光くんは時々、これまでに出会った女性たちの思い出にふけることがあります。

とりわけ、側にいながら死なせてしまった夕子ちゃんのこと(2019年9月頃の第4~5話に登場)は忘れられずにいました。夕子ちゃんと共に、事件のあった屋敷に連れていったメイドの右近さんは、そのまま光くんのメイドになっていました。

今から17年前、ヤンキー兄やんへのつまらない対抗心から夕子さんを連れ出し、死なせてしまったくせに、スキャンダルを恐れて夕子ちゃんの娘とその家来達に連絡もせずに放置したのでした。夕子ちゃんが光くんを逆ナンしたのは娘と家来達の安定の為だったにもかかわらずです。

さて、その娘と家来達はどうなったのでしょう。夕子ちゃんの娘、玉子ちゃんは当時4歳でした。親子のお世話をしてきた乳母一家が九州に転勤になり、夕子ちゃんことは、気にかかりつつも、玉子ちゃんを伴い、遥か福岡県の太宰府に旅だったのでした。

それから6年、玉子ちゃん10歳のころ、太宰府に勤めていた乳母の夫は、派遣期間終了と同時に病気となり、3人の息子に玉子ちゃんを託して亡くなってしまいます。

乳母と息子達は遺言は気にしつつも、京都に行っても夕子ちゃんの手掛かりがあるわけでもなく、伝があるわけではなくと、現実的な判断で過ごす内にあっという間に更に10年が経ち、玉子ちゃんは20歳になっていました。

夕子ちゃん譲りの美人に育ったのですが、乳母一家は「幼い頃の病気のせいで不細工なんですわ」とひた隠しにしておりました。
ところが、京都生まれの姫と言う理由で、愛人にして箔をつけようとする熊本を仕切るある指定団体の組長がしつこく求婚を始めてしまいました。何を言っても諦めない上、次男と三男は組長の威を恐れて、手引きをし兼ねない状態になって来ました。健気な玉子ちゃんは家来達の生活を守るために、組長の愛人になることを決心します。

そこで、優柔不断な長男にスイッチが入ります。父の遺言を果たすべく、母親の乳母とわずかな供だけで、家族も置いて、玉子ちゃんと京都を目指す逃避行に出ました。

九州から船を乗り継いで、何とか京都にたどり着きましたが、当然、夕子さんを探す手立てはなく、京都に来た後のことは何も考えていないのでした。とりあえず、乳母の提案で石清水八幡宮にお参りに行くことになりました。
そこから更に奈良まで足を伸ばして、長谷寺にもお参りすることになりましたが、歩き慣れないお姫様暮らしの玉子ちゃんには辛い旅でした。4日かけて長谷寺の門前町にたどり着き、宿を取りました。

一行がぐったりしていると、どうやらダブルブッキングだったらしく、予約していた参詣客がやって来ました。玉子ちゃんの一行はもう動けないので、相部屋でしのぐことになりました。
その参詣客こそ、かつて夕子ちゃんに仕え、現在は光くんに仕えている右近さんでした。

その夜、右近さんは同じ宿に泊まる一行の中にどうも見覚えのある人がいます。よく見てみると、かつての同僚達でした。右近さんはついに夕子ちゃんの忘れ形見である玉子ちゃんを探しだしたのでした。

【教訓】人間、やる時はやらねばなりません。しかし、父の遺言から10年は充電期間として長過ぎるでしょう。長男、どんだけエンジンのかかりが遅いのでしょうか?出会い系でもぐずぐず迷っていると他の人にさらわれるのがオチです。行動あるのみです(と思う。経験ないけど)。
ただ、16年の歳月が光くんに分別(らしきもの)を与えたようです。
その頃、五節の舞姫と言う宮中のダンサーを光くんの家から出す準備をしていました。その内、一人は光くんの家来、惟光くんの娘です。
オーディションの時にその娘を見かけた夕霧くんは、思わず「お嬢さん。ずっと貴女を見つめている」と声を掛けてみました。

それ以来、気になって仕方がありません。雁乃ちゃんのことはそれとして、中学生としては美少女を見ると心が動きます。ですが、その藤乃ちゃんは、ダンスの仕事が終わると、天皇の秘書として就職することが決まってしまいました。

惟光くんの息子の一人が夕霧くんの家来をしているので、無理に頼んでラブレターを渡してもらいました。
そのラブレターを二人が見ていると、就職の準備の様子を見に来た惟光に見つかってしまいました。「ラブレターの取次なんかするな!」

「いや、これは夕霧様が...」
「何?夕霧様か!そうかそうか。そういう手もあるなー。明美様の例もあるしな、玉の輿を狙うか?藤乃」
と、バカ親父は浮かれていますが、今更、内定辞退も出来るものではなく、藤乃ちゃんは予定通り、就職してしまったのでした。

