はぃどぅもぉ。
さて、今回は2週目のディズニーアニメーション映画史。時代は1950年代、ディズニーアニメーションスタジオの安定期。
シンデレラの大成功のおかげで傾いていたスタジオは完全に持ち直し、続く「ピーター・パン」や「わんわん物語」が大ヒットを記録し、勢いにのるディズニー。ウォルトは映画製作よりもディズニーランド運営やテレビ事業に注力していきます。
そんな中、前作のわんわん物語から実に約4年の空白の後に公開された長編アニメーション作品は、ディズニースタジオの総力を結集させた新感覚のプリンセスムービーとなりました。
(※当ブログは基本ネタバレありです。ご了承下さい。)
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眠れる森の美女
(原題:Sleeping Beauty)
1959年
監督
クライド・ジェロニミ
ヴォルフガング・ライターマン
エリック・ラーソン
レス・クラーク
ウォルトディズニーアニメーションスタジオ16作目の長編アニメーション。
「白雪姫」「シンデレラ」に続く3番目のプリンセスムービー、そしてディズニーによるプリンセス映画の集大成として実に10年近くの期間を費やして制作・公開された超大作でした。
原作はフランスの作家シャルル・ペローによる同名童話及びチャイコフスキー作のバレエ作品。
主にペロー版の前半部分を主題とし大きく改変・再構築が行われています。
【これまでの物とは一線を画する、最高のプリンセス映画を…。】
という、ウォルトの並々ならぬ想いから始まった今作の制作ですが、当のウォルトはディズニーランド運営とテレビ事業へ完全に興味が移行しており、制作は難航を極めます。
1つ1つの事柄に対してウォルトの承認待ち…という状況が何ヶ月も続く事もあり、1950年代前半完成を目指していた制作は大きな遅れを余儀なくされました。
そんな中で、クレジットされていない人達も含めて何人ものクリエイター達が今作に携わり、人員の入れ替わりが何度も行われながらも今作と向き合い続け、このディズニーの大きな挑戦を長い歳月をかけて形にしました。
制作を指揮したのはケン・ピーターソン。
ベン・シャープスティーンの後継として1960年代まのでディズニー作品を支えた人物です。
監督を務めたのは当時のディズニーの中核を担っていたクライド・ジェロニミとベテランアニメーション職人集団であるナイン・オールドメンのメンバー、エリック・ラーソンとレス・クラーク、そしてウォルフガング・ライザーマン。
脚本には「ファンタジア」「シンデレラ」や「ふしぎの国のアリス」等の脚本も務めたアードマン・ペナーなどが担当。
音楽は今作で初のディズニーミュージック、そして初の映画音楽を務めることとなったジョージ・ブランズ。今作をきっかけとして今後多数のディズニー作品を手掛けていくことになりました。さらに今作はチャイコフスキーによる同名のバレエ作品の音楽を使用した楽曲制作が行われた事でも有名です。
産まれた直後に呪いをかけられたプリンセスオーロラと隣国の王子フィリップのロマンスと魔女マレフィセントとの戦いを描いたファンタジーミュージカル。
主役のオーロラ姫を演じたのはオーディションでウォルトから直接選出されたメアリー・コスタ。
日本語版はアリエルやムーラン、さらにはターザンのジェーン役等、まさにディズニープリンセスの第一人者とも言えるすずきまゆみさん。
王子のフィリップを演じたのはビル・シャーリー。映画「マイ・フェア・レディ」でも知られる俳優です。日本語版はベテランの古澤徹さん。
ヴィラン・マレフィセントを演じたのは「シンデレラ」のトレメイン婦人に続き2度目のヴィラン役となったエレノア・オードリー。
日本語版は沢田敏子さん。80歳を過ぎた現在でも尚、パークやゲーム等様々な作品でマレフィセントを演じ続けています。
ヒューバート王役にアリスの白うさぎやピーター・パンのミスター・スミー役等で知られるビル・トンプソン。日本語版は富田耕生さん。
ステファン王役にはこれが最後の出演作品となったブロードウェイスターのテイラー・ホームズ。
日本語版は徳川龍峰さん。
また3人の妖精役にヴァーナ・フェルトン(シンデレラのフェアリー・ゴッドマザー等)、バーバラ・ルディ(わんわん物語のレディ等)、バーバラ・ジョー・アレン。日本語版は麻生美代子さん、野沢雅子さん、京田尚子さん。
日米ともに実力者が揃った非常に豪華なキャスト陣となっています。
これまでのプリンセスムービーを凌駕するべく、アニメーションで初めて70mmスーパーテクニラマ方式のカメラを使用した映画であり、当時最先端であったステレオ音響システムを使用する等、映像にも音楽にも拘り抜いた超大作として制作・公開されたディズニー渾身の1本でした。
興行収入としては大ヒットと言える数字を記録しアカデミー賞にもノミネートを果たすものの、制作費に莫大な費用がかかり過ぎてしまった為に収益面ではなんと赤字を記録してしまいます。この大きな収益的な失敗はウォルトを大きく失望させ、彼の映画製作離れに拍車をかける事になり、結果沢山のクリエイター達が解雇されてしまいました。
