こんばんは
前回は京都の歴史、神社仏閣、そしてグルメのご紹介で…
(いつもの通り)1回のアップロード容量に達してしまいました
そこで、続きとして今回のテーマは…
京都の日本酒
「日本第一醸造祖神」として全国の蔵元が詣でる
松尾大社(まつのおたいしゃ。京都市西京区嵐山宮町)
まずは京都府の地図をご覧ください。
特に、京都市にある人口28万人の伏見区に注目です
次に京都の酒蔵マップをご覧ください
なんと、伏見区が別刷りになっているのです
京都の酒蔵マップ(出典:国税庁)
という方のために…
京都府には38の酒蔵(2020年に自醸している酒蔵)がありますが、そのうち、なんと…
18もの酒蔵が伏見区に集中
しているのです
さらに、伏見区にある酒蔵に注目してみると…
都道府県別・会社別の日本酒の売上高ランキング
(帝国データバンク調べ。平成29(2017)年)
月桂冠、松竹梅、黄桜といった大手の酒蔵が集まっています。
“工場”のような酒蔵ですが、“酒造り”は昔のままです
その結果…
京都府は兵庫県に次いで…
全国第2位の日本酒製造量
を誇っているのです
(出典:国税庁資料。平成30(2018)年)
1.京都の酒造りの歴史
その歴史は古く、(上述の)8世紀に平安京が造営されたときに、大内裏に朝廷の酒を造る役所「造酒司」(みきのつかさ)が設けられたという記録が残っています。
平安宮造酒司跡
京都市平安京創生館(京都市中京区丸太町通)
京都の酒造りが最も栄えたのは室町時代(1333~1573年)で、応永22(1415)年の酒屋名簿によると、洛中洛外合わせて342軒もの造り酒屋があり、その中でも伏見と嵯峨は「洛外の酒の名所」とされていました。
(現在、嵯峨には酒蔵はありません)
酒壺を置いた穴が200基以上発見された室町時代の
酒屋跡(京都市下京区楊梅新町。平成19(2007)年)
2.京都府の酒造り
日本酒は、水(仕込水)と米(麹米と掛米)と杜氏(酒造りの最高責任者)が重要な“鍵”となります。
1) 京都の水
京都府の面積は全国31位であるのに対し、森林率は74%(約3分の2)で全国12位。しかも平地は、ほとんどが“盆地”です。
このような地理的特徴を持つ京都府で、日本酒に使われる仕込水は丹波高地と丹後山地、そして琵琶湖から流れ出ています:
京都府中部・兵庫県東部に広がる丹波高地
(亀岡・福知山・篠山などの盆地があります)
丹波高地。最高峰は皆子山(みなごやま。標高972m)
京都府北西部・兵庫県北東部に広がる丹後山地
(福知山・豊岡などの盆地があります)
丹後山地。最高峰は西床尾山(にしとこのおさん。標高843m)
琵琶湖を源流とする宇治川
伏見に流れ込む宇治川
「約8割が“水”でできている日本酒」は、“良い水”が命。
京都府の“名水”を見てみましょう
(以下は「水のソムリエ」さんのサイトからお借りしました)
特に水の“硬度”と“成分”は日本酒の味わいに影響します。
京都府に隣接し、日本酒製造量第1位の兵庫県と比較してみると…
兵庫県(特に灘)の酒:“硬水”を使ったキリッとした味わい、
京都府(特に伏見)の酒:“軟水”を使ったソフトな味わい、
であることから…
次のように言われています:
「灘の男酒、伏見の女酒」
(なだのおとこざけ、ふしみのおんなざけ)
まるで、仏国ブルゴーニュ地方の赤ワインが「ワインの王」、ボルドー地方の赤ワインが「ワインの女王」と言われているのと似ていますね
2) 京都の酒米
京都でも高級酒の酒蔵好適米(酒米)として有名な「山田錦」や「五百万石」など、さまざまな酒米が栽培されています。
さらに(他県と同様の動きとして)平成26(2014)年、京都府の酒米生産者団体や酒造業界等が連携して、「京の米で京の酒を」のスローガンの下、「推進会議 ~京都酒米振興プロジェクト~」を設立。
「祝」(いわい)や「京の輝き」など、京都府オリジナル水稲品種の生産振興と、それらを原料とする日本酒のPRに取り組んでいます
