引き続き、David Wise, Rodney Anderson『骨盤の頭痛』からの若干の情報提供です。

 

前提として、本書の内容をあれこれ開陳してしまうことは権利関係的な意味でも問題があるかもしれませんので、ご関心のある方は実際に書籍をお手に取っていただくことを推奨する、という前置きをさせていただきたく存じます。

 

※今回の話題は男性の生殖器周辺に関わる話題ですが、書籍では女性の慢性骨盤痛症候群の症状、それへのケアも記載されているので女性の性器周辺の痛み症状にも何か共通する部分があるかもしれません(←あんまりなかったらスミマセン)。

 

さて、慢性前立腺炎で困ってしまう症状のひとつに睾丸が痛いという現象がありますが、これは当ブログの初期からしょっちゅう話題にしていたものです。

発症初期から自身でも陰嚢をよく触って観察しており、自身の観察では痛いのは睾丸ではなく「精巣上体」ではないか、と思っていて、診察をいただいた医療者の中には痛みを感じるコリコリした部分を静脈瘤とおっしゃったり、慢性の精巣上体炎であるとおっしゃった方もいらっしゃいました。

 

発症初期は排尿時痛や膀胱痛を感じ、次第に陰嚢内が痛む、陰嚢もいくらか熱を帯びて怒張する、精索が硬い、体温も微熱でだるいという状態だったので、「どう考えても(何らかの尿路感染による)精巣上体炎だろ」と思っていたのですが、各種検査では感染症を疑う所見には乏しく、延々と陰嚢内の痛みに苦しむことになりました(いまも時折痛いことがあります)。

何か月か経つうちに痛みが腹部全体に広がったり、みぞおちが硬くなって膨満感が慢性化したり、尿が溜まると激痛で間質性膀胱炎と言われるような状態となり、ちょっと前までは動悸やめまいなども生じるようになって、自律神経失調のオンパレードとなったわけです。

 

精巣上体炎については、急性と慢性の2つがあるとされていて、急性期を経ずにいきなり慢性の症状として現れることがある、とか、検査で感染症が陰性であれば痛みがあっても経過観察で問題ないといった解説がなされています。

自身の痛み症状が精巣上体炎(の後遺障害)なのか、あるいは神経的な問題からきているのか現時点ではよくわかりませんが、睾丸が慢性に痛い方には、以下の内容は何らかの情報提供になるかもしれません。

 

さて、この睾丸痛については『骨盤の頭痛』によると

【引用。p.476】

精巣上体頭器官を圧迫するときに患者に痛みが再現される。まれに、そのような過敏症、または慢性精巣痛にたいして精管切除が施される。精巣への神経の供給を理解することは、診断評価が機能的にいくらか意味を成すためには重要である。骨盤神経の網状組織は、入力を提供しており、痛みは通常の知覚神経と自律神経の両方から発生する可能性がある。これらの神経線維は、性器大腿、そして腸骨鼠経神経の枝に運び込まれている。精巣、拡張蛇行静脈、または、精子嚢胞(精液瘤)の周辺にみられる流体の所見は通常偶然であり、決して慢性精巣痛の原因ではない。この痛みはほとんど常に、精索/精巣上体の神経の痛みであり、精巣の痛みではない。

【引用終わり】

ということで、痛いのは睾丸(タマ、精巣)ではなく、精巣上体であるという点は自身の観察と本書の見立てとが一致する点です。

 

腸骨鼠経神経については以前の記事で触れましたが、この神経が(確か腰椎1番から大腰筋付近を通って)陰嚢まで走行しているので、神経が走行している腰背部や骨盤周辺の筋肉の過緊張、筋骨格の歪みが結果として睾丸痛と呼ばれる症状になっている可能性があるかもしれません。

(あるいは、陰嚢内の静脈瘤が神経を圧迫するとか、やはり何らかの感染なり炎症で物理的な神経障害が陰嚢内に生じているという可能性も否定はできませんが、検査結果は感染症には否定的だったので、感染症説はもうどこまで考えても想像の域をでません)

 

『骨盤の頭痛』ではトリガーポイントという特定の部位に痛みを発生させやすい体のポイントが紹介されています。

トリガーポイントというのは押すと痛い箇所とされており、個人的には、本書のトリガーポイントは東洋医学の経絡(ツボ)にもいくつか共通するところがあると感じており(例えば精巣痛については足五里といったツボ)、この辺は偶然というか必然ともいうべき一致だと思いました。

