光くん、京都に帰って来てからの話がちっとも進みませんが、前回の紅子ちゃんに続き、外伝っぽい話が続きます。

今回の主役は空っちゃん(うっちゃん)です。読者の皆さんはご記憶ですかね?9月19日の日記「3〜衣の薫りは人妻の思い出〜」で、登場した人妻、空蝉こと、空っちゃんです。

一度はやむ無く肉体を許したものの、しつこく言い寄る当時17歳の貴公子、光くんの魔の手からスルリと逃げて貞操を守った(そして、義理の娘 荻ちゃんを身代わりに置いて行った)人妻は、茨城県知事となった夫と共に茨城に引っ越していました。

あれから12年が経ち、茨城県から京都に帰任することになり、ようやく琵琶湖の畔まで帰って来ていました。丁度その日、光くんは滋賀県の石山寺に、帰京のお礼参りに向かっていました。天下の光くん御一行ですから、元茨城県知事は道を開けて、見送ります。

すれ違う行列が元茨城県知事と知った光くんは、昔、空っちゃんの所に手引きさせた空っちゃんの弟を呼び出し、「お久!空っちゃん、京都にお帰り。迎えにきたよ!」とメールを託します。

空っちゃんは(相変わらず、何と調子のいい嘘っぱちを...)と思いながらも、12年前に酷い振り方をしたのに、光くんが自分を覚えていてくれたことに感動してしまいました。この時は人目もあるので、「お久しぶりです」と普通の返事に留めました。

光くんが京都に帰ると、弟くんが光くんの所を訪ねて来ました。弟くんは空っちゃんが振った後、しばらく光くんに仕えていたのですが、光くんが流罪になった時に見捨てて、茨城県の姉の所に逃げてしまっていたのでした。
そのことをお詫びした上で、また再び、光くんと姉の不倫の片棒を担ぐことで、失地回復を図る作戦です。

夫の元茨城県知事はすっかりお爺さんになってしまってレスが長いので、今回は空っちゃんも光くんとのメールのやり取りに応じることにしました。

その後、程なくして、元茨城県知事が亡くなり、以前から若い義母である空っちゃんが気になっていた息子が怪しい態度をとるようになりました。どこかで聞いたような話です。

空っちゃんも身の危険を感じつつも、生活を息子に頼っている身としては、無下にも出来ません。しかし、いよいよ逃げ切れなくなって来たので、遂に出家して尼さんになってしまいました。ますます、どこかで聞いたような話になりました。

【教訓】若い頃に出会った人と十数年振りに同窓会等で再会するとときめくことってありますよね。配偶者がショボくれていたりするとなおさらです。
若くて美人の嫁さんがいても、人妻熟女に手を出す光くんは別格ですが...。
少し時間を戻して、光くんが須磨・明石に流されていた頃、光くんがお世話をしていた女性達は、存亡の危機に立たされていました。

光くんは紫ちゃんだけは、キチンと財産の名義を書き換えて、生活に支障がないようにしていたんですが、他の女性のケアまでは手が回りませんでした。
紫ちゃんも愛人達の生活の面倒を見るほど、心が広くないので、ほったらかしでした。そのため、六条姉さん、藤壺姉さん、月子ちゃんは良いとしても、里美ちゃん、紅子ちゃんは生活が困窮していました。特に紅子ちゃんは、皇族の娘として育てられ、世渡りの術を知らないので、なおさらでした。

紅子ちゃん、親に作ってもらった立派な家具等があるのですが、プライドが邪魔して売れません。
屋敷を譲って欲しいと言う人もあるのですが、両親と暮らした家を出ていくことなど、考えもつかないのでした。

紅子ちゃんの親戚としては、僧侶になった変わり者の兄さんと、県知事夫人になった母方の叔母さんがいます。
兄さんは紅子ちゃんと同じく浮世離れしていて、経済観念はありません。一方、叔母さんは県知事夫人なので、お金持ちです。ただ、皇族から見れば県知事は相当低ランクなので、紅子ちゃんの両親は県知事夫人に納まった叔母さんを嫌って、親戚付き合いを絶っていました。

紅子ちゃんが両親を亡くし、光くんの流罪で頼る者がなくなった所で、紅子ちゃんをメイド同然に扱って、姉夫婦に復讐しようと目論みます。全くもって、ちっちゃいヤツです。

「紅子ちゃん、うちの家に来て、子供達の教育係をお願いできないかしら?子供達には生粋の京都人の教育を受けさせたいのよ〜」もちろん嘘っぱちです。叔母さんの家に行ったら最後、シンデレラ的生活が待っています。

