はーいどうも。
さて、ちょい久々のディズニーアニメーション映画史。時代は輝かしい黄金期・ディズニールネサンスと言われた1990年代を終えて、【ディズニー第3の暗黒期】とも言われている2000年代に突入中です。
前作のダイナソーでは初のCGメインのアニメーションに挑戦し、収益では成功を収めながらも課題も残る結果となったディズニースタジオ。
元々ダイナソーと別ラインで試行錯誤しながら長年制作されていたアニメーション作品を、なんと間髪入れず「ファンタジア2000」「ダイナソー」と同年に公開するという積極さを見せます。
それは、現在でもディズニーの異端児として名高いこちらのカリスマ作品でした…。
ラマになった王様
(原題:The Emperor's New Groove)
2000年
監督
マーク・ディンダル
データ
ウォルトディズニーアニメーションスタジオ40作目の長編アニメーション。
日本では東京ディズニーシー開園記念作品として翌年2001年に公開されました。
原作なしのディズニーオリジナルストーリー。
大昔の南米のとある帝国を舞台に、ワガママな王様クスコを中心として繰り広げられるコメディアドベンチャームービーです。
元々は「ライオン・キング」の監督であるロジャー・アラーズがインカ帝国を舞台としたシリアスなロマンスミュージカル超大作として進めていたプロジェクトで、1994年から製作がスタートしました。
しかし「ポカホンタス」や「ノートルダムの鐘」といったシリアス系ロマンスミュージカルが立て続けに伸び悩みの結果に終わった事で、ディズニー上層部は今作をコメディ作品へと大きく方向修正するよう指示を下します。
その結果ロジャー・アラーズは本作を降板し、実に1940年の「ピノキオ」以来とも言われる大規模な作り直しが敢行されました。
そうして最終的に、ディズニーアニメーションスタジオの長編作品で他に類を見ないほどの超個性派コメディムービーとして生まれ変わることになった……という紆余曲折の経緯を持つ一本となっています。
監督は「リトル・マーメイド」や「アラジン」の制作にも携わり、後に「チキン・リトル」を手掛けるマーク・ディンダル。コメディ作品に非常に定評のあるクリエイターです。
脚本は後に「ファインディング・ニモ」を手掛けるデヴィッド・レイノルズ。
ストーリークリエイトには監督のディンダルが参加している他「ボルト」の監督でも知られるクリス・ウィリアムズも携わっています。
音楽は、様々なディズニーの映画・テレビ・パーク音楽を手掛けるジョン・デブニー。
監督のマーク・ディンダルとは頻繁にコンビを組んでいます。
楽曲製作をロックバンド「ポリス」でも有名なミュージシャンのスティングが担当。
挿入歌とエンディングテーマを製作しました。
又、挿入歌を大物シンガー・トム・ジョーンズ(日本語版は西城秀樹さん)が務めた事でも話題になりました。
主役のクスコ役はコメディアンとしても著名なデヴィッド・スペード。
日本語版を俳優の藤原竜也さんが務めています。
クスコのバディとなる村人バチャ役にはモンスターズ・インクシリーズのサリー役で知られるジョン・グッドマン。日本語版は楠見尚己さん。
ヴィランのイズマを演じたのはシンガーとしても有名なアーサ・キット。日本語版は京田尚子さん。
イズマの部下クロンク役には実写・アニメ問わず様々なディズニーキャラクターを演じている実力者のパトリック・ウォーバートン。日本語版は堀内賢雄さん。
興行収入面では、特殊な形の上映だったファンタジア2000を除くと久々の大敗。
予算回収には成功するものの利益にはほとんどならない程数字は伸びませんでした。
しかし、評価面では一般評価・批判化レビュー共に概ね好評を獲ており、公開からしばらくてネットを中心にそのコメディセンスや独特の雰囲気が徐々に浸透する形でブーム化し、VHSやDVD等のホームメディアは大きなヒットを記録し、カルト的人気作品となりました。
日本では公開後から一貫して知名度が低めであり、コアな作品と位置づけられる事が多いですが、海外同様絶大なカルト作品として今も尚熱心なファンから非常に高い人気と支持を集め、沢山の人達から愛され続けています。
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あらすじ
とある大昔の帝国。
わがままで自己中心的な国王・クスコはこの日もいつものように自分勝手に振る舞い、国民や家来達を困らせていた。
丘の上の村に住むパチャという村人を呼び出し、村を潰して自身専用のリゾートを作ると宣言。
村人達の立ち退きを宣告したかと思えば、上昇志向の強い相談役を突如解雇したりと、やりたい放題。
突然解雇されたクスコの元相談役・イズマは、手下のクロンクと共に復讐のため動き出す。
自前の魔法の薬を使いクスコを殺そうと企むが、クロンクの失態による数々のハプニングの末、クスコは薬でラマの姿に変えられ、袋詰されとある荷車へ放り出される。
そこはなんと、先程クスコに立ち退きを宣告され失意の中村へ帰ろうとしていた村人・パチャの荷車の上であった。
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感想
個人的にはディズニーアニメーションの真髄は夢でも魔法でもプリンセスでもなくコメディだと思っているので、この作品は実は最初凄く期待して観たんですよね。
ファンからの評価も凄く高い作品ですし、何せあのディズニーコメディの個人的傑作「チキン・リトル」を後に手掛ける面々による作品なので。
結果から言うと、、期待を越えては来なかったというのが正直なところですかね…
好きか否かと聞かれれば間違いなく好きなタイプです。
とても丁寧に拘って制作されたのも作画やアニメーションのレベルの高さを観れば一目瞭然です。
ただなんていうか、、それこそ全てにおいて越えてこないんですよね。
勝手なイメージで、もっと破天荒してる映画だと思っちゃってたので。
突飛な事をやっているようで、実はかなり沢山のセオリーを詰め込んだオーソドックスで堅実なコメディ映画って感じでしょうかね。
いや…オーソドックスカートゥーンとしてちゃんと面白いですけどね。
よく制作側のコメントとかで「伝統をあえて逸脱した…」みたいな文言を良くみるんですけど、個人的には結構反対で、ディズニーが築いてきた伝統的なギャグコメディ作品だと強く感じたんですよね。
詳しくは↓以下↓で!
