巨匠とマルガリータ(河出書房新社):ミハイル・A・ブルガーコフ | 夜の旅と朝の夢

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巨匠とマルガリータ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-5)/ミハイル・A・ブルガーコフ

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今回は、ウクライナの小説家ブルガーコフ(1891-1940)の長編小説『巨匠とマルガリータ』を紹介します。

本書は、『池澤夏樹個人編集=世界文学全集』の一冊です。この世界文学全集は全て読むつもりで全巻購入済みなのですが、読むのはこれで5冊目。あと25冊ナリ。ツンドクボンはともだちこわくない。こわくない・・・

さて、ブルガーコフについては、少し前に中編小説『犬の心臓』を紹介しました。そこでも本書に関しても少し触れたのですが、当局から言論弾圧を受けていたブルガーコフが、晩年(といっても48歳の若さで亡くなっていますが)に発表の望みのないままに書かれたものです。これも書きましたが、翻訳本で600頁というこの長大な小説を発表の望みのないままに書く心境を慮るだけ言いようのない胸苦しさを覚えます。

編者の池澤夏樹は、月報の中で、それが可能だったのはブルカーコフが天才だからだと書いてありますが、天才の一言で片付けられる問題ではないのではないかと・・・

まあ、それはさておき、本書の内容についてですが、これは凄い小説です。卓越しています。

『巨匠とマルガリータ』では、ファンタジックなことが起きますが、それがリアリスティックな文体で描かれています。このような手法は一般的にマジック・リアリズムといわれていますが、マジック・リアリズムが有名になったのは、コロンビアの小説家ガルシア=マルケスの『百年の孤独』(1967年出版)からですから、かなり時代を先取りしています。それに加えて、ストーリー・構成ともに破格で、前例となる作品が思いつきません。いはやこれは本当に卓越した小説ですよ。

本書は、32章とエピローグで構成されていまして、1章から18章までが第1部、19章から32章までが第2部になっています。198頁から始まる13章のタイトルが「主人公の登場」。ここでようやく、我らが主人公「巨匠」が登場します。一方、ヒロイン・マルガリータは、第2部の最初の章である32章「マルガリータ」で初めて名前が登場します。これだけでも普通の小説じゃないなと思っていただけると思います。

ストーリーについては、私の下手糞な文章で書いたとして、本書の面白さが伝わるかどうかは甚だ疑問なので、ちょっとだけにします。

『巨匠とマルガリータ』の舞台は革命後のロシア。そして、ベルリオーズとイワンという二人の文学者が、イワンの書いたキリストにまつわる小説について論じるところから始まります。

ベリオーズはイワンの小説が反宗教的なだけで、キリストの存在自体を否定していないところに不満を持っています。そこに外国人が現れ、彼はユダヤ属州総督のピラトゥスがキリストに有罪判決を下した場面に実際に立ち会ったといいはり、そのときの話を始めて・・・

この外国人・ヴォランド氏は、本書で縦横無尽に活躍し、モスクアを混沌の海に突き落とす自称黒魔術師。ローマ時代の人物であるピラトゥスは本書で様々な形で現われる重要人物。この二人がどのように巨匠やマルガリータと交わるのか? そして彼らの行く末は?

めくるめくような物語があなたを待っていますよ。本の厚さに躊躇するなかれ、是非読みましょう。それに発表の望みのない作者が本書の中でこう叫んでいます「私につづけ、読者よ(P321)」と。ついて行ってやろうじゃありませんか。

備忘録:今まで読んだ『池澤夏樹個人編集=世界文学全集』
1オン・ザ・ロード(ブログ記事なし)
2楽園への道
3鉄の時代
4私は英国王に給仕した