はぃどぅもぉ。
さて、今回はディズニーアニメーション映画史。時代は1970年代、ディズニーアニメーションスタジオのドル箱期とも言える時代へ。
この時代からディズニーの低予算・短期間でヒットを生み出そうとする所謂【ドル箱路線】が本格化し「ジャングル・ブック」「おしゃれキャット」は立て続けに成功を記録します。
圧倒的リーダーであったウォルトとその兄ロイの他界も乗り越え残ったクリエイター達で生み出した「ロビン・フッド」も無事にヒット。
ウォルト無しでもスタジオの存在感とクリエイティブパワーが健在な事を証明したディズニーは、ウォルトの置き土産であった「くまのプーさん」シリーズを1本のオムニバスにまとめた作品を公開。そしてその同年、これまで置きにいくような低予算作品を続けてきたウォルト亡きディズニーにおいて、本当の勝負となる大作がついにリリースされます…。
(※当ブログは基本ネタバレありです。ご了承下さい。)
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ビアンカの大冒険
(原題:The Rescuers)
1977年
監督
ウォルフガング・ライザーマン
ジョン・ラウンズベリー
アート・スティーヴンズ
データ
ウォルトディズニーアニメーションスタジオ23作目の長編アニメーション。
ディズニー初のドルビーステレオシステム対応映画。
当時低予算によるドル箱作品が続いていたディズニーでしたが、今作は1959年の「眠れる森の美女」以来となる高額な予算を投入して制作された久々の大作映画でした。
1970年代半ばにディズニーが採用した新世代アニメーター達(後のディズニーを背負う事になるグレン・キーンやロン・クレメンツら)による最初の作品であると同時に、これまでディズニーアニメーションを支えてきたベテラン集団ナイン・オールドメンのメンバーが最後に本格制作した長編アニメーション作品でもあります。
原作はイギリスの作家マージェリー・シャープの小説「小さい勇士のものがたり」と「ミス・ビアンカのぼうけん」。
ですが、原作というよりはあくまで参考元といった程度に留まっており、ストーリーや設定の多くは大きく改変・もしくはディズニーのオリジナルとなっています。
ネズミ国際救助救援協会に所属するビアンカとバーナードが本部に届いたとある人間の女の子の救助要請を受け救出の為奮闘する姿を描いたファンタジーアドベンチャー。
この企画の始まりは1960年代からであり、映画化権獲得後ウォルトの指揮により制作が進められていました。しかし当時のストーリープロットに政治性が内包されていた事をウォルトが気に入らず制作は一時中止。
1970年代に入り新世代アニメーター用のプロジェクト作品として企画が再立し、本格的な制作がスタート。
最終的には新世代と旧世代クリエイターによる初めてのコラボレーション作品となりました。
1960年頃から比較的作風の軽いコメディ映画をリリースしてきたスタジオでしたが、今作はウォルトが居なくなって初めて本格的なストーリードラマ映画に挑戦した作品でもあります。
この時代の象徴でもあったゼログラフィによる予算を削減した粗いアニメーション画風ですが、今作からそれが大きく改善され、1950年代以前の柔らかく繊細なタッチが復活した事でも有名な1本です。
監督を務めたのはベテランアニメーション職人集団であるナイン・オールドメンのメンバーウォルフガング・ライザーマン。
そして同じくナイン・オールドメンのジョン・ラウンズベリー。
しかし本作の制作中にラウンズベリーが他界。ベテランアニメーターのアート・スティーブンスが代理を務めました。
脚本とストーリーはケン・アンダーソンやナイン・オールドメンのフランク・トーマスの他、ラリー・クレモンズやヴァンス・ジェリー、さらに70年以上のディズニーキャリアを誇り2023年に亡くなったレジェンドバーニー・マティンソンも参加しています。
音楽はアーティー・バトラー。今作が初であり唯一のディズニー作品となっています。
楽曲は「ふしぎの国のアリス」「ピーター・パン」でもディズニーに沢山の名曲をもたらしてくれたサミー・フェインとキャロル・コナーズ&アイン・ロビンス。
本作の主人公であるビアンカ役を務めたのは「おしゃれキャット」ダッチェス役でも知られるエヴァ・ガボール。社交家・実業家としても有名な方でした。日本語版は小原乃梨子さん。
ビアンカの相棒バーナード役には俳優でありコメディアンのボブ・ニューハート。日本語版は安原義人さん。
ヴィランであるマダム・メデューサを演じたのは当時アカデミー女優であるジェラルディン・ペイジ。日本語版は吉田理保子さん。
メデューサの手下であるスヌープス役にはコメディ俳優として人気を博していたジョー・フリン。公開前に他界され、今作が遺作となりました。
