リフレイン 透明な光19 | 青のパラレルワールド物語

青のパラレルワールド物語

青さんが登場する空想小説を書きます。ご本人様とは一切関係ありません。
腐話もありますので苦手な方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その話はなかったことにして欲しい。

智はもういない。

私は、智を思いながら

静かに作品を作っていきたいだけだ。」

 

電話の向こう、

大野紅嵐は、

淡々と息子の死を告げ、

僕の訪問を断った。

 

どうしたらいい?・・

財前先生・・大野智の病気って

そんなに重いものだったの?

先生は何も言ってくれなかった。

そう、櫻井國比呂さんのことだって・・

僕には何も告げずに逝った先生。

先生のいじわる・・・

 

事務所のデスクで、

受話器を握って呆然とする僕。

よかった、

今日は皆が出払っていて・・・。

泣きそうだ・・

 

「どうした?成瀬君」

「東郷先生・・」

 

その時、

所長室から出てきた東郷先生が、

固まった僕をみて声をかけてくれた。

 

「財前先生が遺産を贈与した、

大野智さんが亡くなっていたんです。

それで、父親の大野紅嵐に電話したら、

説明するための訪問も断られて。

僕のミスです。

彼にもっと早く

会いにいっていれば・・」

 

がくりと、肩が落ちる。

なんてミス・・

初心者でも起こさない・・

 

「成瀬君、大丈夫だよ。

手はある。

財前も人が悪いな・・

もっともあいつは

彼には

間に入って欲しくは

なかったのかもしれないがな。」

 

東郷所長の言っていることが

わからなかった。

だが、所長が財前先生の秘書だという、

井上紀子さんに連絡を取ってくれてから、

わずか1週間後

僕は大野智の関係者だという人物と

面談の約束を入れることになった。

その人物の名前は、櫻井翔。

 

櫻井國比呂さんの甥だよね。

また出てきた名前に僕は驚く。

いったい彼は何者なんだろうか?

財前先生が嫌っていた人物。

僕は櫻井翔という人が

気になってきた。

 

 

 

彼が、事務所に僕を訪ねてくる日、

僕は朝から落ち着かなかった。

あの優しい財前先生が

嫌いだっていう人だ。

偏屈な人じゃなきゃいいけど。

そう心配しながら、

恐る恐る応接室のドアを開けて、

中にいた彼と目が合った僕は

心臓が止まりそうだった。

 

その人は僕がもう一度会いたいと

ずっと願っていたひとだったから

 

 

「初めまして、櫻井翔です。」

 

彼が僕に挨拶する。

ああ、あの夜に聞いた声だ。

また聞けるなんて・・・

 

僕は、ドキドキと早くなる

心臓の鼓動を悟られないように、

わざと素気なく、

機械的に書類を読み上げ、説明をした。

勿論視線なんか合わせられない。

彼も書類だけをみているようだ。

一通り説明を終え、

必要な書類を手渡すと、

今まで書類だけを見ていた彼が

僕を見た。

 

「では、大野先生にはこちらから説明します。

紅嵐先生には本当にお世話になったから、

できる限りのことはしたいので」

 

何をお世話になったのですか?

貴方はどうして、

財前先生に嫌われていたのですか?

大野智さんとは

どんな関係だったのですか?

 

聞きたいことはいくつもあった。

だけど、僕は何も聞けなかった。

聞けるような関係じゃない・・

 

 

「よろしくお願いいたします。」

 

僕は深々と、頭を下げた。