胡錦濤主席訪朝一ヵ月後の○五年一二月二四日、中国国営新華社と朝鮮中央通信が同時に、盧斗哲・北朝鮮内閣副首相と曾培炎・中国国務院経済・エネルギー担当副首相が、北京人民大会堂で「中朝政府間海上共同開発に関する協定」にサインしたと報じた。両国が海底油田を共同で開発することに合意したというのだが、油田の規模や位置については明らかにされなかった。しかし、これに先立つ一〇月、中国海洋石油公司(CNOOC)が潮海で推定埋蔵量六六〇億バレルの巨大な海底油田を発見したと発表していたので、濡海と北朝鮮近海の黄海にまたがる海底に有望な油田があることが印象づけられた。
韓国の週刊誌『時事ジャーナル』(○六年一月一〇日号)は消息筋の話として、この海底油田は北朝鮮領海内の黄海にあり、中国政府は埋蔵量を五〇億~六〇億バレルと推定していると報じた。中国は協定締結一年前にこの油田を発見していたが、北朝鮮領海内にあったため、水面下で折衝を続けてきたという。五〇億バレルという桁違いの数字は、中国のインターネットでもニュースとして流されていた。あくまでも推定埋蔵量だが、本当に、そんな大きな油田が北朝鮮近海にあるのだろうか。実はこの油田、一〇年前にも話題になったことがある。オーストラリア在住の地質学者、崔東龍博士が北朝鮮での探査を続けた結果、石油埋蔵の可能性があるとされた油田である。一九九七年一〇月、北朝鮮石油工業省の日本での広報活動を請け負った石油コンサルタント会社が、東京千代田区の九段会館で投資説明会を開いたが、降って湧いた眉唾話にさしたる反応もなく終わった。
九八年に訪朝しか韓国の財閥、現代グループの故鄭周永名誉会長に、金総書記が「わが国が開発中の油田から出た原油をパイプラインで南に送ろう」と豪語したこともあった。埋蔵量の多寡はともかく、北朝鮮近海に石油が眠っているのは事実のようだ。にもかかわらず、開発が一向に進んでこなかったことを考えると、深海の油田開発に莫大な費用がかかり、採算が合わないと判断されたに違いない。その程度の油田に、中国が採算を度外視してまで開発に参加しようというのは、三六号文献で提示された東北振興の趣旨にもそぐわない。一方で、それは軍事用ではないのかという指摘もある。油田開発が本格化すれば、中国の技術陣だけでなく、油田の保護を口実に中国海軍が北朝鮮領海に進出することができるからだ。日本海側での油田開発も同時に進めると、五〇年間の租借権を得た羅津港とセットで、中国とは無縁とされてきた日本海に人民解放軍の軍艦が出現する事態にもなりかねず、日本としても他人事ではすまされなくなる。
黄海での中朝共同の油川開発は、○六年の北朝鮮のミサイル発射と核実験で宙に浮き、中国軍の北朝鮮近海への進出は今のところ日の目を見ていない。前述したように、米国の金融制裁に反発した北朝鮮のミサイル乱射事件は、政治的には中国に向けて打たれたわけだが、このときの中国の反応は大規模な軍事演習となって現れた。人民解放軍の機関紙『解放軍報』○六年七月二九日付によると、瀋陽軍区の某歩兵部隊が七月二五日夜、長白山一帯でミサイル発射訓練を行った。雨の降る悪天候の中、ヘリコプターを仮想した空中目標に向け二三基の短距離地対空ミサイルを発射し、すべて命中させたという。北朝鮮のミサイル発射からわずか二〇日後のこの訓練は、瀋陽軍区傘下の第一六集団軍(軍団)によって実施された。
九月、この瀋陽軍区所属の歩兵と機甲部隊、先端技術が導入されたレーダー部隊などが合同で、長白山で再び大規模な戦術訓練を実施した。これとは別に、同軍区第三九集団軍隷下の第一九〇機械化歩兵旅団が、九月五日から一〇日間、三〇〇〇名の兵力を1000キロ移動させる長距離機動訓練を内蒙古自治区の草原地帯で行った。第三九集団軍は、かつての朝鮮戦争に参戦した先鋭部隊でもある。そして、核実験三日後の一〇月コー日から一週間、山東省を本拠地とする済南軍区の機械化歩兵師団が、「確山二〇〇六」と名づけられた長距離機動訓練を行った。一連の軍事訓練は『解放軍報』を通して積極的に報道されており、北朝鮮に対する警告であることは明らかだった。