JR東日本は11日、2026年春のダイヤ改正において東北新幹線、上越新幹線で最終列車を繰り上げることを明らかにしました。今回はこれについて、終電繰り上げ後のダイヤも含めて考察します。

 

お客さまにより安全に安心してご利用いただける新幹線輸送を実現します

 

1.概要

 最終列車の繰り上げが実施されるのは、東北新幹線の東京~盛岡間と、上越新幹線の大宮~越後湯沢間です。具体的には、東北新幹線の下り盛岡行き最終「やまびこ69号」(東京20:20発)、仙台行き最終「やまびこ223号」(東京21:44発)、那須塩原行き最終「なすの281号」(東京22:44発)、上越新幹線の下り越後湯沢行き最終「たにがわ417号」(東京22:28発)であるところを、10~20分繰り上げることが明記されています。なお、2024年3月のダイヤ改正で最終列車が繰り上げられた、上越新幹線の下り新潟行き最終、高崎行き最終については変更ありません。

 終電繰り上げを行う理由として、作業人員の減少や夜間保守作業、工事量の増大を理由に挙げています。

 

2.終電繰り上げ後のダイヤはどうなる??

 ここで、東北新幹線・上越新幹線の終電繰り上げ後のダイヤを予想してみましょう。あくまでも当局の予想ですので、ご利用の際は鵜呑みにせず、改正後のダイヤをご確認いただきますようお願いいたします。

 

(1)東北新幹線

〇現行

 

〇改正後予想

 

 10~20分ほど繰り上げという点と、他の列車との運転間隔を考慮し、上の通り予想してみました。盛岡行き最終については、ちょうど20分ずつ繰り上がる予想です。郡山で「はやぶさ・こまち41号」に追い抜かされるダイヤと予想しました。こうすることで、「はやぶさ・こまち41号」から仙台乗換で、「はやぶさ・こまち」が停車しない古川~新花巻間の各駅へ到達できるようにして、最終列車繰り上げの影響を最小限にするのではないかとみられます。

 仙台行き最終列車については、最終列車の8分前に東京駅を発車する「はやぶさ43号」が設定されているので、終電繰り上げの影響は大きくないとみられます。仙台行き最終列車についても20分繰り上げと予想していますが、「はやぶさ43号」の待避を考慮すると、他の「やまびこ」や「なすの」と運転間隔が近くなりすぎるので、どのように調整するのかは気になるところです。

 

(2)上越新幹線

 

 

 上越新幹線の列車で最終列車が繰り上げられるのは、越後湯沢行き最終「たにがわ417号」のみと予想しています。20分繰り上げると「あさま633号」と完全にかぶってしまうので、12~16分ほどの繰り上げになるのではないかとみています。

 なお、仮に最終列車が20分繰り上げとなっても、在来線の最終列車は既に発車しているため、越後湯沢駅での新幹線ー在来線の乗り継ぎについては現行と変わらない見込みです。

 

3.まとめ

 いかがでしたでしょうか。「最終列車を10~20分ほど繰り上げる」ということしか明かされていないので、どこまで当たるかというところですが、終電繰り上げ後のダイヤを予想してみました。分析してみると、最終列車を繰り上げても影響がそこまで大きくない区間を考慮して選び、実施するという印象を受けます。

 詳細なダイヤが出た段階で、また続報を出したいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 西九州新幹線の並行在来線となった、長崎本線の江北~諫早間の沿線自治体が、11月4日に博多~肥前鹿島間を走る特急「かささぎ」の運行本数維持を求め、JR九州へ申し入れを行いました。今回はこれについて考察します。

 

博多方面と肥前鹿島駅を結ぶ特急、1日14本の維持求め沿線首長らが申し入れ…JR九州は来春の減便検討:地域ニュース : 読売新聞

 

1.経緯

 長崎本線は、佐賀県の鳥栖駅から佐賀駅、江北駅、肥前鹿島駅、諫早駅を経由して長崎駅まで至る路線であり、かつては博多~長崎間を走る特急「かもめ」の運行経路となっていました。

 2023年9月に西九州新幹線が長崎~武雄温泉間で部分開業したことをきっかけに、特急「かもめ」は「リレーかもめ」にリニューアルされ、博多~武雄温泉間の運行に変更となりました。(新幹線の「かもめ」号と武雄温泉駅で乗り継ぎ)。

 そのため、江北~諫早間は特急列車の運行経路から外れることとなったのですが、利便性維持のため、博多~肥前鹿島間については、新たに同区間を運行する特急「かささぎ」が新設され、1日14本(7往復)設定されています。