ちなみに「シンデレラ」日本語で聞くと、素敵な響きですが、フランス語で「サンドリヨン」=「灰かぶり」と言う意味です。領主の娘でありながら、義母にメイド同然に炊事、洗濯、掃除をさせられ、灰まみれになっているのをからかったあだ名です。
「おちくぼ姫」はシンデレラと良く似たストーリーですが、同じく、床が一段低いおちくぼんだ部屋にいるのをからかったあだ名で、似たようなニュアンスです。


「私、引越しないので」
紅子ちゃんは極度の人見知りで、普段は小声なのですが、この台詞はキッパリ言うことになっていますので、叔母さんの提案を断ります。
それでも叔母さんは諦めません。

紅子ちゃんには幼いころから仕えてくれている腹心のメイドがいます。叔母さんがちょいちょい通ううちに一緒に来ていた、旦那側の甥っ子がメイドを気に入り、結婚してしまいます。

折しも、旦那の県知事の転勤で九州に行くことになった叔母さんは、これを期に紅子ちゃんを九州に連れて行こうとしますが、紅子ちゃんは断固拒否。一緒に九州に移る甥っ子の妻であるメイドを紅子ちゃんから引き離して、腹いせとしました。

紅子ちゃん、収入はない、腹心のメイドもいない、使用人もドンドン辞める、家は傷んで来ると、ないない尽くしですが、何とかするだけの才覚もありません。

光くんは3年間の刑期を終えて出所して来ましたが、女の自分からメールするのははしたないと思っている紅子ちゃんは、連絡も取らずに、ただ待っているだけでした。光くん、帰京以来、忙しいこともあって、紅子ちゃんのことはすっかり忘れているのでした。

ある日、仕事がオフなので、光くんは紫ちゃんに、恐る恐るお伺いを立てます。「あの〜、里美ちゃんの所に行ってきてもいいでしょうか?帰って来てから、挨拶もしてないし...」
里美ちゃんは自分よりも先に光くんと付き合い始めているので、焼き餅焼きの紫ちゃんもOKを出しました。

その道中、木々が生い茂ってジャングルの様になった荒れ果てた屋敷を通りかかります。
「あれ?ここって紅子ちゃん家じゃ?流石にこの様子だと引っ越しちゃったかな?」
惟光くんがジャングルを掻き分けて確認すると、果たして、紅子ちゃんはずっと、光くんを待ち続けていたのでした。

光くん、草露で濡れるのも構わず、中に入り、紅子ちゃんと久々の対面を果たしたのでした。とりあえずは言い訳として、「紅子ちゃんのことは忘れたこと無かったよ。でも、紅子ちゃんがメールもくれないから、嫌われたかと思ってさ。でも、我慢出来ずに来ちゃったよ」光くん、さすがです。口から出任せがスラスラ出ます。
このあばら屋に泊まる気はしなかったので、「じゃ、今日は仕事があるから、これで。今度、家の修理させて、差し入れを持ってこさせるよ」と、当初の予定通り、里美ちゃんの家に行ったのでした。

後日、約束通り、家の修理をさせ、生活のお世話も再開したのでした。

【教訓】紅子ちゃんは都イチのイケメンセレブをゲットする幸運の持ち主なので、大丈夫でしたが、普通は野垂れ死にします。これは自分達が死んだあとのことを考えてなかった親の教育が悪いのです。まずは生き抜く力を与えるのが、教育の本来の目的です。
光くん、紫ちゃんの嫉妬に手を焼いておりますが、ちっとも進まない恋の後始末をハーレムを作って、過去に関係のあった女性を集めて、一緒に暮らすと言う意味不明な方法で解決しようと考え始めます。
「その方が、通うの楽だし。生理の時も別の娘の所にも行けるし〜」全くもってゲスの極みです。
「それに御所みたいじゃん」流罪から復帰を経て、権力を手中にしましたが、未だに皇族コンプレックスが抜けません。

さて、京都での暮らしも落ち着いて来たので、須磨でお告げをくれて助けてくれた住吉大社にお参りに行くことにしました。京都から大阪のミナミまでちょっとした団体旅行です。
有能な惟光くんがツアーコンダクターとして、一切を取り仕切ります。住吉大社でのお参りの手配に走り回っていた時、目ざとい惟光くんは沖に停泊する一艘の船に目を止め、部下に乗客を確認させます。