光くんは自宅に引き取った夕霧くんを里美さんに預けました。お袋さんタイプの里美さんは、母親代わりを嬉々として務めてます。しかし、夕霧くんはそんな里美さんを見ながら、失礼なことを考えていました。
(う~ん、あんまり美人じゃないなー。お父様は美人の妻がいるのに、里美さんのことも見捨てずに、すごいなぁ)
夕霧くん、男も女も顔ではないのだよ。

と不心得なことを考えていますが、冷泉帝が先帝の朱雀院を訪ねた際に、夕霧くんは素晴らしい詩を披露し、少し出世することが出来ました。

光くんは、家族も増えて二条の屋敷では狭くなったので、六条に巨大な屋敷を新築しました。中央の寝殿の周りに、春夏秋冬を模した町を配置し、春の町は光くん、紫ちゃんと明子ちゃん、夏の町は里美さんと夕霧くん、秋の町は秋好ちゃん、秋の町は六条姉さんの邸宅跡なので、思い出の場所でもあります。冬の町は明美ちゃんが住むことになりました。
新たなハーレムです。各々の町に贅を尽くした広大な庭があり、池もしつらえられていました。

引越は秋の頃でしたので、秋好ちゃんが紅葉を飾った引越祝いを紫ちゃんに贈りました。すると、紫ちゃんはとっさに松を飾ったお返しを用意し、「風に舞う紅葉は軽いんじゃない?変わらない松の緑を見てご覧なさい」と手紙を付けて返事をしました。
この機転に秋好ちゃんは、秋の季節の自慢を見事に返され、感心したのでした。

【教訓】夕霧くんは、年上も年下も、美女も醜女もお構いなしに愛することの出来る光くんと違って面食いです。
まだまだ蒼いですね。生まれつきの容姿よりも、美しくあろうとしている人が素敵な魅力を放つのです。

さて、盗み聞きをしたヤンキー兄やんは、2日後、三条夫人の元にやって来ると、文句を言い始めました。「お袋、雁乃のこと、しっかり見ておいてくれないと困るぜ。そりゃ夕霧はお勉強は出来るけど、身内同士の結婚だと、家の繁栄につながらないやん?光にクレームつけられたらどうするよ?」


「そんな、今までほったらかしにしてた癖に。私も知らないわよ。メイドの噂話を真に受けるんじゃありませんよ」

「全く、どうすれば、傷物にせずに済むのやら。困ったな」と、ブツブツ言いながら、帰って行きました。



その後、やって来たのは夕霧くんです。雁乃ちゃんに会えないかな?と能天気にやって来ましたが、「ちょっと、お祖母ちゃんの所にいらっしゃい」と呼び出されました。

「あなたと雁乃のことで、息子が怒ってるの。雁乃に会わせる訳にはいかないわ。ごめんなさいね」

「そんな...」夕霧くんはショックを受けて、屋敷内の自分の部屋に引き上げました。いつもは開いている雁乃ちゃんの部屋に鍵が掛かってます。



と、扉の向こうから、「空を飛ぶ雁も、私みたいに寂しいのかな...」と言う声が聞こえました。皮肉にも、二人を引き裂こうと言うヤンキー兄やんの言動が、ネンネの雁乃ちゃんの恋心を目覚めさせてしまったようです。



「雁乃ちゃん?ここを開けて」夕霧くんは声を潜めて呼び掛けますが、雁乃ちゃんは独り言を聞かれたのも恥ずかしかったので、扉を開けることは出来ませんでした。



さて、ヤンキー兄やんは、冷泉帝に嫁がせていた娘の里帰りに乗じて、雁乃ちゃんを自宅に移すことにしました。秋好ちゃんに敗れたお姉ちゃんの話し相手と言う名目です。



お迎えの日、乳母の手引きで、二人は久しぶりに会うことが出来ました。「おじ様に嫌われるのは怖いけど、雁乃ちゃんを諦めるなんて出来ない!雁乃のことが好きだ!」夕霧くん、男らしく告白です。



