季節は冬に向かっていました。
明美ちゃんの身分問題はあるとは言え、基本的には紫ちゃんのご機嫌取りの為に、明子ちゃんを紫ちゃんに引き渡すことにしたものの、中々、明美ちゃんに切り出せない光くんでした。

光くんが嵯峨野の屋敷を訪れた時に、「早く、二条のハーレムに引っ越して来てよ。近くにいた方が会いやすいしさ」といつも通り、自分の家に移るように促します。「でも近くに行ったのに、光さんが来てくれなかったら、余計寂しいからなぁ」と明美ちゃんは甘えてはぐらかします。いつもはこれでイチャイチャし始めるのですが、今夜の光くんは甘くありません。

「そお?じゃあ、明子ちゃんだけでも、連れて行くね。御披露目パーティーもしなきゃいけないし、紫ちゃんが面倒みたいって言ってくれてるからね」
明美ちゃん、薄々感じていたとは言え、ショックで返事も出来ません。
「大丈夫だよ。紫ちゃん始めるのですが子供好きだし、優しいから(怒ると恐いんだけどね)」と光くんは付け加えて、「考えておいてね」と帰って行きました。

明美ちゃんはとりあえず、お母さんの明石尼君に相談しますが、尼君は娘の心を知ってか知らずか「そりゃ、預けるしかないわよ」とさらっと答えます。
「女の子はバックがしっかりしてないと、ダメなんだから。光さん自身が母親の家のバックアップが無かったから、皇族から外されてるでしょ。明子ちゃんのことを考えたら、しょうがないわよ」と尼君が畳み掛けると、「そんなこと、分かってるわよ!ママのバカ!」と明美ちゃんはすねてしまいました。

それからしばらくして、光くんが明子ちゃんを引き取りに来ました。4歳の明子ちゃんは外出が楽しい様子で、光くんの車に乗ると、「ママも早くぅ」とキャッキャッと呼びます。
明美ちゃんは涙をこらえながら、「後から行くね」と微笑むのが精一杯でした。

二条本邸に到着した明子ちゃんは最初こそ明美ママがいないことで泣いたものの、幼少の頃から一緒にいる乳母もおり、紫ちゃんが愛情を注いでいることもあって、すぐに新生活に馴染みました。

袴着の儀式も滞りなく行われ、明子ちゃんは光くんの娘として御披露目されました。紫ちゃんは娘の将来を考えて、可愛い娘を断腸の思いで手放した明美ちゃんの気持ちを改めて考えていました。(娘を手放して、光っちまで来なくなったら、ツラいよね。ちょっと焼きもちも控えなきゃ)

【教訓】子の将来を思って、子を手放す。現代でも離婚した親が直面する問題です。継母・継父の元で幸せに暮らすことを願うしかない訳ですが、手放した親はどんなに辛いことでしょう。
血がつながっていても、心がつながらない親子もいます。なさぬ仲にも心のつながりあると子が信じられると良いですね。