しかし、評価面では公開直後こそストーリープロットの緩慢さやキャラクター性の薄さ等が批判されましたが、時が立つに連れ作画デザインやアニメーションの芸術的な美しさや音楽、マレフィセントのキャラクターが大きく評価されていき、数度に渡るリバイバル上映では大きな収益的成功を収める事になります。
現在ではディズニーを代表する「特に芸術的に優れたストーリーアニメーション作品」として確固たる地位を築き、国立フィルム登録簿殿堂入りも達成。
様々なクリエイター達や以降のディズニー作品「ポカホンタス」「アナと雪の女王」「ウィッシュ」等にもアートデザインや芸術性の方面で多大なる影響を与えました。
ディズニープリンセスムービーのマスターピースとして作品の知名度も非常に高く、特にマレフィセントは数あるディズニーヴィランの中でもトップクラスの人気を誇る「ディズニーを代表する悪役キャラクター」となり、2014年には彼女を主役としたスピンオフ実写作品も公開されています。
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あらすじ
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20240209/01/yuzupill/9c/70/j/o1080060715399173788.jpg?caw=800)
ここはヨーロッパのとある王国。
国王と王妃、そして国中が長年待望していたプリンセスがついに生誕し、国を上げての祝祭が開かれた。
国が信頼する3人の妖精達からそれぞれ、美しさ、歌声のギフトが贈られるが、そこに魔女・マレフィセントが突然乱入する。
マレフィセントは自分だけ祝祭に招待されなかった腹いせに、赤ん坊のプリンセスへ呪いをかけてしまう。それは【16歳の誕生日までに糸車で指を刺して死ぬ】という恐ろしい呪いだった。
最後になった3人目の妖精・メリーウェザーはせめてものギフトとして【死ぬのではなく眠りにつくだけであり、真実の愛のキスで目覚める】という希望を贈る。
マレフィセントの呪いを恐れた王は国中の糸車を一つ残らず処分し、プリンセスは3人の妖精と身を隠すように森の奥深くで暮らすことになった。
そうして16年の歳月が間もなく過ぎ去ろうとしていた…。
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感想
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20240209/10/yuzupill/1f/4e/j/o1080060715399250400.jpg?caw=800)
大ヒットを記録したプリンセス映画シンデレラに続けと言わんばかりに、これまでの2作を凌ぐ最高のプリンセスストーリーとしてディズニーが巨額を投じ五年以上の歳月をかけて世に送りだした大作がこの「眠れる森の美女」。
しかしながら、この時期はやはりウォルト本人はディズニーランド運営とテレビ事業で多忙を極めており、実際は今作の制作に関してはほぼスタッフに丸投げの状態でした。
スタジオにもほとんど顔を出さず、上がってきた進捗に決定を下すのみ。
そんな状況にクリエイター達からは不満の声が噴出していたと言います。
そんな中で制作された今作は、色彩や背景作画の美しさ、聞き応えのある芸術的なワルツ音楽等、ポップな楽しさよりもアート性の高いシーンが多く、ファンタジア、バンビに並ぶ、ディズニー長編アニメ久々のガッツリ大人が観ることを意識して作られた作品と言えるでしょう。
つまり、ウォルトが兼ねてから目指していたファミリーエンターテイメントの最高峰とアニメーション映画の芸術性の拡大という2つの要素を融合させようとした作品と言えると思います。
しかし、その凝った芸術的ディテールとは対照的に、ストーリーやキャラクター描写がそれに追いつかなかった感がどうしても否めない作品というのが正直な感想です。何度も見たんですけどね。
ピーター・パンと同じで「ディズニーがこの作品を通して何をしたいのか」が明確に伝ってこないんですよね。
もちろん芸術性に特化したプリンセスムービーを、、というのはわかるんですが、それも正直中途半端なんです。(実際に今作は制作の過程でキャラクターやストーリーがおまけになる…という理由で敢えて絵画的だった背景画等のレベルを落としたりもしています。)
これまでのプリンセスストーリーは原作の物語をディズニーなりに咀嚼し、独自のテーマとヴィジョンを持って、見せたいものを明確に作品で表現していました。
今作にはそれが見られない。
正直ストーリーやキャラクターに関しては白雪姫やシンデレラの劣化版と繋ぎ合わせ…のように感じてしまいます。
実際にこの2作のボツになったアイデアやシークエンスが今作には多数使用されているそうです。
この辺は正直、ウォルト不在の影響がとても大きいのかなと思いますね。
圧倒的な部分も多々ある作品なだけに、このストーリーとキャラクターの消化不良感がホントに残念でした…。
※劣化した主人公像
主人公であるローズ(オーロラ姫)はおそらく史上最も個性の薄いプリンセスです。
