『真田丸』第33回『動乱』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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直江兼続「御屋形様は本気になられた!」(イケボ)

この台詞がジワジワくる。

『今までは本気ではなかった。明日から本気出す』というニトの言い訳のように思えて、シュールな笑いが込みあげてきました。先週放送分で家康にフルボッコにされていた時は誰の目にも本気……というかイッパイイッパイに見えましたが、景勝本人は『俺はまだ本気出してないだけ』というつもりであったと思うと、地味にクるものがあります。史実を知る者、乃至は本作を見てきた視聴者には、この御屋形様は肝心の場面でヘタレる人間というのが判りきっているので、そんな景勝の熱い抱擁に乗せられて、うかうかと家康包囲網に乗っかってしまう治部が不憫でなりません。エエ恰好しぃの天然系だめんずに騙されるウブなキャリアウーマンを見ているようでとても辛い。全く、本作の治部のヒロイン力の高さは異常。尤も、溢れる才覚と裏表のジコチューさ、プライドの高さと裏腹の豆腐メンタル、好き嫌いがハッキリと分かれるキャラクターという点でスカーレット・オハラに似たアクの強いヒロインではありますが。取り敢えず、今週のMVPは『真田丸』に見せかけた『石田丸』……に見せかけた『上杉丸』を演出した上杉景勝と直江兼続に決まり。
関ヶ原前夜の家康と三成の暗闘というと次回放送される七将襲撃が通俗的ですが、本作では四大老と五奉行が家康を糾問した慶長四年一月二十一日に焦点があてられていました。何が何でも通り一遍の話はやらないぞという三谷さんやスタッフの心意気を感じますが、本当にスケジュールは大丈夫なのか……そんな今回のポイントは7つ。


1.劇場版『関ヶ原』やるそうですね

石田三成「徳川大夫と正面から渡り合っても、ラチが開きませぬ。ここは思い切って、屋敷に討ち入り、内府の首級を挙げる所存」

政略面では家康に絶対に太刀打ちできないので、テロで片づけてしまおうという、短絡的にも程がある手段に出る治部ですが、戦国の価値観では殺されたほうが間抜けの一言で済ませてしまう風潮が往々にしてあるので、決してズレた発案ではないと思います。全く、安土桃山時代は世紀末だぜ!
さて、多くの日本人にとっての関ヶ原の戦いの原風景であろう司馬遼太郎さんの『関ヶ原』では、左近による家康襲撃の進言を悉く退けた三成ですが、本作の治部は『ヒャッハー! 襲撃だぜー!』とノリノリで家康の暗殺を企んでいます。むしろ、治部のノリに周りがついていけないパターン。どちらにせよ、周囲の人間から浮いてしまうのが石田三成のキャラクターのようです。『関ヶ原』の左近が聞いたら泣いて喜びそうな話ですが、家康を暗殺しましょうと進言されて『それいいね!』と快諾するような三成には左近も刑部も山城も惹かれないと思うので、難しいところではあります。結論。人間関係は理屈じゃあない。
久しぶりの登場となった江雪斎。史実の江雪斎は北条滅亡後に秀吉の御伽衆になっているので、馬廻衆である信繁との接点がないのは逆に不自然ですが、金吾調略に暗躍したことを踏まえて、小早川秀秋に仕えている設定にしたのはナイスフォローです。この場面、信繁は純粋に久闊を叙しているのですが、江雪斎は金吾から入手した情報を徳川サイドに流そうとしているため、若干うわの空。そこは気づけよ、信繁。嘘つきの相手は親父で慣れているだろうに。


2.大河ドラマ『上杉丸』①

直江兼続「これ以上、御屋形様を巻き込むのは勘弁して貰いたい。お主が頼めば、必ずあの御方はできぬ約束をされる。わしはもう、御屋形様の苦しむ御姿を見とうはない」


冒頭の台詞もそうですが、今回の兼続の口から出る御屋形様評は、悪意こそないものの、充分にトゲを含んでいます。少なくとも、決して褒めてはいません。その場の勢いに任せて、できもしない約束をしてしまうだめんずの典型。それが本作の上杉景勝です。尤も、それが目先の利益のためではないから、兼続をはじめとする周囲の人間は『代わりに俺たちが何とかしてやろう』と思うのでしょう。更に『御屋形様の苦しむ姿を見たくない』という兼続の言葉から察するに、できもしない約束をしたあとに景勝はメチャクチャ落ち込むのだと思います。その様子が可愛らしいから、やっぱり、手助けしたくなる。この辺が治部と御屋形様の違いと思われます。治部はうまくいかなかった時は逆ギレするからなぁ。可愛げがないんだよ。
それは兎も角、家康謀殺の密議が漏れて、急遽、他の大老への根回しに奔る治部。普通は根回しを終えてから事に及ぶものですが、この辺の主客転倒が如何にも治部らしい。尤も、今回のように側近から密議が漏れるパターンもあるので、この辺も暗殺という手段の是非と同じく、ケースバイケースといえるでしょう。そう考えると治部はあらゆるパターンで常に間違った選択肢を選んでしまう天才といえるかも知れません。尚、

真田信繁「徳川は二百四十万石。上杉様と毛利様、宇喜多様を足せば二百八十七万石。充分に互角にございます」

との説得ですが、これって各個撃破の絶好の餌食ですよね。家康の強みは二百四十万石という大領を一つの命令系統が束ねていることにあるのを忘れています。今回は信繁の残念描写が多かった。


3.今週の三賞独り占め

真田信繁「お前は煩わしいことも多いが、偏りなくものを見ている」

信繁がきりちゃんにデレた!

