リフレイン 白い雨 110 | 青のパラレルワールド物語

青のパラレルワールド物語

青さんが登場する空想小説を書きます。ご本人様とは一切関係ありません。
腐話もありますので苦手な方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

「紀子さん、遅くなってすみません。

父と母は留守にしていまして、一緒に来られませんでした。

でも危ないなら呼び・・」

 

救急外来に飛び込むと、受付に居た紀子さんを見つけて

走り寄った。

 

「大丈夫です、櫻井さん。

そんなに慌てなくても。

一刻も油断がならない容体なら

先生が置いていくはずがないでしょう。」

 

ふふふ、っといつものように微笑んだ紀子さんを見て。

俺は、大きく息を吐いて、額の汗をぬぐった。

 

「とりあえず指示されていた処置をしました。

明日先生が戻ったら退院すると思います。」

「ええっ、退院?」

 

まさか?

入院して治療じゃないのか?

 

「そ、そんな・・」

「櫻井さん。

あなたの伯父様の

櫻井國比呂さんは、末期のがんです。

すでに治療の選択はありません。」

 

はっきりと言い切る顔に迷いはない。

俺は何も言えなくなった。

 

 

 

とぼとぼと外来を出て病棟に向かう。

教授が準備したおいた部屋に、伯父は静かに眠っていた。

 

点滴だけが繋がれて、ほかの機器は何もない。

広い特別室は教授の気持ちだろうか?

 

ソファに座ってぼんやりと部屋の中を見回した。

小さなキッチンに電気ポットと、

綺麗な花柄の壺、おそろいのティサーバー、とティカップ

これって・・・

先生が伯父のために入れようと用意したものだろう、きっと。

 

「翔」

 

伯父の呼ぶ声がした。

起きたようだ。

 

「伯父さん、大丈夫ですか?

親父は出張中で、すみません。」

「帰りたい。

早く。」

「えっ?」

「五郎の家に帰りたい。」

「伯父さん・・」

 

こんなに素直に気持ちを表す人じゃなかったよな。

伯父さんは変わった。

 

「翔も大野君と一緒に暮らせるようになるといいな、」

「何をいきなり・・俺はまだそこまでは・・」

 

俺は図星を刺されてうろたえる。

そこまで言えない自分が歯がゆくて、イライラしているのに。

 

「翔、大野君は翔のことが大好きだよ。

何を恐れているんだい?

時間は止まらないし、元にも戻らない。

今はどんどん過ぎていくんだ。

迷っている場合じゃないだろう。

プライドを掲げている場合でも、意地を張っている時間もない。

 

お前を見ていると、昔の自分を見ているようで歯がゆくて。

俺のようにならないでほしいんだよ。

五郎を苦しめた、長い間。

俺にはそれを償うことができないほど、残された時間は少ない・

それでも、今からでもできることをしたい。

それは五郎が望むことをすることだ。

 

翔、おまえはそうなるな、大野君を苦しめるな、あんないい子を・・」

「國比呂・・」

 

いきなりドアが開いて教授が入ってきた。

 

「五郎?

早かったなぁ」

「昔からすると決めたことは早かったと思うけど、國比呂。」

「ふふ、そうだった。

見た目はのんびりしているくせに行動は素早かったな。」

「さぁ帰るよ。國比呂。」

「え、ええ?」

 

驚く俺をしり目に、

教授は伯父のそばによってさっさと点滴を抜いていく。

 

「五郎、紀子さんからの電話で急いで帰ってきたんだろう。

少し休んだらどうだい。

俺ものどが渇いた。

紅茶をごちそうしてくれないかな。

ここにいる翔にもね。」

 

ベッドに起き上がった伯父が教授を愛おしそうに見つめる。

そうだよな、

福岡からなら、最終の新幹線だろう。いや、航空機かも。

どちらにしても夜の懇親会中に連絡を貰ったのだろうから、忙しかったはず。

食事もとってないかもしれない。

 

「そうか、國比呂飲みたいか。

そうだな、このヘタレにもごちそうしてやるかな。

智に約束したからな、飲ましてやると。

 

うまいぞ、この茶葉は。」

 

教授はニコニコしながらキッチンで湯を沸かし始めた。