 下図に西九州新幹線部分開業前後の博多~長崎間の概略図を示しますので、こちらもあわせてご覧ください。

 

 

 

 JR九州は来春のダイヤ改正で、特急「かささぎ」を1日10本程度に減便することを検討しています。これを受け、沿線自治体は特急「かささぎ」の本数維持を求めて申し入れを行ったというわけです。

 

2.背景

 読売新聞の記事によると、特急「かささぎ」の減便についてJR九州が「並行在来線区間の特急利用者が1日300人程度」「非常に少ない。この輸送力(の一部)を地域の利便性向上に充当した方が適切と考えているが、要望も踏まえ引き続き検討する」と考えていることを報じています。

 ここでいう並行在来線区間というのは、江北~肥前鹿島間のことをさしていると思われます。概略図のとおり、特急「かささぎ」の運行経路は他の特急(リレーかもめ・みどり)とほとんど重複しており、特急「かささぎ」だけが運行されている区間は江北~肥前鹿島間のみです。この区間の利用が少ないとなると、「かささぎ」の減便が検討されてもおかしくはないと思います。

 さらに、江北~肥前鹿島間は約15kmで、間にある途中駅も2つしかありません。同区間は特急列車で10~15分、普通列車で14~19分ほどとそこまで差がありません。であれば、特急「かささぎ」の本数を減らす代わりに、江北駅に停車する特急「リレーかもめ」「みどり」と乗継ができる普通列車を、江北~肥前鹿島間に設定するという施策は間違っているとはいえません。実際、JR九州はそうした考えも持っていることを示唆しており、ここが一つ来春のダイヤ改正の変更点となりそうです。

 

3.運行本数と減便について

 西九州新幹線の並行在来線となった江北(旧称・肥前山口)~諫早間の運行については、平成28年にJR九州と沿線自治体で次のような合意がなされています。

 

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西九州ルートの経緯 / 佐賀県

 

「JR九州は、当該開業時点から3年間は一定水準(※)の列車運行のサービスレベルを維持するとともに、当該開業後、23年間運行を維持する」

 

※特急列車:博多~肥前鹿島間について、開業時点の需要動向を踏まえて、1日14本程度

 普通列車:現行水準維持

 

 特急「かささぎ」の運行の内容については、この合意に従っているものとみられます。それでいくと、西九州新幹線開業から3年後の2026年、即ち来年に運行本数の見直しが実施されてもおかしくないということになります。

 3月ダイヤ改正で減便を実施するとなると、開業から2年半なのでやや早い気もしますが、利用者が見込めないとなると、少なくともJR九州としては早急に本数を見直したいところでしょう。

 JR九州は1日10本程度としたいとの考えを示しているので、2往復減便が検討されているのでしょう。朝夕は通勤通学や出張等での利用があると思われるので、減便対象の列車は日中の11時台・14時台の各1往復の可能性が高いと考えます。

 

4.まとめ

 いかがでしたでしょうか。江北駅で特急との乗り継ぎを考慮したダイヤづくりをすれば、「かささぎ」を減便しても利便性はそこまで下がらない気もします。それでも、沿線自治体としては危機感を覚えずにはいられない、ということも理解できます。今回、本数維持を申し入れした自治体からすれば、このままなし崩し的に減便が加速していくことを恐れていると思われます。また、鹿島市としては貴重な博多直通の列車が減便や廃止されると、町の強みが一つなくなってしまうことにもつながるため、さらに危機感が強いとみられます。

 今回の申し入れにより、来年は本数を据え置くこととなるのか、それとも来春に減便されるのか、今後のダイヤはどう変わるのか、注目です。

 JR西日本は10月29日、2024年度に輸送密度が2,000未満だった区間(19路線32区間)の収支を公表しました。今回はこれについて考察します。

 

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0.今までの収支公開との違い

 JR西日本は、利用の少ない路線の将来の在り方について考えるうえで、沿線自治体等に現状や課題を知ってもらうために2022年から毎年行われています。

 過去3回の公表では、2019年度実績で輸送密度が2,000未満だった区間(17路線30区間)の情報について公開されていましたが、今回の発表は2024年度実績で輸送密度が2,000未満だった区間が対象になっています。そのため今回は、新たに「赤穂線(長船~播州赤穂)」と「呉線(広~三原)」の収支等の実績も公表されています。

 

1.収支率

 

 

 ワースト下位に位置しているのは、播但線の「和田山~寺前」(33.5%)、山陰本線の「出雲市~益田」(18.7%)、紀勢本線の「新宮~白浜」(15.4%)といった、特急列車が運行されており、広域輸送を担っている区間です。今回新たに掲載されている呉線の「広~三原」(20.0%)と赤穂線の「長船~播州赤穂」(15.5%)も比較的下位にランクインしています。

