智は、知っていた?
自分の記憶がなくなることを・・・
それでも、
生きることを選択したのか・・
俺のことも
忘れてしまうのに・・
智・・・
酷いだろう・・・
俺は・・・
「櫻井翔、
受け入れられないのなら、
もう帰れ。
今日は特別面会を許したが、
しばらくは面会禁止だ。
安静にして、
感染症や他の障害が出ないかを、
確認する必要がある。
智に会えるようになったら、
おしえてやる。
その時に会うか会わないかは
お前の判断だ。」
ベッドの横に突っ立っている俺に、
財前教授が言い放つ。
いつもの冷たい言い方。
顔を上げると
俺を睨んでいる。
「教授・・・
俺は何もしらなかった。
智は・・
何も言わなかった・・」
ぼそぼそと、
俺が文句を吐くと、
さらに教授の顔が険しくなった。
鬼のような顔で俺を怒鳴る。
「帰れ、櫻井翔。
早く帰れ。」
泣いていた華姉が、
すっと立ち上がると、
俺の手を掴んだ。
「帰りましょう、翔。」
「だって・・」
「帰るのよ!
財前先生、
申し訳ありませんでした。
失礼します。」
華姉は教授に頭を下げると、
俺を引きずるようにして
部屋を出た。
「華姉、なにすんだよ!
教授に
もっと聞くことがあるのに・・
俺には内緒で
二人で全部決めやがって・・
俺のこと・・・えっ・・」
バチン
乾いた音と同時に
俺の頬がひりひりとする。
目の前で華姉が
俺を睨んでいる。
「なにすんだよ、華姉。
あ~痛え・・」
俺が頬を押さえて怒ると、
華姉は呆れたように言った。
「あなたがここまで馬鹿だとは
思わなかったわ。
財前教授が
あなたを殴るのを
必死に耐えていたのが
わからなかったの?」
「えっ?」
そうなのか?
「だから代わりに私が殴ったの。
そしてこれは・・」
バチン
反対側の頬がひりひりした。
「今のは智君の分よ。
私もしばらく
あなたとは会いたくないわ。
自分で帰って。」
「はぁ?」
華姉は、それだけ言うと
くるりと向きを変えて
ささっと行ってしまった。