「こんなことなら、自由に会えた時にもっと会っておけば良かったよ」「ホント、私もそう思うわ」



「てことは、僕のこと好き?」この辺り、夕霧くんもまだまだです。光くんならもうキスして、胸くらいは揉んでます。

雁乃ちゃんもこっくりうなずきます。ええ、中学生の恋愛です。



日も暮れてそろそろ、ヤンキー兄やんが来る頃です。「姫様~、どちらですか~?」屋敷内が騒がしくなって来ます。

「構うものか」夕霧くん、雁乃ちゃんをしっかり抱き締めて放しません。遂にメイドの一人が隠れている小さな恋人達を発見します。



メイドは「あら嫌だ、姫様のお相手が六位の浅緑の方なんて。身の程を知りなさいな」


夕霧くん、日頃気にしていることを言われて、ショックのあまり、雁乃ちゃんを抱く腕を緩めてしまいます。お坊ちゃん育ちなので、打たれ弱いのです。



「君を想って血の涙に染まった服を浅緑と言うなんて」「こんな不幸に見舞われるなんて、どんな想いで染まった服なのかしら」

別に服は、紅く染まったりはしていないのですが、中学生ながらに、歌を詠み交わして、あわれ、恋人達は引き裂かれたのでした。



【教訓】夕霧くん、遂に勇気を出して告白です。男ってヤツは、追い詰められないと思いを口に出来ないようです。告白は難しいですよね。光くんや、夕霧くんのようにイケメンなら、自信持って言えるかも知れませんが...。顔の見えない出会い系では当たって砕けるしかありません。それを気が多いとは言わないで~。

筆者も忘れていましたが、光くんの長男、夕霧くんは光くんが明石から帰ってきた後も、亡き葵ちゃんの実家で、お祖母ちゃんの三条夫人の元で暮らしていました。

葵ちゃんの忘れ形見として、敢えて三条夫人の元に置いていましたが、12歳となり、そろそろ成人式(元服)をする年になりました。

光くんの自宅ですべき所ですが、三条夫人にも見てもらう為に、三条邸ですることにしました。天下の光くんの息子ですので、盛大に行われたのですが、貴族の子なら通常、四位からスタートする所、何と六位からのスタートになっていました。

可愛い孫に対する光くんの仕打ちに、不満をもらす三条夫人に対して、「夕霧は大学(官僚の養成学校。身分の低い貴族の登竜門)に入れようと思ってまして。私は御所で育って、高い地位からスタートしたものの、父親が亡くなって後ろ楯を失うと、危うく没落する所でした。しっかり実力をつけておけば、私が死んでも大丈夫だと思ったのです」

「そりゃ、そうですけど、息子(ヤンキー兄やん)の所の孫より、位が低いと夕霧も辛いんじゃないかと」とお祖母ちゃん心全開です。
「ガキですねぇ。ま、勉強している内に分かってくれますよ」と光くんは取り合わず、夕霧くんを大学に入学させてしまいました。

夕霧くんは、三条夫人の心配通り、地位のことを不満に思っていました。また、三条夫人の元を離れて、寂しい上に、貧乏貴族達とも話が合いません。ただ、親譲りで頭は良かったので、先生には可愛がられる典型的な優等生でした。

さて、冷泉帝はそろそろ皇后を選ぶ時期になっていました。候補は、光くんが後見している秋好ちゃん、ヤンキー兄やんの娘、紫ちゃんの妹の3人です。結局、実の父親に気を使った冷泉帝は秋好ちゃんを選びました。
合わせて、光くんは太政大臣に、ヤンキー兄やんは内大臣に昇進しました。

ところで、ヤンキー兄やんは子沢山なのですが、離婚した妻との間に生まれた娘を三条夫人に預けていました。夕霧くんも母親がおらず、同じ境遇のイトコ同士、姉弟のように育ちました。雁乃ちゃん(雲居雁)と言います。
10歳を過ぎた頃、兄やんは「間違いがあってはいかん。同じ部屋で寝るのは禁止!」と言い出し、離れて過ごすことが増えて来ました。雁乃ちゃんの方が2歳年上なのですが、ネンネちゃんなので、仲の良いイトコ位にしか考えていませんが、夕霧くんはさすが光くんの息子だけあって早熟で、会えないことの寂しさを理解していました。元服で、違う家に住む様になったことで、ハッキリ恋だと自覚したようです。

珍しくヤンキー兄やんが実家に帰って来て、雁乃ちゃんに琴を弾かせながら、三条夫人に「冷泉帝の皇后の座は光のヤツに持っていかれたし、雁乃に皇后を目指してもらおうかな」等と話していた時に、夕霧くんが訪ねて来ました。
兄やんは衝立を立てて、雁乃ちゃんと会えない様にした上で、「そんなに勉強ばっかりして、大変やなあ。親父は遊んでばっかりいたのに」と父親の指示で勉強にいそしむ夕霧くんのやる気を削ぐような、世間話をしました。

夕霧くんが帰った後、兄やんは一旦帰る振りをして、こっそり馴染みのメイドと一発やるかと、こそこそ廊下を歩いていました。と、そこに、
「雁乃様がお妃様なんてねー」「だって、夕霧ぼっちゃまと付き合ってるんでしょー?」「知らぬは親父ばかりなりってか?」

(抜かった~!相手はロリから年増まで何でもアリのあの光の息子。油断した...。この始末どうしてくれよう)とヤンキー魂が燃え上がります。
親の因果が子に報い、夕霧くんの小さな恋の物語は、メイドの噂話のせいで危機を迎えていました。