 一方、ワースト上位には中国山地を通るローカル線が並びました。既に存廃協議会が設置されている芸備線3区間の他にも、木次線の出雲横田~備後落合間、姫新線の中国勝山~新見間などがランクインしています。

 これらの路線は数値的にはわずかに改善していますが、収支公表等でこれらの路線が存廃の危機に立たされるかもしれないと感じた鉄道ファンの利用が増えたのではないかとみられます。32区間のうち、収支率10%以下の区間は15区間にものぼり、東日本と同様に西日本も厳しい状態となっています。

 

2.損益

 続いて、損益についてみてみます。

 

 

 収支公開の記事では毎回書いていますが、収支率が低い区間が、赤字額が多いわけでは必ずしもありません。むしろ、この中で収支率がとれている方の区間が、赤字額が多いということもよくあります。

 ワースト1は山陰本線の出雲市~益田間、ワースト2は紀勢本線の白浜~新宮間で、この2区間は特に赤字額が大きくなっています。前者は山陰の日本海沿いを結び、後者は紀伊半島をぐるりと結んでいます。

 赤字額だけでみれば、これらの路線を廃止することが赤字圧縮の近道ですが、それこそ広域ネットワークを形成している路線です。特急列車の運行には費用もかかりますが、だからといっておいそれと廃止するわけにもいきません。この点においても、鉄道路線の存廃を考えることが、非常に難しいことが分かります。

 

3.輸送密度

 資料の最後に、1987年と2022~2024年の輸送密度の変化をみてみましょう。

 
 

 現在、法定協議会である再構築協議会において協議対象となっている芸備線の微衷神代~東城間、東城~備後落合間、備後落合~備後庄原間がワースト1位、2位、4位にランクインしています。

 ワースト3位には、木次線の出雲横田~備後落合間がランクインしました。こちらは観光列車「奥出雲おろち号」の引退により、ただでさえ少なかった乗客がさらに減る結果となってしまいました。利用者が極端に少ないこと、備後落合で上述の芸備線に接続していることなどから、木次線もいつ再構築協議会の協議対象になってもおかしくない状況です。

 ワースト5位には姫新線の中国勝山~新見間がランクインしました。こちらも輸送密度が右肩下がりになっており、ついいに100を切ってしまいました。中国地方の陰陽連絡線や中国山地に沿って走る芸備線・姫新線などが苦境に立たされていることがうかがえます。

 32区間のうち、輸送密度が1000未満なのが27区間と、こちらも厳しい数字が出ています。

 

4.まとめ

 いかがでしたでしょうか。東日本と同様、西日本も非常に厳しい状況に置かれていること、収支率や輸送密度は比較的マシな区間が実は赤字額が大きいなどの状況が浮き彫りとなっています。

 今回挙がった32区間の中で、芸備線は前述の通り存廃協議が行われています。災害でバス代行となっている美祢線は、鉄路での復旧を断念することとなりました。関西のローカル線の一つ、加古川線では大阪万博の開催に合わせて臨時列車の増発などの実証実験が行われていますが、「効果が出なければ沿線自治体が存廃についての協議の席につく」ことが既定路線となるなど、存廃についての動きが少しずつ出てきています。

 今後、収支公開を受けてどのような動きが出てくるのか、引き続き注目です。

 JR東日本は10月27日、平均通過人員(輸送密度)が2,000未満の路線について、収支を公表しました。今回はこれについて分析します。

 

ご利用の少ない線区の経営情報(2024年度分)の開示について

 

 同じ路線でも、区間によって利用状況が大きく異なる路線もあるため、そうした路線は何区間に分けて収支が公表されています。

 前回(2023年度)は36路線72区間が対象となっていましたが、今回(2024年度)は羽越本線の羽後本荘~秋田間が輸送密度2000を超えたため、36路線71区間が対象となっています。ただ、参考として羽越本線の羽後本荘~秋田間も数値が掲載されています。

 ここでは、「収支率・営業係数」「損益」「輸送密度」の3側面から検証し、最後にそれら3つの順位を足し合わせた「総合順位」を出して分析したいと思います。

 

(1)収支率・営業係数

 公表された71区間の収支率をワースト順にランキングにすると、以下の通りとなります。

 

 

 ワースト1位は陸羽東線の鳴子温泉~最上間です。この区間は山形・宮城の県境区間の山間部にあり、かつ昨年7月の大雨災害で不通となり、その影響も出ています。同じく昨年7月の大雨により今年4月まで不通となっていた関係で奥羽本線の新庄~湯沢間も数字を落としました。   

