エステルハージ博士の事件簿(河出書房新社):アヴラム・デイヴィッドスン | 夜の旅と朝の夢

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エステルハージ博士の事件簿 (ストレンジフィクション)/河出書房新社

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今回は、“とびきり奇妙な物語”を届けることを目的としたシリーズ「ストレンジ・フィクション」から、『エステルハージ博士の事件簿』を紹介します。

作者のデイヴィッドスン(1923‐1993)はアメリカの小説家。SFや推理小説をメインに書いていて、翻訳も何冊かあるようですが、個人的には全く知りませんでした。

さて舞台は、スキタイ=パンノニア=トランスバルカニア三重帝国という架空の国。時代は、19世紀と20世紀の変わり目。

三重帝国の場所は、本文からはバルカン半島辺りにあることぐらいしか分かりませんが、裏表紙の裏側には具体的な地図が掲載されています。この地図は作者が想定したものなのかどうかは分かりませんけどね。ちなみに表表紙の裏側には、首都ベラの地図が掲載されています。

主人公は、タイトルからも分かるようにエステルハージ博士。「博士号は、法学博士、医学博士、哲学博士、文学博士、その他もろもろ、幅広い領域に跨って(P11)」
いて、貴族で金持ちという現実離れした人間です。

本書は、そんなエステルハージ博士が活躍する8篇の話が収録された連作短編。

天才の事件簿とくれば、シャーロック・ホームズばりの推理と行動力で難事件をバシバシ解決していく話を想像しそうですが、然にあらず。そこは“とびきり奇妙な物語”を紹介する「ストレンジ・フィクション」、そんな話を期待して本書を読むと物凄い肩すかしを食らうことでしょう。

推理小説というより幻想小説に近い感じで、はっきり言って、エステルハージ博士はあまり活躍しません。傍観者的な話が多いんですよね。推理する箇所もあるにはあるのですが、その推理の手法が骨相学(頭の形状や大きさからその人の性格を判断するという疑似科学)だったりするという、なんとも人を食った話なのです。

ということで、推理や謎ときを楽しむ小説ではありませんね。架空の世界と奇妙な人々の生活などの奇想を楽しむという小説かなと個人的には思います。人を選ぶ小説だとは思いますが、奇想好きの人は読んでみてはどうでしょうか。

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