【教訓】若い頃のお勉強が将来の支えになることは正しいと思いますが、子供に過度の勉強を強いるのは、情操教育上、感心しません。
夕霧くんは恋をしていない訳ではないのですが、思春期に抑圧された恋心が、後にスキャンダルを招くことになります。
当時のこととして、光くんには大勢の従兄弟がいます。中でも、叔父の桃園さん家のお嬢さんは美人なので、光くんは昔から言い寄っていました。若い頃の光くんは年上の女性に弱かったので、アサガオの花をその朝子姉さんに送って、「一度、二人きりで会おうよ~」等と誘っていました。

当時の光くんには正妻の葵ちゃんもいましたし、六条姉さんとも付き合っていましたから、皇族としてちゃんとした家の朝子ちゃんは、遊びで付き合うことはありませんでした。
しかも朝子ちゃんは賀茂神社の巫女に就職してしまったので、男女の仲にはなりませんでした。

ただ、光くんも朝子さんも教養もあり、ユーモアもあるので、メールのやり取りは続けていました(このことも須磨への追放の理由にされました)。

さて、時は流れて、朝子さんは父親を亡くしたのを期に退職し、実家に帰りました。実家には桃園家に嫁いだ光くんの叔母さんがいたので、「叔母さん、元気?ああ、元気そうだね、良かった」と訪ねて来て、「折角、来たから、朝子ちゃんの所にも寄ろうかな」等と、叔母さんをダシに朝子ちゃんに言い寄っていました。

これを面白く思わないのは、紫ちゃんです。紫ちゃん、明美ちゃんへの焼き餅は封印しましたが、他の女性となると話は別です。紫ちゃんも皇族の出ですが、正妻の子ではないですし、少女の頃に誘拐同然に光くんの所に来ているので、朝子ちゃんより格が劣ります。「まさかこの私が身分のことで悩まされるとは...」

光くんが何も言ってくれないのも腹が立ちます。聞いたら聞いたで怒るんですけどね。

そんなある日、「ちょっと叔母さんのお見舞いに行って来るね」と紫ちゃんに声を掛けますが、明子ちゃんと遊ぶ振りをしてシカトです。
「どしたの?紫ちゃん。あんまりベッタリだと俺に厭きちゃうかと思って、わざと出掛けるようにしてるんだよ」
「そうね。長年一緒にいると、ヤナとこばっかり目についちゃう」と背を向けて、返事をして振り返りもしません。
「じゃ、じゃあ、連絡しちゃったし、行って来るね」とこそこそ出発する羽目になりました。

そんなこんなで、桃園家にたどり着き、ひとしきり叔母さんと話すと、そろそろ休むと言うので、朝子ちゃんの所に行こうとすると、
「ひーかーるーちゃん!だ~れだ?」しゃがれ声で声をかけられ、びっくり!
「まさか...典子さん?」そう、第9話でヤンキー兄やんと三角関係を演じた熟女の典子さんでした。今は尼になって縁あってこの屋敷に住んでいたのでした。御年68歳ながら、「昔の熱い夜を思い出すわね」等と色っぽい仕草が抜けません。「う、うん。また、来世でね」ホウホウの体で逃げ出し、朝子ちゃんの所に来ました。

一方、朝子ちゃんは相変わらずの塩対応です。「俺のことが嫌いならそう言ってくれれば、諦めもつくんだけど」と光くんが愚痴ると、「光くんのことを嫌いな訳じゃないのよ。でも、今更の話だわ」とメイドを通しての返事です。
光くん、今晩も虚しく帰ることになりました。

ある日、二条屋敷に雪が積もりました。今日は紫ちゃんと二人、雪の庭を眺めています。「藤壺母さん(一応、紫ちゃんの前では、姉さんではなく、母さんと呼んでます)は、雪が降ったら、御所の庭に雪山を作らせたり、遊び心があったんだ。紫ちゃんは顔はそっくりだけど、すぐに角が生えちゃうのが、違うとこだよね」と光くんがふざけると、「誰のせいだと思ってんの?」と昔の様に紫ちゃんも返します。「ほら、やっぱり」

その後、雪の庭を照らす月に誘われたのか、光くんは朝子さん、月子さん、明美ちゃん、里美ちゃん達の話をします。「でも、紫ちゃんが一番だよ」「皆にそう言ってるクセに」

その夜、光くんの夢枕に藤壺姉さんが立ちました。「どうしよう、二人の秘密がバレちゃった」「ツラいわ」と嘆くのです。光くんは何か言わなければと思いますが声が出ません。

「光っち!光っち!」紫ちゃんの声で目が覚めました。「光っち、うなされてたよ。大丈夫?」
「ああ、何でもない。ゴメンね。起こしちゃって」

再びうとうととして、朝早く目覚めた光くんは、まだ薄暗い雪の庭を見ながら、「俺が犯した罪のせいで、死んだ後も姉さんを苦しめるなんて...」今更の後悔と共に、改めて冥福を祈るのでした。