果たして、明美ちゃんご一行様でした。光くんとの運命の子、明子ちゃんを無事に授かった御礼参りに来たものの、光くんのツアーにかち合い、遠慮してお参り出来なかったのでした。

光くんは惟光くんから報告を受けると、「やっぱり、私達の仲は運命だね」とメールします。
明美ちゃんは「身分違いの私が、身を尽くして光さんを愛してしまいました」と返信します。男から「そんなことはない!」と言わせる高等テクです。明美ちゃん19歳にして、男を虜にする技を知っているのです。

京都に帰って来た光くんを待っていたのは、伊勢に娘の付き添いで行っていた六条姉さんが帰って来ていると言う情報でした。
元の家で娘の秋好ちゃんと暮らしていましたが、何度も幽体離脱して、魂をすり減らしたのか、すっかり体が弱ってしまいました。死期を悟った姉さんは出家してこれまでの罪を償うことにしました。

それを聞くとさすがに放っておくことも出来ず、光くんはお見舞いに出かけました。会うと「私は今でも六条姉さんのことを愛してるよ」と調子の良いことを言います。
姉さん、「イヤ、そう言うのもういいから」と軽くいなします。「それよりも、娘の秋好を一人残して死ぬのが心配なのよ」

「それなら私に任せてよ!バッチリ面倒見るから」光くん、前々から可愛い娘だと目をつけていたのです。ちなみに、兄さん上皇も伊勢に行かせたくないとメソメソ泣いて、櫛を贈ったことがあります。

「面倒見てくれるのは、ありがたいけど、手を出すのは絶対ダメだからね」光くんのことを良く分かっている六条姉さんは釘を刺すのを忘れません。
「やだなー。そんなことする訳ないじゃん。もう私も大人だし」光くん、図星を刺されて、声が裏返ってます。姉さんが疲れたようなので、この辺りで退散することにしました。

その一週間後、姉さんが亡くなったと連絡がありました。光くん、早速家に行って、お葬式の準備を進めます。秋好ちゃんにも紳士的な態度で接し、遺言通り手は出さないことにしました。何しろあの六条姉さんの遺言です。今や、身体と言う枷がありませんから、前より危ないかも知れません。光くん、生き霊に二度も遭遇していますので、もう御免です。

さて、兄さん上皇から、秋好ちゃんが欲しいと連絡がありましたが、19歳の小娘では月子ちゃんには絶対叶いませんし、何より、自分が我慢しているのに、天皇として全てに恵まれていた兄に取られるのは納得行きません。

そこで、藤壺姉さんから「息子にはしっかりした姉さん女房が欲しい」と言う口添えをもらって、冷泉帝の后にすることにしました。兄はやだけど、息子ならいいかと言う訳です。自分は母親と、息子は娘とエッチするのですから、やや倒錯した興奮もあります。
「秋好ちゃん、冷泉帝はまだ元服したばかりの少年なので、お姉さんとして、しっかり教えてあげて。じゃあ、よろしくね」光くんを養父として、秋好ちゃんの結婚が決まりました。

【教訓】付き合っていた女性の連れ子は、好みの女性に似ている部分があって、若い訳だから、魅力的に映ります。親子丼は男の夢の一つですが、世間的にはアウトなので、止めておきましょう。
光くん、京都に戻って、3年ぶりに兄さん帝に会いました。光くんの官位を戻して、パパ上皇への後ろめたさが無くなると、見えなかった目も良くなりました。要するに心療内科的な病気だった様です。

今回のことで、すっかり自信を失った兄さん帝は年明けに位を下りることにしました。相変わらず月子さんを秘書として手元に置いてますが、「どうせ光の所に行っちゃうんでしょ。二人の子供が出来れば良かったのに」等とグチグチと弱音を吐きます。昔の月子さんなら、「ウザイ」と捨ててしまう所ですが、後ろ楯の父親を失い、弘子姉さんも病気勝ちでかつての権勢を失って、立場的に弱くなった一秘書としては、浮気者のレッテルを貼られた自分に執着している兄さん帝は利用価値があります。「まあ、ヒドイことをおっしゃるのね。ずっと、貴方だけにお仕えしてきたのに。ヒドイわ...。ヨヨヨ」泣いて見せると、「ああっ。ゴメン、ゴメン。光の顔を見ると心配になっちゃって」
「私のことが信じられないのですか?」
「ウウン、信じる。だから一緒にいてね」
...チョロいもんです。

