今回は足少陽胆経、漢方薬として竜胆瀉肝湯と大黄牡丹皮湯というものを話題にしますが、慢性前立腺炎や間質性膀胱炎といった症状では何が起こっているのかについて、東洋医学を調べてみると実に複雑な現象のように思えてきました。
もとい、心身の反応というのはカオス状態なので、言葉でこれを切り出すとどうしても部分的な説明にならざるを得ないのですが。
毎度、以下は素人が耳学問を振り回しているだけなので正確性は保障できませんことご了承下さい。
◆足厥陰肝経の痛み――鼠径部、陰部、股ぐらの痛み
まず、下腹や陰部、鼠径部などの痛みは経絡でいうと肝経が関係していそうです。
脇腹、前陰部、生殖器、鼠径部などは、足の厥陰肝経というものが通っているので、こういうところの痛みは肝の問題がひとつ挙げられそうです。
足五里といった股の付け根、肋間が痛いなんてのも、肝経の問題かもしれません。
◆足少陽胆経の痛み――膀胱以外のアチコチの腹部、骨盤・仙骨の痛み?
もっとも、下腹や腰・臀部周辺の痛みは足厥陰肝経だけではなさそうで、足の少陽胆経も絡んでいることもあるのではないかと想像しています。
リンク先にある通り、足少陽胆経というのは
「その直なるものは、缺盆より腋に下り(淵腋・輒筋)、胸を循り、季脇(京門・帯脉・五枢・維道・居髎)を過り、(居髎から上髎・中髎・長強に入って)下って髀厭の中に合して以下髀陽(風市・中瀆・陽関)を循り、膝の外廉(陽陵泉)に出る。」
という走行をしているそうです。
個人的には、帯脉・五枢や章門といった辺りが注目ポイントで、これらは上前腸骨棘という前側にある骨盤の出っ張り近くにあります。
骨盤の前側、左右の出っ張り辺り、鼠経靭帯周辺が痛い、という方も結構いらっしゃるのではないでしょうか(自身がそうなので)。
骨盤のヘリから側腹部にかける一帯の痛みとかも、足少陽胆経とか足厥陰肝経から来ているのかも知れません。
前立腺なり膀胱の問題(だとされている)なのに、それら臓器から離れた箇所が痛い、というのは不思議で理解がしにくいものですが、下腹の一帯は生殖器系の不調が反射すると言われているので、経絡といった観点でみれば確かにつながりがあるような気がします。
残念ながら、泌尿器科で「膀胱以外のこの辺も痛いんですけど…」と下腹や骨盤周辺のアチコチの痛みを訴えても「よくわからない」といったやりとりになりがちですが……。
また、患者の中には仙骨・尾骨、腰仙関節あたりの痛みを感じる方もいらっしゃると思いますが、足少陽胆経が流注する上髎から長強までというのは、仙骨の上のほうから尾骨と肛門の間を指しますので、仙骨が痛い、尾骨周辺が痛い、肛門痛がする、というのも足少陽胆経が絡んでいるからかもしれません(専門的には胆経腰痛と呼ぶこともあるらしい)。
この点、膀胱は仙骨神経叢とつながっているので膀胱が傷むと仙骨が痛い、というのは西洋医学的にもわかりやすい説明ですが、個人的には「まず肝や胆が病むから、結果として膀胱や前立腺(と腸)も病んでしまう」という見立てもできるのかなと想像してしまいました。
◆肝胆の不調
まず肝についてですが、東洋医学的には肝の機能はたくさんあるとされ、
・摂取した飲食の毒と栄養を選別する機能=広い意味での消化機能
・血を貯蔵し、必要な身体の部位に差配する蔵血の機能。
・筋肉の収縮を司る機能
とか、いろいろあるそうです。
心理面では、イライラ、興奮、緊張、我慢といった心理と関係するとされ、こういう感情に長くさらされると肝経の不調になるのかもしれません。
ストレスで肝臓の数値が悪くなることもあると言われているらしいので、機能としての肝はもとより臓器としての肝臓にもその影響が及ぶこともあるかもしれません。
東洋医学では、肝の気というのは熱を持っており、身体の中を上昇する傾向(陽亢)があるそうです。