酒米「祝」は、心白(しんぱく。米の中心の白い部分でデンプン質)が非常に大きいことから、吟醸酒を始めとした高度精米の酒造りに適しています。
酒米「京の輝き」は、比較的大粒でタンパク質の含有量が低いため酒造りに適し、収量も多いので生産性も優れています。「京の輝き」を使ったお酒は、ライトなボディーの中にもしっかりとした旨味が感じられます。
3) 京都の杜氏
「杜氏が変われば酒の味も変わる。」と言われるほど、酒造りの最高責任者である杜氏の役割は重要です。
京都府の杜氏について調べてみると…
今回もまた…
新発見の連続でした
京都発祥の杜氏集団「丹後杜氏」があることは知っていましたが、丹後杜氏の主力は、京丹後市丹後町宇川地区出身者であることが判りました。
(若干余談ですが)この景勝地には航空自衛隊の経ヶ岬分屯基地がありますが、さらに平成26(2014)年、「米陸軍経ヶ岬通信所」が建設されました
宇川地区は風光明媚な場所ですが零細な農家が多く、農閑期(冬場)の貴重な出稼ぎの場として、江戸時代から奈良地方に足を延ばして「寒天づくり」に従事していたそうです。
(現在、寒天づくりは長野県が断トツのトップ(全国シェア90%)です)
昔の寒天づくり(イメージ)
さらに、より長期間の収入を得るため、次第に“酒造り”の出稼ぎに転向していきました。
丹後杜氏は主に近畿や北陸の酒蔵で活躍したほか、江戸時代には京都・伏見での酒造りに欠かせぬ存在となっていました。
その証として、明治末期から大正時代にかけての丹後杜氏の数は300~400名に上ったと言われています
しかし…
昭和に入ると丹後杜氏の数は減少し、ついに平成17(2005)年、丹後杜氏組合は消滅してしまいました
それでも…
丹後杜氏の伝統の技は継承されています
京都で活躍するの若手の丹後杜氏の皆さんをご紹介しましょう
左から:
向井酒造(与謝郡伊根町平田、代表銘柄:伊根満開)の
向井久仁子杜氏(昭和50(1975)年生まれ)
与謝娘酒造(与謝郡与謝野町与謝、代表銘柄:与謝娘)の
西原司朗杜氏(昭和55(1980)年生まれ)
熊野酒蔵(京丹後市久美浜町、代表銘柄:久美の浦)の
柿本達郎杜氏(昭和58(1983)年生まれ)
白杉酒造(京丹後市大宮町周枳、代表銘柄:白木久)の
白杉 悟杜氏(昭和54(1979)年生まれ)
それでも…
(他県と同様)京都府の酒蔵も、蔵元杜氏(蔵元自身が杜氏を兼務)や社員杜氏(酒蔵が社員を杜氏に育成)が増えています。
これも人手不足や杜氏の後継者難が原因と思われます。
3.京都の日本酒
京都の日本酒は京丹後・宮津・福知山・京都丹波・京都洛中・伏見・山城などの地で造られ、「京都ならではの日本酒文化」を造り上げてきました。
これまでご説明した仕込水・酒米・杜氏の技の結晶としての京都の日本酒の特徴は:
濃醇でソフトな甘口
と言えるでしょう
(京都府に限らず)お酒をいただくときに、その酒蔵やお酒のストーリーを知っておくと、味わいがより増すし、場も盛り上がります
そこで…
話題性のある京都の日本酒をいくつかご紹介しましょう
北から順番に…
1) 伊根満開 (いねまんかい)
向井酒造 【創業:宝暦4(1754)年】
(与謝郡伊根町平田、仕込水:裏山中腹の清水)
年間生産量400石(一升瓶で4万本)の小規模な酒蔵です。
(前述のとおり)女性の丹後杜氏の向井久仁子さん、東京農大醸造学科卒)が醸しており、弟夫妻も東京農大の卒業生です。
また、海沿いに約230軒もの舟屋が立ち並ぶ重要伝統的建造物群保存地区にある「日本で一番海に近い酒蔵」として、丹後地方ではよく知られた存在です。
ロゼワインのような「ピンク色」が特徴の伊根満開
こちらのお酒の特徴は「濃醇辛口、男前な酒」。麹(こうじ)は固めにしっかりと締め、酒母は時間と手間をかけて丁寧に造り上げるという方針を採っています。
2) 神 蔵 (かみくら)
松井酒造 【創業:享保11(1726)年】
(京都市左京区吉田河原町、仕込水:自家井戸水)
