はぃどぅもぉ。
さて、今回は2週目のディズニーアニメーション映画史。時代は1960年代、ディズニーアニメーションスタジオの停滞期とも言える時代へ。
シンデレラの大成功のおかげで安定を取り戻した1950年代から一転、「眠れる森の美女」の収益的失敗とウォルトのディズニーランド運営やテレビ事業への事業拡大で再び窮地に追い込まれたディズニー。
それを救ったのは、大幅に経費や労力を削減できる新技術ゼログラフィを使用した前作「101匹わんちゃん」の大ヒットでした。
これにより低予算・短期間でもヒットを生み出せる手応えを掴んだディズニーは、これ以降その所謂【ドル箱路線】を継続していく事になります…。
そんな中で次に公開された最新作は、前作「王様の剣」の不調を深刻に受け取ったウォルトが久々に深く関与して制作された1本であり、同時に彼が生前直接関与した最後のアニメーション映画となりました。
(※当ブログは基本ネタバレありです。ご了承下さい。)
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(原題:The Jungle Book)
1967年
監督
ウォルフガング・ライザーマン
データ
ウォルトディズニーアニメーションスタジオ19作目の長編アニメーション。
原作はイギリスのラドヤード・キプリングによる1894年の著名な同名小説。1930年代から同作の映画化を検討していたウォルトが、長い交渉の末1962年頃にに映画化権を獲得。
「王様の剣」に継ぐ作品として「もっと面白いアニマルムービーが作れる」というストーリーアーティストのビル・ピートが提案した事から制作がスタートしました。
前作の「王様の剣」の収益不調から、ウォルトが久々に自ら制作に直接深く関わりますが、その完成を待たずに彼は他界。
ウォルト亡き後初めて公開されたディズニー作品【ウォルトの遺産】としても有名な1本となっています。
キャラクターのベースや大まかな筋は原作に基づいてはいるものの、これまでのディズニーの有原作作品以上に全体を通して大きな改変が行われています。
「101匹わんちゃん」から導入されたゼログラフィ技術も引き続き採用され、アニメーターのケン・アンダーソンを中心にアニメーション作業の効率化と低予算化が行われました。
監督を務めたのはベテランアニメーション職人集団であるナイン・オールドメンのメンバーウォルフガング・ライザーマン。
脚本とストーリーはラリー・クレモンズやラルフ・ライト等のベテランから当時若手だったヴァンス・ジェリーまで、精鋭クリエイターの4人が担当。
当初は「101匹わんちゃん」「王様の剣」に引き続きビル・ピートが単独でストーリーを担当していましたが、その方向性でウォルトとピートは決定的に対立し、ピートは降板。
そのままスタジオを避ります。
ウォルトは上記の4人を中心にストーリーを再構築し直し、ピートの名は今作にクレジットされる事はありませんでした。
音楽は「101匹わんちゃん」「王様の剣」からジョージ・ブランズが担当。1960〜1970年代にかけて多数のディズニー作品を手掛けたアーティストです。
楽曲を制作したは「王様の剣」に引き続きシャーマン兄弟。「メリー・ポピンズ」や「イッツ・ア・スモールワールド」で名声を浴びたディズニーミュージックレジェンドです。
こちらもまた当初はテリー・ギルキソンが楽曲を担当していましたがウォルトの意向でシャーマン兄弟と交代に。
しかしシャーマン兄弟の提案でギルキソンの作品の中から「The Bear Necessity」のみは映画に採用され、結果的に今作の代表曲となりました。
本作の主人公である少年モーグリを監督であるウォルフガング・ライザーマンの息子であるブルース・ライザーマンが演じました。
彼は「くまのプーさん」の初代クリストファー・ロビン役としても知られています。
日本語版は中崎達也さん。
くまのバルー役には当時コメディアンとして活躍していたフィル・ハリス。今作をきっかけにディズニーのボイスアクトとして様々な役を演じていきました。日本語版は郷里大輔さん。
黒豹のバギーラを演じたのはセバスチャン・カボット。前作「王様の剣」から連続での出演となりました。
日本語版は今西正男さん。
猿の王様キング・ルイ役にはジャズ・バンドマンとして知られるルイ・プリマ。日本語版は石原慎一さん。
その他にも初代プーさんで有名なスターリング・ホロウェイや様々なディズニーキャラクターを演じ分けるベテランのJ・パット・オマリー等、様々なジャンルから実力者達が集っています。
それと今作は特にキャスト陣の外見的・内面的・能力的特徴がダイレクトにキャラクターに反映されているのも大きな特徴です。