【教訓】一夫一妻制では、基本的に2位では意味がありません。2位じゃダメなんですか?と言われてもダメなんです。一夫多妻だと2位で生きる選択肢もあるのです。ところが、紫ちゃんは1位でないと我慢が出来ません。その執着が彼女自身を苦しめます。
出会い系の婚外恋愛は1位なのか、2位なのか?執着は苦しみをもたらします。その逢瀬のみに集中した方が良いようです。
愛娘を紫ちゃんに預け、すっかり寂しくなった嵯峨野屋敷に光くんはヒマを見つけては来るようになりました。紫ちゃんは初めての娘の世話に夢中ですし、明美ちゃんに気を使ってか、嫌味を言わなくなってました。

明美ちゃんは母としての役割から離れて、表情に翳りが加わり、自分磨きに精を出していることもあって、出会った頃よりも魅力的になっていました。

「また、来たよ」
「待ち兼ねていましたわ。光様」
しかし、何分、公私共に忙しい身の上、いつも、一時のご休憩といった会瀬です。ピロートークもそこそこに京都に帰らねばなりません。

「明美ちゃんも引っ越して来てよ来たらいいのに」光くんは度々誘いますが、明美ちゃんは中々うんと言いません。
たまたま、泊まりの用事を作って、訪ねた際に、「久々にセッションしない?」

光くんの琴と、明美ちゃんの琵琶のセッションです。光くんの腕前は職場でも随一なのですが、明美ちゃんはちょっと合わせただけでも分かります。(スゴいな、ここまで上手いのは京都でも滅多にいない。こんな子が地方で埋もれてたなんて)
「明美ちゃんとは息ぴったりだね。次は明美ちゃんがどんな音色を出すのか、弾いてみようかな」
「いやーん、光さんのエッチ」

さて、話は変わって。
義理のお父さん(葵ちゃんのお父さん)の太政大臣が亡くなりました。光くんにとっては、元服して皇居を追い出された後、葵ちゃんとの仲が上手く行っていない時も、婿として大切に扱ってくれた恩人です。
また、今年は星占いでも凶兆が出ており、人心に不安が生じていました。

その頃、藤壺姉さんも病の床にありました。37の厄年ながら、容貌は若々しさを保っていますが、症状は悪くなるばかりです。既に出家している身ですので、息子の冷泉帝も度々会うことも出来ないのですが、重態になり、見舞いに来ました。
光くんも初恋にして最愛の女性ですから、目立たぬ様に祈祷をさせていましたが、遂に亡くなってしまいます。

光くんもさることながら、政治的には便りにしていた太政大臣を亡くし、プライベートでは母を亡くした冷泉帝の落ち込みっぷりは半端なく、四十九日を過ぎたころ、心配した光くんは藤壺姉さんが昔からカウンセリングを受けていた引退済の坊主を呼び出し、冷泉帝の話し相手にしました。

静かな夜で周囲に人がいない時に、坊主が「帝に話しておきたいことがあります」と切り出しました。
「ああ、でもこんなことをお耳に入れるのは...」「しかし、私ももう70歳。このままでは死んでも死にきれない」等と老人がグタグタ言い始めたので、
「いいから、話せ(怒)」と冷泉帝も切れ気味に促します。

そこで語られたのは、冷泉帝出生の秘密でした。この所の重要人物の死去と、天変地異にびびった坊主が父親である光くんを臣下にしていることが原因とこじつけて、藤壺姉さんから口止めされていた秘密をしゃべってしまいました。

驚いた冷泉帝ですが、意外にも母親や光くんを恨む気持ちは湧いて来ません。これまで、光くんが庇護者として示してきた態度は、父親のそれであったと納得出来る部分もあります。

そこで、冷泉帝は光くんに譲位したいと漏らしました。すると光くんは、「私は兄弟の中でもパパに可愛がられたと思いますが、帝位を譲る考えはありませんでした。心を強く持って、そんな考えはお持ちになりませんように」とキッパリ辞退したのでした。


秋になり、秋好ちゃんが実家代わりの二条ハーレムに里帰りしてきました。かつての恋人、六条姉さんの娘ですから、光くんの悪い虫が疼きます。
とりあえず季節の話題から、秋好ちゃんに好きな季節を尋ねると、母を亡くした秋が胸に染むとの答え。ついつい「貴女を思う私の心に秋風が染みるなぁ」とさらっと告白してしまいます。...息子のお妃さんですよ。

さすがにこの告白は不味いと思い、「ゴメンゴメン、ジャスト、ジョーク」とごまかして、その場を去っていくのでした。

(あっぶねー、また、悪い癖が出るところだった。イヤー、あそこで引き下がるなんて、俺も大人になったなー)等と、全員が「どこがやねん!」とツッコミたくなるようなことを思う光くんでした。

