北陸新幹線敦賀延伸による”分断”を考える特集記事、後編は中京圏~北陸編について、改正前後の時刻を比較しながら考察します。

 

前編 関西~北陸編はこちら↓↓

 

 

 

 

1.中京圏~北陸間について 前説

 中京圏と北陸間のアクセスは、特急「しらさぎ」が担っています。特急「しらさぎ」は名古屋・米原~金沢間を運行していました。米原駅で東海道新幹線「ひかり」と乗継ができるようなダイヤとなっており、中京圏のみならず、首都圏~福井・金沢方面のアクセスも担っていました。

 今回、北陸新幹線が敦賀まで延伸されたことで、福井~首都圏のアクセスは北陸新幹線が中心となって担うこととなりました。「しらさぎ」は名古屋・米原~敦賀間の運行に短縮され、敦賀駅で特急「しらさぎ」と北陸新幹線「つるぎ」を乗り継ぐ体系に変更されています。

 

2.中京圏~北陸 全列車 改正前後比較

 それでは、特急「しらさぎ」の改正前後のダイヤを比較してみましょう。今回のダイヤ改正では、名古屋~米原間は新幹線・在来線ともにほぼ時刻に変更がなかったため、米原~福井・金沢・富山間の所要時間を比較することとします。

 また、特急「しらさぎ」は全列車が停車タイプであり、停車駅や所要時間に大差がないため、改正前後の列車どうしを直接比較しています。(例:改正前「しらさぎ1号」対 改正後「しらさぎ1号」+「つるぎ」)

 

<名古屋・米原→北陸方面 改正前>

<名古屋・米原→北陸方面 改正後>

 

<北陸→米原・名古屋方面 改正前>

<北陸→米原・名古屋方面 改正後>

 

 いかがでしょうか。捉え方は正直申し上げて人によってかなり変わるかと思いますが、どのような印象をお持ちになったでしょうか。

 

3.中京圏~富山

 まずは富山とのアクセスからみていきます。改正前は金沢で特急と新幹線を乗り換え、米原~富山間は2時間25~35分かかっていました。改正後は2時間~2時間10分となっており、20~30分短縮されています。

 関西圏とのアクセスにもいえることですが、中京圏からのアクセスも飛躍的に向上しており、新幹線の延伸効果が数字によく表れています。

 

4.中京圏~金沢

 改正前は米原~金沢間を1時間50~2時間で走り抜けていましたが、改正後は1時間35~45分となり、10~20分短縮されています。米原・名古屋方面へ向かう列車は、敦賀駅での「つるぎ」と「しらさぎ」の乗り継ぎが良好であるため、所要時間が20分近く短縮されていますが、福井・金沢・富山方面については、敦賀駅での乗り継ぎ時間が長くなっているため、ほとんどの列車が短縮時間15分未満となっており、新幹線の延伸効果は微妙なものとなっています。

 

5.中京圏~福井

 改正前は米原~福井間は60分台後半、改正後は60分台前半と、所要時間はさほど変化しておらず、最も所要時間が短縮するケースでもー7分にとどまっています。名古屋・米原→福井・金沢方面へ向かう場合に至っては、敦賀駅での乗り継ぎ時間が長い関係で、むしろ新幹線延伸前より所要時間が増大しているケースすらあります。それでいて敦賀での乗り換えが必須となる、料金も上がるとなると、高速バスやマイカーに流出する可能性はきわめて高いでしょう。

 

6.北陸新幹線と「しらさぎ」に対抗する高速バス

 そんな中、名古屋~福井間を走る高速バスを運行する名鉄バスは、昨年12月1日にダイヤ改正を行い、8往復から10往復へ運行本数を増やすとともに、武生バス停から越前たけふ駅に停留所変更を行いました。

 

 

 高速バスは福井駅~名古屋駅間は2時間50分~3時間かけて走るので、鉄道利用より1時間前後余計にかかりますが、運賃は片道3,600円、往復6,500円となっています。北陸新幹線敦賀延伸後の運賃・料金の合計額は6,960円(通常期指定席利用)なので、高速バスは鉄道利用のおよそ半額の運賃ということになります。

 また、高速バスは乗換なしで移動できます。安さと乗換なしという2つの強みを生かせば、鉄道からシェアを奪えると判断し、運転手不足が叫ばれる中、強気の増発策に打って出たものと思われます。

 

7.まとめ

 いかがでしたでしょうか。中京圏~北陸間の移動に関する要点をまとめると

 

富山:新幹線延伸により所要時間が大幅に短縮し、利便性が向上した。

金沢:米原・名古屋方面は所要時間が20分近く短縮するが、金沢方面は短縮時分が10分少々にとどまる。敦賀での乗り換えが必須となったことも踏まえると、新幹線延伸効果は微妙なところ

福井:所要時間短縮はわずかであり、むしろ増大しているケースもある。乗り換え回数の増加と1,000円以上の値上げにより、利用者が離れることが懸念される

 

といえるでしょう。こうしてみると、関西圏と同様に中京圏~北陸も”分断”されたという見方もできてしまうかなと思います。特に、関西圏・中京圏~福井間はメリットよりデメリットのほうが多く、何がしらの対策が必要と考えます。

 

8.おわりに ~敦賀延伸は富山県にメリット大?~

 北陸新幹線の敦賀延伸は、福井がはじめて首都圏が直結されたことに大きな意義があり、実際に福井県内各都市~首都圏の所要時間は大幅に短縮されました。北陸新幹線のPRポスターを見ても、「福井へ一直線」など、福井~首都圏が直結することを大きく謳っているものも多くあります。

 しかし、これまでみてきたように、関西圏や中京圏~福井・金沢間の利便性については、乗り換えが1回以上発生する、所要時間短縮の度合いが小さいなど、新幹線延伸により利便性が向上したとは言い切れず、首都圏直結という大きな実を手にしながら、その代償も決して小さくはありません。

 一方、関西圏・中京圏~富山間のアクセスは、所要時間が20~30分短縮され、大きく改善されました。乗り換え回数は改正前と同様の1回で、乗換駅が金沢から敦賀に変わったというだけです。

 首都圏へは今までと変わらず一本で行くことができ、関西圏・中京圏へも速く行けるようになった―そう考えると、北陸新幹線の敦賀延伸で恩恵を一番受けているのは、実は富山県であるといえるでしょう。福井・石川だけでなく、富山への移動需要がどう変化するのか、今後のゆくえがとても興味深いです。