〇から声が出ている感(byもこっち)が半端ない。可愛い。可愛い。超可愛い。

しかし、もう一人、今回のMVPがおられます。それはナレーションの有働さん。本作のナレーションに関しては『ネタバレし過ぎ』とか『有効に活用できていない』とか、散々文句をいっておいてアレですが、今回のきりについてのナレーションはグッと来たのよ。

 

ナレーション「高梨内記の娘に関しては、さまざまな言い伝えがある。真田信繁の側室であったとも、彼の子供を宿したとも……真偽は兎も角、一つだけ確かなのは、信繁に関わった女性たちの中で最も長く傍にいたのは、彼女だということである」

 

普通は一番長く傍にいた女性を最愛の人として描くのがセオリーじゃあないですか。しかし、それをやらず、最初は一番ウザいキャラクターに設定しておいて、最終回直前で一番人気のある女性に仕立てあげる。そして、登場人物の中で最も印象に残るキャラクターになったきりちゃんは、実は名も残らず、資料も殆ど存在しない、歴史という深い霧の中に佇むような女性であったとナレーションで伝えることで、その落差を強調しました。例え、史実のきりちゃんが本作のようにウザくて破天荒でウザくて一途でウザくて仕事のできる女性であっても、その名前も活躍も歴史書に残ることは殆どない。それが戦国の女性の置かれていた環境であるとの無言のメッセージじゃあないでしょうか。これには素直に参った。

そんなきりちゃんが最期に仰せつかった任務は千姫の護衛。

 

坂崎出羽守「今年も俺は黒歴史扱い」

 

という声が聞こえてきそうですが、侍女の一人として徳川の本陣まで同道するという展開なのかも。心配なのは、その後のきりちゃん。『組!』の捨助のようなことをしなけりゃあいいんですけれども、両名ともキャラクターや作品でのポジションが似ているからなぁ。

 

最終回は拡大55分スペシャル。サブタイトルは『視聴者の皆さんが御自身でお決め下さい』という、フリーダムなのか責任感がないのか、よく判らないスタンスのため、次回予告でも提示されませんでした。まぁ、当初予定していた『疾風』は司馬さんの『城塞』で幸村の天王寺口の戦いのサブタイに使われていたからかなぁ。取り敢えず、私的には『真田』でいいんじゃあないかと思います。