はいどんも。
今日はディズニーの原点である短編映画シリーズ語り。
「ミッキー・マウスシリーズ」や「ドナルド・ダックシリーズ」等と並ぶディズニーの代表的な短編作品群である「シリー・シンフォニー」シリーズの登場です。
ディズニーは元々短編カートゥーンが主戦場の小さな映画制作会社でした。
その中で、キャラクターを中心として展開したミッキーやドナルドのシリーズとは違い、音楽とアニメーションを精密に融合させた単発作品のシリーズとしてスタートしたのがシリー・シンフォニーです。
ウォルトの友人であった音楽クリエイターのカール・スターリングが提案した「アニメーションに合わせた音楽」ではなく「音楽に合わせたアニメーション」という発想から始まった今シリーズは独自の発展を遂げていき、ウォルトとディズニースタジオにとって、新しいアイデアや技術・手法等を試す最良の実験の場として機能することになります。
その過程の中で、【初のカラーアニメーション】や【マルチプレーンカメラの導入】【ドナルドダックの誕生】等映画界に様々な影響を与えながら多数の名作を生み出していきました。
このシリーズでのディズニーの実験の数々は、やがて初の長編アニメーション映画制作という偉業へ直接結びついていく事になります。
アカデミー賞受賞作品もとても多く、シリー・シンフォニーシリーズとしては実に7本の作品が受賞を成し遂げました。
今回はそんな作品群の中から、その後のディズニーの繁栄において重要な役割を果たした知る人ぞ知るこちらの一本について語っていきます。
(※当ブログは基本ネタバレありです。ご了承下さい。)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
春の女神
(原題:The Goddess of Spring)
1934年
監督
ウィルフレッド・ジャクソン
データ
1934年に公開されたシリー・シンフォニーシリーズ第48作目(諸説により前後あり)となる短編アニメーション映画。
古代ギリシャ神話として伝わる女神ペルセポネと冥王ハデスの物語を原作としたオペラファンタジー。
四季がどのように誕生したかという神話の物語がオペラと共に描かれています。
監督は後に『シンデレラ』『ふしぎの国のアリス』『ピーター・パン』 『わんわん物語』等錚々たる作品の監督を務めることになるウィルフレッド・ジャクソン。
ファンタジアの有名な【禿山の一夜〜アヴェ・マリア】のシーンを手掛けた事でも知られる人物です。
ストーリー制作はディズニーランド建設の立役者としても知られるレジェンドのウィリアム・コットレル。
余談ですがテーマパークにおいて【乗り物】ではなく【アトラクション】という名称を世界ではじめて広めた人物とも言われています。
音楽はリー・ハーライン。
50曲以上をディズニーに提供し、あの名曲「星に願いを」を生み出した事で有名なディズニーレジェンドです。
ペルセポネ役にはジェシカ・ドラゴネット。
ハデス役にチューダー・ウィリアムズ。
ナレーター役でケニー・ベイカー。
等戦前の名優や歌手達がキャストを務めました。
シリー・シンフォニーシリーズの中でも比較的大人向けの内容に位置する作品で、公開当初はあまり人気が出なかったと言いますが、やがて世界初の長編カラーアニメーション映画「白雪姫」が大ヒットすると、その前身作品としてこの作品の歴史的価値は再評価される事になりました。
特にこれまでのカートゥーン的表現ではなく写実的な人間の描写に挑戦したほぼ最初のディズニーアニメーションとしてこの後生まれる名作長編アニメーションの根幹に大きな影響を与えた一本とされています。
又、その激情的なメロドラマ風の雰囲気とほぼ全編がオペラによって表現されたひとクセある構成は人を選ぶ要因になりながらも、一方で多数のファンも生み出しました。
シリー・シンフォニーシリーズの中ではそれ程知名度の高い作品ではありませんが、現在でも海外を中心に根強いファンを獲得しており、「白雪姫」へ繋がる重要な作品として、又、同じギリシャ神話を題材とした「ヘラクレス」とのリンク作品としても長きに渡り愛されている、知る人ぞ知る一本となっています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あらすじ
春の女神ペルセポネは地上の動物達と春を楽しんでいた。
動物達から花で作った王冠を頭に乗せ幸せそうなペルセポネだったが、突如冥界の王ハデスが地底から現れ、彼女を冥界へ連れ去ってしまう。
春の女神が居なくなった地上にはたちまち厳しい冬が訪れる…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
感想
沢山の名作が名を連ねるシリー・シンフォニーシリーズの中で、決して特段人気のある作品ではありません。
ファンタジアに繋がる音楽とアニメーションのシンクロに重きを置きながらも、数々の子供向け・ファミリー向けの傑作を排出してきたこのシリーズの中にあって、今作は全体的に大人向けなタッチであり、デザインや構成にも少々クセがあるんですよね。
しかしそれこそがこの作品の最大の目的であり、最大の存在意義になっているんです。
そういう意味では今作はその役割を見事に果たしている一本と言えます。
大きな部分で言うと2つ。
①写実性の高い人間キャラクターの描写試験
②大人の視聴に耐えうるドラマチック性を内包したアニメーション試験
この2点においてこの作品が後のディズニーにもたらした物は非常に大きいと感じます。
これまで動物の擬人化やデフォルメされたキャラクターを中心にアニメーション界を牽引してきたディズニーですが、写実的、つまりリアルな人間描写の経験はほぼ皆無に近い状態でした。
今作のペルセポネというキャラクターではじめてそれに本格挑戦したことでディズニーは【このままではとてと長編アニメーションは作れない…】ことを思い知ります。
よりリアルな人物の動作原理から学ばなければならないと判断し、その道の権威を招きアニメーター達を対象にした解剖学の勉強会をスタートさせます。
その結果、白雪姫の見事な描写とアニメーションが実現したわけですね。
それともう一つはドラマ性の強化。
つまりウォルトはこう読んでいたわけです。
長編アニメーションを成功させる為には【カートゥーンを越えたリアルを描き出す画力】と【大人の目も釘付けにするようなドラマ性】が絶対に不可欠である……と。
アニメーションにもこれらが求められる時代が来る…と。
アニメが単なる【子供向けのおまけ】とされていたこの時代に…です。
そして白雪姫を観たことがある方はご存知の通り、その読みは見事に的中することになります。
この作品を観ていると本当に、改めてつくづくウォルトの先見の明に驚かされるんですよね。
そういう意味でも面白い、本当に貴重な一本です。
シリー・シンフォニーシリーズは、その時ディズニーが何をしようとしていたかが、分かりやす過ぎるくらい分かりやすく作品に現れているものが多いので、そういう意味でも本当に面白いんですよね。
もちろんそれを差し引いても一本の短編アニメーション映画として本当に恐ろしいほど良く出来た一本になっています。
1930年代のディズニーのアニメーションはやっぱり今観ても本当にちょっと異次元のクオリティですよね。
今作は特に大人の方には非常にオススメしたい一本でもありますね。
細かな演出等も非常に凝った作りなっています。
反面ちょっとお子様には厳しい作品かなとは思います。
あくまでディズニーによる大人に対するアニメーションの試験作という趣が強い一本にっていますので。
前に語った「魔法使いの森」もそうですが、本当にこういう一つ一つのクリエイター達による地道な実地実験と、ウォルトの優れた先見の明があってこそ、白雪姫からの快進撃と今日のディズニーがあるんだなぁと。。
全てが決して偶然なんかじゃないんですよね。
このシリー・シンフォニーというシリーズを観ていると本当に思い知らされます。