 前回ワーストトップだった久留里線の久留里~上総亀山間はわずかに改善しましたが、この区間は廃線が決定したことにより鉄道ファンの乗車が惜別乗車した分で増えたとみられます。このほかにも、花輪線・陸羽東線・磐越西線・飯山線などの数値が極端に悪くなっています。大半の区間は2019年の数値を下回っており、コロナ禍と利用者減少でダブルダメージを受けている印象を受けます。

 

(2)損益

 次に、各区間の損益についてランキングにしてみます。

 
 損益でみると、羽越本線・奥羽本線・常磐線が上位にランクインしています。羽越本線・奥羽本線は東北の日本海側の都市をつなぎ、特急列車や貨物列車も走っています。また、常磐線は東京~仙台間のもう一つのルートという役割を持ち、どちらも広域輸送を担っています。
 こうした路線は運行本数を極端に削るということはできず、特急列車や貨物列車を走らせるための設備投資や維持費用がかかり、赤字額が大きくなる傾向にあります。参考で掲載されている羽越本線の羽後本荘~秋田間は、輸送密度が2,000を超えていますが、赤字額のランキングに入れるとワースト12位と比較的上位に入ってしまいます。

 鉄道事業者としては、赤字額が大きい路線を何とかしたいでしょうが、前述の通り広域輸送、貨物輸送などを担っていたりするので、おいそれと廃止するわけにもいきません。収支率が低く利用者が少ない路線と、損益が大きい路線は一致しないことが実は多いのです。

 

(3)輸送密度

 最後に、輸送密度をみてみましょう。


 

 輸送密度とは、1kmあたりで何人乗車しているかを示す指標です。「平均通過人員」といわれることもあります。

 国交省有識者検討会では、「輸送密度1,000未満かつピーク時1時間あたり500人未満」を一つの目安として、鉄道事業者または自治体の要請を受け、新たな協議の場(特定線区再構築協議会)を設置し、存廃について協議することを提言しています。

 輸送密度1,000未満の区間は、71区間中52区間にも上っており、既に存廃について議論が進められているところもあります。このうち、津軽線の中小国~三厩間、久留里線の久留里~上総亀山間は廃線が決まりました。

 内容を見ると、陸羽東線や只見線、釜石線、大船渡線など、東北の山間部を走るローカル線が特に苦戦している印象を受けます。そのほか、内房線・外房線・久留里線など千葉のローカル線も軒並み悪化しており、千葉県南部での利用減少が続いていることも特徴の一つとして挙げられます。

 

(4)総合

 最後に、「営業係数」「損益額」「輸送密度」のワースト順位をまとめた一覧表を示します。3つの順位の合計も示しており、その合計値のワーストランキングを示しています。


 
 このワーストランキングは、区間の距離が長いほうが不利に働くので、あくまでも参考としてお考え下さい。また、このランキングをみるおt、損益額のワーストは営業係数や輸送密度に比例していないということが、よくわかるかと思います。

 

<まとめ>

 いかがでしたでしょうか。総じてみると、

 

〇コロナ禍前の2019年と比較すると数値は回復していない

〇各ワーストランキングに若干順位の変動はあるが、ここ数年で大きな変化はない

〇災害により不通になった路線の数値が特に厳しくなっている

 

 というところでしょうか。総じてみて、利用者が思うように伸びないという現状がうかがえます。そこに災害が来ると、長期間不通となって利用者が減り、さらに復旧により営業費用がかさむという路線も出ているのが気がかりです。

 一方で、大糸線の信濃大町~白馬間は、コロナ禍前の2019年より数値が良くなっています。大糸線は松本~白馬間のアクセスルートであり、松本・白馬いずれも外国人観光客に人気であることから、外国人観光客の利用が増えていると考えられます。それでも輸送密度は1,000以下であるあたりに、厳しい現実を感じます。

 鉄道路線の利用者増加や収支改善のためには、外国人観光客が平日休日問わずこぞって乗るくらいのことがないと、JRが望む姿までの復旧は難しいのかもしれません。

 京浜急行電鉄(以下、「京急」)と京成電鉄(以下、「京成」)は10月31日、持続可能な鉄道の実現、沿線価値向上に向けた共同検討に関する合意書を締結したことを発表しました。今回はこれについて考察します。

 

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1.共同検討の内容

(1)次世代運行システムの導入に向けた地上設備や車両の共通化に向けた検討を行う。

(2)京急電鉄における新たな輸送サービスを行う上で、京成電鉄が導入予定の新型有料特急車両との共通化を図る。

(3)両社沿線の観光スポットへの誘客を強化するため、イベントの実施や企画乗車券の販売を行う。

(4)両社の株主優待の相互利用の拡充により、鉄道や沿線の観光・商業施設の利用促進を図る。

 