さて、光くんと藤壺姉さんの不倫の子、冷くんが11歳で元服し、即位して冷泉の帝となりました。それに合わせて光くんは内大臣に更に出世です。
冷泉帝の後援者として、一人で政治を牛耳っても良いのですが、右大臣一派は没落したとは言え、左大臣家には恩もあるし、息子の夕霧くんも預けています。実力者のヤンキー兄やんもいますので、ここは恩を売って手なずけておく方が得策です。
引退していた左大臣のお義父さん(葵ちゃんの父親)に太政大臣として返り咲いてもらうことにします。

一方、明美ちゃんは娘を無事に出産しました。光くんの三人目の子(表向きは二人目)、明子ちゃんです。彼女にはこの後、辛い別れと栄光の日々が待っています。
光くん、京都で自分好みの乳母を探して、思いの外、いい女だったので危うく手を出しそうになるのを我慢して、明石に派遣したり、お祝いを贈ったりと大騒ぎです。そんな光くんを紫ちゃんは面白くありません。光くんも何とかご機嫌をとろうとしますが、「もう、死んじゃいたい」とか言い出します。もちろん、死ぬ気はありません。ちゃんと和歌に載せた恨み言です。

【教訓】月子さん、すっかり兄さん帝を手なずけています。光くんとのスキャンダルがなくアッサリ帝の元に嫁いでいたら、数ある后の一人だったかも。男の独占欲を上手く刺激するのは、いい女の手練手管です。男性陣はご注意を。
明美ちゃんが中々なびかないので、光くん、明石入道に「ここに連れて来てよ」と言い出します。当時、男性が女性の所に通うのが基本ですから、女性の側からお側に上がるのは、相手が天皇の時位です。「それは、ちょっとご勘弁を」さすがに明石入道も断ります。

秋になり、物寂しくなると、光くんはとうとう我慢出来なくなって、明美ちゃんの所に忍んで行くことにしました。「俺としたことが...。田舎娘に焦らされて、忍んで行くなんてな」光くんとしてもプライドが傷つくところですが、童貞を卒業してから、こんなに長く女体に触れなかったことがないので、禁断症状が出ています。

「来ちゃった」明美ちゃんにいうと、サッと隣の部屋に逃げ込んでしまいます。その気位の高さは六条姉さんを思い起こさせる人です。「貴方はいずれ都に帰るのでしょう?私のことは放っておいて!」明美ちゃんは最後の抵抗をしますが、実はメールのやり取りで、既に光くんに興味津々です。しばらくすると、おずおずと部屋から出て来ました。

「やっと、会えた。意地っ張りなんだから」光くんが抱き寄せると素直に腕の中に納まります。それから、明美ちゃんの部屋に通うようになりますが、引っ掛かるのは紫ちゃんのことです。(ウッカリ、バレると大変そうだなぁ)光くん、初夜の後、しばらく口を聞いてもらえなかったことがトラウマになっています。

とりあえず、京都の紫ちゃんに「何か、明石は寂しいから、儚い幻を見ちゃった。イヤイヤ、全部嘘さ、そんなもんさ、海の女は幻」と訳の分からないメールを送って見ました。
すると、「海と言ってもそんなに大きな波が来るところとは思わずに、うっかり信じていました」とよそよそしい返事が帰って来ました。

(こりゃ、ヤベェ。めっちゃ、怒っとる)
しばらくは明美ちゃんに会うのも控えて、いましたが、それはそれで明美ちゃんも不安がるので、(ま、いっか)と明美ちゃんと楽しい時間を過ごす光くんでした。

さて、年が明けて、お正月ですが、京都では兄さん帝の目は見えないままだし、大臣は空席だしで、光くん復帰運動が激しくなって来ました。ついに兄さん帝は弘子さんの反対を押し切り、光くんを呼び戻す指示を出しました。

その知らせが明石に届きましたが、いざ帰るとなると、光くんは明美ちゃんの所に入り浸りです。実は、明美ちゃんのお腹には赤ちゃんが授かっておりました。

京都へ帰る日が迫ったある晩、光くんが「セッションしようよ」と愛用の琴を持ち出しました。明美ちゃんも琴で合わせます。明美ちゃんは見事な腕前でした。「この琴は、ここに置いて行くよ。調子が狂わない内にまた会えるからね」等と、光くん調子の良いことを言ってます。