 

で、特に睾丸が痛い場合にはどこをどうすればよいのか、ということですが、本書によると大内転筋(鼠径部に近い部分は泌尿・生殖器系疾患、婦人病、下腹痛に関連する足五里と重なるように思われる)、腰方形筋のいくつかの箇所(腸骨稜のへり、12枚目の肋骨のキワあたり、腰椎3番付近)、大殿筋・中殿筋・小殿筋といった臀部のいろんな筋肉、斜傾横の腹筋(鼠径部近くの下腹の脇腹、脇腹の腸骨稜寄り)といったあたりが睾丸痛、精巣痛に関係するとされているようです。

 

※上記イラストの青い部分がトリガーポイントの一例だそうです。臀部の筋肉はイラストでは省略。内転筋の鼠径部付近は足五里に重なるように思えます。

 

『骨盤の頭痛』では、上記の筋肉や筋膜をマッサージしたり、15秒~90秒程度押圧したり(痛みでストレスを感じない程度の力で)、臀部の筋肉についてはテニスボールにお尻で乗っかり体重をつかってほぐすことが対処法として紹介されており、実際、自身も臀部の硬さやコリというのは以前から感じているので、確かに関係があるような気がします。

慢性前立腺炎が座りっぱなしに多いという言説からも、大腰筋の緊張、臀部の筋肉のこわばりは神経への圧迫、絞扼を引き起こしそうに思えます。

 

こうしたトリガーポイントのマッサージや押圧がどういう効果を発揮するのかはいろいろ考えられますが、筋肉をほぐすことで神経への負担を減らす、血行を良くする(ついでにリンパもいくらか流れる?)、もしかしたら筋膜といった膜状への影響もあるかもしれません。

 

もっとも、内臓の痛みが腰痛と感じられることもあるそうで、痛みが内臓からきているのか、筋肉や筋膜のこわばりが神経を圧迫・絞扼して精巣上体といった器官に痛みを生じさせているのかは、よくわからないような気もしますが。

 

ただ、押すと痛い部位(ツボ)というのは何らかの不調を表現している可能性は高いと思われるので、自分で体のアチコチを押したり揉んだりさすったりして、違和感がある箇所と痛み症状が関連するのかを探るというのはやってみて損はない取り組みだと思います。

 

なお、腹痛については、自身は腹斜筋とか腹横筋のように感じられる部位も押すと痛いのですが、これはもしかしたら筋膜が癒着しているような現象かもしれないとも思っています。

もっとも過敏性腸症候群では大腸の特定のポイントに痛みがあるとも言われているらしく、内臓が痛いのか筋肉・筋膜組織が痛いのかもよくわかりませんが。

仮に筋膜組織が痛いような現象なら、慢性の痛みにより筋肉が引き攣れると筋膜が癒着して、それが例えば肩こりのように感じられるという理解もあるそうで、そういう状況に近いのかもしれません。

 

『骨盤の頭痛』ではこの辺についても言及があって、スキンローリングという、腹部の皮膚をつまんでグリグリともみほぐすようなケアも紹介されていました。

筋膜リリース的な手技療法といってよいかと思います。

 

これらのケアが骨盤底筋の緊張を緩める効果もある(?)らしく、時間はかかるものの自分でできる対処なのだそうです。

もっとも、自己流でのケアは難しいともされていて、専門家によるレクチャーのもと実施することが推奨されていました。

 

こうしてみるとトリガーポイントとされる箇所は、経絡やオステオパシーの反射区とも重なるように思えますが、この間、自身はそこまで熱心にこうしたポイントにアプローチしてこなかったので効果のほどは保障はできません。

ですが、睾丸痛がお尻の筋肉と関連しそうな感じは確かにありそうに思えてきたので、この数日はにわかにお尻をほぐしてみています。

 

個人的にはそういう箇所が痛くなってしまうような体の使い方・姿勢の歪み方・心理状況・生活習慣が、症状のより上流にある問題ではないかとも感じており、トリガーポイントへのケアで万事解決するとも思えませんが、慢性前立腺炎については「軽い運動、ストレス、喫煙・コーヒーを避けましょう」程度の解説にとどまることも多いので、具体的なケアが詳説されている『骨盤の頭痛』はなかなかの良書ではないかと思う次第です。