【教訓】秘密を守るのは難しいものです。当時の坊主はカウンセラーの様な役割も担っていたので、個人的な秘密に触れる機会が多いのですが、この坊主は死が近づいて、墓場まで持っていくのが惜しくなった様です。困ったものです。墓場まで持っていく秘密は墓場まで持っていきましょう。
季節は冬に向かっていました。
明美ちゃんの身分問題はあるとは言え、基本的には紫ちゃんのご機嫌取りの為に、明子ちゃんを紫ちゃんに引き渡すことにしたものの、中々、明美ちゃんに切り出せない光くんでした。

光くんが嵯峨野の屋敷を訪れた時に、「早く、二条のハーレムに引っ越して来てよ。近くにいた方が会いやすいしさ」といつも通り、自分の家に移るように促します。「でも近くに行ったのに、光さんが来てくれなかったら、余計寂しいからなぁ」と明美ちゃんは甘えてはぐらかします。いつもはこれでイチャイチャし始めるのですが、今夜の光くんは甘くありません。

「そお?じゃあ、明子ちゃんだけでも、連れて行くね。御披露目パーティーもしなきゃいけないし、紫ちゃんが面倒みたいって言ってくれてるからね」
明美ちゃん、薄々感じていたとは言え、ショックで返事も出来ません。
「大丈夫だよ。紫ちゃん始めるのですが子供好きだし、優しいから(怒ると恐いんだけどね)」と光くんは付け加えて、「考えておいてね」と帰って行きました。

明美ちゃんはとりあえず、お母さんの明石尼君に相談しますが、尼君は娘の心を知ってか知らずか「そりゃ、預けるしかないわよ」とさらっと答えます。
「女の子はバックがしっかりしてないと、ダメなんだから。光さん自身が母親の家のバックアップが無かったから、皇族から外されてるでしょ。明子ちゃんのことを考えたら、しょうがないわよ」と尼君が畳み掛けると、「そんなこと、分かってるわよ!ママのバカ!」と明美ちゃんはすねてしまいました。

それからしばらくして、光くんが明子ちゃんを引き取りに来ました。4歳の明子ちゃんは外出が楽しい様子で、光くんの車に乗ると、「ママも早くぅ」とキャッキャッと呼びます。
明美ちゃんは涙をこらえながら、「後から行くね」と微笑むのが精一杯でした。

二条本邸に到着した明子ちゃんは最初こそ明美ママがいないことで泣いたものの、幼少の頃から一緒にいる乳母もおり、紫ちゃんが愛情を注いでいることもあって、すぐに新生活に馴染みました。

袴着の儀式も滞りなく行われ、明子ちゃんは光くんの娘として御披露目されました。紫ちゃんは娘の将来を考えて、可愛い娘を断腸の思いで手放した明美ちゃんの気持ちを改めて考えていました。(娘を手放して、光っちまで来なくなったら、ツラいよね。ちょっと焼きもちも控えなきゃ)

【教訓】子の将来を思って、子を手放す。現代でも離婚した親が直面する問題です。継母・継父の元で幸せに暮らすことを願うしかない訳ですが、手放した親はどんなに辛いことでしょう。
血がつながっていても、心がつながらない親子もいます。なさぬ仲にも心のつながりあると子が信じられると良いですね。
光くんはハーレム構想実現の為に、自宅の二条屋敷の東隣に別館を建てていたのてすが、遂に完成しました。
本館は今まで通り、紫ちゃんの家ですが、別館の東棟は明石から上京してくる明美ちゃん、西棟には里美ちゃん、北棟は集合住宅にして、これまでに関係を持った女性達に入居を呼び掛けることにしました。

こうすれば、日替わりで楽しめますし、同じ敷地内にいるので、寂しくないだろうと考えたのでした。近くに集めると、奥様同士で争いが起きそうなことは容易に予想出来ますが、光くんは御所に住んでいたくせに何を見ていたのでしょうか?

その頃、明石では明美ちゃんが、(明子の認知のこともあるし、光くんにも会いたい。でも、京都みたいな都会は行ったことないし、他の奥様達から『田舎もん!』『これだから下々の者は...』とイジメられるのが不安だわ)と延々と悩んでいました。
お父さんの明石入道も(野望の為には、娘と孫を手放さなければならんが、こんな可愛い子は余所にはやれん!)と迷いまくっています。

とは言え、光くんからは「明美ちゃんと明子ちゃんに会いたいから、早く上京させてよ」と催促メールがひっきりなしに届くので、元々、皇族出身の明美ちゃんの母親、明石尼君が相続した家が嵯峨野の近くにあったのを思い出して、とりあえず、そこに仮住まいをして、京都に慣れてもらうことに決めました。