さて、明石入道が立派に調えてくれた帰り支度で、光くん、堂々の京都凱旋です。
紫ちゃんとも感動の再会です。「紫ちゃん、会いたかったよ!」「光っち、もう、会えないかと思った!」紫ちゃんは寂しさと不安で少しやつれた様でした。そこがまた、男心をくすぐります。光くんは27歳の男盛り、紫ちゃんは19歳の乙女です。

早速、やることをやりますと、光くん、今度は明石に置いてきた明美ちゃんのことが気になります。とりあえず、「ゴメン!紫ちゃん!」光くん、平謝りでその場をしのぎます。紫ちゃんは「忘れられるなんて思わずに、私だけ操を立ててバカみたい」と恨み言を言いますが、少しは大人になって、諦めかがつくようになりました。

光くんは権大納言の地位につき、権力も取り戻しました。右大臣一派もすっかり力を失い、いよいよ、光くんの時代が来ました。

【教訓】海辺の恋はなぜ燃え上がってしまうのでしょうか?やはり、非日常の空間がいつもより異性を魅力的に見せる様です。光くんは妊娠させても平気ですが、一般人は大事になりかねません。盛り上がっても避妊は忘れずに。
その後も嵐は続きます。京都からボロボロの着物をまとった使いが訪ねて来ました。紫ちゃんからの手紙によると京都もひどい嵐とのことです。京都のことも気になるし、すっかり落ち込んでしまいました。
更に天候が荒れ、建物に落ちた雷から火事になり、やむなく炊事場に避難する有り様です。「俺もこれまでか...」等と柄にもなく落ち込んで、うとうとしていると、パパ上皇の幽霊が現れました。「カッパの使いが来たやろ?早くここから離れなさい」
「来たけど、言ってる意味分かんなかったし。もう僕も終わりかな〜って」と光くん、パパ上皇に甘えます。
「これはちょっとした罪の報いや。光が可哀想なんで、来たんや。今から京都の帝にも一言言ってくるわ」
「あの〜、罪ってやっぱ、あのことですかね〜?」恐る恐る、光くんは聞きますが、パパ上皇はさっさと消えてしまいました。

翌朝、嵐も治まったので、海辺に様子を見に行く光くん一行。西の方から舟が近づいて来ます。舟から降りてきた坊主は明石入道と名乗り、神のお告げにより、光くんを迎えに来たとのことです。坊主なのに神?と思うところですが、平安時代はその辺りアバウトなのです。明治になってから天皇の権威付けのために神社とお寺をビッチリ分けただけです。

光くんのお告げとも合致するので、連れていってもらうことにしました。明石入道は兵庫県知事をやっている時にガッツリ稼いだので、引退後もお金持ちです。光くん一行も屋敷を用意してもらって、快適に暮らせるようになりました。流罪と言っても、形ばかりです。

さて、明石入道には娘がおり、光くんに嫁がせるという野望があるので、あの手この手で、アピールします。ある日、光くんが暇潰しに引いていた琴を切っ掛けに、光くんの興味を引き出すのに成功します。彼女のことは明美ちゃんとしておきましょう。
光くん「同じ空の下にいるという可愛い子ちゃんの部屋にいっちゃおうかな?」とメールしてみます。ところが、明美ちゃん、恥ずかしがって返事をしようとしません。しょうがなく、明石入道が代理で「娘も同じ空を眺めて同じ気持ちでいると思いますよ」と返信します。
光くん「親父の代筆のラブレターなんて...マジか?」若干引きますが、めげずに「お父さんに返事させるのは勘弁してよ。焦らされると、ちょっとマジになっちゃうな」とメールします。
さすがの明美ちゃんも今回は返事します。「父の話位で本気にならなくてもいいんじゃなくって?」メールは京都の貴婦人にも負けない気位の高さです。
そこから、直接メールのやり取りを始めますが、明美ちゃんは端から身分違いの相手と深入りを避けていますし、光くんとしても田舎娘に本気になれるかと思っていますので、ちっとも進展しません。

その頃、京都では兄さん帝が目を病んでおりました。原因は光くんの所に来たパパ上皇が兄さん帝の元にも現れ、恐ろしい表情で睨まれたことでした。まあ、おおかた遺言を破った後悔と、光くんを懐かしむ臣下と右大臣一派の板挟みのストレスによる心身症でしょう。
そうこうしていると、右大臣は病気で亡くなるわ、弘子さんも病気になるわと災難続きです。兄さん帝はすっかり弱気になって、「光を呼び戻そうと思うんだけど」と弘子さんに相談しますが、病気にも関わらず「何言うてますのや。私はあの女の息子には負けへんで〜」と頑として聞き入れません。マザコンの兄さん帝は反論も出来ず、ストレスは増える一方です。