恐らくは信繁が初めて、きりちゃんを褒めたシーン。空前にして絶後の一コマとなるか否か? それとも、きりちゃんと信繁のフラグが立つのか? 信繁は何かにつけてウザったい治部と日常的につきあっているうちに、きりちゃんへの耐性を身に着けたのかも知れません。やったね、きりちゃん! 治部に感謝だよ! それにしても、

きり「石田様は『しまった』と思っていらっしゃるのでは? 男の人って妙に誇り高いところあるから、やめたくてもやめられないんですよ。特に自分から言い出したことだから」

メチャクチャ正論&正確な分析じゃあないですか。よくよく考えると、秀次の一件といい、大坂城の内情を知らせる諜報員としての働きといい、最近の作中での活躍度はきりちゃん>>>越えられない壁>>>信繁なのですよね……というか、信繁が単体で活躍した場面は虚空蔵山でのボニーウォーから殆どないような……そろそろ、信繁単体の活躍シーンを入れてくれないと、冗談抜きで『石田丸』『上杉丸』『スズムシ丸』になりかねません。兎も角、今回は一言で主人公を上回る活躍を見せたきりちゃんが殊勲・敢闘・技能の三賞を独占です。


4.アームレスリングをしないかね?


伊達政宗「徳川殿の屋敷を襲おうなどど、よくもそんなばかなことを考えたものですなぁ」
真田信幸「」
本多正純「実は先だって、殿の生命を狙った忍びもどうやら、石田治部の手の者であったようです」
福島正則「汚ぇ手を使いおって! わしがこの手で成敗してくれる!」
真田信幸「」
加藤清正「」ガシャン!
真田信幸「」


真犯人が出浦さんと知っているお兄ちゃんにとっては針の筵としかいいようがない、諸大名が参集した徳川屋敷。この場で事件の真相が明らかになったら、冗談抜きで膾切りにされかねません。先週放送分で漸く、カブトムシにおこうさんの存在を認めて貰い、堂々と徳川屋敷に出入りできるようになったお兄ちゃんですが、今週で更なる試練が課された模様。取り敢えず、お兄ちゃんの寿命から三十年ほど差っ引いておきますね。秀次事件や秀吉の亡骸の入った壺を運ぶ場面など、何気に好青年のイメージが強かった福島正則でしたが、酒が入ると心底タチの悪い人間になっていました。そして、政宗。おまえがいうな。
逆に今回好感度を爆あげしたのが虎之介。治部の所業を聞いても、徒に大勢に乗せられるではなく、キチンと相手の意見を聞きに来る辺り、治部へのツンデレぶりが窺えます。尤も、治部も大概なツンデレなので、磁石の同極のように反発しあうのでしょう。この二人はお互いに好意を抱いていたとしても、絶対に結ばれない運命です。それでも、

加藤清正「おまえが内府を憎んでいることはよく判った。だがな、力ずくで相手を倒そうなど、おまえらしくなかろう? よっぽどなんだろ? よっぽどなんだよな? 振り上げた拳……どうしたらよいのか、困っておるのだ」

の件は参った! ヘタをすると信繁よりも治部の心情を汲んでいるじゃあないですか。本作では体育会系残念ボーイな印象の強かった虎之介ですが、物事の本質を抉る直観には優れているのだよなぁ。でも、そこまで理路整然と治部の心情を分析しておいて、何故、肝心のところで、

加藤清正「だったら! わしと腕相撲しようではないか!」

嫌がる相手を自分の土俵に引きずりこもうとするのか。そんなことをいわれて『お相手しましょう!』というのは八重ちゃんくらいですよ。虎之介といい、治部といい、刑部といい、秀吉子飼いの武将は皆、何故か押し並べてコミュ障揃い。秀吉が飛び抜けたコミュニケーションの達人なので、逆に家臣たちはそこに甘えて、そっち方面の才能が磨かれなかったのかも知れません。


5.ヤンデレと闇深

石田三成「では、毛利も上杉も動かぬというのか? 貴方がたは私がいない間、何をやっておられた?」

信繁や金吾を責める治部も前田利家の説得に失敗しているのですから、他人のことはいえない筈なのですが、そこで己の非を認めないのが治部の欠点。これが御屋形様でしたら、あのチワワのような潤んだ瞳で『すまぬ……すまぬ……(AA略)』と呟き、逆に何とかしてやりたいと家臣に思わせるでしょう。しかも、そこから細川忠興を取り込もうとする手段が最悪。

石田三成「干し柿はお嫌いかな?」
細川忠興「……嫌いではない。幼きk石田三成「徳川屋敷にこれより攻め入り、徳川内府の首級を獲る! 是非とも御加勢願いたい!」


最後まで話を聞けよ!