ですので、頭に血が上る状態、顔の紅潮、肩頸がパンパンに張る、のぼせ、めまい、喉が詰まる感じ、高血圧、目の充血とか熱感などの症状が出やすいのだとか。
個人的には、鼻粘膜が熱感を持って腫れるような鼻づまり(頭頂部や前額部の熱感を伴う)も関連するかなと思っています。
鼻水が熱で焦がされて、黄色だったり緑がかった膿のような鼻汁などは肝の影響なのかなと想像しています。
こうした現象は西洋医学的には交感神経優位の状態と言えるのかもしれませんが、えてして上半身、体の上のほうに熱や血が上る、という感じでしょうか。
これが行きすぎると下半身の血のめぐりが悪くなり、冷えや骨盤周辺の疾患になるようですが、交感神経優位な人はえてして自身が緊張・興奮状態にあるという自覚がないことが多いのだとか……(自身のことです、汗)。
ここまで肝の話でしたが、では胆はどのような機能を持っているのかというと、
・肝と胆はセットで協調しており、互いの機能をサポートしあっている
・胆汁を溜め、食べ物を消化する際に小腸に胆汁を送り込む
・心理的には「決断」「勇気」という心情と関係が深い
などと言われているようです。
胆が病むと、黄疸が出たり顔色が黄色くなる、消化不良や食欲減退、お腹の張りや軟便、腹鳴といった症状が出やすいそうです。
自身も一時期は下痢傾向が強かったのですが(←胆による下痢かは保留)、発症してしばらく経ってからはやたらと腸が「ギュルギュル」と鳴る経験もしており、そういえばほんの一時期だけでしたが便が白っぽくなるということもありました。
胆汁は便の茶色い成分そのものですから、今にして思えば胆も病んでいたのかも知れません。
前立腺や膀胱炎の不調だとされているのに胃や腸がおかしい、という方も多いのではないかと思いますが、ひとつの説明としては「肝胆の病」ということが言えるかも知れません。
肝が乱れると、肝脾不和といって肝と脾の調和が崩れて、脾の機能が失調することもあるとされています。
脾というのは胃腸の消化吸収作用を指すようですが、これがうまくいかないと、胃もたれやむかつき、食欲不振、胃痛などの胃の不調、お腹の張り、げっぷ、便秘や下痢を繰り返す、といった症状がでるそうです。
ストレスで胃や腸が痛くなる、下痢になる、といった症状は過敏性腸症候群などと言われることもありますが、肝胆というのは自律神経、ストレスとの関係が深いそうです。
脾の力が弱まると、消化吸収能力が落ちるので、過食や香辛料などの刺激物(いわゆるNG食)からの影響を受けやすくなってしまっている、といえるのかも。
発生学的には、膀胱は腸から分離してできるらしいのですが、小腸というのは摂取した水分を「体にめぐらせてよいもの」「体にとって不要なもの=尿」に分別するそうで、尿が膀胱に貯蔵されることを考えても、小腸(胆)の不調が膀胱に影響する、というのもひとつありうる現象かもしれないと思いました。
小腸兪というツボは仙骨部にあるわけですが、この辺が痛い、ゴリゴリ筋ばっているという方もいらっしゃるかもしれません。
自身の体感では下腹部痛といっても、筋肉が痛いようなこともあれば、腸が痛いようなときもあるのですが、腸が痛いようなときには足三里、足の上廉、陽陵泉(総じてスネの外側)といったあたりに痛みや張り感を感じます(腕にある手の三里、手の上廉も同様)。
これらは大腸も絡むツボのようですが、慢性前立腺炎や間質性膀胱炎で腸の不調を伴うことがあるのは、五臓六腑の関係から説明ができそうで、ひとつのイメージとしては肝胆の病、ということが言えそうです。
膀胱も腸も、おそらく湿熱というものが溜まっている可能性が高そうに思っています。
肝は筋肉の収縮をつかさどるそうですが、筋収縮機能という点では肝気が高ぶり交感神経優位になると筋肉が緊張しやすくなり、全身の筋肉がギューっと硬くなる状態になってしまうそうです。