【教訓】現代の多くの男性にとっては、彼女の父親は煙たい存在でしょう。しかし、政略結婚が基本の当時、父親が婿を決めるのは当たり前ですから、父親は味方になります。将を射んと欲すれば、まず馬を射よ。頑な彼女の攻略のために父親に接近する手もありますが、権威凋落著しい現代の父親は逆効果かも知れませんね。
御所ではいつものようにパーティーが開かれておりました。右大臣の取り巻き達は「Yo! Yo! パーリナイ!」等と盛り上げに躍起ですが、最強のアイドル、光くんがいないのでは、盛り上がりません。
パーティーでは、いつも光くんに張り合って、踊っていたヤンキー兄やん頭中将は、パフォーマンスもしないのに、何故か独り赤い派手な着物を着て、仮面を着けています。が、ライバルが居ないとやる気が出ないと隅っこで飲んでます。

盛り上がらないパーティーで、悪酔いした兄さん帝は、取り巻きを相手に珍しく演説をぶってます。「...私の弟、諸君らが愛してくれた光は去った!何故か!」

「坊やだからさ」聞くともなしに、部屋の隅のカウンターで飲んでいたヤンキー兄やんは、グラス片手に独りごちていました。何だか、光くんの顔が見たくなりました。

「そうだ。須磨行こう」

兄やんは行動力のあるタイプなので、早速、須磨の光くんの元を訪ねます。流罪扱いと言っても近いんです。
「マハロ〜?光〜?元気〜?」
「兄やん...。来てくれたんだ...」

すっかりホームシックになっていた光くんは柄にもなく、目が潤んでしまいます。
「光が居ないと、つまんなくってさ。来ちゃった」

「♪あああ〜、夢よ善き友よ。お前今頃どの空の下で俺とおんなじあの星見つめて何思う〜、ハッ ヨイヨイ〜」
その日の夜は二人で酒を酌み交わし、飲み明かしたのでした。
二人は、光くんが左大臣家に婿に入って以来、十年来の友達にして、仕事上はライバルとして出世を競いあい、時には二人でダンスを披露したこともありました。そして、紅子さんや、典子さん(実は夕子さんも)を取り合った穴兄弟の間柄なのです。

さて翌日、頭中将は帰らなければなりません。
「えー、もう帰っちゃうんだ。寂しいなー、僕」等と光くんは拗ねてみせます。

とは言え、いつまでも玄関先でぐずぐずしてられないので、お別れの時が来ました。
「兄やん、おれにはあなたが最大の強敵(とも)だった」
「何言ってんだ、バーカ」
兄やんは京都に帰って行きました。

その頃、須磨の隣の明石では、秘密の企みに燃えるある坊主と奥さんが夫婦喧嘩をしていました。
「よし、遂にチャンス到来。娘を光さんの嫁にするぞ」
「何でまた、天皇陛下のお子様とは言え、不倫で追放されたゲス男に」
「だまらっしゃい!不倫は文化だ。大した罪ではない!」
「まー、貴方はそんな風に思っていたのね。今までの行状を全部、白状しなさい!」
「ひー(やぶ蛇だったー)。ワシは僧侶だ。全ての罪は解脱しとる」
「そんなんで、誤魔化されるものですか!」

当の娘は夫婦喧嘩を横目に、「お父様も何を言ってるんだか...。」と呆れておりました。


「厄落としをしましょう。このところ悪いこと続きですし」家臣の一人が言い出しました。
「ふむ、それも良いかもね。やるか」光くんも女運も落ちている気もしていたので、異論はありません。
光くんが代表して、海を司る住吉大社に捧げ物をして、お祈りしました。すると、にわかに天候が荒れ始め、あっという間に嵐になりました。神の怒りに触れたのでしょうか。

疲れはてて、皆が眠り込んだ頃、妖しいカッパの様なモノが水を滴らせながら、部屋に入ってきました。「呼ばれてんのに、気ぃ付かへんのかいな?鈍いやっちゃなぁ。はよ、来ーや」
と言うと、ふっと消えました。そこには水溜まりが残っています。何でしょう?一体。

