わたしは英国王に給仕した(河出書房新社):ボフミル・フラバル | 夜の旅と朝の夢

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わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)/ボフミル・フラバル

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池澤夏樹が個人編集を務める「世界文学全集(全30冊)」の一冊。これでようやく4冊目。先は長いぞ。

さて作者のフラバル(1914‐1997)は、チェコの小説家。少し前に関連本で紹介した『あまりに騒がしい孤独』の作者でもあります。僕の知る限り、フラバルの本で邦訳があるのは、本書と『あまりに・・・』の2冊だけ。もっと邦訳が出てほしいと心底思う小説家です。

本書は、第二次世界大戦前後のチェコを舞台にした一種の教養小説(この訳語はイマイチだが)といえるでしょう。ホテルの給仕である主人公は、転々と勤め先を変えながら出世していき、自分のホテルを手に入れる。そして、大戦後の共産化の影響で・・・。

教養小説といっても説教臭くなんか全然なくて、主人公は、初めに、目標があればかならず救われるという父の言葉を胸に、毎週売春宿に通えるだけのお金を稼ごうと決意する。それが影響して大金持ちになることを夢見て突き進み、本当に大金持ちになるというなんだか人を食ったような話なのである。全編コメディタッチで、リアリティーの有無などあまり気にしていないような展開に目が離せないし、笑える。

また、タイトルがいい。なんとタイトルとは裏腹に、主人公は英国王になんて給仕していないのである。じゃあ、なんでこんなタイトルなのかは読んで確かめてほしいなと。タイトルの選び方は滅茶苦茶だけど、これ以外にはないと思える不思議なお話です。個人的には傑作だと思いますね。