ちょうどその隣が光くんが政敵やマスコミ対策としてリフォームしていた桂の寺だったので、光くんも賛成です。
かくして涙の別れを経て、ようやく明美ちゃん達は嵯峨野の屋敷に引っ越して来ました。

光くんは後でバレるとマズいと思って、紫ちゃんに「桂の寺の内装の確認に行くついでに、ちょっと人に会ってくるね。2~3日で帰れると思うよ」と微妙な説明をします。
明美ちゃんのことだとピンと来た紫ちゃんは「斧の柄が腐るまで待たされたって話がこの間、読んだ本にあったっけ?待ち遠しいわねぇ」と嫌味をボソリ。
「もうそんな年じゃないし。やだなぁ。すぐ帰るからね」とそそくさと脱出です。

昔の様に軽い身分でもないので、お忍びで、コソコソと嵯峨野を訪ねます。明美ちゃんとは3年振りの再会です。明美ちゃんは22歳になり、明石にいた頃より、綺麗になっていました。
明子ちゃんは3歳の可愛い盛りです。「明子た~ん、パパだよ~」ともうメロメロです。

明美ちゃんとのエッチは3年分の情熱をぶつけ合う激しいモノになり、二夜連続になったので、三十路の光くんは朝寝坊をする始末でした。とは言え、今日は家に帰らなければなりません。「やっぱり、離れてるとすぐに会えないから、二条のハーレムに来てよ」と明美ちゃんを急かし、嵯峨野の屋敷を出ました。
そこで、光くんが桂の寺に来ていることを聞き付けたパーティーピーポー達がやって来てしまいました。放って置くわけにも行かず、桂の寺に泊まって宴会となりました。(やべえ、明美ちゃんに引き留められたと思われてしまう...)

さて、二条屋敷本館に帰ると、案の定、紫ちゃんはツンケンしています。「イヤー、例のパリピ達が来ちゃってさー。朝まで付き合わされたよ。あー、疲れた」とウソではないのですが、もはやウソにしか聞こえません。

その日の晩、紫ちゃんといる時に、明美ちゃんからのメールが届いてしまい、仕方ないので、「大したこと書いてないから、気になるなら見てもいいよ」と紫ちゃんから見える所に放り出しますが、そんなこと言われたら、見たら負けみたいな気分になります。
そこで光くん、「実は嵯峨野の屋敷に3歳の娘がいて会ってきたんよ。身分のこともあるから紫ちゃんの娘として育てて欲しいんだけど」と切り出します。
「光っちが人を意地悪みたいに言うから、わざと知らん顔してたんだからね」
「...子供、私が育てていいの?うれしい」紫ちゃん、子宝には恵まれてませんが、実は子供好きなのです。

「もちろん。お願いしますよ。ママさん」
しかし、そのためには明美ちゃんから明子ちゃんを取り上げなければなりません。「何て言おう...」光くんの悩みは中々、減りません。

【教訓】浮気や不倫はこっそりやるものですが、もう2号さん、3号さんの存在が本妻さんに知られている場合は、いかに「あなたが大切」と言う気持ちを伝えて、「だけど、他の人を放置出来ないからね」とさりげなく出掛けなければなりません。難しいですよね。
「ま、いざとなったら、コレを出すか」と光くんは箱を出して来ました。中身は須磨で光くんが描き貯めた絵でした。

紫ちゃんはそれを見ると離ればなれだった頃のことを思い出して、思わず泣けて来てしまいました。「こんな、寂しいところで...、光っちも大変だったね。私も寂しくて、メールでワガママばっかり言っちゃってた」
「紫ちゃんが、泣いちゃうから今まで見せなかったんだけどね」
後は、絵はそっちのけで、二人の世界です。

御所では、絵やマンガの観賞が流行っていました。若い天皇を忖度して、さして絵に興味もなかったメイド達がウンチクを傾けるのは滑稽ですが、これが権力と言うモノです。

息子の様子を見に来た藤壺姉さんは、この様子を見て、「どうせなら鑑賞会でもやったら?」と言い出し、急遽、秋好部屋 vs 弘美部屋の対抗戦が始まりました。貝合わせ...イヤイヤ絵合わせです(ちなみに、貝合わせはレ○プレイの話ではなく、貝殻でやる神経衰弱ゲームです)。

最初は竹取物語と宇津保物語の絵巻で争い、内容も含めて、メイド達が論争し、秋好部屋が勝ちました。藤壺姉さんの口添えもあって、最終的には秋好部屋が勝ったのですが、丁度、御所に来ていた光くんが「今度は冷泉帝の前でやったら?」と言い出し、2回戦の開催が決まりました。