精神的緊張は腹直筋の緊張につながるようですが、筋肉の緊張が長引くと、緊張→筋収縮→さらに緊張、といった負のループとなり、脱出するのが難しくなるそうです。
間質性膀胱炎で処方されるレキソタンといった筋弛緩薬が除痛に一定の効果があることは経験していますが、筋肉の緊張も肝の問題なのかもしれません。
◆竜胆瀉肝湯
肝胆の病、しかもそれが亢進して熱を帯びているということであれば、肝気の高ぶりによる熱を冷ましたくなりますが、そのひとつとして挙げられるのが竜胆瀉肝湯という漢方だそうです。
薬名には文字通り、肝胆の文字が入っていますし、それを瀉する(熱を散らす)そうで、膀胱炎、尿道炎、外陰炎、膣炎、睾丸炎、前立腺炎などでは割とメジャーな処方とされるようです。
竜胆瀉肝湯
◆大黄牡丹皮湯
腹部の痛み症状は人によって様々でしょうが、中には大黄牡丹皮湯という漢方がマッチする方もいらっしゃるかなと思います。
下腹部にゴリゴリしたしこりのようなものがあり、これを押すと痛みが放散するとか、腸が痛い感じがするといった場合には、適用があるかもしれません。
大黄牡丹皮湯
湿熱というものが腸を犯すと、ときに腸癰(ちょうよう)というシコリや腫れになるそうです。
湿熱を改善する処方のひとつが大黄牡丹皮湯ですが、虫垂炎にも処方されるようで、そういえば自身も左下腹が痛いものの、右の下腹も強烈に痛くなってきて消化器科で検査したといった体験も過去記事にしておりました。
消化器科では「異常らしい異常はなさそうだが、虫垂が腫れているようにみえる。CRPが微妙に高いが抗菌薬を投与するほどでもない」という所見でしたが、もしかしたら軽い腸癰とか虫垂炎状態だったのかもしれません。
西洋医学では慢性の虫垂炎という見方はあまりされないような気がしますが、東洋医学では腸癰といった概念に当てはまるのかもしれません。
腸のあたりが痛い、下腹にゴリゴリした固まりがあって押すとかなり痛いという場合には、腸癰があるのかもしれませんし、瘀血とか血瘀といった状態を改善する必要がありそうで、大黄牡丹皮湯もそうした効能をもつ漢方なのだそうです。
この点、慢性前立腺炎では桂枝茯苓丸なども候補に挙がりますが、自身の経験では桂枝茯苓丸は効いた気もしますが、著効というほどでもなく、瘀血による痛みというより肝からくる痛みのほうが前面に出ていたからかもしれません。
竜胆瀉肝湯や大黄牡丹皮湯といった漢方は前立腺炎や間質性膀胱炎に処方される漢方としては割と有名なほうらしいのですが、しかしこれらの処方をもってしても難儀することもやはりあるのだそうです。
症状を抱える者の証がみな同じではないというのと、発症の時期から間もないのかそれとも陳腐化しているのかとか、その他生活習慣などの影響で症状・証が変遷していくので、漢方による改善も割と長期で処方を変えながら、となることも珍しくないのだとか。
ですので、漢方による改善も専門家の診療が重要と思います。
(現実的には専門家の見立てもいろいろなので、関心があれば症状を抱える者も多少は勉強しておくとよさそうだと思いつつ)
というわけで今回は慢性前立腺炎や間質性膀胱炎における腰仙部の痛みは胆経が絡んでいるかもしれない、という話と竜胆瀉肝湯や大黄牡丹皮湯といった漢方が奏功することもあるらしい(あくまで「らしい」)、というお話しでした。
おそらく多くのケースでは肝の問題が背景にありそうで、何度か取り上げている四逆散は緊張、興奮、感情の抑制状態には一定の貢献が期待できるのではないかと個人的には思っています。
また、今回は東洋医学における「腎」の問題に触れていませんで、腎虚の問題があるようですと胆経よりも足少陰腎経の問題のほうが大きく影響しているかもしれません。