「101匹わんちゃん」からの流れである低予算・短期間制作を引き継ぎつつも、ウォルトが久々に、そして最後に、制作へ直接深く関わった事で幾重にも渡る作り直しやクリエイターの交代を繰り返しながら緻密に練り上げられた、まさにウォルト渾身の1本となりました。
興行収入としては「101匹わんちゃん」を凌ぐ驚異的な特大ヒットを記録。
数字面で言うと、今作を越えるディズニー映画は1989年の「リトル・マーメイド」まで実に20年以上も現れなかった程です。
評価面でも一般評価・批判化レビュー共に比較的高評価で受け入れられエンターテインメント映画として絶賛されますが、それ以上にウォルトの死の直後という時事から来る【メモリアル】的な評価と人気が大きかったのも事実でした。
現在でも【ウォルトの最後の作品】というパブリックイメージが強く残っている作品ではありますが、その一方で作品としても改めて非常に高い評価と人気を獲得し続けています。
続編やスピンオフ、実写化など様々な関連作品も次々に公開され、初リリースから半世紀以上が経過しても尚、世界中の人々から愛され続けている、ディズニーの大きな代表作の1つです。
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あらすじ
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20220216/11/yuzupill/be/e0/j/o1080064815075805569.jpg?caw=800)
インドにあるとあるジャングル。
ある日黒豹のバギーラは人間の赤子を発見する。
バギーラの機転によって狼の群に育てれる事になった赤子はモーグリと名付けられ、群れの中で明るく元気に成長する。
が、そんな時、人間を狙う狂暴なトラ、シア・カーンがジャングルに戻ったというニュースがジャングルを駆け巡る。
事を知った狼達やバギーラは、シア・カーンに狙われる前にモーグリを人間の村へ送り届けようと計画する。
ジャングルに居続けたいモーグリはバギーラに反発しながらも、陽気な熊のバルーや、怪しい蛇のカー、人間になる事を夢見る猿の王様キング・ルイに出会いながら人間の村へ向けての道中を進んでいく…。
一方獰猛な虎のシア・カーンは人間の子供モーグリの噂を聞きつけ、密かにジャングルを探し回っていた…。
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感想
この作品もあらすじや雰囲気だけ見るとライオンキングやバンビ、ターザンのような壮大な自然界のストーリーを彷彿とさせますが、「王様の剣」同様作風は終始ライトで明るくそれでいてどこか淡々ととりとめのないフランクな雰囲気で構成されています。
キプリングによる原作は、作者が親に捨てられた孤児であったという体験から基づいて、動物の擬人化により人間社会の問題や闇を間接的に描く非常にシビアでシリアスな空気の強いものでした。
最初に脚本を手掛けたビル・ピートはこの原作のテーマや筋に忠実なストーリーを書きます。
しかし「エンターテイメントとしてもっと楽しくもっと陽気に…」と望んだウォルトはピートと対立し、結果ピートはディズニーを退社。
そこからウォルトの要望通り、明るく楽しいジャングルエンターテイメントとして大規模なリライトが行われました。
ウォルトはクリエイター達に「怖く、暗いシーンを楽しく表現してみろ!」と指示していたそうです。
完成した作品は、正にそのウォルトの言葉通りの1本となりました。
モーグリの育ての親であるオオカミとの絆とか…
人間世界と動物世界の間で揺れ動くモーグリの葛藤とか…
人間が猟師になり自分達を殺しに来る前に処分し自分を守ろうとするシア・カーンの信念とか…
そういう描こうと思えばいくらでも描けそうな深みのある展開は一切ありません。
ストーリーも実に薄く浅はかな物に変貌。
何の根拠も理由もなく「ジャングルがいい!」と繰り返し、自分を守ろうとしてくれてる人達に反発しては危ない目にあって助けられてまた反発してを繰り返すモーグリが、ジャングルの面白い人達に出会って遊んで狙われて、最後は人間の女の子に誘惑されてあっさりとジャングルや仲良くなったバルー、お世話になったバギーラを捨て人間の村へ消えていく…
というとっても淡白なお話になっています。
しかし、その代わりにこの作品は最高のキャラクターエンターテイメント作品として絶対的な輝きを放つ作品になりました。