プロットのマンネリ感
結構言われてるのが「美女と野獣」にプロットが似ているということですが、個人的にはそれだけじゃなくて、割とありとあらゆるディズニー作品に似ているというか…
「王の座を狙う悪い魔女がいて、一度降ろされてどっかに飛ばされて、冒険の果てに帰ってきて魔女を倒して奪還する」ってプロットは、ライオン・キングとかアラジンとか、結構色んなディズニー作品の伝統を踏襲したプロットに感じました。
別にそれが悪いとは全然思わないんですけど、問題なのはこの作品においてそれは少々観ていてテンションが盛り下がっちゃう…ってこと。
この作品ってやっぱり作風的に「他のディズニーとは一味違う」突飛さが売りなわけじゃないですか。メタも連発してますし。
ギャグとか小手先でそれはアピール出来てるんですけど、肝心のストーリーが既視感バリバリだと…なんか盛り下がっちゃうんですよね。
ストーリー自体は落ちも含めて最初の15分くらい観たら全部読めちゃうし、しかもそれが結局何から何まで予想通りで終わっちゃうんで、、。
やっぱりコメディの基本って緊張と緩和なわけで…どうなるかわからない…というのも笑いにとって必要な要素だと思うんです。
で…結構致命的別れ道だと思ったのが…
折角メタ要素をガッツリ取り入れてるにも関わらず……この「ストーリーがマンネリであること」に関しては一切イジらないんですよね。。
いやぁ、これね、これやってくれてたら多分個人的な感想は180度変わってましたね…間違いなく。
いやだって本当に色んなところで【ディズニーの異端児】みたいに扱われてるから、、期待しすぎちゃったんですよ…。
同じ監督が数年後に手掛けたチキン・リトルでは本当にこの点が改善されてて、プロット自体もオチもディズニーアニメーションにほとんどなかった奇想天外な物にちゃんとなってて、個人的に最高だっただけに…ね。
突き抜けないギャグと多言語のジレンマ
それと肝心のコメディ部分ですけど、これも「台詞回し」と「メタ設定」以外はまぁ結構オーソドックスギャグがメインなんですよね。
後半のレストランのシーン辺りから台詞回しとテンポの良さが効いてきて急激に良くなるんですけど、正直前半は「ストーリーもありきたりだしギャグも笑えないしどうしよう…」て思っちゃいました。
メタ設定や時代錯誤な世界観もやるならもっとガッツリやって欲しかったですかね。。
ちょっと中途半端感が…。
あとこれもディズニーの定番ではあるんですけど、やたら高い所から落ちるシーンばかり多用されてて……。
正直この手のシーンてお約束なんですけど、ハラハラもしないし笑えもしないので、、あっても一本に一シーンで充分だと思うんですよね…。
…心の汚れた大人になってしまいましたw
そして今作で一番良く出来てると思った台詞回しですが、アラジンのジーニーもそうでしたけどこれはやはり吹き替えや字幕で大きくニュアンスや面白さが変わってしまうってのはやっぱり欠点ですよね。
吹き替え相当苦労したんだろうなって跡が見えて、とても頑張ってたとは思うんですけど、結構別物になっちゃってるのは否めないです。
まぁでも…ワリと吹き替えならではのギャグも面白かったりもしましたけどね。
「芋虫はイモじゃないし、サナダ虫は真田さんじゃない。」
は結構笑ってしまいましたw
これはこの作品だけじゃなく、あらゆる海外(特にコメディ)映画の悩みだとは思いますが。
細かな工夫と作品としてのクオリティの高さ
まず最初にも触れましたが作画とアニメーションは流石の出来です。
キャラのモーションとかデザインが独特なのにそれを感じさせない滑らかさで凄かったです。
動物描写も写実路線とは正反対を行くアニメ的誇張描写がとても研究されていて作風にピッタリマッチしてましたね。
それとヴィランであるイズマの手下・クロンク。
これは素晴らしいキャラクターでした。
続編ではまさかの主役を張る事になりますが、そんな大抜擢も頷ける、人間味とギャグ線とどちらもガッツリ行ける非常に魅力的なキャラとなっています。
ヴィランコンビの出来損ないの手下ってのはこれもまさに使い古された手法ではあるんですが、この作風にピタッとハマって大化けした感じしますね。
それと個人的に良いなと思ったのは【主人公を陰ながら支えるコメディリリーフ兼名脇役】枠が無いことと、【ロマンスストーリー】を一切排除していること。
この二つに頼らないでここまでの作品を創り上げたことは本当に素晴らしいと思います。
普通だったらパチャの役所を女性にして、ロマンスも絡めて…とかやっちゃいそうですけどね。
それをしなかったのは凄い勇気だと思いました。
それと何気にこのパチャの家族が良い味出していて、前半家族の存在意義がパチャのバックボーンでしかないなと思ってたんですけど後半の急な躍動は流石に予想外で、ここが今作で一番楽しかったかもしれないです。
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まとめ
ただ…間違いなくとても丁寧に作られた、これまでのルネサンスからの衰退の流れをなんとか変えようと踏ん張った、とても良い作品です。