「ええっ~」
嘘だろ?
そうだよ、二宮さんお得意な
悪い冗談だよね。
「この忙しい時に冗談を言うほど
私は非常識ではありません。」
そんな・・・また聞こえてた・・
でも冗談ではない・・
だけど、冗談としか
思えないんだけど・・
帰ることを許されず、
そのまま黒いロケバスに
連行された俺は、
蛇に睨まれたカエルのように
小さくなって、
二人の前に座っていた。
「監督いかがですか?」
「うん、あの役はさ、最初
俺のイメージから小野知日を
予定していたんだよ。
だけど、スケジュール調整が
できなくて没になったんだ。
それが、こんなにイメージ通りの役者に
出会えるとは・・
山田君には悪いけど、
怪我してくれたおかげだ。」
二宮さんと二人で話しながら、
赤シャツの監督はニコニコしながら、
俺を見つめる。
山田君って誰?
怪我したってなんで?
「彼は役者ではないですけどね。
小野知日に似ていることは
確かです。」
「それで、撮影には
何時から参加できる?」
「彼は会社員ですので、
有休の申請をしてからですね。」
「そう。
でもさ、
なるべく早く入って欲しいなあ、
もうかなり、
押しているからさ」
「大野さん、いかがですか?
お願いできますか?
こちらとしては
かなり困っているので、
よい返事をいただけませんか。」
いきなり二宮さんが
俺に返事を迫ってきた。
こちらが困っているとか、
良い返事ってことは
うんと言えってこと?
だけど、俺には
さっぱりわかんない。
わかるのは、
監督が、
宿敵、小野知日が好きらしいことと、
山田君が怪我をしたってこと。
「大野さん、
わざとわからないふりを
しているでしょう?」
二宮さんが俺を睨む。
ん・・ん・・だって・・・
多分だけど・・・
俺に山田君の
代役をしろってことだよね?
「多分ではなく、
そうです。
山田君は今週の火曜日から、
撮影に参加することになっていました。
彼は、うち、高木芸能事務所が
力を入れている若手です。
美形で、
色気もあり、
芝居もそこそこいける
有望株です。」
ふ~ん、そんなに
有望なタレントなんだ。
何で、怪我したの?
「月曜日の夜、
食事に出た時に交通事故にあって」
それは災難だね。
今はさ、タクシーの事故多いよね。
「バイクの自損事故です。」
あれま・・
それは、
なんていったらいいのか・・
運が悪かったね。
あれ、
俺の疑問に
スラスラと二宮さんが答えるけど・・
もしや・・
「ええ、口にでてました。」
あちゃあ~。
またやった。
「大野君、
君本当に素人さん?
さっきから
百面相が面白いんだけど・・」
二宮さんと話しながら
ころころと表情が変わっていたのを
見られていたらしい。
監督が、同じように
くるくると表情を変えてみせる。
「う、上手いです。」
俺は思わず拍手していた。
「山田君はこれができなくてね、
私は不満だったんだ。
大野君、頼むよ。
このとおりだ。
適当な代役が見つからなくて
困っていたんだよ。
それをさっき二宮君に
愚痴っていたら君のことを
おしえてくれてね。」
二宮さん!
なんか、二宮さんの顔が
悪魔に見えてきた。