【教訓】落ちぶれた時こそ、友情が試されます。不遇の時に受けた恩は忘れ難く、受けた仕打ちの怨みは続きます。キュンキュンの王子系恋物語の中に貴公子同士の熱い友情をぶっ込んでくる辺り、紫式部は少女漫画の王道を良く分かっています。
ではなくて、王道は1000年前に確立されていたのね。
光くん、とうとう仕事もクビになってプー太郎になってしまいました。今のところは懲戒解雇ではなく、諭旨解雇で穏便に済ませてくれました。さすがに社長の女に手を出したから、クビと言うのは言いにくかったのか、自分で辞表を出すなら、懲戒は勘弁してやると言う処分です。

しかし、弘子さんの怨みは深いので、このまま、京都の街をうろうろしていては、また、どんな難癖をつけてこないとも限りません。そこで、反省している体を装って、京都を離れることにしました。都会育ちの光くんは海を見ることがないので、山ではなく、ビーチリゾートで、謹慎することにしました。

行き先は神戸のちょっと先にある須磨にしました。須磨と言えば、関西パリピのメッカ。関東で言えば、湘南海岸で、夏になるとブーメランパンツとビキニの黒い若者で溢れるところです。京都からは新快速を使って70分の距離です。

引越先も決まったので、付き合っていた女性や友達に挨拶に回ります。

最後の夜は紫ちゃんと一晩中、抱き合って過ごしました。萌えました。夜が明ける前に、コソコソと京都を出ました。一応、謹慎の体です。

淀川を船で下って、そのまま須磨まで船旅です。その日の内に到着しました。まあまあ、近い所です。住む家は、須磨の役所に準備させました。アレ?無位無冠では?と思いますが、役人としては、ここで恩を売っておけば、中央に返り咲いた時に大きなリターンが期待できます。先行投資です。

とりあえずやることもないので、ほうぼうに手紙を送ります。海も珍しいので、スケッチをします。概ね、引越先から昔の友達にメールを送りまくり、写メを撮るような行動と似たようなもんです。

特に紫ちゃんには「何も怖くない、ひとりじゃない。みんな空の下」等と、心を込めて詩を送ります。紫ちゃんからは、「須磨で袖を濡らす光っちの涙と、独り残されて泣いている私の涙とを比べてみてよ」と、お布団が届きました。

お布団はじっとり湿っていました。
(いや、これは...。涙で濡れるって比喩でしょうよ。どうすんのよ、寝られないじゃん。育て方、間違ったかなぁ?)

【教訓】
人間、引き際が肝心です。ギリギリまでしがみついていると、相手も強硬手段(島流しとか)を取らざるを得なくなります。早めに引き下がったので、光くんはビーチリゾートで謹慎生活をおくれることになりました。
光くん、25歳の夏。本来なら、夏を満喫したいところですが、仕事も干されてつまらないし、月子ちゃんとのデートも右大臣サイドの警戒が厳しくなってままなりません。

ヤンキー兄やんも右大臣の婿ながら、左大臣家の跡取り息子でもあるので、難しい立場です。この間までは、右大臣サイドへの面当てにパーティー三昧でしたが、だんだん仲間のパリピも権力者に遠慮して、集まらなくなって来ました。

光くんも久しぶりに里美ちゃんにでも会うかと、適当に車を流して、京の街をクルーズしていると、ある屋敷から琴のセッションが聞こえて来ました。よく見ると、一度、遊んだことのある姫の屋敷です。
垣根にとまっていた鳥になぞらえて「お嬢さん、覚えてる?ホトトギスさんがやって来たぜ?」とメールすると、
「確かにホトトギスの声に聞き覚えはあるけど、今更なんなの?」とつれない返信が。落ち目の時は何をやってもダメなもんです。

ま、しゃーねーか。と当初の予定通り、里美ちゃんの家に着きました。パパ上皇が亡くなってから、未亡人となった麗子さん(麗景殿の女御)の生活費は行き掛かり上、光くんが出してます。

とりあえず、夏服が欲しいとか、スイカが食べたいとかの要望を伺った上で、ひとしきりパパの思い出話に付き合ってから、里美ちゃんの部屋に行きました。

里美ちゃんのお部屋は相変わらず、スイートな雰囲気で統一されています。しかも、ほとんどがハンドメイド。
他の人がやっていると、若干引いてしまう光くんですが、里美ちゃんは昔からこうなので、気になりません。ぽっちゃり系の里美ちゃんには似合っているのです。

「里美ちゃん、ごめんね。中々来れなくってさ」
「ううん、いいの。光くんも色々大変だったね。イイコイイコしてあげる」なでなで。
「わーい、ありがと。さとみん」

「ほら、こっちおいで。ひざまくらして、耳かきしたあげるから」こしょこしょこしょ...。
「さとみ〜ん」お尻なでなで。
「こらー、ダメでしょ。イタズラしちゃ。光くん、メッ」