2回戦では、光くん、ヤンキー兄やんも呼び出され、光くんの弟、蛍くんも呼ばれてます。蛍くんはれっきとした皇族ですが、元々、芸術好きの道楽者だったので、後継者に選ばれることもなく、光くんのように臣下になるでもなく、のんびり暮らしていました。
今回、絵に詳しい所を買われて、審判として呼ばれたのでした。

互いに絵を出し合い、勝負しますが、双方良い絵を揃えているので、決着が着きません。夜が更けて、次が最後と言う場面で、秋好部屋から、光くんの「須磨の巻」が出て来ました。ヤンキー兄やんは(ここでコレはズルいわ~)、と思いましたが、光くんの苦難の日々は、全員の心を動かしたようで、蛍くんは弘美部屋の最後の品を見ることなく、秋好部屋の勝利を宣言しました。

試合の後はノーサイドと言うことで、兄やん、光くん、蛍くんで琴のセッションすることになりました。三人の演奏はさすがに素晴らしく、絵の鑑賞会が転じて、音楽会となり、この日の宴は終わりました。

さて、「須磨の巻」は光くんより、藤壺姉さんにプレゼントされました。須磨への流罪は表向きには、月子さんのことが原因ですが、二人だけは罪の子、冷泉帝のことが原因と考えているからでした。

【教訓】若い頃からの自他共に認めるライバル、光くんとヤンキー兄やん。かつては自身で競いあっていましたが、ここから先は政治や後宮で代理戦争が続きます。とばっちりを受けるのは、ロミオとジュリエットにされた子供達。喧嘩は自分たちだけでやらないと。
冷泉帝との結婚が決まった秋好ちゃんの所に、兄さん上皇は「伊勢に行く時に送った櫛の呪いで、二人は結ばれないのかなぁ」と未練がましいメールを送って来ました。

メイド達からその話を聞いた光くんは(俺だったら、周りの思惑なんか無視して奪っちゃうけどな)と思いながら、秋好ちゃんには「これには返事してあげてね」とアドバイスします。
秋好ちゃんは「お別れの時より、帰って来た今の方が悲しく想われます」と思わせ振りな返信をしました。

一方、冷泉帝は年の差を気にしていました。冷泉帝は元服まもないお年頃、秋好ちゃんは伊勢で長いこと巫女さんをやっていたので、かなり年上です。
結婚したのはいいが、「あら、お子ちゃまね?」みたいな扱いを受けたらどうしようか?と心配なのです。

さて、いよいよ結婚の夜。緊張しながら、秋好ちゃんの顔を見た冷泉帝は、ほっと一安心。お母さんの六条姉さんは美しき貴婦人でしたが、実は秋好ちゃんは童顔の美少女でした。華奢なので、中学生と言っても通ります。
「良かったぁ、母様から大人の女性だから恥ずかしくないようにね。って言われてたんだけど、秋好ちゃん、とっても可愛いよ」
「私、おっぱいちっちゃくて。子供っぽいので。おイヤでした?」と秋好ちゃん、少し拗ねて見せます。
「ううん、そんなことないよ。秋好ちゃんはそのままで、ステキだよ」光くんの血筋だけにフォローもすぐに出て来ます。

冷泉帝は既に複数のお妃様がいるので、経験済ですし、秋好ちゃんも見た目はロリでも中身は大人ですから、初夜はスムースに行きました。
ライバルのヤンキー兄やんとこの小娘、弘美ちゃんよりも対応も大人です。

まずは順調な滑り出しですが、冷泉帝も真面目なので、秋好ちゃんと弘美ちゃんが偏らないように接しています。

ところで、冷泉帝は絵が好きなのですが、秋好ちゃんは伊勢にいる頃から、イラストを描く趣味があったので、共通の趣味を通じて仲良くなっていきました。弘美ちゃんは絵の趣味はないんですが、年が近いので、ボードゲームとかで遊ぶことが多い様です。

報告を受けたヤンキー兄やんは、(光のヤツに負けるのは納得いかねぇな)と、マンガ(絵巻物)作家を集めて、新作を描かせたり、自宅に伝わる旧作を弘美ちゃんの所に持ち込んで、冷泉帝を弘美ちゃんの部屋に留める作戦に出ました。

光くんも何か良いものはないかと、自宅を探して見ますが、何しろ光くんは天皇の息子で、新たに独立して一家を構えたので、先祖伝来の旧作はなく、自宅にあるのは貰い物か、光くんの趣味で集めたマンガなので、成人向けのモノしかありません。
紫ちゃんと相談しながら、「ちょっと、これは...。若い夫婦には向かないなぁ」「とは言え、兄やんに対抗してにマンガ家を囲って描かせるのもなぁ」と困っていました。

【教訓】兄さん上皇ですが、相変わらず、未練がましい割りに行動力に欠けます。中途半端な思わせ振りなメッセージだけ送って、会おうとしないのは出会い系においてもチキン野郎ですね。