年間生産量170石(一升瓶で1.7万本)の小規模な酒蔵です。
京都市の中心部、洛中(平安京の京域内のことで、北大路通、東大路通、九条通及び西大路通の内側を言う)には、現在3軒の酒蔵があり、その中では最古の酒蔵です。
元々は但馬国城崎郡香住(現在の兵庫県香住町)で創業。その後幕末期に京都の河原町竹屋町に移転しました。今の酒蔵がある土地で酒造りを始めたのは今から100年ほど前、大正末期の頃だそうです。
3) 蒼 空 (そうくう)
藤岡酒造 【創業:明治35(1902)年】
(京都市伏見区今町、仕込水:自家井戸水)
年間生産量230石(一升瓶で2.3万本)の小規模な酒蔵です。
酒銘「蒼空(そうくう)」は、青空を思わせるような爽やかで優しい味わいに由来したそうです。
蔵の玄関を入るとショップになっており、酒のほか酒粕やオリジナルグラス・前掛けなどのグッズを販売しています。その奥に「酒蔵Barえん」が併設されていて、タンクを見ながら有料試飲ができるんですよ
おまけ ① 地名「伏見」の由来
既にご存じかもしれませんが、今回ご紹介した「伏見」という地名の変遷を知ることができました
(以下、「月桂冠」のサイトより抜粋・編集)
「日本書紀」(奈良時代)には、「俯見村」と書かれていました。
「万葉集」(奈良時代末期)には、「巨椋(おほくら)の入江響(とよ)むなり 射目人(いめびと)の伏見が田井に雁渡るらし」(万葉集巻九、柿本人麻呂)と、伏見の地名が登場しています。
「新古今和歌集」(平安時代前期)では、歌枕(和歌で使われた言葉や詠まれた題材)に「呉竹(くれたけ)の伏見」とあります。
「枕草子」(平安時代中期)では、「伏見の里」と書かれています。
江戸時代になると「伏水」も用いられるようになりました。
明治と元号が改まる慶応4(1868)年には、「伏水役所」(翌年、伏水京都府出張庁と改称)と、公的にも使われていました。
明治12(1879年)には、「伏見」の表記に統一され、今日に至ります。
桃山丘陵から見渡す眺めの素晴らしさ、つまり“俯瞰”を意味する「伏見」と、水の豊かさを象徴する「伏水」が見事に調和した町なのですね
おまけ ② 日本酒に縁のある伏見のグルメ
以前、伏見の酒蔵を訪ねた私は、散策がてら「日本酒と関係のあるグルメスポット」も訪れましたので、ご紹介しちゃいましょう
1.伏水酒蔵小路
伏見17酒蔵の日本酒が揃っており、伏見を訪れた際には絶対に外せないスポットです
小路に一歩入れば…
和食、ラーメン、炭火焼き、イタリアンなど、まさに屋台村
「酒粕ラーメン」は「酒粕」が選べるんです
しかも、100銘柄もの日本酒が揃う酒蔵カウンターまであるんですよ
2.酒粕ラーメン「玄屋」
「時間がない」という方のためには、酒粕ラーメン専門店はいかがでしょう
3.山本本家 直売所
「座っている時間もない」という方には、お酒の香りがする酒ソフトクリームと純米大吟醸プリンはいかがでしょう
山本本家(現「伏見銘酒協同組合」)は、酒銘「神聖」を醸す、延宝5(1677)年創業の老舗酒蔵です。
おまけ ③ 京都の日本酒を購入するなら
今回の「京都の日本酒」特集の〆として、次の2つをご紹介しましょう
1.ジェイアール京都伊勢丹
このブログでご紹介した日本酒を含め、京都の日本酒の全てが購入できる場所があります
こちらです
ジェイアール京都伊勢丹地下1階の和洋酒コーナー
2.京阪電車
酒蔵のスタンプラリーです。
京阪沿線にあるコンビニ「アンスリー」などで「御酒印帳」(1,400円)を購入し、大阪・京都・滋賀の計19蔵を巡りながら各酒蔵の御酒印(日本酒のラベル)を集めるといった催しです。
第2回目の今年は3月31日まで実施しているとのことですので…
まだまだ時間はありますよ~
「日本酒」ということで、今回も“力”が入りました
今回の一句です。
「春隣」は「はるとなり」、「女酒」は「おんなざけ」と読みます。
(もちろん、女性はイメージです ^^:)
ではでは
唎酒師ろっきぃがお送りしました