食べ物で相手を釣れると思い込む&相手の都合を考えない(ちなみに時期は違いますが、三成が忠興に柿を持参して仲直りを試みて失敗したのは史実です。干し柿なのは……処刑のアレだな)。更に、

石田三成「持つべきものは、やはり『友』! 今こそ、大谷刑部の力がなくてはならぬのです!(キリッ

真の友人でしたら、真っ先に声をかけるか、逆に最後まで巻き込まないでおくと思いますがねぇ。秀次パワハラ自殺や秀吉介護問題も大概でしたが、先回今回の三成コミュ障描写のリアリティも見ていてキツイ。でも、大坂編で治部の有能さをキチンと描いているので、秀吉介護問題と比べると視聴者の負担は少ないと思います。あれだけ有能なら、人間性に問題あってもしゃーないと思えるので。
むしろ、目を引いたのは今回も闇深さが際立った刑部殿。徳川屋敷では『目が殆ど見えぬ』といっておきながら、治部が部屋に現れた途端、

大谷吉継「治部殿? 泣いておるのか?」

と言い当てる辺り、この男の言動は底が知れん。取り敢えず、考えられるのは、

① 刑部は目が見えないフリをして、徳川屋敷の内情を探っていた。
② 治部の『刑部殿!』の声色一つで三成が泣いているのを察した。
③ 目は見えなくても治部が何を考えているかが判る。刑部は闇深である。


答えは③。多分。


6.本当は実践的な御伽噺

伊達政宗「徳川内府殿を暗殺しようとしたのも石田治部であったようですぞ。伊達越前守政宗」
真田昌幸「何、まことか。治部少輔は許せん! ひっ捕らえて、首級を撥ねてしまおうぞ!」
真田信幸「応!」

これはひどい(何度目だ)

最後に徳川屋敷に参上したにも拘わらず、あっという間に場の主導権を浚ってしまったスズムシ。そのうえ、家康暗殺未遂事件の容疑を全て治部におっ被せてしまうとは……まぁ、スズムシならさもありなんという気がしないでもないですが、今回はお兄ちゃんもノリノリでしたからねぇ。何だかんだでスズムシの子なんだなぁ。
尤も、家康屋敷に参じるという判断は同じでも、スズムシ、お兄ちゃん、信繁が目指すものは微妙に異なっていると思います。信繁は治部の暴発を抑えるため。お兄ちゃんは治部に全ての容疑を押しつけて、徳川家と誼を通じるため。そして、スズムシも治部に全ての容疑を押しつけて、徳川家と誼を通じるため……と思わせて、実は徳川の油断を誘うのが魂胆でしょう。ここで前々回のスズムシの台詞を思い出して頂きたい。

真田昌幸「桃太郎は鬼ヶ島へ鬼退治に向かった……だが、真っ向から戦っては負けてしまう。そんな時どうする? まず、犬を使者に送り『味方だ』と嘘をつく。鬼が安心したところで島に乗り込み、一気にカタをつける。めでたしめでたし……」

お判り頂けただろうか? つまりはそういうことだと思います。勿論、次回以降の展開待ちの予想ですが、スズムシとしては、裏切る前提での信頼勝ち取りを目途とした行動であったのではないかと。行動は軌を一にしていても、それぞれの思惑は異なる。犬伏に向けての伏線がバリバリ張られている予感。
ちなみに発言者にわざわざ名乗らせるように仕向けたのは、目が見えない(と称している)刑部に誰の発言かを判らせる気遣いと思われます。決して、虎之介をおちょくるためではありません、多分、恐らく。


7.大河ドラマ『上杉丸』②

上杉景勝「徳川内府は、わしが倒す! 大戦じゃ。我らで徳川に大戦を仕掛けるのだ。義はこちらにある。その時は必ず来る! 今は生命を繋ぎ、時を待つのだ、治部少輔!」ガシッ

尚、実際はその時が来ても動かない模様。

冒頭でも述べましたが、今後の展開を知っていると御屋形様のだめんずぶりにニヤニヤがとまりません。多分、来週辺りに『ワシ、あんなカッコいいこといっちゃったけれども、実際どうしよう?』とか言い出して、兼続の眉間にビキビキと皺が寄ると思う。でも、御屋形様や兼続が最初からアイトギガーとか宣うのではなく、治部の愚直さに触発されて、人生最後の大勝負に出るという展開は面白かった。本作の治部は有能だけれどもコミュ障。しかし、決して低劣な人間ではない。その辺を本作随一のぐう聖である御屋形様を通じて描く辺り、本当に何から何まで捻らないと気が済まない三谷さんらしい筋書きですね。

次週が有名な七将襲撃事件。でも、今回の内容はヘタな大河ドラマの七将襲撃よりも見応えがありましたな。クオリティにブレが出ても、作品固有のオリジナリティを出していこうという心意気は嬉しいものです。


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