ついさっき出てきたばかりの控室に
舞い戻ってきた俺。
ドンと音をたてて
大女優がドアを閉める。
い、いれるって・・・
何をする気?
怯えて
後ろを振り向けない俺。
へ、へんなこと・・
し・・しないよね・・・
「大野君、やるわよ。」
俺の肩に、
トンと手が置かれる。
ビクッ・・
「早く、脱いで。」
えっ・・・
ぬ・・ぬぐ?
う・・うそ・・
「早く!」
大女優の声に
ガタガタという、
何かを動かしている物音が被る。
「早くしなさい!
時間がないのよ」
俺が硬直して動けないでいると、
今度は怒られた。
「で、でも・・あれ・・」
俺がこわごわ振り向くと、
椅子やテーブルで作った囲いの中で
大女優が仁王立ちしていた。
「時間が無いの、
あなた遊びで
来ているんじゃないでしょう。
仕事なのよ、
全力で向き合いなさい。」
真剣な顔だった。
演技指導してくれるんだ。
馬鹿だな、俺は・・
何を誤解しているんだか・・
「ご、ごめんなさい。
お願いします。」
俺は、
急いでシャツ脱いだ。
「いい、徹はね、
年上の元人妻のはるかに
あこがれと好意を抱いている、
でもね、人見知りな彼は
それを口にできないの。」
「はい。」
「大野君、
貴方もそんな経験あるでしょ?
それを思い出して・・」
大女優は、
僕に厳しく、
優しく教えてくれる。
「さあ、自由にやって。」
はい・・
昔ありました。
それを思い出せば
いいんですよね。
雨の中
彼女を探しに行く徹。
びしょ濡れになったはるかと
海辺の小屋に雨宿りするシーン
はるかに
自分の服を脱いで貸す徹。
「あ、あの、
このままじゃ風邪ひきます。
嫌でしょうけど、
これを着てください。」
俺は来ていたシャツを脱いで
大女優に渡す。
俺の来ていた服なんて
嫌だろうな・・
断られたら、
ほかの方法を考えないと・・
恐る恐る、渡した服を
大女優は、にっこりと笑って受け取る。
「ありがとう、徹君。」
ぱあっと
嬉しさがこみ上げる。
よかった、
とりあえず、着てくれた。
はるかさんが
風邪をひかないうちに、
早く誰かに
迎えに来てもらおう。
俺は、ポケットから電話を取り出す。
「はるかさん、
今、店長に電話して
車だして・・」
顔を上げた俺の目の前に
大女優の顔が・・
えっ・・と思う間もなく、
唇が重なった。
俺は、
驚きで体が固まった。
「徹君、ありがとう。
君は、
本当に優しいのね。」
大女優の言葉で、
これは芝居だったと我に返った。
「ふふふ・・・
芝居に没頭してたわね。
そう、それでいいの。
今の貴方は
大野智じゃないの、
大学生の徹なのよ。
そして、徹の好きな相手は、
私が演じはるかなの。」
「はい・・・」
「わかったわね、
役に入るってことが・・」
「は・・い・・」
「大丈夫よ、
私が全部受け止めるから」
「はい…」
僕は、大きく頷いた。
大丈夫だ。
この人にすべて任せれば、
俺はそう確信した。