彼女が自分の車で
送ってくれるとのことだった。
僕は病院の大きなエントランスに立ち
自分が入院していた病院を振り返った。
こんな大きな病院だったんだ。
その院長って
とても偉い先生なんだろうなと改めて思った。
病室を出る時に
彼女は不思議そうに僕を見た。
「大野さんの荷物これだけですか?
「病室にあったのは
このかばんだけです。」
僕がもっていたのが、
小さな鞄だけなのを
おかしく思ったのだろう。
「なんか、少ないですね。」
「そうですね。」
たしかに、
この中には下着と靴下、ハンカチ、
それにシャツとGパン。
櫛やカップ、そんなものしか入っていなかった。
そのシャツとGパンは今着ているから、
鞄はスカスカだ。
身分を証明するようなものは何もない。
「たしか、入院する前に大野さん、
教授の家に泊っていたから
もっと荷物はあるはず。
着替えとかも。
必要なら
教授が持っていく気だったのでしょう。」
泊っていた?
余計にわからない。
本当に個人的な付き合いだったようだ。
「あの、井上さん、
僕はなんで教授と
知り合いになったのでしょう?」
僕は運転する彼女に問いかけた。
「それは、大野さんが
自分にそっくりだったからだと
教授は言ってましたけど・・・
でも、本当にこんなに綺麗だったのか、
信じられないですよね。
教授は大ウソつきなので、
騙されないようにしてくださいね。」
「あっ・・はい。」
嘘つきのようには見えなかったけど・・・
僕に似てたから…かぁ・・・
でも、井上さんの説明では、
何がなんだかさっぱりわからなかった。
井上さんの車は
可愛いサイズだったけど、
外国車だった。
やっぱり大学病院で
院長秘書をしているくらいだもの
偉いんだろうな。
僕は、遠ざかる病院の姿を見ながら、
どうして今日は
財前先生が来なかったのだろうと
少し不安になっていった。
15分くらい走っただろうか。
車は大通りから、
静かな住宅街へと入った。
進むほどに大きな家ばかりになる。
お屋敷町?
凄い豪邸ばかりだ・・・
周りをキョロキョロし始めた時、
立派な門の前で
車は止まった。
井上さんが着きましたと
電話をかけると、門が開く。
「ここよ、教授のご自宅は。」
「えっ・・こんな豪邸なんですか?」
門をくぐると奥へと道が続いている。
その先に立派な家が建っていた。
大きな家だった。
「教授って何者なんですか?」
その圧倒的なスケールに
僕は不安を覚えて
井上さんに聞いた。
僕が来ていい場所なのか・・
「財前家は、
うちの大学の創設者一族よ。
代々医師の家系で、
先代の学長は、教授の叔父にあたる人。
この近辺一体の地主で名門なのよ。
でも、安心して。
教授は独身で今この屋敷には、
教授と櫻井さんの二人が
住んでいるだけだから。」
井上さんはニコニコしながら
説明してくれるけど・・
でも・・・それで安心しろと言われても・・
さっきからどうもこの人の説明は
奥歯にものが挟まったような言い方で
すっきりしない。
僕が戸惑っていると、
助手席のドアがいきなり開いた。
「智、早く降りろ。」
そこには教授が立っていた。