日本語版は龍田直樹さん。くまのプーさんのラビット専属声優としても知られています。
高額な予算を投入された大作でしたが興行収入では大きな収益を上げることに成功し、「ジャングル・ブック」以来、そしてウォルトが亡くなってから初となる正真正銘の本格大ヒットを記録しました。
評価面でも一般評価・批判化レビュー共に非常に高い支持を獲得し、子供だけではなく大人も楽しめる映画としてのドラマ性や臨場感、ファンタジーとリアルのバランス、ビアンカとバーナードの素朴ながらも魅力的なキャラクター性等を中心に【ウォルト亡き後のディズニー最高傑作】と絶賛され、停滞していたスタジオの評価と信頼を回復する事に成功しました。
その人気は長きに渡り、13年後の1990年には何とディズニースタジオ史上初となる長編続編作品が公開されるまでに至ります。
フランスでは「スター・ウォーズ」を上回る興行収入を記録する等海外でも絶賛されますが、一方で何故か日本では他国程の爆発的ヒットにはならず、現在に至るまで比較的マイナーな作品に数えられる立ち位置に留まっており、本国と日本とで評価と知名度が大きく違うディズニー作品の代表格となっています。
しかしそんな日本においても、ファンの間からは名作として長きに渡り愛され続けている1本です。
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あらすじ
ここはニューヨーク。
ネズミ達は人間の生活の裏側で人間と同じような社会を形成し暮らしている。
ある日、国連総会の裏で開かれていたネズミ国際救助救援協会本部に、人間の少女ペニーから瓶に入った救助を求める手紙が届く。
協会のメンバーであるミス・ビアンカとバーナードはその手紙を受け、ペニーという少女の救出に向かうことになる。
しかし肝心の手紙は所々文字が消え、完全に解読する事は不可能であった。
2人はまず手がかりを探すため、手紙に記されていた【子供の家】なる孤児院に赴くが。。
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感想
これまで、特にウォルトが亡くなってからは低予算のコメディ映画でどちらかと言うと逃げの姿勢だったディズニーが、新世代旧世代全ての総力を結集して【長編映画】として久々にガチの勝負に出たのが今作。
直近の作品に見られていた軽さやシュールさは影を潜め、映画としてのドラマ性やストーリー性等演出と構成に非常に力を入れた1本です。
わかりやすくこれまでと違う作品にしよういう努力が表れていて、この作品で形にした所謂「ルネサンスディズニー」の雛形が後の「リトル・マーメイド」以降の快進撃に大きく繫がっている事がよくわかります。
細かなところも含めて実は今までのディズニー映画とは少しずつ違うことを色々とやっているんですよね。
ただこの作品だけ単体で観ると、まだまだ洗練されていないと言うか…
ちょっと色々と詰め込みすぎたかなぁ、というのが正直な印象です。
丁寧な作品造り
そのアニメーションと作画の細やかさが象徴するように、この時代のディズニー作品の中では間違いなく群を抜いて丁寧に作られています。
演出や構成等全てにおいてそうなのですが個人的に好きなのはその世界設定。
よくある動物物なのですがこれまでと違うのは、人間社会の裏側でネズミや動物達が同じような社会を形成して生活しているということ。ロビンフッドやズートピア、あとミッキー達は単なる動物の擬人化世界ですが、今作はそうではなく、人間社会はしっかりとあり、あくまでもその影に隠れるように擬人化動物達が生活をしている…
というのが実はわりと新鮮な設定でした。
人間達が国連総会を開いているその裏で、それぞれの国の人間の荷物などに忍び込んで付いてきた各国のネズミ達が集まって「ネズミの国際救助救援協会」を開いていたり…
人間達が使う飛行機の空港の隅にひっそりと動物用の「アホウドリ航空」が存在していたり…
それぞれの描写の丁寧さも相まってとても面白かったです。
子供だけは動物と話せることを知っている…という設定もしっかりしてて、そこも良かったですね。
この世界観は後の「オリビアちゃんの大冒険」なんかにも踏襲されています。
それともう一つ。
個人的にこの作品で一番良いと思ったのが、前半の謎解きパートです。
この作品は前半に救助要請の手紙を頼りにその差出人の素性やその子に何があったのかをビアンカとバーナードが聞き込み等で探っていく、非常に地味なパートが挿入されています。
これは一見退屈に思えるパートですがこれにより救助相手である少女のバックボーンを視聴者もビアンカ達も知ることになり、さらにビアンカとバーナードのキャラ個性のイントロダクションもここでしっかり成されている為、このパートのお陰で少女側とビアンカ側両方に対してより感情移入しやすくなっているんですよね。
