はぃどぅもぉ。
さて、今回はディズニーアニメーション映画史。時代は1980年代、ディズニーアニメーションスタジオの暗黒期と言われている時代の終盤です。
圧倒的リーダーであったウォルトとその兄ロイの他界も乗り越えて、ヒットを続けてきたディズニーでしたが「きつねと猟犬」からその好調に陰りが見え始めます。
ウォルト亡き後の新世代クリエイターと旧世代クリエイターによる対立を筆頭にスタジオの雰囲気は低下の一途を辿り、前作の「コルドロン」でそんなディズニーの低迷は決定的となります。
収益面でも評価面でも大きな失敗となり、クリエイター達の士気は急激に低下。
スタジオは存続の危機に立たされました。
前作「オリビアちゃんの大冒険」のヒットでそんな危機的状況をなんとか乗り切ったディズニーは、今作から状況を打破するための本格化な新体制をスタートさせる事になります…。
(※当ブログは基本ネタバレありです。ご了承下さい。)
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![](https://stat.ameba.jp/user_images/20240402/07/yuzupill/00/4f/j/o0649101515420431915.jpg?caw=800)
オリバー ニューヨーク子猫ものがたり
(原題:Oliver & Company)
1988年
監督
ジョージ・スクリブナー
データ
ウォルトディズニーアニメーションスタジオ27作目の長編アニメーション。
原作は「クリスマス・キャロル」等でも知られるイギリスの作家チャールズ・ディケンズによる有名小説「オリバー・ツイスト」。
しかしストーリーやキャラ設定はもちろん、舞台はイギリスらニューヨークに変更され主要人物を動物化する等これまで以上の大幅な改変が行われています。
1980年代前半に新CEOのマイケル・アイズナーとアニメーション部門責任者に就任したジェフリー・カッツェンバーグが開いた今後の方針を示す会議にて、ピーター・ヤングが提案した「ディケンズのオリバー・ツイストを動物化するというアイデアが採用され製作が開始された作品。
アメリカのニューヨークを舞台に、身寄りのない子猫オリバーが自分の居場所を見つけるまでの冒険を描いたミュージカルアドベンチャー。
前作「オリビアちゃんの大冒険」の約3倍の制作費が投入され、古株であったベテラン軍団のナイン・オールドメンは完全に退き、今後のディズニールネサンスを支えていくグレン・キーンやマイク・ガブリエル、マーク・ヘン、そしてハワード・アッシュマン等の完全なる新世代メンバーによって製作されました。
又今作は初めて大々的なCGアニメーションを本格導入したディズニー映画であり、今作で初めてCG部門も設けられています。
さらに今作はしばらく作られていなかったディズニーによる久々の本格ミュージカルアニメーションの復活作でもありました。
監督は中編映画「ミッキーの王子と少年」を手掛け、東京ディズニーランドにもあるアトラクション「ミッキーのフィルハーマジック」を監督・プロデュースした事でも有名なジョージ・スクリブナー。
脚本とストーリーは、ベテランのヴァンス・ジェリー、さらに今作公開前に37歳という若さで亡くなった若き才能ピーター・ヤング、さらに「 ポカホンタス」の監督で知られるマイク・ガブリエルや「美女と野獣」の監督コンビのカーク・ワイズとゲーリー・トゥルースデイル、「ターザン」の監督であるケビン・リマ等、正に90年代の第2黄金期を代表する面々が顔を揃えています。
音楽は「リロイ&スティッチ」等のディズニー作品も手掛けたJAC レッドフォード。
楽曲は「102」や「ホーム・アローン2」のジャック・フェルドマンやバリー・マンらがソングライターを、「ライオン・キング」の監督で知られるロブ・ミンコフや「リトル・マーメイド」以降の3作で一斉を風靡したハワード・アッシュマンらが作詞を手掛けました。
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あらすじ
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20240402/19/yuzupill/f7/2b/j/o1080058515420667649.jpg?caw=800)
夢が叶う街ニューヨーク。
明るく活気溢れた街の片隅で捨てられていた子猫・オリバーは偶然野良犬のドジャーとその仲間の野良犬達とそれを世話するホームレス・フェイギンと出会い、身を寄せることとなる。
