ドクター・ラット(河出書房新社):ウィリアム・コッツウィンクル | 夜の旅と朝の夢

夜の旅と朝の夢

~本を紹介するブログ~

ドクター・ラット (ストレンジ・フィクション)/河出書房新社

¥1,995
Amazon.co.jp

今回紹介する本は、ウィリアム・コッツウィンクルの『ドクター・ラット』です。

本書は河出書房新社から出版されている「ストレンジ・フィクション」というシリーズの一冊です。「ストレンジ・フィクション」のキャッチフレーズは、「ミステリ、SF、ファンタジー、ホラー、ジャンルの枠を突き破る問題作・幻の名作たち! とびきり奇妙な物語をお届けします。」というもの。驚異なものの愛好家としては、かなり興味の惹かれるフレーズですね。

作者であるコッツウィンクル(1938-)については、わたくし全くの無知でした。本書の略歴によれば、アメリカ合衆国のペンシルヴェニア州生まれの小説家、児童文学作家で、スピルバーグの映画『E.T.』のノベライズ版なども手掛けているそうです。

本書は、コッツウィンクルが書いた大人向けの小説。本国では1976年に出版されたようです。

主人公は一匹のラット。ちなみに、ラットは大型のネズミで、マウスは小型のネズミです。ラットはしばしば動物実験に使われますが、本書の主人公であるラットも実験動物として、大学の研究室で飼われています。ただしそんじょそこらのラットとはわけが違う。人間並みの頭脳を持つ、自称、博学なマッド・ドクターなのである。

そんなドクター・ラットは、人類に奉仕することを天職と認識し、残酷な動物実験で苦しめられている同胞たちを勇気づけては、動物実験の苦痛を受け入れさせることに尽力する。もちろん同胞のラットたちは死ぬのですが、ドクター・ラットはそんなことを気にしません。ドクター・ラットは自分で言うように狂っているのです。

そんなある日、熱中症研究用に運び込まれた犬たちが人間達に反旗を翻すべく、実験動物たちに革命を呼び掛け、遂には革命が実行に移される。それに対抗するのは、ただ一匹、ドクター・ラットである。

一方、市街地で、森で、ジャングルで、サバンナで、海で、つまりは全地球規模で動物たちが不思議な呼び掛けに導かれて、集合しようとしていた!

とまあ、そんな感じの話で、研究室内のドクター・ラットの話と、外での動物たちの話が全て動物視点の一人称で交互に語られています。

上に書いた動物実験はかなり残酷なもので、それを省略せずに説明しているためグロテスクな様相を呈しています。一言でいえば、ブラック・ファンタジーってことでしょうか。

面白いかと聞かれれば、まあ面白いと答えたいと思います。少なくとも、「ストレンジ・フィクション」をとりあえず全部読んでみてもいいかなと思うくらいには面白いですね。といっても、「ストレンジ・フィクション」はまだ3冊しか出版されていませんが。

ただし、あらすじを聞いただけで浮かぶ分かりやすいメッセージ性をどう捉えるかで評価は分かれますね。あとグロテスクな描写とかも。まあ、駄目な人は本当に駄目かもしれません。ということでおススメはしませんが、興味ある方はチャレンジしてみてはどうでしょうか。