さらに後半のドタバタ劇と対をなす静かなパートなので物語にも緩急がつき一本の映画として深みを増すことにも成功しています。
まったく無関係なシーンとかではなく、本筋上にしっかり乗っかっている地味ながら丁寧な序章。
そしてそこで全てネタを明かすのではなく、メデューサが何故ペニーをさらったのかという謎だけは後半までちゃんと引っ張るんですよね。
これがちゃんと出来てるディズニー映画ってホントに少ないと思うんです。
この丁寧なプロットの構成は1本の映画としてホントに素晴らしいと思いました。
キャラクターに関しても地味ですがホントに丁寧に練られています。
決して個性的とまではいかないけれど、ちゃんとそれぞれの特長が生きていてコンビになることでちゃんとより面白くなってるビアンカとバーナードのバディ。
脇役も爆発的なのはいないけど、1つずつしっかり個性を持っていてそれぞれがしっかりと異なる役割を担っています。
ヴィランも含めクスッとしてしまう小さな面白キャラが散りばめられていてこの辺は流石だなと思いました。
ディズニー映画として
ただ、前述のように良いところはいっぱいあるのにどうも印象がパッとしない。
その要因の大きな部分として個人的に感じるのは「これまでのディズニーと違うもの」を意識し過ぎてしまったことにあると思います。
ディズニー映画としては新鮮ですが、結果的に「どこかで見たことがある普通の映画」っぽさがすんごく増しちゃってるんですよね。
演出や起承転結の展開、見せ方、等全てがなんかどこかで見たことある普通の映画なんですよね。
意識しすぎた事が裏目に出たかな、と。
ディズニーとして新しくても、映画としては全く新しくない、むしろ定番の造りってことです。
すべての要素が平均して【良い】んだけどその上の【驚き】や【感動】には至っていない感じなんです。
キャラクターも同様。
余談ですが、今作のヴィランは当初「101匹わんちゃん」のクルエラ・デ・ビルが再登場する予定でした。
しかしクルエラに対抗心を燃やしていたアニメーターのミルト・カールがそれを頑なに拒否し、クルエラを越えるキャラクターを目指して生み出されたのがメデューサです。
メデューサも悪くないんですが、、正直それこそどこにでもいる映画の平凡な悪役の域を越えられてないんですよね。
そして音楽。
これが正直非常にパッとしない。
これもまさしくディズニーらしくない音楽を狙って、失敗してる感が強いです。
実際に今作はディズニー映画で初めてオーケストラレーションではなくポピュラー音楽で劇伴が作られています。
楽曲も、ミュージカルではないのを差し引いてもやっぱりどうしてもパッとしない。
唯一良かったのは「国際救助救援協会」のテーマソングだけですかね、、。
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まとめ
個人的ディズニー映画ナンバーワン勿体ない大賞ですねw
本当に、ウォルト亡き後のディズニーを背負って立つクリエイター達の気概と情熱はひしひしと感じるし、実際大作の名に全く恥じない圧巻のトータルクオリティの高さを誇っています。
ストーリーも練り込まれてるし細かな設定や演出等にも気が配られている。
アクションもアドベンチャーも軽いミステリも内包されたエンタメ性も申し分ない。
良い映画です。
ただ残念ながらディズニー映画として観るととても新しく驚きに満ちた1本と言えますが、いち映画として観ると【普通に良い映画】の域を全く越えないんですよね。
この映画観て改めて思いましたが、世間で言うところの「ディズニーっぽい」って、それだけでもう本当に圧倒的な個性なんですよね。
まぁただ、これはまだまだ発展途上。
この作品から始まった新世代ディズニーの息吹はこの後さらなる試行錯誤を繰り返して、ゆっくり新たなディズニーらしさを形成していくわけですからね。
全てはゆっくりと【映画】としても【ディズニー映画】としても世界的に認められたあの「美女と野獣」に繋がっていくわけですから。
この作品はその最初の一歩だったわけです。
ただ、大人も子供も最後まで飽きずに楽しめるとても良質なエンタメ映画になっている事は間違いなく、少々地味目ではあれどトータルクオリティは全ディズニー映画の中でも上位に入る程の出来栄えだと思います。
そして、前述したような歴史的背景から見ても、ディズニー映画を語る上で絶対に外せない重要な1本である事も間違いありません。
日本では特にマニアック扱いなこの作品ではありますが、紛れもないディズニー代表作の1つです。
ぜひ未見の方には一度はチェックして頂きたい作品ですね。
本当に良い映画なので!
「ビアンカの大冒険」は現在ディズニープラスで配信中です♪
はい。
というわけで今回はこの辺で!
今回も長文駄文にお付き合い頂きありがとうございました♪
しーゆーねくすとたぁいむー。