精霊たちの家(河出書房新社):イサベル・アジェンデ | 夜の旅と朝の夢

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精霊たちの家 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-7)/河出書房新社

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今回紹介する本は、池澤夏樹=個人編集 世界文学全集の一冊『精霊たちの家』です。作者はチリ出身の女性小説家イサベル・アジェンデ(1942-)です。

本書は、かなり名が高く、ガルシア=マルケスの『百年の孤独』と並び称されることも多い小説です。『百年の孤独』は文学好きでは知らない人はいないくらい超有名作です。僕も読んでいますが、面白いですし、まあとにかくスゴい小説ですよ。

そんな『百年の孤独』と並び称されると、僕の中で期待値が上がってしまって、逆に読み辛くなってしまいます。だって期待値が高くなりすぎると、本当は面白くても、意外にたいしたことないなんて思ってしまう可能性も高くなるわけで、それって非常にモッタイナイ読書だと思うんですよね。

でもまあ、そろそろいいかなと思って、今回読んでみたわけですが………

これが面白い。とんでもなく面白い。純粋に物語的な面だけでいえば、『百年の孤独』を上回るかもしれません。600頁程度もある厚い本ですが、そんな厚さに躊躇しちゃだめですね、どんなことがあろうとも、死ぬ前には絶対読まなきゃいけない。それくらいの傑作です。

本書は、簡単に言えば、母娘3代にわたる一家の物語です。中心人物は、祖母クラーラ、母ブランカ、娘アルバ、そして祖母クラーラの夫エステバーン。さらに、ブランカの双子の弟やエステバーンの私生児などが重要な役割を果たしますし、それ以外の登場人物も比較的多いですので、僕みたいに記憶力に自信のない人は登場人物表を作りながら読む方がいいかもしれません。

さて、クラーラは千里眼の異名を持つ女性で、未来を予知したり、机を動かしたり、精霊と会話したりと、特殊な能力を持っています。それが当然のように書かれていて、それがマジックリアリズム的な要素になっています。

しかし、同じマジックリアリズムでも『百年の孤独』とは少し違います。『百年の孤独』では、マコンドという村全体が独特な世界を形成していて、そのマコンド全体がマジック(魔術)に覆われている感じです。また、歴史は円環の中に閉じていて、それを特徴付けるかのように、同じ名前が親から子へと受け継がれていきます。

一方本書では、マジック的な要素はほとんどクラーラとその仲間に集中していて、他は極めて現実的で、別世界というものは存在しません。物語も、普通の歴史にそって進展していきます。そして親が同じ名前を子供に与えようとすると、クラーラは、「毎日の生活を書き続けているノートに混乱が生じる(P347)」という理由で反対します。このあたりは、『百年の孤独』との差異を強調したい作者の思いが出ているような気がします。

それにクラーラはマジック的な存在というより、キリストを彷彿とさせるミラクル(奇跡)的な存在。つまり、本書はマジックリアリズムというより、ミラクルリアリズムというべきなのだ! とテキトーなことを言ってみたり(笑

まあ、ストーリーは面白いですし、その見せ方も上手いし、登場人物たちも魅力的。もう、とにかく万人に読んで欲しい傑作ですね。おすすめの中のおすすめであります。

備忘録:今まで読んだ『池澤夏樹個人編集=世界文学全集』
Ⅰ-01:オン・ザ・ロード(ブログ記事なし)
Ⅰ-02:楽園への道
Ⅰ-05:巨匠とマルガリータ
Ⅰ-11:鉄の時代
Ⅱ-05クーデタ
Ⅲ-01:私は英国王に給仕した