ほかの惑星への気楽な旅(河出書房新社):テッド・ムーニイ | 夜の旅と朝の夢

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ほかの惑星への気楽な旅 (ストレンジ・フィクション)/河出書房新社

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今回は、河出書房新社の叢書「ストレンジ・フィクション」から『ほかの惑星への気楽な旅』を紹介します。

「ストレンジ・フィクション」については、このブログでも既に紹介していますが、要するに「変な小説」を集めようとしたシリーズ。本書以外にも3冊出版されていますが、今のところ狙いは成功、一筋縄では行かない奇妙な小説が集まっています。その分、一般受けはしないだろうとは思いますが、そんなことは百も承知で出版する河出書房新社には敬意を評したいですね。

作者のテッド・ムーニィ(1951-)は、アメリカの小説家だそうですが、私は全く知りませんでした。本書解説によれば、10年に1篇程度の割合で長編小説は発表している寡作家らしいです。

本書はそんなムーニイの長編デビュー作にして初邦訳作品です。本国では1981年に出版されたそうですが、本書自体は今年(2013年)に出ています。

海洋学者であるメリッサは、イルカの言語解析を目的とするプロジェクトの一環として、ピーターと名付けられたイルカと共同生活を送っていた。その共同生活の最終日、メリッサとピーターの目が合うと、ピーターはメリッサの脚に歯を当て、ペニスを出してメリッサを誘う。そしてメリッサはその誘いにのってピーターにまたがると浅い水中で愛を交わした・・・

その後、メリッサは恋人ジェフリーや母ノーナの元に帰るのだが、これといった事件は起こらない。しかし、ジェフリーは浮気をしており、ノーナは病気の疑いで検査を受けている。メリッサの親友ニコールはその恋人ディエゴとの間にできた子供をおろそうとしている。

彼らはどこか不安げで問題を抱えている。そんな不安的な精神状態にいる彼らの日常が描かれているのだが、これがどうもとらえどころがない。

しかも、その世界では、情報病という奇病が蔓延し、南極は天然資源をめぐって緊張が高まっているのだが、それらは断片的にしか語られず、全貌はイマイチ把握できない。

ちなみに情報病は、目に見えない情報が過剰になり、鼻や耳からの出血、嘔吐、支離滅裂な発言、失見当識などの症状が出る病気なのだが、記憶削除姿勢というポーズをとることで緩和されるらしい。

それでも徐々に話は進んでいくが、彼らの問題は解決の糸口を見つけるどころか、ますます深みにはまっていくばかり。彼らは一体どこに行こうとしているのか・・・

とまあこんな感じのストーリーでしょか。というか上にも書きましたが、とらえどころがない奇妙な話なんですよね、これが(笑

奇妙といえば、語り口も奇妙。会話の途中に別の話が突然挿入されたり、月の発話などの挿話があったりして読者を惑わします。

そんな中でも個人的に特に気になったのは、普通の小説ではありえないような視点の移動があるところ。ある人の視点で行われていた会話の途中で、別の人の内心が突然描かれたりするのですが、普通の小説ではこんなことはしません。これをやると読者が特定の人物に感情移入できなくなって、小説全体が散漫な印象を与えてしまうからです。

でも、本書ではやっちゃうんだなこれが。まあ、もしかしたら情報病に絡めているのかも知れませんが、ちょっと僕にはその理由がわかりませんでしたね。

ってあまり本書の魅力を伝えていない気がしますが、奇妙な話を読みたい方には推薦できるでしょう。興味があったら読んでみてください。

次回からはしばらく【ロシア文学の深みを覗く】をテーマにロシア文学を紹介していく予定です。

今まで読んだ「ストレンジ・フィクション」
1『エステルハージ博士の事件簿』
2『ストレンジ・トイズ』
3.『ドクター・ラット』