ディープインパクトの凱旋門賞挑戦
今朝はフランス競馬の凱旋門賞のことで持ちきりで、民放でも普段競馬中継をしているフジTVだけでなくTBSも取り上げていたし、またNHKなんかはBSの他に1チャンネルでも生中継するほどのフィーバー振りだった。おいらも昔シリウスシンボリが出走した凱旋門賞をラジオの生中継で聞いたことがあるけれども、あの当時は海外遠征に出ること自体が珍しくって凱旋門賞なんてチョモランマの頂上と同じくらい雲の上の存在だった。当時創設されたばかりのジャパンカップには凱旋門賞馬が出走することなんて考えられず、出走馬がくるだけで興味津々だったもんだ。その凱旋門賞にディープインパクトは出走するだけでなく勝ちに行ったのだからその熱狂もわからないわけではない。ただ過剰なフィーバーは結果が出なかった時の反動も怖いので、報道各社および熱狂していた人々には今回のレースがどのようなものであったかをきっちりと清算してほしいところだ。
さて今回のレース、武豊は日本でも見せたことのないような正攻法で勝負を挑んだ。結果的にはこの正攻法が三着という結果を出す勝因となり、また三着に終わる敗因ともなった。直線入口で先頭に立つ展開で「これで勝ったらめちゃくちゃ凄い」と思うほどの横綱相撲、果たしてあれは武豊の計算だったのか、誤算だったのか? 結果として“勝ち負け”になっての三着だから所謂“勝負の綾”にまで持ち込んだ大健闘だったと言える。ただディープインパクトの持ち味は最後の爆発力で、それによってこれまでまさに衝撃的な勝ち方を見せて来たわけだが、どうして武豊はこれまでのような後方一気の競馬をしなかったのか?
もともとディープインパクトはゲートが下手であり、それが要因ともなってこれまでは後方一気の戦法を取ってきた。ディープインパクトの力は、日本レベルでは頭ひとつもふたつも抜け出ているとの認識もあり、武豊は自信を持って後方からの競馬を選択していた。ところが今回は違う。本場ヨーロッパの深い芝でディープインパクトの飛ぶような走りが披露できるか、もともと終盤の瞬発力勝負でレベルの高いヨーロッパで後方一気が通用するのか、武豊も半信半疑なところがあったのだろう。彼は昔から計算をして騎乗するタイプの騎手だ。その読みどおりになるところ、計算通りに馬を御せるところが武豊の凄いところなわけで、今回はある程度前で競馬するということは決めていたと思う。多少ゆっくりめにゲートを出て中団後方で直線までじっとしているのが良かったのだろうが、これまでにない好スタートを切ったディープインパクトを中団まで無理に下げるのはとても勇気のいることだし、競走である以上は先行有利であることは間違いないわけで、あの位置取りはたいした問題ではなかったのかもしれない。誤算があるとすれば道中ディープが掛かってしまったことだろう。これは競馬になってみないとどうしようもないことで、強いて要因を挙げるならば“休養明けで馬が行きたがったこと”しかない。これを調整ミスと呼ぶには忍びないけれども、1回使ったほうがよかったか、という思いが陣営にはあるに違いない。
なぜ武豊が後方一気を選択できなかったか、なぜ陣営が休養明けの挑戦を選択したか。これはもう海外への挑戦に際しての“未知数との戦い”の領域である。ディープインパクト陣営にとっては“ヨーロッパの芝への適正”と“ライバルたちとの力関係”において未知数の部分がこれまでより大きかったわけで、“一度レースを使ってダメージを回復できないリスク”より“休養明けでフレッシュな状態”を選択し未知数の部分を少なくしようとした。後方一気でなく先行策の選択も同様のことである。言ってみれば未知数の部分を消すという安全策を取ったことが敗因につながったと言えるだろう。凱旋門賞のようなレースを勝つには、いかに“未知数”の部分をプラスに考えてチャレンジできるかどうかにかかってくる。よく無欲の勝利と言われるが、それは失うものがないから思い切ったチャレンジが出来るわけで、今回のディープインパクトにはそれを求めるには勲章が多すぎた。ディープインパクトクラスの馬(シンボリルドルフ、オグリキャップ、ナリタブライアン等)の出現にはまた10年以上かかるかもしれないから、日本馬による凱旋門賞制覇は遠い夢になってしまったように思える。ただ今回のレースの勝ち馬を見てもわかるように凱旋門賞は3歳馬が圧倒的に有利なレースである。日本ダービーを勝った馬がそのまま挑戦するようなことになれば意外とあっさり勝ち馬が出るかもしれない。ミホノブルボンとかキングカメハメハなら可能性はあったかもしれないなあ。今回のディープインパクトの挑戦はそういう道を切り拓く大きな1歩であったかもしれない。