フェイギンは古い船を住家にし、犬達と窃盗を生業に生活をしていたが、闇金融のサイクスからの借金の取り立てに首が回らなくなっていた。
あと3日で全額返済しなければ命は無いと脅され追い詰められたフェイギンの為に野良犬たちは「仕事」に精を出す。
彼らの仲間として迎えいれられたオリバーも共に「仕事」に励んでいたが、ひょんなことから金持ちの家の少女・ジェニーに拾われ連れていかれてしまう…。
オリバーが誘拐されたと知り直ちに救出に向かうドジャー達だったが、事態は思わぬ方向へ展開していく…。
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感想
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20240402/19/yuzupill/35/dd/j/o1080058515420667653.jpg?caw=800)
感想としては前作のオリビアちゃんと似たような印象を受けましたかね。
良作だけど決定力不足でインパクトに欠ける、、という。
有名なディケンズの小説、しかもなかなかに重厚な作品を、主要キャラクターの動物化やアメリカンテイストのギャグやミュージカル展開で子供も楽しめる完成度の高いエンターテイメント作品に仕上げてる点は見事です。
ズートピアやロビン・フットのように全キャラを動物の擬人化ではなく、わんわん物語やおしゃれキャットのように人間と動物の共存するリアル社会を舞台にしたのも正解だったと思います。
原作で主人公達を振り回す役柄であったサイクスやフェイギンを人間で、孤児であるオリバー達を動物で表現した事で、動物達を振り回す人間側とその中で必死に生きる動物達側という立ち位置がうまく重なりとてもわかりやすくなっています。
ストーリーは原作の大事なところは最低限残しつつおもいっきり簡素解釈したような内容で、ちゃんとディズニーらしい勧善懲悪のハッピーエンドに落としこめているので誰でも見易い展開にはなっていますが、ちょっと単純化し過ぎたかな…と。
平坦なコメディ展開にし過ぎて本来のテーマがちょっと見えづらくなっちゃってますし、引き込まれる程の内容にはなってないのが残念ですね。
結果何が見せたかったかがよくわからない感じにはなっちゃってますかね。
演出も少し癖があります。
特に80年代ニューヨークの街を強く意識した空気感やノリ、音楽等のクセが少々強く結構好き嫌い分かれるんじゃないかな、と。
ここで引き込まれるかどうかでこの映画の印象は決まっちゃう気がしますね。
キャラクターの面白さ
主人公オリバーは受動タイプであまり魅力的に描かれていませんが、それを囲むわんちゃん達はなかなか個性的で楽しい顔ぶれに仕上がってます。実質ストーリーを引っ張るのも彼らであり、完全に主役のオリバーを喰ってます。
このオリバーの個性の無さは実は原作でも言われてた事なんですけどね。
シンデレラのねずみ達と似てますね立ち位置が。
オリバーの家族になる女の子のジェニーも可愛らしく行動的に描かれていて、彼女が歌う「Good company(いつでも一緒)」はとても印象的なシーンです。
余談ですがこのcompanyという言葉、現代にも使われている(連れ合い、仲間)といった意味の一種のスラングですが、当時アメリカで流行していたこのスラングを使用しているのも、アメリカ的オリバーにしようという意図の表れなんでしょうね。
そして意見が別れそうな二人のキャラクター、サイクスとフェイギン。
個人的には実は今作で一番好きなのはこの2人のキャラクターの描き方です。
サイクスは今作のヴィランで闇金の金貸し。
所謂ディズニーらしい味付けのほとんどない、リアルにいそうな普通に恐い人です。金返さない客をコンクリで海に沈めろとか普通に言っちゃってる人。
フェイギンは野良犬たちの面倒をみてるホームレスで、犬達に窃盗をさせて生活をしてます。
自分の借金を返すためにオリバーを使って金持ちの家に脅迫を行おうとしちゃいますが、最後には改心して一緒に戦う「善」側のキャラ。
この二人の人間をどう捉えるかはかなり評価分かれる気がしますが、個人的には肯定派です。
これはこれでかなり面白いです。
というか正直目を引くようなインパクトや個性が乏しい今作の中で、この二人の存在は大きいです。かなりこの作品にスパイスを与えてくれてると思います。
サイクスの全然ファンタジー感の無い「リアル恐い人」感はディズニー映画の中では逆に個性的で、マレフィセントやアースラには無い種類の恐さがあります。