ファンタジア等を通して、時にはエンタメ性よりもアニメーションの芸術性を追求したウォルトが最後に望んだのは…陽気で明るい最高のファミリーエンターテイメントだった…
という事ですね。
圧巻のキャラクターショー
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20220216/11/yuzupill/4d/c4/j/o0500028115075805574.jpg?caw=800)
まるで短編映画を繋ぎあわせたような、レビューショーのような構成、次々とおもちゃ箱が開くように現れる楽しい音楽とキャラクター達。
個人的にはこの作品はさしずめジャングル版のふしぎの国のアリスだなと感じました。
モーグリはあくまで案内人で。
彼がジャングルで出合う陽気でマヌケなバルー、火を使えたら人間になれると思い込んでる猿の王様キングルイ、何故するかはわからないけどただひたすら毎日パトロール行進を繰り返す象の軍隊。
何をする?何をしたい?の問答を木の上でひたすら繰り返すビートルズにそっくりなハゲタカ四人組。
ヴィランの方では子悪党なのに優しい声をした(初代プーさんの声優スターリング・ホロウェイ、吹き替えもプーさんの八代駿さんが演じています)ニシキヘビのカーが独特な雰囲気を放ちます。
どれも振りきれた曲者揃いで見ていてまったく飽きません。
バンビの時に徹底的に研究した動物の動作原理の描写も非常に活きていて、各動物のモーションは本当に素晴らしいです。
そしてシャーマン兄弟の才能が存分に発揮された名曲の数々。
特にバルーが陽気にジャングルでの暮らしの楽しさを歌う「ザ・ベアー・ネセシティ」。
↑この曲はシャーマンの曲ではありませんが、彼らの意向によって作品の大事な一曲として使用されました。
キング・ルイが人間になりたい願望をノリノリのビートで歌う「君のようになりたい」。
はディズニー映画の名曲の1つとして今も広く愛され、抜群の知名度を誇ります。
キング・ルイのシーンは個人的にはこの映画のハイライトですね。
ノリノリの音楽で踊る動物達からドタバタのアクションギャグ、昔の短編作品を見ている様なディズニー十八番の見事な出来栄えでした。
それと地味な曲ではありますがラストに人間の女の子が歌う「My Own Home」という曲は、正にシャーマン兄弟の才能が遺憾なく発揮された名曲です。
「メリー・ポピンズ」の名曲「Feed the Birds」を彷彿とさせる美しい楽曲なんですよね。
ストーリー映画として
前述通り、原作にあったシリアスな物語性はとても薄くなり、モーグリをはじめ登場キャラクターは皆どこか軽率で思慮に欠け、ストーリー映画としては決して褒められた物じゃない内容になっているのも事実です。
実際にこの部分を期待していた観客からは批判の声も多く上がっています。
さらに言うとアニメーションも、この時期特有の粗っぽく軽い画風がさらに強くなっているのでここも好き嫌いが別れるポイントでしょう。
ウォルト渾身の一作なのは間違いありませんが、予算的にはあくまで低予算のドル箱方針の作品なので、こういうデメリットは随所でやはり見られています。
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まとめ
個人的には正直両手を挙げて大傑作と称えることは出来ない部分は結構あります。
特に主人公モーグリに全く共感・感情移入出来ない作りは、いくらエンタメに振り切った作品とはいえディズニー映画としては結構致命的だと思います。
それと原作の改変に関して。
やはり個人的には同名のタイトルで、公式に原作として作るのであればある程度、せめてテーマや方向性は原作に準拠するべきだと思っている人です。
そういう観点から見ると、最初にストーリーを書いたビル・ピートがウォルトに喰い付いた気持もわからないではありません。
しかし、それでもやはりウォルトが最後に、信頼しているクリエイターたちと真っ向から衝突してまで、反対意見を押し切ってまで、「兎に角楽しい映画」を突き詰めた事実。
振り切った極上のエンターテインメント映画として、こだわりと魂をひしひしと感じる特別な作品である事は間違いないです。
楽しい音楽と魅力的なキャラクターと描き込まれたアニメーション。
それを突き詰めれば脚本が薄くても十分に良い映画になるんだ…という、ディズニー映画のある側面での完成形とも言える1本だと思いますね。
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はい。
というわけで今回はこの辺で!
今回も長文駄文にお付き合い頂きありがとうございました♪
しーゆーねくすとたぁいむー。