と、ほぼ○○リフレのプレイです。癒されマス。


「光くん、ホントはさびしかったんだゾ」

最後は里美ちゃんが甘えて来て、甘甘な部屋で、あま〜い時間を過ごしました。
そんな時間を過ごしながら、光くんはある重大な決意を固めていたのでした。

【教訓】里美ちゃんは待つ女です。嫉妬めいたことも言いませんし、久々のデートでも恨み言も言わず、一瞬を楽しんで、その思い出を糧に会えない日々を過ごします。でも、それって都合のいい女ですよね。
里美ちゃんは幸せな後半生になりますが、結構、リスクの高い戦術です。ご利用は計画的に。
相変わらず、光くんとだらだら続けている月子ちゃんですが、兄さん帝の秘書として、キャリアウーマンになりました。お父さんの右大臣としては、皇后が狙えるお妃としたい所でしたが、光くんとのスキャンダルのせいで、ダメになりました。ま、トップが美人秘書に手を出すのは、よくあることなので、源氏物語中、最強ギャルの月子ちゃんはすぐに兄さん帝を虜にしてしまいます。「例え、月子さんがまだ光のことを好きでも構わない」兄さん帝、チキンの癖に情熱的です。

ところが、光くん、「そんなの関係ねぇ」と相変わらず、月子ちゃんとオッパイピーをしてました。月子ちゃんが「夜が明けるように、あたしのことも飽きちゃうんでしょ。泣いちゃうぞ、ウリウリ」と言うと「こんなカワイコちゃん、飽きる訳ないじゃん」と二人で危ないラブ・アフェアーを楽しんでおりました。
光くん、♪この首筋に夢のあと〜だから〜、なんて口ずさみながら、ご機嫌で月子ちゃんの部屋を出ますが、それを右大臣サイドの手下に目撃されていたのでした。危機感無さ過ぎです。

藤壺姉さんとの別れもあって、うさを晴らすかのように、光くんは月子ちゃんとの危うい恋にのめり込みます。ちょうど、実家に帰ってきていた月子ちゃんの所にこっそり忍んで来ています。
「どんどん良くなるよ、この身体」とゲスいことをいう光くん。「どうせ身体目当てなんでしょう?」と月子ちゃんが拗ねると、「月子ちゃんを気持ち良く出来るヤツ、他にいる?」と暗に兄さん帝を当てこすります。
「止めてよ。あの人のことは。優しい人よ」等と、プリンごっこをしていると...。

「お〜い、六子ちゃん(月子ちゃんのこと。六女だから)。具合はでや?」とお父さんの右大臣が突然、部屋にやって来ます。
「入るで〜」
月子ちゃん慌てて着物の前を合わせると、「あら、パパ?大分、良くなったわ」とゴソゴソ、散らかった辺りを片付けます。
右大臣がそれを見とがめ、「おい、それは男のベルトやないか?!」「まさか、お前」と部屋の衝立をどけます。

「や〜ん、めっかっちゃった〜」等と、光くんは逃げるでもなく顔を隠すフリで、ふざけています。

「あんたは!光さん?!まだ、うちの娘と...」とそこに落ちていた光くんのラブレターを拾うと、「このままでは済みまへんで!」と捨て台詞を残して、出て行きました。

「光さん、まずいんじゃない?もう、会えなくなっちゃうの?そんなのヤだ」と可愛いことを言う月子さん。「好きにさせておけばいいのさ」光くんはすっかり開き直ってます。

その話を聞いた弘子さんは激おこプンプン丸でした。
「全く、忌々しい親子!私の帝を奪って、息子をバカにしてー!」「大体、葵は息子の嫁にと言っていたのに、光ごときにくれてやって!キー!」エキサイトする弘子さんに、右大臣も(えー、今更それ言うー?)と若干引き気味です。
「それに平和を祈る巫女に言い寄ったり。そうよ、帝の平和な世の中を乱そうと言うんだわ!コレは謀叛よ!」
右大臣(それはムリがないかい?娘よ)と、さすがにドン引きです。

さてさて、大変なことになってしまいました。どうなる光くん?!

【教訓】色々ヤバそうな筋に手を出しまくってきた光くん。そろそろしっぺ返しを食らい、恋人が周りから去って行きます。奢れる者は久しからず。やはり恋には誠実さが大切です。
出会い系の真ん中で愛を叫びます。...どの口が?