近いのはトレメイン夫人とかでしょうか。
もうちょい出番があっても良かったと思うくらい。
そしてフェイギン。
このキャラはそもそも原作では悪人として登場してます。
この作品でも途中までな微妙な立ち位置ですが最終的には根は良い人として描かれ、ハッピーエンドに加わりました。
犬に窃盗させて廃船で暮らすホームレスで、闇金に手をだし首が回らなくなり、猫で金持ちを脅迫しようとする人です。
これはまぁ確かに倫理的にどうなんだと感じますが、キャラクターとしてはかなり奥深く面白い人物になってると思います。
ポイントは2つ。
窃盗させつつ面倒みてる野良犬五匹にしっかり愛情を注いでいて、犬達もフェイギンを信頼してるということ。
金を返せずあと3日で死ぬかもしれないという絶望的な状況でも、ちゃんと犬達と優しくコミュニケーションをとり本の読み聞かせまでしている姿が描かれています。
やってる事は犯罪者なのですが、根っこが悪人ではないというのは丁寧に描かれてはいます。
そしてもう1つはラスト。
ハッピーエンドには加わりますが、彼を取り巻く状況は何も変わってないということ。
借金は無くなりましたが、引き続き金のない日暮らしホームレスである事は変わりませんでした。
他の犯罪者あがりのヒーロー、アラジンやユージーン、ニックのように何もかも幸せになり一件落着、にはしてないところもポイントだと思います。
結果善と悪が共存するとっても人間臭いキャラクターに描かれてるんですよね。
この二人の「リアルにいそうな人間臭いキャラクター性」は、個人的にはディズニー映画の中ではかなり新鮮で、この作品におけるわりと大きな見所になったと思ってます。
ミュージカルの復活
暗黒期に鳴りを潜めていた「ディズニーのミュージカル映画」を満を持して復活させた意気込みは感じますが正直、、個人的にはイマイチです。
音楽は登場流行していたアメリカンポップス、今で言うオールディーズに寄せた曲が多く、これまでのディズニー十八番の音楽とは一線を画します。好み分かれそうですが個人的にはハマりませんでしたね。
ミュージカルシーンも、ちょっと「ミュージカル!」を意識しすぎた演出がちょっと、、裏目なんですよね。
これまでの名作、そしてこの後のリトル・マーメイドから始める第二黄金期のミュージカルと比べちゃうとクオリティの違いは一目瞭然です。
ミュージカルが映画から浮いちゃってるんですよね。
ジョルジェットのシーンとかもベット・ミドラーの歌も相まって良い出来ではあるんですけど、全体の物語とテーマへの関連性が希薄で、ここまでの労力と時間を割くシーンでは無かった気がします。
ビリー・ジョエルとか有名ミュージシャンの起用はあまり良い方に作用してなかった気がしますね。ただ、前述のジェニーが歌うGood companyは文句なしに良かったです。
作画とアニメーションに関しては、CGを本格導入したクライマックス等は見応えありますが、基本作画は所々ちょっと粗いかなと。。
もちろん良い出来ではあるんですが、これまでのディズニーのような圧倒的な物ではなく。
それこそこの時代のディズニーのテレビ用のアニメーションに毛が生えたような物になっちゃってるのは否めない感じです…。
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感想
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20240403/07/yuzupill/28/c8/j/o1080058515420840656.jpg?caw=800)
総じて高い完成度でまとまっていて決して悪くないし、新体制での意気込みは感じるんですが、インパクト不足魅力不足と、透けて見える惰性感、細かいとこの粗がちょっと目立つかなぁといった作品。
名作になる可能性のあった素材なだけに…少々もったいなかったです。
ファミリーエンターテイメントとしては充分に良い作品ではあると思いますけどね。
ただ、、
収入的には暗黒期の中でも大変好調なスマッシュヒットを記録しましたし、優秀な人材を揃えての新体制、ハワード・アッシュマンの登場、そしてCG本格導入、ミュージカル復活、等など…。
もう「舞台は整った」感は凄く感じる一本すね。
あとは爆発するだけという、、。
そして、その爆発がいよいよ起こります。
長く苦しかった暗黒期を抜け出し、ここからディズニーはルネサンス(復活、再生)と呼ばれる第二の黄金期の幕開けへ。
では、また。