 プレスリリースでは、共同検討の内容について4つの内容を挙げています。この内容とその背景について考察します。

 

2.共同検討を行う理由

 まず、(1)についてですが、京成と京急は都営浅草線を介して相互直通運転を実施しています。運行システムや車両を共通化できれば、車両や設備の新造・保守管理を一括して行うことができるようになるため、より効率的に運用することができ、コストダウンや労力の軽減が期待できます。

 (2)の新型有料特急については後述するとして、先に(3)(4)について触れておくと、イベントの実施や企画乗車券の販売、株主優待の相互利用を促進することで、千葉方面から横浜・横須賀への観光客、神奈川県東部から柴又・成田山などへの観光客への誘客を促し、鉄道やバス、観光施設の利用増加が期待できます。

 

 

 

3.京急線の有料特急サービスの導入と新型有料特急の車両共通化について

 京成電鉄は5月21日に、押上~成田空港間を走る新たな有料特急列車を2028年度に運行開始することを発表しています。これについては下記リンクで解説しておりますので、こちらもご覧ください。

 

 

 この当時は、京成線内(押上~成田空港)での運行であるとされていましたが、今回の京成・京急の共同検討に関する発表により、この新しい有料特急が京成線内だけで完結するのではなく、都営浅草線・京急線へ乗り入れることを前提としていることが判明しました。

 

 

 京急は既に、平日に全車指定席の「モーニング・ウィング」「イブニング・ウィング」を運行し、土休日には一部の快速特急の2号車を指定席「ウィング・シート」とするなど、有料着席サービスを展開しています。

 これらのサービスは既存の一般車両を活用していますが、これとは別に新たに特急料金を徴収する列車を設定し、有料特急専用の車両を新たに製造するということとなります。

 車両を新造する上で、京成・京急で車両の仕様を共通化することで、車両製造コストを抑え、運行にかかる負荷を軽減しようという狙いがあるとみられます。

 

4.新たな有料特急はどこを走る?

 新しい有料特急は、京成線~都営浅草線~京急線を直通運行することとなりますが、具体的な運行区間はどうなるでしょうか。現時点では「具体的なところは何も決まっていない」とされていますが、ここで考察してみましょう。

 考えられるのは2パターンで、「成田空港~押上~品川~横浜・横須賀方面」と「成田空港~押上~品川~羽田空港」間です。しかし、横浜方面への運行となるとJRの成田エクスプレスと競合するうえ、有料列車を通すことで既存の快速特急や特急の混雑が激しくなるので、可能性は低いとみています。

 今回のプレスリリースの中で「空港アクセスの更なる利便性向上等に向け」と明記されている点から見ても、成田空港~羽田空港間の直通列車を運行することを想定しているとみられます。

 

5.成田~羽田間 既存交通との比較

 現行ダイヤでは、羽田空港~成田空港間を直通する「アクセス特急」が40分間隔で設定されています。この「アクセス特急」は一般車両で運行され、品川~羽田空港間ノンストップ、都営浅草線内も特急運転をする列車です。この「アクセス特急」の一部を有料特急列車に置き換えるというのが、最も現実的な施策と考えます。

 成田空港~青砥間を「スカイライナー」、青砥~羽田空港間を「アクセス特急」と同等の走りを行う場合、新しい有料特急は成田空港~羽田空港間を約1時間20分程度で結び、「アクセス特急」より15~20分程度所要時間が短くなるとみられます。

 成田空港~羽田空港間の運賃は1,829円、そこに「スカイライナー」の特急料金1,300円と都営・京急の特急料金が加算されることになります。都営・京急での特急料金をそれぞれ400円と仮定した場合、合計3,929円となります。

 成田~羽田間を結ぶ高速バスは、料金が3,600円で所要時間が1時間15~25分ほどなので、料金的にはバスがやや優位、所要時間はほぼ互角ということになりそうです。

 

6.まとめ

 いかがでしたでしょうか。京成と京急で共通の課題について共同で検討を行うというのが今回の趣旨ですが、検討というレベルを超え、部分的には共同経営に近いことを行うという側面もみられます。

 新たに導入される有料特急は、京成線内だけにとどまらず京急線まで乗り入れることとなりますが、どのような運行形態になるのかは不明で、またそのあたりについても分かり次第記事にできればと思います。

 京成と京急が手を組み、どのようなサービスが展開されるのか、どのように利用形態が変わっていくのか、注目です。