慢性前立腺炎および間質性膀胱炎に関する専門書の紹介です。

 

David Wise, Rodney Anderson『骨盤の頭痛』

 

自身が持っているのは改訂増補第六版なのですが、この本は1年以上前に入手しており、時折読み返したりしていました。

アメリカの研究者が上梓した本の翻訳書なので訳文がややぎこちないところもありますが、前立腺炎や間質性膀胱炎に関係する専門書としてはこれ以上にないくらい詳しいといっても過言ではない本です。

 

以下、自身の読解が誤っている可能性もあるという前提での紹介となりますが、まず、印象的だったのは慢性前立腺炎も間質性膀胱炎と診断されるケースも、本書では「慢性骨盤痛症候群」というカテゴリーでまとめられている(?)ようで、別物として扱われているわけではなさそうです。

日本では慢性前立腺炎と間質性膀胱炎が別の病態として語られている観もありますが、少なくとも本書では二つを峻別せずに同じようなアプローチで理解しているようです。

 

最大の特徴は、これらの不調の原因は骨盤底筋の過緊張にあるとしている点で、その背景には不安・興奮・緊張といった心理状態があるとされていることです。

 

数々の症例・体験談も収録されていて、慢性前立腺炎でおなじみの腹痛、肛門痛、陰茎痛、会陰部痛などの症状はもちろん、慢性の精巣上体炎と診断されたとか、発症の契機に性交があったとか、過敏性腸症候群、うつ状態、痔なども抱えることがあるとか、実に豊富な事例が紹介されています。

アメリカの患者自身の体験談というのも味わい深いものがあって、洋の東西を問わず、同じ症状でツライ思いをしている人がいるのだなあと感慨深く思ったものでした。

 

なお、前立腺の炎症については確か静脈瘤のようなものという記述があって、それはあくまで不調の結果でしかないという解説がなされていました。

この点、当ブログの初期の記事では桂枝茯苓丸が慢性の睾丸痛に一定の効果があるという論文も紹介していますが、こうした鬱滞した血、「オ血」を駆除する漢方薬に一定の効果があるということは、東洋医学的にみれば血の巡りの悪さ(おそらく血の押し出しではなく「血の戻り」?)が症状に影響していることを示唆するように思えます。

患者の多くは冷え性というのも一定の傾向を示唆しているように思います。

もっとも、漢方薬はその人の証が実証・虚証なのかとか、薬の合う合わないの見極めが重要らしいので、全員が効果を実感できるとは限らないですし、血液循環の悪さも食生活やストレスや恐怖などでも起こり得るので漢方薬で全部間に合うとも限りません。

ただ、骨盤底筋の緊張が血流の悪さを引き起こし、それが単なる血流不足以外にもいろんな不調につながり得るというのは想像に難くないところです。

 

症状を抱える者としてはどうすれば治るのか、という点が最も気になるわけですが、本書ではいくつかのリラックス法、マッサージや体操、認知行動療法的な取り組みが紹介されていました。

(抗生物質の処方には否定的でしたが、個人的にはとりわけ発症の初期段階では尿路感染症と鑑別が非常に難しいので、エンピリックな処方としては、リスクもあるものの抗生剤の処方はやむを得ないというか、処方そのものがそこまで非難に値するとは思いません)

 

直腸診(お尻に指を突っ込む)の要領で(前立腺というより)骨盤底筋の緊張をほぐすようなマッサージのようなものも紹介されていて、過去に自身もやってみたりもしたのですが、いかんせん指で探れる角度と部位に限界があるのと、さほど治療効果を感じなかったので、これは物は試しにって感じでしょうか。

 

トリガーポイントと呼ばれる圧痛を感じる部位(腰部、背部、大腿部、臀部などにある)を狙ったマッサージのようなものも紹介されていましたが、個人的にはこのトリガーポイントというのはオステオパシーにおける反射区に近い印象があって、痛みを感じる患部から結構離れた部位にそのポイントがあることも珍しくないとされています。

 

これは完全に余談ですが、個人的にいろいろ人体実験をしていて、例えばおへその中をグリグリほじくるとオチ〇チ〇の先っちょがピリっと痛くなることがあったりします。

これはもしかしたらおへそから膀胱につながる尿膜管といった組織の神経と陰部神経に何か関連するのかなとか想像しているのですが、このほか上体をワイパーのように左右に揺らして仙骨を刺激すると時折ですが、オチ〇チ〇にピキーンと響くことがあります。

何が言いたいかというと、痛みを感じるところから離れた箇所にも、何か神経的なつながりがあることは確かなようで、痛い箇所が不調の震源地とも限らない、という認識は持っていた方がよいかもしれません。

個人的には腰椎や仙骨への負担から来る痛みが因子としては大きそうな印象をもっていますが、人体の構造と反応は複雑なので、謎はそうそう簡単には解けないでしょう。

 

体操については、骨盤底筋をほぐすような体操(テニスボールで臀部を押圧したり、ウンコ座りしたりetc..)なども紹介されていますが、体操にしてもマッサージにしても、本書では「地道かつ時間がかかるもの」とされており、割と長期で取り組む必要があるともされていました。

ストレス要因となるような環境を変える、という対応ももちろん指摘されています。

 

このほか、本書では温熱療法とか前立腺マッサージといった治療法への評価、カフェインやカプサイシンなどの刺激物が症状の増悪に関係するといった記載もされており、前立腺炎や間質性膀胱炎、慢性の膀胱痛についての情報量という点ではこれ以上ないくらいの豊富な内容を備えています。

本書は価格が高額なのと、これを読めばすっかり治るのかというとそうは言い切れない(かくいう自身が完治には至っていないので)ので、よほど関心のある方向けという感じですが、この間の自身の体験からも読み返すほどに前立腺炎・間質性膀胱炎といった不調をかなりの程度、立体的に捉えている良書ではないかと思いました。

 

個人的には、本書にはない視点(例えば内臓下垂や脊椎の歪み、季節による体の変化等)もなお考察に値するとは思っているのですが、骨盤底の緊張はやる気モード(交感神経優位)と捉える整体の視点とも共通するところがあって、興味深く思いました。

 

交感神経優位という点では、例えば指・手・腕というのも脳の緊張につながるとされているようで、ヒトは二足歩行をして手指が使えるようになったことで大脳が発達したという見方があるようですが、PCを使ったデスクワークや車の運転、スマホいじりなども目や手指腕を酷使するので、勢い頭が休まらないことになってしまいそうです。

交感神経優位が症状の増悪に関係しているような気がしているので、寝る前に目を温めるとか、肘を温めたり、手指をブンブン振って緊張を解くというのも、地味ですがやって損はない取り組みかもしれません。

 

簡単にいえば自律神経失調なのでしょうが、それが症状の本態なのかプラス・アルファとしての不調なのか、膀胱内膜の炎症というのもそれが原因なのか結果なのか、よくわからないところがあって難儀しますが、緊張・不安体質や交感神経優位、ストレスに無頓着な性分というのは一定の傾向として語れるのかな、と自身の過ごし方を振り返っても思う日々です。