受け身であるのは白雪姫やシンデレラもそうなんですが、白雪姫には小人との触れ合いによるキャラクター性の深堀り、シンデレラには丁寧に描かれたバックボーン描写(以前シンデレラの記事で詳しく書きました)がありました。
ローズにはそれらのフォローが全くなく、こちらが感情移入できるほどのキャラクターとしての魅力がないように感じました。
この2人のプリンセスとは全く違った個性を…と意識して作られたキャラクターとの事ですが、それが裏目に出てしまった気がしますね。
冒頭の赤ん坊期からいっきに16歳まで話が飛ぶのですが、ダイジェストとかでも良いのでその16歳に至るまでの妖精3人との日々を少し描いてくれたらまた違ったのになぁ、と。
多分白雪姫やシンデレラの時のディズニーならここに時間と労力を使って丁寧に描いていたでしょう。
王子のフィリップに関しても、これまでのアイコン的なプリンスとは違う個性付を…という意気込みは感じるものの…見せ場は沢山あるのにやはりどこか薄く、魅力的なキャラクターとしては描けていません。
結果ストーリーを終始引っ張るのは第3者である三人の妖精であり、その妖精達やステファン王とヒューバート王のコミカルなやりとり等脇役達はなかなか良い味は出してはいるのですが、主役の二人の薄さを補うまでには至っておらず、、
そのアートチックで高尚な雰囲気漂う描写も相まって結果白雪姫やシンデレラに比べどこか見てる方が置いてけぼりになってしまう感覚が全体的にあります。
それとこれ結構大きいと思うんですが、後半からオーロラ姫とフィリップ王子が一切喋らなくなってしまうのはあれはどうしてなんですかね。。。
前半は普通に喋って歌ってたのに。。
これが第3者感をよりいっそう強くしちゃって物語に入り込めないのと二人の印象をさらに薄くしちゃってる大きな要因だと思います。。
何か大人の事情とかがあったのか、もしくは芸術性を重視する為の演出か。演出だとしたら正直大失敗だと思うんですよね。
マレフィセントとか妖精達は普通に喋ってるのに、フィリップがマレフィセントと会話したり戦ってる緊迫のシーンでも、妖精達とフィリップの初邂逅でも、最後オーロラが目覚めて二人が結ばれるフィナーレでも、一切無言なんですよ二人が。
すっっごく不自然なんですよね。
これが個人的にこの作品最大の問題点にして永遠の謎です。。
誰か知ってる人がいたら教えてほしいくらいです、、。
※最強ヴィラン爆誕
やはり今作の最大の魅力と言えばなんといっても、ディズニーヴィランの中でも圧倒的な知名度と人気を誇るマレフィセントの強烈な存在感ですよね。
もう全てを喰ってます。
この映画で間違いなく一番目立っているし、ある種まるで彼女の為の作品のようでした。
生誕のお祝いの仲間に入れてもらえなかった仕返しにその赤ん坊を殺すとか、しかもその場ですぐ殺すんじゃなく16歳まであえて生かして親達を苦しめて一番良い時期に殺すとか、極めつけはフィリップ王子を牢屋に入れて彼に語った釈放のシナリオですよ。
もうそんじゃそこらのホラーやサスペンス顔負けの残酷さと胸糞悪さです。
そして漂わす圧倒的なオーラ。
まさにヴィランの中のヴィラン。
スピンオフも納得です。
これまでフック船長やハートの女王など少々コミカルな部分を持ち合わせたヴィランが主流となり始めていたディズニーでしたが、このマレフィセントは白雪姫の王妃以来となる圧倒的な純然たる悪役として、ある意味ヴィランの格好良さを世に証明したようなキャラクターとなりました。
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※まとめ
決してクオリティの低い作品でもなければつまらない作品でもありません。
やっぱり月並みですが映像の素晴らしさは半端ないです。
歴史的な北ヨーロッパ芸術、ゴシック芸術やペルシア美術、日本の版画等を参考として制作された背景画やアートデザインは今作で最も時間や労力・制作費がかけられた重大要素だったと言います。
それとやはりテーマソングである「いつか夢で」は名曲だし、他の曲もどれもとっても美しいです。バレエ音楽をもととしているので音楽とアニメーションのシンクロも多くて、ファンタジア的な要素も内包されている事に気づきます。
かなりの大作だっただけに、肝心のストーリーやキャラクターの魅力の薄さが本当に惜しまれます。
パッケージや見た目は鮮やかで美しいのに食べてみたら味があんまりしないお菓子のような、そんな作品だと個人的には思っています。
この眠れる森の美女を最後に、1989年のリトルマーメイドまで、実に30年間ディズニーの童話原作映画・プリンセス映画は影を潜める事となるのでした…。
ちょっとマイナス要素が多くはなってしまいましたが、作品全体の完成度はこの時代の中では抜群な事は間違いないんです。マレフィセントの魅力も堪能できますしね。
ディズニー映画を語るうえでは絶対に外せない代表作の1つで有る事は間違いないので、ディズニーファンはもちろん特に芸術性の高い作品を好む映画ファンなどにとっても一見の価値のある作品だと思います。
未見の方には、是非一度チェックして頂きたいですね♪
「眠れる森の美女」は現在ディズニープラスで配信中です♪
はーい。
というわけで今回はこの辺で!
今回も長文駄文にお付き合い頂きありがとうございました♪
しーゆーねくすとたぁいむー。